船級ABSとは
船級ABSとは、American Bureau of Shipping(アメリカ船級協会)が定める技術規則に基づき、船舶や海洋構造物の設計・建造・設備・機関などを審査し、一定の基準を満たしていることを確認する船級制度です。
ABSは世界的に知られる船級協会の一つで、商船をはじめ、タンカー、コンテナ船、LNG船、バルクキャリア、作業船、オフショア設備など幅広い船舶・海洋構造物を対象としています。
ABSの前身であるAmerican Shipmasters’ Associationは1862年に正式に法人化され、その後1898年にAmerican Bureau of Shippingへ名称変更されました。
船級協会というと「船を検査する機関」というイメージがありますが、ABSの役割は検査だけではありません。
技術規則の策定、設計図面の審査、材料や舶用機器の確認、建造中の検査、完成後の試験、さらに就航後の定期検査まで幅広く関与します。
船級とは
船舶が船級規則に適合していることを確認する制度
船級とは、船舶の船体構造や機関設備などが、船級協会の定める技術規則に適合していることを審査・検査する制度です。
ABSの場合は、ABSが定めるRulesに基づいて設計審査や検査が行われます。
所定の要件を満たした船には、A1やAMSなどの船級記号やClass Notationが付与されます。
ただし、船級を取得しているからといって、その船が将来にわたって事故を起こさないことまで保証されるわけではありません。
船級は、適用される規則への適合性について、船級協会が所定の審査や検査を通じて確認する仕組みと考えるとよいでしょう。
ABSの主な役割
技術規則を策定する
ABSは、船舶や海洋構造物に関するさまざまな技術規則を策定しています。
これらは一般的にABS Rulesと呼ばれます。
規則では、船体構造や機関設備、電気設備、材料、溶接などについて技術要件が定められています。
設計図面を審査する
新造船では、造船所や設計会社からABSへ図面や計算書を提出し、適用されるABS Rulesを満たしているか審査を受けます。
対象になる資料としては、船体構造図、機関配置図、配管系統図、電気系統図などがあります。
建造中の検査を行う
船の建造中にはABS Surveyorが検査を行います。
設計図面どおりに建造されているか、使用される材料が適切か、溶接施工に問題がないかなどを確認します。
必要に応じて、機関や配管、電気設備、各種試験についても確認されます。
就航後も定期検査を行う
ABS船級は、新造時に一度取得すれば永久に有効というわけではありません。
船級を維持するためには、就航後も定期的なSurveyを受け、ABSの要求事項を継続して満たす必要があります。
ABS Rulesとは
船舶の設計や建造に関する技術基準
ABS Rulesとは、ABSが定める船舶・海洋構造物に関する技術規則です。
一般的な船舶では、船体構造や機関、電気設備など広い範囲が規定されています。
船体構造に関する規則
船体については、外板、デッキ、隔壁、フレーム、ガーダー、二重底などの構造が対象になります。
船舶に作用する荷重や必要な強度を考慮し、板厚や構造寸法などが決められます。
機関設備に関する規則
主機関や補助機関だけでなく、推進装置、ボイラー、配管設備、燃料系統、潤滑油系統、冷却水系統なども対象になります。
電気設備に関する規則
発電機、配電盤、ケーブル、非常電源、保護装置などについても要求事項が設けられています。
材料や溶接に関する規則
船体に使用される鋼材や鋳鍛鋼品などについても、材料特性や製造方法などの基準があります。
また、溶接施工方法や溶接士、非破壊検査などについても要求事項が定められています。
ABSの船級記号とは
A1とは
ABS船級で代表的な記号の一つがA1です。
A1は、ABSのClassification Symbolの一つで、主にHull and Equipmentに関する船級要件を満たしていることを示します。
日本語では、船体および関連設備に関する基本的な船級記号と理解すると分かりやすいでしょう。
AMSとは
AMSは、機械、ボイラーおよび関連システムに関係するClass Notationです。
主機関や補機など、船舶の機関設備がABSの規則を満たしていることを示すものです。
自航船では、A1とAMSが組み合わされて表示されるケースがあります。
✠マークの意味
Maltese Crossと呼ばれる記号
ABS船級では、A1やAMSの前に、
✠A1
✠AMS
のような記号が付くことがあります。
この「✠」はMaltese Crossと呼ばれます。
ABS Surveyの下で建造・製造されたことを示す
Maltese Crossは、そのClass Notationに対応する船体の建造や、機械・構成部品の製造、必要な関連試験などがABS Surveyの下で行われたことを示す記号です。
例えば、ABS Surveyの下で船体が建造された場合、
✠A1
と表示されます。
機関設備についてABS Surveyの下で製造・設置・試験などが行われた場合には、
✠AMS
のように表示されます。
一方、他の認められた船級協会などのSurveyの下で建造された既存船がABSへClass Transferした場合などは、Maltese Crossが付かないことがあります。
Class Notationとは
船舶の用途や性能を示す追加記号
ABSでは、A1やAMS以外にも多数のClass Notationがあります。
Class Notationを見ることで、その船舶の用途や設備、特殊な性能などを確認できます。
Notationには、船種、機関、自動化、環境性能、特殊設備、サイバー関連設備など、さまざまな種類があります。
Mandatory NotationとOptional Notationがある
Class Notationには、大きく分けてMandatory NotationとOptional Notationがあります。
Mandatory Notationは、その船種や用途について船級を維持するうえで必要になるものです。
一方、Optional Notationは船主などが希望して追加取得するもので、特定の設備や性能について追加基準を満たしていることを示します。
ABS船級取得までの流れ
船級仕様を決定する
新造船では、最初に適用する船級やClass Notationなどを決めます。
この段階では、船種、用途、Flag State、適用条約なども整理されます。
図面承認を受ける
次に、造船所や設計会社がABSへ図面や計算書を提出します。
ABSは、それらが適用されるRulesを満たしているか確認します。
材料や機器を確認する
使用する鋼材や舶用機器についても、必要に応じてABSの検査や承認を受けます。
建造中のSurveyを受ける
船の建造中には、ABS Surveyorによる現場検査が行われます。
船体構造、溶接、機関、配管、電気設備などが図面や規則に適合しているか確認されます。
完成後に試験を行う
完成後には、岸壁試験や海上試運転などが行われます。
必要な試験を完了し、船級要件を満たしていることが確認されると、船級が付与されます。
ABS船級取得後に行われる主な検査
Annual Survey
Annual Surveyは、船級維持のために原則として毎年行われる検査です。
一般的には、基準となるanniversary dateの前後3か月以内のSurvey Windowで実施されます。
船体、機関、設備などについて、継続して船級要件を満たしているか確認します。
Intermediate Survey
Intermediate Surveyは、適用対象となる船舶について、通常5年間のSurveyサイクルの中間付近で実施されます。
一般的には、第2回Annual Surveyと第3回Annual Surveyの間、またはそのいずれかの時点で実施されます。
Annual Surveyより追加の検査項目が設定されることがあります。
Special Periodical Survey
ABSでは、一般にSpecial Surveyと呼ばれる検査について、正式にはSpecial Periodical Surveyという表現が使われます。
原則として、建造時または前回のSpecial Periodical Surveyから5年以内に完了する必要があります。
Annual Surveyよりも詳細な検査が行われ、船体構造や機関設備などについて広範囲に確認します。
Drydocking Survey
Drydocking Surveyは、通常航海中には確認できない船底部などを検査するために行われます。
船底外板、プロペラ、舵、シーチェストなどの状態を確認します。
Special Periodical Surveyと実施時期が重なる場合もありますが、Special Periodical SurveyとDrydocking Surveyは完全に同じ検査ではありません。
船級検査と法定検査の違い
船級検査は船級協会のRulesに基づく
Class Surveyは、ABSなどの船級協会が自らのClassification Rulesに基づいて行う検査です。
船体や機関などが船級規則を満たしているか確認します。
法定検査は国際条約や船籍国の法令に基づく
Statutory Surveyは、SOLASやMARPOL、International Load Line Conventionなどの国際条約や、船籍国の法令に基づいて行われます。
本来、船級検査と法定検査は別の制度です。
ただし、船籍国がABSをRecognized Organizationとして認定している場合、ABSが船籍国政府に代わって法定検査や証書発行に関わることがあります。
そのため実務上は、ABS SurveyorがClass SurveyとStatutory Surveyの両方を担当するケースもあります。
ABS Recordとは
ABS船級船の情報を確認できるデータベース
ABSにはABS Recordと呼ばれるデータベースがあります。
ABS Recordでは、船舶や海洋設備に関するさまざまな情報を確認できます。
代表的な情報として、Class Notation、Principal Particulars、Machinery、Hull、Builder、Owner、Survey関連情報などがあります。
船級のSuspensionやWithdrawalも確認できる
ABS Recordでは、Class Suspension、Withdrawal、Reinstatementなどの情報も公開されています。
ただし、ABS Recordに掲載されている船舶が必ずしもすべてABS Classという意味ではありません。
ABSが法定検査などに関与している船舶が掲載される場合もあるため、実際のClass Statusを確認する必要があります。
Suspension of Classとは
Suspension of Classとは、ABS船級が一時的に停止された状態です。
例えば、必要なSurveyを期限内に完了していない場合や、重大な損傷があり所定の対応が完了していない場合などに発生する可能性があります。
Suspension中は、通常どおりClassが有効な状態とは扱われません。
Withdrawal of Classとは
Withdrawal of Classとは、その船舶がABSの船級登録から外れることを意味します。
Withdrawalに至る理由はさまざまで、船主の判断による場合もあれば、船級要件を満たせなくなった場合などもあります。
そのため、「強制的な船級取消」だけを意味するものではありません。
他船級からABSへ変更することもできる
Transfer of Class
船舶は、他の船級協会からABSへ船級を移管することもできます。
これを一般にTransfer of Classと呼びます。
例えば、DNVやClassNKなどからABS Classへ変更するケースがあります。
他のIACS MemberからABSへ移管する場合には、それまでのSurvey Statusなどを確認したうえで、Confirmatory Surveyなどが行われます。
これまで一度もClassを取得したことがない船をABSへ入級させる場合には、より広範な図面審査や状態確認が必要になることがあります。
ABSとIACSの関係
ABSはIACSのメンバー
ABSは、**IACS(International Association of Classification Societies:国際船級協会連合)**のメンバーです。
IACSには、ABSのほか、ClassNK、DNV、Lloyd’s Registerなど主要な船級協会が加盟しています。
船級規則には共通化された部分もある
各船級協会はそれぞれ独自のRulesを持っています。
そのため、ABS、ClassNK、DNV、LRなどの規則が完全に同じというわけではありません。
一方でIACSでは、Unified Requirementsなどを通じて技術要件の共通化・調和が図られています。
そのため、船級協会ごとに違いがある一方、共通する技術基準も数多く存在します。
ABSとClassNK・DNV・LRの違い
基本的な役割は共通している
ABSのほかにも世界には多数の船級協会があります。
代表的なものとして、日本のClassNK、ノルウェーをルーツとするDNV、英国のLloyd’s Registerなどがあります。
いずれも、技術規則の策定、設計審査、建造中検査、就航後検査などを行います。
RulesやNotationには違いがある
船級協会ごとに独自のRulesやClass Notationがあります。
そのため、同じ船種でも適用するClassによって、提出図面や細かな設計条件、承認手続きなどが異なる場合があります。
ABS ApprovedとABS Classの違い
機器の承認と船舶全体の船級は別物
「ABS Approved」という表現を見たからといって、その船舶全体がABS Classであるとは限りません。
例えば、ポンプやバルブなどの機器がABS Type Approvedであっても、それはその製品について所定の承認を受けているという意味です。
船舶全体のClassificationとは別の制度です。
したがって、
ABS Type Approvedの製品を使用している=その船がABS Class
とは限りません。
図面や仕様書でABSを確認するときの注意点
「ABS対応」だけでは判断できない
図面や仕様書には、
「ABS Class」
「ABS Rule」
「ABS Approval」
などと記載されることがあります。
しかし、実際の設計や検査条件を判断するには、「ABS」という文字だけでは十分ではありません。
適用RuleやEditionを確認する
ABS Rulesは改訂されるため、実務では適用する規則のEditionやEffective Dateを確認することが重要です。
さらに、船種、Class Notation、Flag State、契約時期などによって適用条件が変わることもあります。
そのため、設計や機器選定では、どのRuleが適用されているのかを確認する必要があります。
船級ABSについてのまとめ
ABSとは、American Bureau of Shippingの略称で、世界的に利用されている主要な船級協会の一つです。
ABSは船舶や海洋構造物について、技術規則の策定、設計図面の審査、材料・機器の確認、建造中のSurvey、完成後の試験、就航後の定期検査などを行います。
ABS船級では、A1やAMSといったClass Symbol・Notationが使用されます。
また、✠はMaltese Crossと呼ばれ、該当する船体建造や機械・部品の製造、関連試験などがABS Surveyの下で行われたことを示します。
船級取得後も、Annual Survey、Intermediate Survey、Special Periodical Survey、Drydocking Surveyなどを通じて、継続的に船級を維持していく必要があります。
なお、ABSによるClass Surveyと、SOLASやMARPOLなどに基づくStatutory Surveyは本来別の制度です。
ただし、ABSが船籍国からRecognized Organizationとして認定されている場合には、ABSが法定検査にも関与することがあります。
船級ABSを理解する際は、単に「船を検査する組織」と考えるのではなく、設計・建造・就航後まで船舶のライフサイクルを通じて技術基準への適合性を確認する船級制度として捉えると分かりやすいでしょう。
以上、船級のABSについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。









