一般に「航海士の資格」と呼ばれているのは、国家資格である「海技士(航海)」です。
航海士は船内での職務名であり、海技士(航海)は船舶職員として乗り組むために必要な資格名です。
大型船で航海士や船長として働く場合は、船舶の大きさ、航行区域、担当する職務などに応じた海技免状が求められます。
海技士(航海)の難易度は、一般的な資格試験のように筆記試験の難しさだけでは判断できません。
資格を取得するには、原則として次のような条件を満たす必要があります。
- 筆記試験に合格する
- 必要な乗船履歴を満たす
- 口述試験に合格する
- 身体検査の基準を満たす
- 所定の海技免許講習を修了する
ただし、筆記試験だけであれば、乗船履歴がなくても受験できる場合があります。
また、登録船舶職員養成施設などの所定課程を修了すると、対象となる筆記試験が免除されることもあります。
そのため、海技士(航海)の難しさは、受験する等級だけでなく、乗船経験、専門教育の有無、筆記試験免除の有無によって大きく変わります。
海技士(航海)の等級と難易度
海技士(航海)は、一級から六級までに分かれています。
数字が小さいほど上位の資格となり、試験で求められる知識や判断力も高くなります。
ただし、国が公式に「六級は簡単」「一級は難関」と難易度を区分しているわけではありません。
以下は、試験範囲、必要な乗船経験、口述試験の内容などをもとにした一般的な目安です。
| 等級 | 難易度の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 六級海技士(航海) | 比較的取り組みやすい | 海技士資格の基礎的な区分 |
| 五級海技士(航海) | やや難しい | 航海・運用・法規の理解が必要 |
| 四級海技士(航海) | 中程度から難しい | 内航船の航海士などを目指す際に重要 |
| 三級海技士(航海) | 難しい | 商船系の教育機関で取得を目指す代表的な資格 |
| 二級海技士(航海) | かなり難しい | 上級航海士や船長候補として高度な知識が必要 |
| 一級海技士(航海) | 非常に難しい | 航海分野における最上位資格 |
実際にどの等級の海技免状が必要になるかは、船舶の総トン数、航行区域、職務などによって異なります。
六級海技士(航海)の難易度
六級海技士(航海)は、一級から六級までのなかでは基礎的な等級です。
試験では、航海、船舶運用、海上交通法規などの基本的な知識が問われます。
上位級に比べると試験範囲は限定的ですが、船舶に関する知識がまったくない人にとっては、専門用語や海上法規を理解するまでに時間がかかることがあります。
また、六級だからといって、筆記試験に合格するだけで必ず免状を取得できるわけではありません。
免状取得には、原則として乗船履歴、身体検査、海技免許講習などの条件も関係します。
六級については、未経験者を対象とした養成課程も設けられています。
養成課程では、座学、乗船実習、船社での乗船などを組み合わせて、受験資格や筆記試験免除の要件を満たす仕組みがあります。
ただし、課程の期間や応募条件は、実施機関や年度によって異なります。
五級海技士(航海)の難易度
五級海技士(航海)になると、六級よりも広い範囲の専門知識が必要になります。
特に、次のような分野を苦手とする人は、難しく感じやすいでしょう。
- 海図の読み取り
- 緯度・経度を使った計算
- 針路や航程の計算
- 潮汐や潮流
- 船体の安定性
- 海上衝突予防法
- 気象や海象
- 航海計器の取扱い
五級では、単に用語を覚えるだけでなく、航海の状況に応じて知識を使い分ける力が求められます。
一方、海技大学校などの対象課程を修了すると、五級海技士国家試験の筆記試験が免除される場合があります。
ただし、養成課程には乗船履歴や保有資格などの入学条件が設定されていることがあります。
また、筆記試験が免除されても、口述試験、身体検査、海技免許講習などが必要です。
四級海技士(航海)の難易度
四級海技士(航海)は、内航船の航海士などを目指す際に重要となる資格の一つです。
六級や五級よりも、航海、運用、法規について体系的な理解が求められます。
単純な暗記だけでは対応しにくく、実際の船上業務を想定した判断も必要になります。
特に口述試験では、次のような力が問われます。
- 状況に応じた対応を説明する力
- 航海当直の手順を順序立てて答える力
- 法令を実際の場面に当てはめる力
- 緊急時の対応を具体的に説明する力
- 船長や他の船員への報告方法を説明する力
登録船舶職員養成施設などの所定課程を修了した場合は、四級海技士の筆記試験が免除されることがあります。
そのため、専門教育を受けている人にとっては十分に合格を目指せる資格ですが、船舶に関する知識がない状態から一般受験で挑戦する場合は、相応の準備が必要です。
三級海技士(航海)の難易度
三級海技士(航海)は、商船系大学、商船高等専門学校、海技教育機構などで専門教育を受けた人が取得を目指す代表的な資格です。
外航船の航海士を目指す際にも重要な資格ですが、実際に必要な免状は、船舶の大きさ、航行区域、職務などによって異なります。
三級が難しい主な理由は、次のとおりです。
- 航海計算の正確さが求められる
- 船舶運用の出題範囲が広い
- 国内法と国際的なルールの両方を理解する必要がある
- 口述試験で実務的な判断力が問われる
- 専門教育と乗船経験の両方が重要になる
商船系の教育機関では、所定課程を修了することで筆記試験が免除される場合があります。
ただし、学校を卒業しただけで自動的に海技免状が交付されるわけではありません。
口述試験、身体検査、乗船履歴、海技免許講習などの条件を満たす必要があります。
二級海技士(航海)の難易度
二級海技士(航海)は、上級航海士や船長候補として働くために必要となる上位資格です。
二級では、航海、運用、法規に加えて、海事英語への対応も必要になります。
英語では、一般的な日常会話よりも、次のような専門的な内容が重視されます。
- 航海に関する英語表現
- 船舶運航に関する専門用語
- 海難事故に関する英文
- 安全管理に関する文章
- 国際条約に関する用語
また、二級を受験する人の多くは、すでに船員として働いています。
乗船中は当直や作業があるため、仕事を続けながら勉強時間を確保しなければなりません。
試験内容だけでなく、学習環境の面でも難易度が高い資格といえます。
一級海技士(航海)の難易度
一級海技士(航海)は、航海分野における最上位資格です。
大型外航船を含む幅広い船舶で、船長などの上級職を目指す際に必要となります。
ただし、一級海技士の免状を取得しただけで、直ちにすべての船で船長になれるわけではありません。
実際の職務には、会社内での昇進、乗船経験、船種ごとの教育なども関係します。
一級海技士では、次のような分野について高度な理解が求められます。
- 航海計画
- 船位決定と誤差の評価
- 荒天時の操船
- 船体の復原性
- 貨物の積付け
- 海難事故への対応
- 国際条約
- 船舶と船員の安全管理
- 船長の権限と責任
- 海事英語
口述試験では、知識を答えるだけでなく、「船長としてどのように判断するか」「どの法令に基づいて対応するか」といった総合的な説明が求められます。
暗記中心の短期学習だけで対応することは難しく、長年の乗船経験を知識として整理し、自分の言葉で説明する力が必要です。
海技士(航海)の試験内容
海技士(航海)の筆記試験では、主に航海、運用、法規が問われます。
上位級では英語も試験科目となるため、海事英語や船舶運航に関する英文への対応が必要です。
試験範囲や要求される水準は等級によって異なります。
航海
航海科目では、船舶を安全かつ効率的に目的地まで航行させるための知識が問われます。
主な内容は次のとおりです。
- 海図
- 航路標識
- 航海計器
- 地文航法
- 天文航法
- 電波航法
- 航海計画
- 潮汐と潮流
- 海上気象
- 船位の測定
- 航海計算
航海計算では、等級に応じて三角関数、航程、潮汐、船位などに関する計算が必要になります。
高度な純粋数学を研究する試験ではありませんが、公式を暗記するだけでなく、条件に応じて正確に使い分ける力が求められます。
運用
運用科目では、船舶を安全に取り扱うための実務知識が問われます。
主な内容は次のとおりです。
- 操船
- 錨泊
- 係船
- 荒天航行
- 船体構造
- 復原性
- 貨物の積付け
- 救命設備
- 消防設備
- 海難防止
- 緊急時の対応
運用は暗記科目に見えますが、実際には船の状態や周囲の状況を踏まえて判断しなければなりません。
そのため、乗船経験がある人と未経験者では、問題の理解しやすさに差が出やすい科目です。
法規
法規科目では、船舶の安全運航に関係する国内法や国際的なルールが問われます。
主な分野は次のとおりです。
- 海上衝突予防法
- 海上交通安全法
- 港則法
- 船員法
- 船舶職員及び小型船舶操縦者法
- 船舶安全法
- 海洋汚染防止に関する法令
- 国際海上衝突予防規則
- 海上人命安全条約などの国際条約
法規は覚える量が多く、似た規定を正確に区別する必要があります。
条文を丸暗記するだけでなく、適用海域、対象船舶、原則、例外を整理して理解することが大切です。
英語
上位級では、海事英語への対応が求められます。
一般的な英語力だけでなく、航海、船舶運用、安全管理、国際条約などに関する専門用語を理解する必要があります。
英語が苦手な人にとっては、二級や一級の難易度を高める要因の一つになります。
口述試験を難しいと感じやすい理由
海技士(航海)では、筆記試験だけでなく口述試験への対策も重要です。
ただし、筆記試験と口述試験のどちらを難しいと感じるかは、受験者の経験や得意分野によって異なります。
乗船経験が豊富な人は口述試験に対応しやすい一方、計算問題が苦手な人は筆記試験を難しく感じることがあります。
質問の範囲が広い
口述試験では、航海、運用、法規などから幅広く質問されます。
最初の回答に対して、さらに詳しい説明を求められることもあります。
用語や結論だけを暗記していると、追加質問に対応できません。
実務に即した回答が必要になる
口述試験では、知識を覚えているかだけでなく、実際にどのように行動するかが問われます。
例えば、視界が悪い状態で他船をレーダーで探知した場合には、速力の調整、見張りの強化、レーダーによる継続監視、機関の準備、船長への報告などを順序立てて説明する必要があります。
その場で説明する力が必要になる
筆記試験では、時間をかけて考えたり、計算を書き直したりできます。
一方、口述試験では、質問を聞いて意図を理解し、短時間で回答を組み立てなければなりません。
知識があっても、普段から声に出して説明する練習をしていないと、うまく答えられないことがあります。
航海士の資格が難しい理由
海技士(航海)が難しいとされる理由は、試験問題の難しさだけではありません。
免状取得には乗船履歴が必要になる
海技士(航海)は、筆記試験だけであれば、乗船履歴がなくても受験できる場合があります。
しかし、口述試験を受けて国家試験に最終合格し、海技免状を取得するには、原則として所定の乗船履歴が必要です。
必要な乗船期間は、次の条件によって異なります。
- 受験する等級
- 船舶の総トン数
- 航行区域
- 船内で担当した職務
- 保有している海技免状
- 学校や養成施設の修了歴
そのため、単に「何級なら何年間乗ればよい」と一律に説明することはできません。
個別の条件は、地方運輸局や最新の海技士国家試験案内で確認する必要があります。
専門分野が幅広い
航海士には、航海技術だけでなく、気象、法規、船体構造、貨物、安全管理などの幅広い知識が求められます。
実際の航海では、これらの知識を組み合わせて判断しなければなりません。
特定の科目だけが得意でも、資格取得には十分とはいえません。
計算と暗記の両方が必要になる
航海科目では計算力が必要であり、法規では正確な知識が求められます。
運用では、知識を実際の状況に当てはめる判断力が必要です。
計算が得意でも法規が苦手な人や、暗記が得意でも状況判断が苦手な人は、不得意分野を補う必要があります。
口述試験の対策が必要になる
筆記試験の勉強だけでは不十分です。
知識を自分の言葉で説明し、質問に応じて回答を組み立てる練習が必要になります。
特に上位級では、船長や上級航海士としての責任を踏まえた回答が求められます。
仕事をしながら勉強する人が多い
二級や一級を目指す人の多くは、現役の船員です。
船員は一定期間船に乗り、その後に休暇を取る勤務形態が多く、乗船中は当直や作業があります。
そのため、試験内容だけでなく、継続的に学習時間を確保することも難しさの一つです。
海技士(航海)は独学で取得できる?
筆記試験の対策は、過去問題、参考書、法令集などを使って独学で進めることができます。
国土交通省は、一級から五級までの航海科の筆記試験過去問題を公開しているため、出題傾向を確認しながら学習できます。
ただし、「筆記試験を独学で突破すること」と「海技免状の取得まで独学で完結すること」は分けて考える必要があります。
筆記試験は独学でも対策できる
すでに乗船経験がある人や、下位の海技免状を持っている人であれば、独学で上位級の筆記試験に合格することも可能です。
過去問題を繰り返し解き、計算方法や法規の考え方まで理解することが重要です。
免状取得まで教材だけで完結することは難しい
海技免状の取得には、原則として乗船履歴、口述試験、身体検査、海技免許講習などが関係します。
そのため、参考書や過去問題だけで、資格取得に必要なすべての条件を満たすことはできません。
未経験から航海士を目指す場合は、商船系の学校、海技教育機構、登録船舶職員養成施設などを利用する方法が現実的です。
筆記試験の科目合格制度
海技士国家試験の筆記試験には、科目合格制度があります。
すべての科目に一度で合格できなかった場合でも、基準を満たした科目については、一定期間内の再受験で免除を受けられる場合があります。
ただし、科目合格の有効期間、起算方法、申請手続きなどは、受験する時期や制度によって確認が必要です。
受験前には、地方運輸局が公表する最新の試験案内を確認してください。
海技士(航海)の勉強時間
海技士(航海)の勉強時間について、国が示す一律の標準時間はありません。
必要な学習期間は、次の条件によって大きく異なります。
- 受験する等級
- 乗船経験の有無
- 商船系学校で学んだ経験
- 筆記試験免除の有無
- 下位の海技免状を持っているか
- 数学、法規、英語の得意不得意
- 仕事をしながら勉強するか
未経験者と現役航海士では、同じ等級を受験する場合でも必要な学習時間は大きく異なります。
そのため、「三級なら半年」「一級なら1年」といった一律の目安を示すのは適切ではありません。
まずは受験する等級の過去問題を確認し、自分が理解できない分野を把握したうえで、学習計画を立てることが重要です。
航海士の資格に合格するための勉強方法
最初に過去問題を確認する
参考書を最初からすべて読む前に、受験する等級の過去問題を確認しましょう。
最初は解けなくても問題ありません。
どのような問題が出るのか、計算問題がどの程度あるのか、法規がどのように問われるのかを把握することが大切です。
科目ごとに勉強方法を変える
航海、運用、法規、英語は、それぞれ効果的な勉強方法が異なります。
航海では、計算問題を繰り返し解き、途中式を省略せずに確認します。
運用では、図や実際の船上作業をイメージしながら、手順と理由を理解します。
法規では、適用海域、対象船舶、原則、例外を表に整理すると理解しやすくなります。
英語では、一般的な単語だけでなく、海事用語を重点的に覚える必要があります。
過去問題の答えだけを暗記しない
過去問題と似たテーマが出題されることはありますが、条件や数値、質問の角度が変わることがあります。
答えだけを覚えていると、少し問題が変わっただけで対応できません。
「なぜその答えになるのか」「どの法令が根拠になるのか」まで説明できるようにしましょう。
口述試験は声に出して練習する
口述試験対策では、頭の中で答えるだけでなく、実際に声に出すことが重要です。
回答するときは、次の順序を意識すると整理しやすくなります。
- 結論を答える
- 根拠となる法令や原則を示す
- 具体的な対応を説明する
- 報告や記録について答える
- 追加で注意する事項を述べる
可能であれば、上位の海技免状を持つ船長や航海士、試験対策講習の講師などに回答を確認してもらうと効果的です。
身体検査にも注意が必要
海技士(航海)の国家試験では、学科試験だけでなく身体検査も行われます。
身体検査では、主に次のような項目が確認されます。
- 視力
- 色覚
- 聴力
- 疾病の有無
- 船舶職員としての業務に必要な身体機能
眼鏡やコンタクトレンズによる矯正が認められる場合もありますが、基準は資格区分や検査内容によって確認が必要です。
視力や色覚などに不安がある場合は、受験準備を始める前に、地方運輸局や医療機関へ相談するとよいでしょう。
航海士の資格の難易度に関するまとめ
航海士として働くために必要な海技士(航海)は、等級が上がるほど試験範囲が広くなり、高度な判断力や実務経験が求められます。
六級や五級は基礎的な等級ですが、未経験者にとって簡単な資格というわけではありません。
四級や三級では、航海、運用、法規に関する体系的な専門知識が必要です。
二級や一級では、上級航海士や船長としての判断力、海事英語、国際条約への理解も求められます。
海技士(航海)が難しい主な理由は、次のとおりです。
- 幅広い専門知識が必要になる
- 計算と暗記の両方が求められる
- 口述試験がある
- 免状取得には乗船履歴が必要になる
- 身体検査や海技免許講習も関係する
- 上位級ほど実務的な判断力が重視される
ただし、筆記試験だけであれば、乗船履歴がなくても受験できる場合があります。
また、養成施設の所定課程を修了すると、筆記試験が免除されることもあります。
海技士(航海)は、単に試験問題を暗記して取得する資格ではありません。
専門教育、乗船経験、国家試験、身体条件などを段階的に満たしていく専門職資格です。
自分の学歴、乗船履歴、保有資格、希望する働き方を確認し、適切な取得ルートを選ぶことが重要です。
以上、航海士の資格の難易度についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















