航海図とは、船舶が安全かつ効率的に航行するために使用する、海上専用の地図です。
一般的な地図が道路や建物、行政区画などの陸上情報を中心に示すのに対し、航海図には水深、海岸線、浅瀬、岩礁、灯台、ブイ、航路、港湾施設など、船の航行に必要な情報が詳しく記載されています。
英語では、一般に「Nautical Chart」と呼ばれます。
船長や航海士は航海図を使い、出発地から目的地までの航路を計画したり、航行中の船の位置を確認したりします。
また、浅瀬や岩礁、沈船などの危険物を把握し、座礁や衝突を防ぐためにも利用されます。
現在では紙の海図だけでなく、電子海図も広く使用されています。
ただし、紙海図でも電子海図でも、記載されている情報を正しく読み取り、最新の状態に更新して使用することが重要です。
航海図と海図の関係
一般的にはほぼ同じ意味で使われる
日常的な表現では、「航海図」と「海図」はほぼ同じ意味で使われることがあります。
一般には、船舶の航海に使用する地図を「海図」または「航海用海図」と呼びます。
一方で、「航海図」という言葉は、航海用の地図全般を表す場合と、海図の正式な分類の一つを表す場合があります。
専門的には「航海図」が分類名になることもある
日本の航海用海図は、用途や縮尺によって、総図、航洋図、航海図、海岸図、港泊図などに分類されます。
この分類における「航海図」は、沿岸の陸地や灯台などを確認しながら航行する際に使用する海図の一種です。
そのため、専門的な文章では、「航海図」という言葉が海図全般を指しているのか、分類上の航海図を指しているのかを確認する必要があります。
航海図の主な役割
安全な航路を計画する
航海図の重要な役割の一つが、航海前に安全な航路を計画することです。
船は、陸上の自動車のように、常に明確な道路の上だけを進むわけではありません。
航海士は、水深、浅瀬、岩礁、島、航路、交通量などを確認しながら、出発地から目的地までの予定航路を設定します。
航路を決める際には、船の大きさや喫水、速力、旋回性能なども考慮します。
さらに、気象、波、潮流、潮汐、法令、指定航路、分離通航方式などの条件も確認しなければなりません。
このように、航海図を使って航路を計画する作業は、航海計画や航路計画と呼ばれます。
船の現在位置を確認する
航海中は、船が予定航路のどこを進んでいるのかを継続的に確認する必要があります。
船の位置は一般に「船位」と呼ばれます。
現在ではGPSなどの衛星測位システムによって、船位を高い精度で確認できます。
ただし、GPSの位置情報だけを無条件に信用するのは適切ではありません。
レーダー、灯台、島、岬、ブイ、海岸線、音響測深機などの情報と照合し、自船の位置が正しいかを確認することが重要です。
紙海図では、確認した船位を鉛筆などで海図上に記入します。
電子海図では、自船の位置が画面上に表示されます。
座礁を防ぐ
航海図には、水深、浅瀬、岩礁、暗礁、沈船、海底障害物などが記載されています。
航海士は、海図に記載された水深と船の喫水を比較し、安全に通過できるかを判断します。
喫水とは、船体が水面下に沈んでいる深さのことです。
ただし、水深が船の喫水をわずかに上回っているだけでは、安全とはいえません。
船は波によって上下に動くほか、速度を上げることで船体が沈み込む現象が発生する場合があります。
そのため、船底と海底の間には十分な余裕を確保する必要があります。
この余裕は、船底下余裕水深または余裕水深と呼ばれ、英語では「Under Keel Clearance」と表現されます。
衝突を防ぐ
航海図には、船舶が通航する航路や、分離通航方式が設定された海域なども表示されます。
分離通航方式とは、交通量の多い海域で船の進行方向を分け、船同士の衝突リスクを減らす仕組みです。
自動車道路の上下車線に似た考え方ですが、道路交通とまったく同じ制度ではありません。
航海士は、航海図だけでなく、レーダー、AIS、目視などを使って周囲の船舶を確認します。
AISとは、船名、位置、進行方向、速力などの情報を船同士で交換する装置です。
これらの情報を総合して、衝突のおそれがないかを判断します。
港への出入りを支援する
港の周辺には、防波堤、岸壁、浅瀬、航路、ブイ、灯台などが集中しています。
大型船は急に停止したり、小さく方向転換したりすることが難しいため、入港や出港には慎重な判断が必要です。
港内用の海図には、港の入口、航路の幅、水深、防波堤、岸壁、係留施設、錨地などが詳しく記載されています。
航海士はこれらの情報を確認しながら、入港、出港、接岸、離岸などを行います。
航海図に記載される主な情報
水深
航海図には、海の深さを示す数値が数多く記載されています。
水深は、船が安全に航行できるかを判断するための重要な情報です。
日本の海図に記載される水深は、原則として「最低水面」を基準にしています。
最低水面とは、海面がそれより低くなることがまれになるように設定された、水深の基準面です。
ただし、気圧や風などの影響によって、実際の海面が一時的に最低水面より低くなることもあります。
そのため、海図の水深だけで安全を判断するのではなく、潮汐や気象の影響も考慮しなければなりません。
等深線
等深線とは、同じ水深の地点を結んだ線です。
陸上地図における等高線に相当します。
等深線を見ることで、海底が緩やかに深くなっている場所や、急に深くなっている場所を把握できます。
また、浅い海域がどこまで広がっているのかを確認する際にも役立ちます。
沿岸部や狭い水路では、等深線の位置を確認しながら、安全な水深を持つ水域を航行します。
浅瀬
浅瀬とは、周囲よりも水深が浅くなっている場所です。
船の喫水によっては、浅瀬の上を通過すると船底が海底に接触する可能性があります。
航海図では、浅い海域が色分けされたり、等深線や水深数値によって表示されたりします。
岩礁と暗礁
岩礁とは、海中や海面付近に存在する岩の集まりです。
暗礁は、水面下に隠れていて、船舶の航行に危険を及ぼす可能性がある岩礁を指します。
暗礁は海面から見えにくいため、航海図上の記号を確認することが重要です。
干出岩
干出岩とは、潮が満ちているときには水中に沈み、潮が引くと水面上に現れる岩です。
潮位によって見えたり見えなくなったりするため、航行上の危険物となります。
特に満潮時には水面下に隠れることがあるため、見た目だけで安全を判断することはできません。
海底の底質
航海図には、海底が砂、泥、岩、貝殻などのどのような物質で構成されているかが記載されることがあります。
この情報は「底質」と呼ばれます。
底質は、船が錨を下ろす場所を選ぶ際に重要です。
一般に、砂や適度に締まった泥は、錨の保持力を得やすい場合があります。
一方で、非常に軟らかい泥、岩、サンゴなどの海底では、錨が十分に効かなかったり、回収しにくくなったりすることがあります。
ただし、錨の効き方は底質だけで決まるものではありません。
錨の種類、錨鎖の長さ、投入方法、風、波、潮流などにも左右されます。
灯台
灯台は、船舶が夜間や視界不良時に位置を確認するための重要な航路標識です。
航海図には、灯台の位置、灯火の色、光り方、周期、灯火の高さなどが記載されます。
灯台ごとに光り方や周期が異なるため、航海士は灯火の特徴から、どの灯台であるかを判別できます。
航海図や灯台表には光達距離に関する情報も記載されますが、実際に見える距離は天候や視程、観測者の高さなどによって変化します。
ブイと灯浮標
ブイとは、海上に設置される浮標です。
航路の境界、危険物、浅瀬、安全な水域、特別な区域などを示すために使用されます。
灯火を備えたブイは、灯浮標と呼ばれます。
航海図には、ブイの位置、形、色、灯火の特徴などが表示されます。
航海士は、航海図と実際に見えるブイを照合しながら航行します。
航路
航路とは、船舶が航行するために設定された水域です。
港への進入航路、狭い水路の航路、法令によって定められた航路などがあります。
大型船や喫水の深い船は、安全に通過できる水域が限られるため、十分な水深を持つ航路を正確に進む必要があります。
ただし、すべての船がすべての海域で自由に航路を設定できるわけではありません。
法令、港湾規則、交通管制、船種、喫水などに応じた航行が求められます。
分離通航方式
分離通航方式とは、船舶交通の流れを方向別に分ける仕組みです。
交通量の多い海峡や沿岸海域などに設定されます。
航海図には、通航帯、分離帯、進行方向などが矢印や線で表示されます。
船舶は関係する航行規則に従い、適切な通航帯を航行します。
錨地
錨地とは、船が錨を下ろして停泊するために指定された水域です。
航海図には、錨地の範囲や用途が表示されます。
一般船用の錨地だけでなく、危険物積載船用や検疫用など、用途ごとに分けられる場合があります。
ただし、航海図に錨地として表示されていても、必ず自由に投錨できるとは限りません。
港の規則や港長の指示、船種、気象条件などによる制限を受けることがあります。
沈船と海底障害物
航海図には、沈没した船や海底に存在する障害物も記載されます。
沈船の上に十分な水深がある場合もあれば、船体の一部が海面近くまで達している場合もあります。
そのため、沈船の記号だけでなく、水深や注記も確認する必要があります。
特に、正確な水深が確認されていない沈船には十分な距離を取ることが重要です。
海底ケーブルとパイプライン
海底には、通信ケーブル、電力ケーブル、ガス管、石油パイプラインなどが敷設されています。
航海図には、それらの位置や区域が表示されることがあります。
海底ケーブルやパイプラインの付近で錨を下ろすと、設備を損傷する危険があります。
ただし、投錨が禁止または制限される範囲は海域によって異なります。
海図の記号や注記、水路誌、関係法令などを確認する必要があります。
橋と架空線
橋や送電線の下を船が通過する場合は、船の高さと障害物までの高さを確認する必要があります。
船のマスト、アンテナ、クレーンなどが橋や送電線に接触する危険があるためです。
日本の海図では、水深は原則として最低水面を基準とします。
一方で、橋や架空線などの高さは、最高水面を基準として表示される場合があります。
実際に通過する際には、潮位、波、船体の動揺、船の最大高さなどを考慮しなければなりません。
航海図と一般的な地図の違い
海面下の情報が詳しい
一般的な地図は、道路、鉄道、建物、行政区画などの陸上情報を中心に示します。
一方、航海図では、水深や海底地形など、海面下の情報が重視されます。
海上では、目に見えない浅瀬や暗礁が重大な事故につながることがあります。
そのため、船舶にとって海底の情報は非常に重要です。
航路標識が詳しく記載される
航海図には、灯台、ブイ、灯浮標、立標などの航路標識が詳しく記載されます。
一般的な地図では、これらの情報が省略されたり、簡略化されたりすることがあります。
航海士は航路標識の位置や特徴を確認し、自船の位置や安全な航路を判断します。
専用の記号と略号が使われる
航海図には、水深、岩礁、沈船、灯台、底質、航路などを表す専用の記号や略号が使われています。
これらの記号は、限られた紙面や画面上で多くの情報を伝えるために使用されます。
航海図を正しく読むには、記号や略号の意味を理解する必要があります。
情報の更新が必要
航海図は、発行された時点の情報をもとに作られています。
しかし、港湾工事、浚渫、灯台の変更、ブイの移設、沈船の発見などにより、海上の状況は変化します。
そのため、航海に使用する海図は、水路通報などの最新情報を反映した状態に保たなければなりません。
電子海図であっても、自動的に常に最新になるとは限りません。
更新データが正しく取得され、適用されているかを確認する必要があります。
航海図の種類
総図
総図は、非常に広い海域を小さな縮尺で表した海図です。
世界全体や大洋など、広範囲の航海計画を検討する際に使用されます。
広い範囲を一枚で確認できる一方、沿岸部や港内の細かな情報は省略されています。
そのため、港への接近や沿岸航海には、より大縮尺の海図を併用します。
航洋図
航洋図は、大洋を横断するような長距離航海で使用する海図です。
国と国の間を移動する航海や、外洋での航路計画、船位確認などに用いられます。
総図よりも詳しい情報が記載されますが、沿岸部の細かな危険物を確認する用途には適していません。
航海図
分類上の航海図は、陸地や灯台などを視認しながら行う航海に使用されます。
沿岸から一定の距離を保ちながら航行する場合や、海峡を通過する場合などに用いられます。
総図や航洋図よりも縮尺が大きく、沿岸の地形や航路標識などが詳しく表示されます。
海岸図
海岸図は、沿岸部をさらに詳しく表示した海図です。
沿岸航海、湾への進入、島の周辺の航行などに使用されます。
水深、浅瀬、岩礁、灯台、漁業施設などが比較的細かく記載されています。
港泊図
港泊図は、港内や港の入口を非常に詳しく表示した海図です。
岸壁、防波堤、航路、錨地、係留施設、港内の水深などが記載されています。
入港、出港、接岸、離岸、停泊などの際に使用されます。
航海図の縮尺
縮尺とは
縮尺とは、実際の距離をどの程度縮小して海図上に表しているかを示す数値です。
たとえば、縮尺が10万分の1の場合、海図上の1センチメートルは、実際の10万センチメートルに相当します。
10万センチメートルは1キロメートルです。
したがって、10万分の1の海図では、海図上の1センチメートルが実際の約1キロメートルを表します。
大縮尺の航海図
大縮尺の海図は、狭い範囲を詳しく表示します。
港内、湾内、狭い水路などを航行する際に適しています。
港泊図などは、大縮尺で作られるのが一般的です。
縮尺の分母が小さいほど、大縮尺になります。
たとえば、5万分の1の海図は、50万分の1の海図よりも大縮尺です。
小縮尺の航海図
小縮尺の海図は、広い範囲を簡略化して表示します。
大洋航海や長距離の航路計画に適しています。
総図や航洋図は、比較的小縮尺で作られます。
小縮尺の海図では細かな危険物が省略されることがあるため、沿岸や港に接近する際は大縮尺の海図に切り替えます。
紙海図とは
紙に印刷された従来型の海図
紙海図とは、紙に印刷された航海用の海図です。
航海士は、定規、ディバイダー、コンパス、鉛筆などを使い、予定航路や船位を海図上に記入します。
ディバイダーとは、海図上の距離を測定するために使う両脚器です。
紙海図のメリット
紙海図は、電源や電子機器を必要とせずに使用できます。
そのため、電子機器に故障が発生した場合でも、必要な海域の紙海図が適切に用意されていれば、航海情報を確認できます。
また、広い範囲を一度に見渡しやすい点も利点です。
紙海図の注意点
紙海図は、必要な海域ごとに複数枚を用意しなければなりません。
また、水路通報などに基づき、変更箇所を手作業で訂正する必要があります。
古い情報のまま使用すると、実際の海域との違いが生じ、事故につながる可能性があります。
電子海図とは
デジタルデータとして表示する海図
電子海図とは、海図情報をデジタルデータとして画面上に表示するものです。
自船の位置、予定航路、水深、等深線、灯台、ブイ、危険物などを一つの画面で確認できます。
電子海図には複数の種類があり、電子的に表示されるすべての海図が、公式な電子海図に該当するわけではありません。
ENCとは
ENCは「Electronic Navigational Chart」の略です。
日本語では、電子航海用海図などと呼ばれます。
ENCは、国際的な基準に従って作成され、公的な水路機関などによって発行される公式の電子海図データです。
単に紙海図を画像として読み込んだものとは異なり、水深、灯台、危険物などの情報が個別のデータとして管理されています。
そのため、表示内容を切り替えたり、危険な水域への接近を警告したりできます。
一般的な海図アプリとの違い
スマートフォンやタブレットで使用できる海図アプリのすべてが、公式なENCやECDISに該当するわけではありません。
一般向けの海図アプリやチャートプロッターは、航行支援に役立つ場合がありますが、法令上必要な航海設備の代わりとして使用できるとは限りません。
使用するデータの種類、更新状況、精度、利用条件を確認する必要があります。
ECDISとは
電子海図を利用する航海装置
ECDISは「Electronic Chart Display and Information System」の略です。
日本語では、電子海図情報表示装置などと呼ばれます。
ECDISは、ENCを表示するだけでなく、航路計画、航路監視、自船位置の表示などを行う航海装置です。
GPSなどの測位装置から得た位置情報を、電子海図上に重ねて表示できます。
船舶の設備によっては、ジャイロコンパス、船速計、AIS、レーダーなどの情報を統合することもあります。
危険接近を知らせる機能
ECDISには、予定航路から外れた場合や、浅い水域に接近した場合などに警報を出す機能があります。
ただし、警報が正しく作動するためには、安全水深、安全等深線、船の喫水などを適切に設定する必要があります。
設定が不適切であれば、危険な場所に接近しても十分な警報が出ない可能性があります。
また、警報が多すぎることで、重要な警報を見落とす危険もあります。
そのため、ECDISを使用する場合でも、航海士による監視と判断が欠かせません。
航海図の水深を読む際の注意点
潮の満ち引きを考慮する
海図に記載された水深は、原則として最低水面を基準にしています。
一方、実際の海面は、潮の満ち引きによって上下します。
そのため、海図に水深5メートルと記載されていても、実際の水深が常に5メートルとは限りません。
概算上は、海図に記載された水深に、その時刻の潮高を加えることで、実際の水深を推定できます。
たとえば、海図記載水深が5メートルで、潮高が2メートルであれば、推定水深は約7メートルです。
計算値だけを信用しない
海図記載水深と潮高を合計した値は、あくまで推定値です。
実際の水位は、気圧、風、波、高潮、副振動などによって変化します。
また、海底の測量精度や測量時期によっても、不確実性があります。
安全に航行するためには、推定値だけでなく、十分な余裕水深を確保する必要があります。
船の喫水を確認する
喫水とは、船体が水面下に沈んでいる深さです。
喫水が8メートルの船が、水深8メートルの場所を安全に通過できるわけではありません。
波による上下動、船体の傾き、速度による沈み込み、海水密度の違いなどを考慮しなければなりません。
積荷や燃料の量によって喫水が変わる点にも注意が必要です。
スクワットを考慮する
スクワットとは、船が浅い水域や狭い水路を一定以上の速力で航行すると、船体が通常より沈み込んだり、姿勢が変化したりする現象です。
船速が高いほど、スクワットが大きくなる場合があります。
海図上では十分な水深があるように見えても、スクワットによって船底が海底に接近する可能性があります。
測量精度を確認する
海底のすべての場所が、同じ時期に同じ精度で測量されているわけではありません。
古い測量データが使われている海域や、十分に細かく測量されていない海域もあります。
そのため、水深数値だけでなく、海図に示された測量の品質や信頼性に関する情報も確認する必要があります。
航海図上の距離の測り方
緯度目盛りを使う
一般的な航海図では、距離を測る際に緯度目盛りを使用します。
緯度1分は、1海里に相当します。
1海里は、正確に1,852メートルです。
海図上の航路の長さをディバイダーで取り、左右にある緯度目盛りに移すことで、距離を読み取ります。
航路に近い緯度で測る
メルカトル図法の海図では、緯度によって縮尺が変化します。
そのため、距離を測る際は、測定する航路とほぼ同じ緯度にある緯度目盛りを使用します。
航路から大きく離れた位置の緯度目盛りを使うと、測定誤差が大きくなる可能性があります。
経度目盛りは原則として使わない
経度1分が表す実際の距離は、緯度によって変化します。
赤道付近では長く、高緯度になるほど短くなります。
そのため、航海図上の距離を測る際には、原則として経度目盛りではなく緯度目盛りを使用します。
航海図上の方位
真北を基準にする
一般的な航海図では、上方向が真北になるように作られています。
方位は、真北を0度として時計回りに測ります。
東は90度、南は180度、西は270度です。
航海士は、予定航路の方位を確認し、船が進む方向を決めます。
真北と磁北は異なる
真北とは、地理上の北極の方向です。
一方、磁北とは、磁気コンパスが示す北の方向です。
真北と磁北の間にはずれがあり、このずれを磁気偏差と呼びます。
磁気偏差は場所や時期によって変化します。
航海図には、その海域の磁気偏差と年間変化量が記載されることがあります。
自差にも注意する
船体や船内の金属、電気機器などの影響によって、磁気コンパスに誤差が生じることがあります。
この誤差は「自差」と呼ばれます。
磁気コンパスを使用する際は、磁気偏差だけでなく、自差も考慮する必要があります。
航海図を最新の状態に保つ理由
海上の状況は変化する
海図に記載されている情報は、永久に変わらないものではありません。
港湾工事によって防波堤が新設されたり、航路が変更されたりすることがあります。
また、浚渫による水深の変化、ブイの移設、灯台の灯火変更、沈船の発見などもあります。
紙海図は訂正が必要
紙海図では、水路通報などを確認し、変更された情報を手作業で訂正します。
訂正の内容によっては、古い海図を新しい版に交換する必要があります。
訂正されていない海図を使用すると、実際には存在する障害物が表示されていないなど、重大な危険につながる可能性があります。
電子海図も更新が必要
電子海図は、更新データを適用することで最新の情報に保ちます。
ただし、電子海図だからといって、自動的にすべての情報が最新になるとは限りません。
更新データの取得に失敗していたり、適用されていなかったりする可能性があります。
航海前には、更新日や更新状況を確認する必要があります。
一時的な情報も確認する
海図の訂正だけでなく、航行警報などの一時的で緊急性の高い情報も重要です。
たとえば、航路上で工事が行われている場合や、ブイが一時的に消灯している場合などがあります。
このような情報は、海図上に恒久的な変更として反映されないこともあります。
そのため、航海前や航海中には、最新の航行警報や水路情報を確認する必要があります。
航海図だけで安全が保証されるわけではない
複数の情報を組み合わせる
航海図は安全な航海に欠かせませんが、航海図だけで安全が保証されるわけではありません。
実際の航海では、気象情報、海象情報、潮汐表、潮流情報、水路誌、灯台表なども使用します。
また、GPS、レーダー、AIS、音響測深機、コンパスなどの航海機器も併用します。
目視による確認も重要
電子機器が発達した現在でも、周囲を目で確認する見張りは重要です。
海面上には、航海図に記載されていない小型船、漂流物、漁具などが存在する場合があります。
視界、風、波、周囲の船舶の動きなど、実際の状況を確認しながら航行する必要があります。
電子機器を過信しない
GPSや電子海図には、機器の故障、入力ミス、設定ミス、データ更新の不備などが発生する可能性があります。
位置情報がずれていたり、警報設定が不適切だったりすることもあります。
そのため、一つの装置だけに頼らず、複数の方法で船位や周囲の状況を確認することが重要です。
航海図を読むために必要な知識
海図記号
航海図には、灯台、岩礁、沈船、ブイ、海底ケーブルなどを表す多数の記号が使われています。
記号の形や色、略号には、それぞれ意味があります。
同じように見える記号でも、危険度や状態が異なる場合があります。
そのため、正式な海図記号の一覧を確認しながら読み取ることが重要です。
水深と潮汐
航海図の水深を正しく理解するには、水深基準面と潮汐の知識が必要です。
海図に記載された水深だけを見て判断すると、潮位の変化を見落とす可能性があります。
潮汐表などを使って、航行予定時刻の潮高を確認する必要があります。
縮尺
海図の縮尺によって、表示される情報の細かさが異なります。
小縮尺の海図では、細かな岩礁や浅瀬が省略されることがあります。
沿岸や港に近づく際は、より大縮尺の海図を使用することが原則です。
航海計器
航海図を実際の航海に活用するには、GPS、レーダー、AIS、コンパスなどの使い方も理解する必要があります。
航海図上の情報と、航海計器から得た情報を照合することで、安全性を高められます。
まとめ
航海図とは、船舶が安全かつ効率的に航行するために使用する専門的な地図です。
水深、等深線、浅瀬、岩礁、灯台、ブイ、航路、錨地、港湾施設、沈船など、航海に必要な情報が詳しく記載されています。
航海士は航海図を使い、航路の計画、自船位置の確認、座礁や衝突の防止、港への出入りなどを行います。
日本の海図に記載される水深は、原則として最低水面を基準としており、実際の航海では潮汐や気象の影響を考慮しなければなりません。
また、現在では紙海図だけでなく、ENCやECDISなどの電子海図システムも広く使用されています。
ただし、電子機器や位置情報を過信せず、レーダー、AIS、目視、音響測深機など、複数の情報を組み合わせて判断することが重要です。
航海図は、海上における単なる地図ではありません。
船舶の安全を支える、重要な航海情報の基盤といえます。
以上、航海図とはなんなのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。















