航海の用語とは、船を安全かつ正確に運航するために使用される専門用語です。
船の方向、位置、速力、操船、気象、海図、港への出入り、他船との関係など、さまざまな場面で使われます。
航海用語には、日常的な言葉とは異なる意味で使われるものもあります。
特に「針路」と「進路」、「右舷」と「左舷」、「対水速力」と「対地速力」などは混同しやすいため、正しく区別して理解することが重要です。
船の方向や部位を表す用語
船首
船の前方部分を「船首」といいます。
読み方は「せんしゅ」です。
英語では「Bow」と呼ばれます。
船が通常進んでいく方向にある先端部分です。
船尾
船の後方部分を「船尾」といいます。
読み方は「せんび」です。
英語では「Stern」と呼ばれます。
多くの船では、プロペラや舵が船尾付近に設置されています。
右舷
船首に向かって右側を「右舷」といいます。
読み方は「うげん」です。
英語では「Starboard」と呼ばれます。
夜間に表示する右舷側の舷灯は緑色です。
左舷
船首に向かって左側を「左舷」といいます。
読み方は「さげん」です。
英語では「Port」と呼ばれます。
夜間に表示する左舷側の舷灯は赤色です。
正横
船の真横にあたる方向を「正横」といいます。
読み方は「せいおう」です。
船首方向を基準とした場合、右または左の約90度方向を指します。
「灯台を右舷正横に見る」のように使われます。
船首方位
船首が向いている方角を「船首方位」といいます。
英語では「Heading」と呼ばれます。
船首方位は、船が地面に対して実際に進んでいる方向と一致するとは限りません。
風や潮流を受けると、船体が横へ流されることがあるためです。
方位と進路に関する用語
方位
方位とは、自船から見て灯台、岬、他船などの物標がどの方向にあるかを表すものです。
通常は、基準となる北から時計回りに角度で示します。
北は000度、東は090度、南は180度、西は270度です。
真方位
地理上の真北を基準として表す方位を「真方位」といいます。
英語では「True Bearing」と呼ばれます。
海図上で方位や航路を求める際の基本となります。
磁針方位
地球の磁北を基準として表す方位を「磁針方位」といいます。
英語では「Magnetic Bearing」と呼ばれます。
真北と磁北には地域ごとに差があり、この差を磁気偏差といいます。
コンパス方位
船上の磁気コンパスが実際に示す方位を「コンパス方位」といいます。
英語では「Compass Bearing」と呼ばれます。
磁気コンパスには、地球の磁気偏差に加え、船体や船内機器の磁気による自差が影響します。
そのため、磁針方位とコンパス方位は必ずしも同じではありません。
針路
針路とは、基本的に船首が向いている方向です。
英語では「Heading」と表されます。
通常は北を000度として、時計回りに000度から359度までの3桁で表します。
対地進路
船が陸地を基準として実際に移動している方向を「対地進路」といいます。
英語では「Course Over Ground」と呼ばれ、一般に「COG」と略されます。
風や潮流の影響を受けている場合、針路と対地進路は一致しないことがあります。
変針
船の針路を意図的に変更することを「変針」といいます。
読み方は「へんしん」です。
障害物や他船を避ける場合、航路に沿って進む場合、変針点を通過する場合などに行います。
回頭
船首の向きが変化する運動を「回頭」といいます。
読み方は「かいとう」です。
変針は意図的に針路を変える行為ですが、回頭は船首の向きが変わる運動そのものを指します。
船の位置に関する用語
船位
海上における船の位置を「船位」といいます。
読み方は「せんい」です。
通常は緯度と経度によって表します。
緯度
赤道を基準として、南北方向の位置を示す座標です。
赤道が0度で、北極と南極がそれぞれ90度です。
赤道より北側は北緯、南側は南緯と表します。
経度
イギリスのグリニッジを通る本初子午線を基準として、東西方向の位置を示す座標です。
本初子午線が0度で、東西それぞれ180度まで表します。
測位
船の現在位置を求めることを「測位」といいます。
GPS、レーダー、灯台、山、岬、天体などを利用して船位を確認します。
航海の安全性を高めるためには、一つの方法だけでなく、複数の手段で船位を確認することが重要です。
推測位置
最後に確認した船位から、針路、速力、航走時間などを使って計算した位置を「推測位置」といいます。
英語では「Dead Reckoning Position」と呼ばれます。
推測位置は風や潮流の影響を十分に反映できないことがあるため、実際の位置とずれる場合があります。
実測位置
GPSや物標の方位測定などによって、実際に確認した位置を「実測位置」といいます。
推測位置と実測位置を比較することで、船がどの方向へ、どの程度流されているかを判断できます。
船位誤差
推測位置と実際の位置との差を「船位誤差」といいます。
潮流、風、操舵のずれ、速力の誤差、測定誤差などが原因になります。
速度と距離に関する用語
ノット
船の速力を表す単位を「ノット」といいます。
1ノットは、1時間に1海里進む速さです。
1ノットは時速約1.852キロメートルに相当します。
海里
海上の距離を表す単位を「海里」といいます。
英語では「Nautical Mile」と呼ばれます。
1海里は1,852メートルです。
航海では、陸上で一般的に使われるキロメートルよりも、海里が多く使用されます。
対水速力
周囲の水に対する船の速さを「対水速力」といいます。
英語では「Speed Through Water」と呼ばれます。
船速計などによって確認します。
対地速力
陸地に対する船の実際の移動速度を「対地速力」といいます。
英語では「Speed Over Ground」と呼ばれ、一般に「SOG」と略されます。
GPSなどによって確認できます。
追い潮を受けると対地速力は大きくなり、向かい潮を受けると小さくなります。
航程
船が航行した距離を「航程」といいます。
読み方は「こうてい」です。
出発地から目的地までの航路上の距離を指す場合もあります。
操船に関する用語
操船
船を安全に動かすための一連の操作を「操船」といいます。
操舵、エンジン操作、変針、離着岸、錨泊などが含まれます。
操舵
舵を操作して船首の方向を変えることを「操舵」といいます。
読み方は「そうだ」です。
船橋から操舵装置を使って行います。
舵
水の抵抗を利用して船首の向きを変える装置です。
多くの船では、船尾のプロペラ後方付近に設置されています。
面舵
船首を右方向へ向けるための操舵指示を「面舵」といいます。
読み方は「おもかじ」です。
実際の操船では「右舵10度」など、具体的な舵角を指示することもあります。
取舵
船首を左方向へ向けるための操舵指示を「取舵」といいます。
読み方は「とりかじ」です。
面舵と対になる言葉です。
当て舵
船の回頭を止めたり、行き過ぎを防いだりするために、反対方向へ舵を取る操作を「当て舵」といいます。
大型船は舵を中央に戻しても、すぐには回頭が止まりません。
そのため、回頭の勢いを抑える目的で当て舵を行います。
舵中央
舵を船体の中心線と平行な位置に戻す指示です。
英語では「Midships」と表現されます。
ただし、舵を中央に戻しても、船の回頭運動がすぐに止まるとは限りません。
前進
プロペラの推力によって船首方向へ進むことです。
速力の程度に応じて、微速前進、半速前進、全速前進などの指示があります。
後進
プロペラの推力を反対方向に発生させ、船尾方向へ進むことです。
船を減速または停止させる場合や、岸壁から離れる場合などに用います。
惰力
エンジン出力を下げたり停止したりした後も、船が進み続ける力を「惰力」といいます。
船は自動車のように短い距離で停止できないため、操船では惰力を考慮しなければなりません。
停止距離
停止操作を開始してから、船が完全に停止するまでに進む距離を「停止距離」といいます。
船の大きさ、速力、積載状態、風、波、潮流などによって変化します。
旋回径
船が舵を取って旋回した際に形成する、旋回航跡のおおよその直径を「旋回径」といいます。
船の大きさ、速力、舵角、喫水、積載状態、風、潮流などによって変化します。
風や潮流に関する用語
風上
風が吹いてくる方向を「風上」といいます。
英語では「Windward」と呼ばれます。
風下
風が吹いていく方向を「風下」といいます。
英語では「Leeward」と呼ばれます。
船は風によって風下側へ流されやすくなります。
潮流
潮の満ち引きなどによって生じる海水の流れを「潮流」といいます。
潮流は、船の対地速力や対地進路に大きな影響を与えます。
潮流の方向は、海水が流れていく方向で表します。
風向が風の吹いてくる方向で表されるのとは反対です。
海流
広い海域を比較的継続して流れる、大規模な海水の動きを「海流」といいます。
日本付近では黒潮や親潮などが知られています。
潮流が潮汐によって周期的に変化しやすいのに対し、海流は広範囲で持続的に流れる傾向があります。
順潮
船の航行を助ける方向に流れる潮を「順潮」といいます。
一般には「追い潮」とも呼ばれます。
順潮を受けると、対地速力が大きくなりやすくなります。
逆潮
船の航行を妨げる方向に流れる潮を「逆潮」といいます。
一般には「向かい潮」とも呼ばれます。
逆潮を受けると、対地速力が小さくなりやすくなります。
横流れ
風や潮流によって、船が予定した進行方向の横へ流されることを「横流れ」といいます。
横流れを考慮しないと、予定した航路から外れ、浅瀬や障害物へ接近するおそれがあります。
圧流
主に風などの外力によって、船が船首方向とは異なる方向へ押し流される現象を「圧流」といいます。
潮流による影響と合わせて、船の実際の進路を変化させます。
海図に関する用語
海図
航海に必要な情報を記載した海上の地図を「海図」といいます。
海岸線、水深、浅瀬、岩礁、航路、灯台、浮標、沈船などが記載されています。
紙海図と電子海図があります。
水深
水面から海底までの深さを「水深」といいます。
海図に記載される水深は、一定の基準面をもとに表示されています。
実際の水深は、潮位の変化によって増減します。
等深線
同じ水深の地点を結んだ線を「等深線」といいます。
海底の形状や浅瀬の広がりを把握するために使われます。
浅瀬
周辺よりも水深が浅い海域を「浅瀬」といいます。
船の喫水より浅い場所へ進入すると、座礁する危険があります。
暗礁
海面上から確認しにくい岩礁を「暗礁」といいます。
水面下に完全に隠れている場合もあり、航海上の重大な危険物となります。
航路
船が安全に航行するために設定された海上の通り道を「航路」といいます。
狭い海域や交通量の多い海域では、法令などによって航路が定められている場合があります。
ウェイポイント
航海計画上、航路に設定する通過地点を「ウェイポイント」といいます。
GPSや電子海図装置では、複数のウェイポイントを結んで予定航路を作成します。
すべてのウェイポイントで針路を変えるとは限りません。
変針点
航海計画上、船の針路を変更する地点を「変針点」といいます。
変針点はウェイポイントとして登録されることが多いものの、ウェイポイントと完全に同じ意味ではありません。
船の深さや高さに関する用語
喫水
水面から船体の最下部付近までの垂直距離を「喫水」といいます。
読み方は「きっすい」です。
貨物や燃料を多く積むと船体が深く沈むため、一般的に喫水は大きくなります。
船首側と船尾側で喫水が異なる場合もあります。
トリム
船首喫水と船尾喫水の差を「トリム」といいます。
船尾側が深く沈んでいる状態を船尾トリム、船首側が深く沈んでいる状態を船首トリムと呼びます。
満載喫水
船が安全上認められた範囲で満載したときの喫水を「満載喫水」といいます。
船体には、積載できる限界を示す満載喫水線が表示されています。
乾舷
一般には、水面から船の上甲板付近までの高さを「乾舷」といいます。
法令や船舶設計上は、基準となる乾舷甲板と満載喫水線との間の垂直距離として定められます。
乾舷が小さいほど、波が甲板上へ入り込みやすくなります。
船底余裕
船体の最下部と海底との間に確保する安全上の余裕を「船底余裕」といいます。
英語では「Under Keel Clearance」と呼ばれます。
水深と喫水だけでなく、潮位、波浪、船体沈下、横傾斜、海底地形などを考慮して判断します。
エアドラフト
水面から船体の最も高い固定部分までの高さを「エアドラフト」といいます。
橋や架空線の下を通過する場合に重要な数値です。
水面の高さは潮位によって変化するため、通過前に十分な余裕を確認する必要があります。
港への出入りに関する用語
入港
船が港の区域内へ入ることを「入港」といいます。
入港前には、港内規則、潮位、風向、交通状況、岸壁の位置などを確認します。
出港
船が港から外へ出ることを「出港」といいます。
係船索の取り外し、エンジンの準備、周囲の安全確認などを行います。
接岸
船体を岸壁や桟橋へ接近させることを「接岸」といいます。
現場によっては、岸壁へ船体を付ける動作そのものを指します。
着岸
船を岸壁や桟橋へ近づけ、所定の位置へ到着させることを「着岸」といいます。
接岸から係留完了までを含めて使われることもあります。
接岸と着岸の使い分けは、現場や文脈によって異なります。
離岸
岸壁や桟橋から船を離すことを「離岸」といいます。
風や潮流の向き、周囲の船舶、岸壁との距離などを考慮して行います。
係留
係船索を使い、船を岸壁、桟橋、係留ブイなどに固定することを「係留」といいます。
錨を使って船をとどめる場合は、一般に錨泊と呼びます。
係船索
船を岸壁や桟橋につなぐためのロープを「係船索」といいます。
英語では「Mooring Line」と呼ばれます。
船首側、船尾側、前後方向など、役割に応じて複数の索を使用します。
防舷材
船体と岸壁の間で衝撃を和らげるものを「防舷材」といいます。
読み方は「ぼうげんざい」です。
英語では「Fender」と呼ばれます。
小型船では、船側に吊り下げるクッション状の器具もフェンダーと呼ばれます。
錨泊に関する用語
錨
海底に沈め、船を一定の場所にとどめるための装置を「錨」といいます。
一般には「いかり」と読みます。
投錨
錨を海底へ下ろすことを「投錨」といいます。
読み方は「とうびょう」です。
揚錨
海底に下ろした錨を引き上げることを「揚錨」といいます。
読み方は「ようびょう」です。
錨泊
錨を使って船を一定の海域にとどめることを「錨泊」といいます。
読み方は「びょうはく」です。
港外で待機する場合や、岸壁が空くのを待つ場合などに行います。
走錨
錨が海底を滑り、船が意図せず移動することを「走錨」といいます。
読み方は「そうびょう」です。
強風、波浪、潮流、海底の底質、錨鎖の長さ不足などが原因になります。
錨鎖
錨と船をつなぐ鎖を「錨鎖」といいます。
読み方は「びょうさ」です。
適切な長さを繰り出すことで、錨が海底をつかむ力を高めます。
ただし、必要な長さは水深、風、波、潮流、海底の状態、周囲の船との距離によって異なります。
航海標識に関する用語
灯台
光を使って船に位置や危険海域を知らせる施設を「灯台」といいます。
灯台ごとに、光の色、点滅周期、灯質などが定められています。
浮標
海上に設置され、航路、浅瀬、障害物などの位置を示す標識を「浮標」といいます。
一般に「ブイ」とも呼ばれます。
灯浮標
夜間に光を発する浮標を「灯浮標」といいます。
読み方は「とうふひょう」です。
英語では「Lighted Buoy」と呼ばれます。
灯質
灯台や灯浮標が発する光の点滅方法を「灯質」といいます。
光り続けるもの、一定間隔で点滅するもの、複数回まとまって点滅するものなどがあります。
導灯
前後に設置された複数の灯火を一直線に見通すことで、安全な進入方向を示す標識を「導灯」といいます。
前方灯と後方灯が縦に重なって見えるように進むことで、適切な進入線を維持できます。
舷灯と側面標識の色の違い
船自身が表示する舷灯は、右舷が緑色、左舷が赤色です。
一方、日本の航路などに設置される側面標識は、港の奥や水源方向に向かって右側が赤色、左側が緑色です。
船の舷灯とは色の対応が異なるため、混同しないように注意が必要です。
他船との関係を表す用語
行会い船
2隻の動力船が真向かい、またはほとんど真向かいに接近し、衝突のおそれがある状態を「行会い船」の関係といいます。
この場合、原則として双方が右へ針路を変更し、互いに相手船の左舷側を通過します。
横切り船
2隻の動力船が互いの進路を横切る状態で接近し、衝突のおそれがある場合を「横切り船」の関係といいます。
原則として、相手船を自船の右舷側に見る船が避航します。
追越し船
他船の後方から接近し、追い越そうとする船を「追越し船」といいます。
追越し船は、追い越される船の進路を妨げないように避航しなければなりません。
追越しが完了するまで、追越し船としての責任が続きます。
避航船
他船を避ける義務を負う船を「避航船」といいます。
英語では「Give-way Vessel」と呼ばれます。
早めに、相手船から見て分かりやすい避航動作を取る必要があります。
保持船
原則として針路と速力を維持する船を「保持船」といいます。
英語では「Stand-on Vessel」と呼ばれます。
ただし、避航船が適切な動作を取っていないことが明らかな場合、保持船も衝突回避のための動作を取ることができます。
さらに、避航船だけの動作では衝突を避けられない状況では、保持船も最善の協力動作を取らなければなりません。
最接近距離
他船が自船へ最も近づいたときの予測距離を「最接近距離」といいます。
英語では「Closest Point of Approach」と呼ばれ、一般に「CPA」と略されます。
最接近時間
他船が最接近するまでの予測時間を「最接近時間」といいます。
英語では「Time to Closest Point of Approach」と呼ばれ、一般に「TCPA」と略されます。
航海計器に関する用語
磁気コンパス
地球の磁気を利用して方位を示す装置を「磁気コンパス」といいます。
電源がなくても使用できるため、重要な航海計器です。
ただし、磁気偏差や船体による自差を考慮する必要があります。
ジャイロコンパス
地球の自転などを利用して真北を示す装置を「ジャイロコンパス」といいます。
磁気の影響を受けにくいという特徴があります。
GPS
人工衛星からの信号を利用して、船位、対地速力、対地進路などを求める装置です。
GPSが示す対地進路は、船首方位と一致するとは限りません。
また、極めて低速の場合や停止中は、GPSだけでは正確な船首方位を求めにくいことがあります。
レーダー
電波を発射し、他船、陸地、浮標などからの反射を画面上に表示する装置です。
夜間や視界不良時の航海で特に重要です。
雨や雪の反射も表示されることがありますが、それらが他船や陸地の映像を見えにくくする場合もあります。
AIS
AISは「Automatic Identification System」の略で、日本語では船舶自動識別装置と呼ばれます。
船名、位置、針路、速力などの情報を船舶同士や陸上局との間で送受信します。
ただし、すべての船がAISを搭載しているとは限りません。
登録情報や入力情報が誤っている可能性もあるため、目視、聴覚、レーダーなどによる見張りと併用する必要があります。
ECDIS
ECDISは「Electronic Chart Display and Information System」の略です。
日本語では電子海図表示情報システムと呼ばれます。
電子海図上に船位、予定航路、航海情報などを表示し、安全な航海を支援します。
気象と海象に関する用語
風向
風が吹いてくる方向を「風向」といいます。
北風は、北から南へ吹く風です。
潮流の方向が流れていく方向で表されるのに対し、風向は吹いてくる方向で表されます。
風速
風の速さを「風速」といいます。
メートル毎秒やノットなどの単位で表されます。
波高
波の谷から山までの垂直方向の高さを「波高」といいます。
一般的な波浪情報では、一定時間内に観測された波のうち、波高の高い上位3分の1を平均した有義波高が使われます。
実際には、有義波高を上回る高い波が発生することもあります。
うねり
遠方の低気圧や強風によって発生し、長い距離を伝わってくる比較的規則的な波を「うねり」といいます。
現地の風が弱くても、大きなうねりが到達する場合があります。
視程
肉眼で物体を識別できる距離を「視程」といいます。
霧、雨、雪、もやなどによって短くなります。
視界制限状態
霧、もや、豪雨、降雪などによって周囲が見えにくくなっている状態を「視界制限状態」といいます。
このような状態では、安全な速力への減速、レーダーの活用、見張りの強化、霧中信号などが重要になります。
航海計画に関する用語
航海計画
出港地から目的地まで、安全かつ効率的に航行するための計画を「航海計画」といいます。
航路、水深、潮汐、気象、危険物、交通量、避難港などを確認して作成します。
航路選定
複数の経路から、安全性や効率性を考慮して航路を選ぶことを「航路選定」といいます。
距離が短い航路が、必ずしも最も安全で効率的とは限りません。
クロストラックエラー
計画した航路から横方向へどれだけ外れているかを示す値を「クロストラックエラー」といいます。
英語では「Cross Track Error」と呼ばれ、電子海図装置やGPSで確認できます。
ETA
目的地へ到着すると予測される時刻を「予定到着時刻」といいます。
英語では「Estimated Time of Arrival」と呼ばれ、一般に「ETA」と略されます。
ETD
出発すると予測される時刻を「予定出発時刻」といいます。
英語では「Estimated Time of Departure」と呼ばれ、一般に「ETD」と略されます。
船橋で使われる用語
船橋
船を操縦し、航海を管理する場所を「船橋」といいます。
一般には「ブリッジ」とも呼ばれます。
操舵装置、レーダー、電子海図、通信装置などが設置されています。
船長
船の運航、安全、乗組員、旅客、貨物などについて最終的な責任を持つ人物です。
英語では「Master」または「Captain」と呼ばれます。
航海士
船橋での当直、船位確認、航海計画、操船補助などを担当する職員です。
大型船では、一等航海士、二等航海士、三等航海士などに分かれます。
航海当直
決められた時間帯に船橋で見張り、操船、船位確認などを行う勤務を「航海当直」といいます。
英語では「Navigational Watch」や「Bridge Watch」と呼ばれます。
見張り
他船、障害物、灯火、気象変化などを、目視、聴覚、レーダーなどで継続的に確認することを「見張り」といいます。
安全な航海を行ううえで、最も基本的かつ重要な業務の一つです。
BNWAS
BNWASは「Bridge Navigational Watch Alarm System」の略です。
日本語では船橋航海当直警報装置と呼ばれます。
船橋当直者が正常に勤務しているかを確認し、一定時間操作がない場合などに警報を発します。
船の状態や事故に関する用語
座礁
船底が海底、岩礁、浅瀬などに接触し、船が動けなくなることを「座礁」といいます。
水深不足、船位の誤認、潮位の変化、操船ミスなどが原因になります。
衝突
船舶同士が接触する事故を「衝突」といいます。
見張り不足、判断の遅れ、避航動作の不足などが原因になることがあります。
接触
船が岸壁、橋、浮標、防波堤などにぶつかることを「接触」といいます。
事故の分類方法は制度や文脈によって異なるため、船舶同士を衝突、固定物との事故を接触と区別する場合があります。
浸水
船内へ海水などが入り込むことを「浸水」といいます。
船体損傷、配管破損、扉やハッチの閉鎖不良などによって発生します。
漂流
機関故障や操船不能などにより、船が風や潮流に流されている状態を「漂流」といいます。
運転不自由船
異常な事態によって、海上衝突予防法の規定どおりに操船できず、他船の進路を避けることができない船を「運転不自由船」といいます。
英語では「Vessel Not Under Command」と呼ばれ、一般に「NUC」と略されます。
単に操船しにくい船ではなく、故障や事故などの異常な事態によって操船能力が失われている船を指します。
喫水制限船
自船の喫水と利用可能な水深や航路幅との関係により、航行している進路から離れる能力が著しく制限されている動力船を「喫水制限船」といいます。
英語では「Vessel Constrained by Her Draught」と呼ばれます。
喫水が深い船のすべてが、喫水制限船に該当するわけではありません。
無線通信に関する用語
VHF無線
船舶間や船舶と港湾施設との通信に使用される無線を「VHF無線」といいます。
入出港の連絡、他船との安全確認、緊急通信などに使われます。
MAYDAY
生命や船舶に重大かつ差し迫った危険がある場合に使用する遭難信号です。
「メーデー」と発音します。
火災、沈没の危険、人命に関わる重大事故などの際に使用されます。
PAN-PAN
船舶や人の安全に関する非常に緊急な通信であるものの、遭難通信には至らない場合に使用する緊急信号です。
「パンパン」と発音します。
SÉCURITÉ
航行上または気象上の重要な安全情報を伝える際に使用する安全信号です。
「セキュリテ」と発音します。
航行警報や気象警報などの伝達に使われます。
よく混同される航海用語
針路と対地進路の違い
針路は、船首が向いている方向です。
対地進路は、船が陸地を基準として実際に移動している方向です。
風や潮流によって船が横へ流されると、両者は一致しないことがあります。
方位と針路の違い
方位は、灯台や他船などの物標が自船からどの方向にあるかを示します。
針路は、自船の船首がどの方向を向いているかを示します。
対水速力と対地速力の違い
対水速力は、水に対する船の速さです。
対地速力は、陸地に対する船の実際の移動速度です。
潮流の影響を受けると、両者に差が生じます。
潮流と海流の違い
潮流は、主に潮の満ち引きによって生じる周期的な流れです。
海流は、広い海域を比較的継続して流れる大規模な海水の動きです。
着岸と係留の違い
着岸は、船を岸壁へ近づけて所定の位置へ到着させることです。
係留は、係船索などを使って船を岸壁や桟橋に固定することです。
一般には、着岸後に係留作業を行います。
ウェイポイントと変針点の違い
ウェイポイントは、航路上に設定する通過地点の総称です。
変針点は、その中でも船の針路を変更する地点です。
すべてのウェイポイントが変針点になるとは限りません。
座礁と接触の違い
座礁は、船底が海底や浅瀬などに乗り上げることです。
接触は、船が岸壁、橋、浮標などにぶつかることです。
航海用語を覚える際のポイント
航海用語は、単語だけを暗記するよりも、船を上から見た図や実際の航海場面をイメージしながら覚えると理解しやすくなります。
最初に覚えたいのは、船首、船尾、右舷、左舷という基本的な方向です。
次に、針路、対地進路、船位、ノット、海里、喫水、錨泊など、航海で頻繁に使われる言葉を学ぶとよいでしょう。
右舷と左舷は、岸から船を見たときの左右ではありません。
船内で船首へ向かって立ったときの左右で判断します。
また、針路と進路、対水速力と対地速力、舷灯と航路標識の色など、似ている用語や規則はセットで覚えることが大切です。
航海用語は単なる専門知識ではなく、衝突、座礁、乗り上げなどの事故を防ぐために使われる重要な共通言語です。
それぞれの言葉が、実際の操船や安全確認でどのように使われるのかを意識しながら学ぶことで、理解を深められます。
以上、航海の用語についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















