航海士の給料は、勤務する海運会社、航路、船の種類、役職、保有資格、乗船経験などによって大きく異なります。
公的統計では、航海士が含まれる職業分類の平均年収は約470万円です。
ただし、この数値は航海士だけを対象とした平均ではありません。
船長、運航士、水先人なども含まれているため、航海士個人の給与を正確に示すものではない点に注意が必要です。
また、同じ航海士でも、内航船と外航船、大型船と小型船、貨物船とタンカーなどでは、給与体系や各種手当が異なります。
そのため、平均年収だけで判断するのではなく、勤務条件を総合的に確認することが重要です。
公的統計から見る航海士の給与水準
航海士を含む職業分類の平均年収
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」では、航海士が含まれる職業分類の平均年収は470万1,000円とされています。
同じ統計では、平均年齢は47.1歳、1か月当たりの労働時間は164時間です。
ただし、この統計には航海士だけでなく、船長、運航士、水先人なども含まれています。
そのため、「航海士の平均年収が必ず470万円である」と考えるのは適切ではありません。
あくまでも、航海士に関連する職業全体の給与水準を把握するための参考値として見る必要があります。
ハローワーク求人の平均賃金
job tagに掲載されているハローワーク求人統計では、求人賃金の全国平均は月額28万円です。
単純に12か月分へ換算すると336万円になりますが、この金額には賞与や各種手当が十分に反映されていない場合があります。
航海士の給与には、基本給のほかに乗船手当、時間外手当、役職手当、資格手当などが加算されることがあります。
そのため、求人票の月給だけで年間収入を判断することはできません。
船員労働統計も参考になる
国土交通省の船員労働統計調査では、船員の給与や労働条件について、さまざまな区分で集計しています。
主な区分は次のとおりです。
・内航船と外航船
・船長、職員、部員
・船舶の用途
・船舶の大きさ
・年齢階層
・経験年数
航海士の給与を詳しく調べる場合は、単純な全体平均だけではなく、自分が目指す航路や船種に近い区分を確認することが大切です。
航海士の給料に差が生じる主な理由
内航船か外航船か
内航船とは、日本国内の港を結んで貨物や旅客を運ぶ船です。
一方、外航船は、日本と海外の港、または海外の港同士を結んで運航します。
大手外航海運会社では、高い給与水準が設定されることがあります。
海外での長期勤務、英語によるコミュニケーション、国際的な安全基準への対応などが求められるためです。
ただし、外航船であれば必ず内航船より給料が高いとは限りません。
内航船でも、人手不足が深刻な会社、頻繁な入出港がある船、危険物を運ぶ船、特殊な技術が必要な船などでは、高い給与が提示されることがあります。
そのため、内航と外航の区分だけで給与を比較するのではなく、会社、船種、役職、乗船期間、休暇制度なども確認する必要があります。
船の種類
航海士の給料は、乗船する船の種類によっても変わります。
代表的な船には、次のようなものがあります。
・貨物船
・コンテナ船
・自動車運搬船
・旅客船
・フェリー
・原油タンカー
・ケミカルタンカー
・LNG船
・LPG船
・海洋調査船
・作業船
タンカーやLNG船、LPG船などでは、危険物の取り扱いや高度な安全管理が求められます。
そのため、会社によっては特殊船手当や危険物関連の手当が支給されることがあります。
ただし、手当の名称、金額、支給条件は会社ごとに異なります。
すべての特殊船で必ず高額な手当が支給されるわけではありません。
海運会社の規模
航海士の給与は、勤務する会社の規模や賃金制度によっても異なります。
大手海運会社では、基本給だけでなく、賞与、退職金、住宅支援、研修制度、福利厚生などが充実している傾向があります。
一方、中小の内航海運会社では、会社ごとの待遇差が大きくなります。
ただし、有資格者や経験豊富な航海士を確保するために、高い給与を提示している会社もあります。
会社の規模だけで判断せず、年間休日、乗船期間、下船休暇、手当、賞与などを含めて比較することが重要です。
保有している海技免状
航海士として船舶職員の職務に就くには、船舶の大きさや航行区域、役職に応じた海技士(航海)の海技免状が必要です。
上位の海技免状を取得すると、より大きな船や上位の役職を目指しやすくなります。
ただし、資格を取得しただけで自動的に給与が上がるとは限りません。
実際の昇進や昇給には、乗船履歴、勤務評価、会社の人事制度なども関係します。
役職
航海士の代表的な役職には、三等航海士、二等航海士、一等航海士があります。
その上位には船長がいます。
一般的には、役職が上がるほど責任が重くなり、給与も高くなる傾向があります。
ただし、役職ごとの給与は全国一律ではありません。
公的統計でも、三等航海士、二等航海士、一等航海士ごとの全国平均年収が明確に示されているわけではありません。
そのため、「一等航海士なら年収○万円」「船長なら必ず年収1,000万円以上」と断定するのは適切ではありません。
役職ごとの仕事内容と給与の傾向
三等航海士
三等航海士は、航海士としての初期段階に当たる役職です。
主な業務には、航海当直、救命設備や消防設備の管理、航海計器の点検などがあります。
新卒や若手の航海士が就くことが多く、上位の航海士と比べると給与は低い傾向があります。
ただし、乗船手当や時間外手当などが加わることで、同年代の陸上勤務者より収入が高くなる場合があります。
二等航海士
二等航海士は、航海計画の作成、海図や航海用刊行物の管理、航海計器の管理などを担当することがあります。
三等航海士よりも経験や専門性が求められ、役職に応じて給与が上がるのが一般的です。
ただし、業務分担は船会社や船舶によって異なります。
すべての船で同じ職務を担当するわけではありません。
一等航海士
一等航海士は、船長に次ぐ甲板部門の責任者です。
主な業務には、荷役、安全管理、船体整備、甲板部員の指揮などがあります。
責任が重い役職であるため、三等航海士や二等航海士より高い給与が設定される傾向があります。
ただし、実際の給与は、会社、航路、船種、保有資格、乗船経験によって大きく変わります。
船長
船長は、船舶の運航に関する最高責任者です。
船の安全、人命、貨物、法令遵守、緊急時の判断などについて、最終的な責任を負います。
航海士のキャリアのなかでは、一般的に最も高い給与が期待される役職です。
ただし、船長の年収も会社や船種によって大きく異なります。
特定の金額を全国共通の相場として示すことはできません。
年齢と給料の関係
年齢だけでは給料は決まらない
一般的な会社員と同様に、航海士も経験を積むにつれて給与が上がる場合があります。
しかし、航海士の給与は年齢だけで決まるわけではありません。
主に影響するのは、次の要素です。
・役職
・海技免状の等級
・乗船履歴
・船の種類
・航路
・会社の賃金制度
・管理職としての経験
若くても上位資格や特殊船の経験があれば、比較的高い給与を得る可能性があります。
反対に、年齢が高くても、役職や雇用条件によっては給与が大きく上がらないこともあります。
年齢別の年収目安は参考程度に見る
インターネット上では、20代、30代、40代といった年代別の年収目安が紹介されることがあります。
しかし、こうした数値は、求人情報や一部の事例をもとに作られているケースが多く、すべての航海士に当てはまるものではありません。
年齢別の給与相場を見る場合は、内航か外航か、役職は何か、どの船種に乗っているかまで確認することが重要です。
航海士に支給される主な手当
乗船手当
乗船手当は、船に乗り組んでいる期間に支給されることがある手当です。
乗船中と下船中で給与体系が異なる会社もあります。
会社によっては、乗船手当を基本給とは別に支給する場合もあれば、職務給などに含めている場合もあります。
時間外手当
入出港、荷役、緊急対応などにより、所定労働時間を超えて勤務した場合に支給される手当です。
航海中は交代制で当直に入るのが一般的ですが、具体的な当直時間や勤務体制は船や会社によって異なります。
入出港時や緊急時には、通常の当直時間外に業務が発生することもあります。
役職手当
三等航海士、二等航海士、一等航海士、船長など、役職に応じて支給されることがある手当です。
役職手当の有無や金額は、会社の賃金規程によって異なります。
資格手当
保有している海技免状や無線関係の資格などに応じて、資格手当が支給される場合があります。
ただし、すべての会社に資格手当があるわけではありません。
資格を保有していても、基本給や職務給に含まれていることがあります。
特殊船に関する手当
タンカー、LNG船、LPG船、ケミカル船などでは、会社によって特殊船手当や危険物関連の手当が支給されることがあります。
高度な安全管理や専門知識が求められることが理由です。
ただし、手当の名称や支給条件は会社ごとに異なります。
航海日当や食料金
会社によっては、航海日当や食料金に相当する支給があります。
一方で、船内の食事を会社が直接提供し、現金での食料金を支給しないケースもあります。
給与を比較するときは、基本給だけでなく、どの費用を会社が負担するのかも確認する必要があります。
航海士の手取り額の目安
手取りは総支給額より少なくなる
手取り額とは、給与の総支給額から税金や社会保険料などを差し引いた金額です。
主に差し引かれるものには、次のようなものがあります。
・所得税
・住民税
・社会保険料
・厚生年金保険料
・雇用保険料
一般的な会社員では、手取り額は総支給額の75~85%程度になることがあります。
ただし、この割合は航海士特有のものではありません。
扶養家族の有無、年齢、前年の所得、賞与、住民税、社会保険料などによって変わります。
手取り額は概算として考える
たとえば、総支給月額が30万円であっても、必ず手取りが一定額になるわけではありません。
また、非課税の日当や実費弁償に近い支給が含まれる場合、単純な割合では計算できないことがあります。
正確な手取り額を知りたい場合は、求人票だけでなく、給与明細のモデルや会社の賃金規程を確認する必要があります。
航海士と船員保険
船員法上の船員は原則として対象になる
船員法上の船員として船舶所有者に雇用される人は、原則として船員保険の被保険者になります。
船員保険は、船員特有の労働環境に対応した制度です。
職務外の病気やけがなどには船員保険が関係し、職務上の災害には労災保険が関係します。
適用関係は、本人の業務内容、乗船する船舶、雇用関係などによって判断されます。
会社が自由に加入を決める制度ではない
船員保険への加入は、会社の都合だけで自由に決められるものではありません。
法令上の条件を満たす場合は、原則として加入対象になります。
就職先を選ぶ際は、社会保険の加入状況についても確認することが大切です。
航海士は生活費を抑えやすいのか
乗船中の日常支出は少なくなりやすい
航海士は乗船中、船内で生活します。
会社が食事や居住スペースを提供する場合、乗船中は次のような支出を抑えやすくなります。
・食費
・通勤費
・水道光熱費
・外食費
・日常的な娯楽費
そのため、陸上勤務者と同程度の年収であっても、乗船中の個人的な支出を抑えやすい場合があります。
必ず貯蓄しやすいとは限らない
航海士であれば必ず貯蓄しやすいわけではありません。
乗船中でも、自宅の家賃や住宅ローン、家族の生活費は発生します。
また、会社によっては船内食費や移動費の一部を本人が負担することもあります。
下船休暇中の支出が増える場合もあるため、実際の貯蓄額は生活環境によって異なります。
航海士が給料を上げるための方法
上位の海技免状を取得する
上位の海技免状を取得すると、大型船や上位の役職を目指しやすくなります。
一等航海士や船長への昇進には、一定の資格と乗船履歴が必要です。
資格取得は、昇進や転職の選択肢を広げるうえで重要です。
乗船経験を積む
航海士としての評価では、保有資格だけでなく、実際の乗船経験も重視されます。
特定の船種、長距離航海、危険物運搬船などの経験があると、転職時に評価されることがあります。
ただし、どの経験が高く評価されるかは、応募先の会社や船種によって異なります。
特殊船の知識を身につける
タンカー、LNG船、ケミカル船などでは、専門的な知識や安全管理能力が求められます。
関連する講習や資格を取得し、実務経験を積むことで、専門性を高められます。
専門性の高い航海士は、人材市場で評価されやすくなる可能性があります。
船長を目指す
航海士の代表的なキャリアアップ先が船長です。
船長になるには、上位の海技免状だけでなく、十分な乗船経験、指揮能力、判断力、安全管理能力などが必要です。
責任は非常に重くなりますが、一般的には航海士より高い給与が期待できます。
待遇のよい会社へ転職する
同じ資格や経験を持っていても、勤務先によって給与や休暇制度は大きく異なります。
転職時には、月給の高さだけでなく、年間収入や勤務条件を総合的に比較することが重要です。
求人票で確認したい項目
基本給と総支給額を分けて見る
求人票に記載された月給が、基本給なのか、各種手当を含む総支給額なのかを確認しましょう。
月給が高く見えても、固定残業代や乗船手当を含んでいることがあります。
賞与と昇給
賞与の有無や支給実績は、年収に大きく影響します。
「賞与あり」と記載されていても、支給月数や算定基準は会社によって異なります。
昇給についても、毎年必ず行われるとは限りません。
乗船期間と下船休暇
航海士の働き方では、乗船期間と下船休暇のバランスが重要です。
同じ給与でも、長期間乗船する会社と、比較的短いサイクルで交代する会社では、生活への影響が異なります。
下船休暇中も給与が支給されるのか、休暇の日数はどの程度かを確認しましょう。
手当の内訳
確認したい主な手当は次のとおりです。
・乗船手当
・時間外手当
・役職手当
・資格手当
・特殊船手当
・航海日当
・交通費
・食料金
手当は会社ごとに名称や支給条件が異なります。
福利厚生
給与だけでなく、次のような福利厚生も確認しましょう。
・退職金制度
・社宅や寮
・住宅手当
・資格取得支援
・帰省交通費
・健康診断
・研修制度
・家族手当
福利厚生が充実している会社では、額面給与以上のメリットを得られることがあります。
航海士の給料を比較するときの注意点
平均年収だけで判断しない
航海士の給与は、平均年収だけでは実態を把握できません。
同じ職種でも、内航船か外航船か、船長か航海士か、船の種類は何かによって大きな差があります。
統計の対象を確認する
航海士の平均年収として紹介されている数値でも、実際には船長や運航士、水先人などが含まれている場合があります。
統計を見る際は、どの職種が対象になっているかを確認する必要があります。
月給と年収を混同しない
求人票の月給を12倍した金額が、そのまま年収になるとは限りません。
賞与や手当が加わる場合もあれば、下船中の給与条件によって年間収入が変わる場合もあります。
高額な給与例を一般化しない
大手外航海運会社や特殊船では、高い給与が提示されることがあります。
しかし、一部の高額事例を航海士全体の標準的な年収として紹介するのは適切ではありません。
自分が応募する会社や船種に近い求人情報を比較することが重要です。
まとめ
航海士の給与を考える際の基準として、航海士を含む職業分類の平均年収は約470万円です。
ただし、この数値は航海士だけを対象にしたものではなく、船長、運航士、水先人なども含まれています。
実際の給与は、次の条件によって大きく異なります。
・内航船か外航船か
・船の種類
・会社の規模
・役職
・海技免状の等級
・乗船経験
・乗船期間
・賞与や各種手当
航海士の求人を比較するときは、月給の金額だけで判断してはいけません。
基本給、手当、賞与、下船休暇中の給与、乗船期間、福利厚生まで含めて、年間の収入と働き方を総合的に確認することが重要です。
以上、航海士の給料の目安についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















