船級規格とは、船舶や海洋構造物について、船体構造、機関、電気設備、安全設備などが一定の技術水準を満たしているかを確認するための基準です。
一般には「船級規格」と呼ばれることがありますが、より正確には「船級規則(Classification Rules)」と呼ばれます。
船級規則は、ClassNK、日本海事協会、DNV、ABS、Lloyd’s Register、Bureau Veritasなどの船級協会がそれぞれ制定しています。
船舶の設計段階から建造、完成後の検査、就航後の定期検査まで幅広く関係するため、造船所、船主、設計会社、舶用機器メーカーなどにとって非常に重要な技術基準です。
船級とは
船級とは、船舶が特定の船級協会の規則に適合していることを示す分類制度です。
英語では「Classification」と呼ばれます。
船級協会は、船舶の設計図面を審査し、建造中の検査を行い、完成後も定期的な検査を実施します。
これらの審査や検査を通じて、船舶が船級規則に適合していることが確認されると、船級が付与されます。
ただし、船級を取得していることが、船舶の安全性を絶対的に保証するという意味ではありません。
あくまで、定められた船級規則に基づいて設計、建造、維持されていることを示すものです。
船級規則と法律・国際条約の違い
船級を理解するうえで重要なのが、船級規則と法律、国際条約の違いです。
船舶には、複数の異なるルールが同時に適用されます。
代表的なものとして、IMOが定める国際条約、旗国の国内法、そして船級協会の船級規則があります。
IMOの国際条約
IMOは「International Maritime Organization」の略で、日本語では国際海事機関と呼ばれます。
IMOは船舶の安全や環境保護に関する国際的なルールを整備しています。
代表的な条約としては、以下のようなものがあります。
- SOLAS
- MARPOL
- Load Line条約
- COLREG
- STCW
SOLASは海上における人命の安全を目的とする条約です。
船舶の構造、防火、救命設備、航海設備などについて国際的な安全基準を定めています。
MARPOLは、船舶による海洋汚染を防止するための国際条約です。
船級規則
一方、船級規則は、各船級協会が制定する技術規則です。
たとえば、ClassNK Rules、DNV Rules、ABS Rules、LR Rulesなどがあります。
船体構造であれば、板厚、フレーム、防撓材、縦強度、座屈強度、疲労強度、材料、溶接などについて詳細な要求事項が定められています。
国際条約と船級規則は完全に独立しているわけではない
IMO条約と船級規則は制度上は別のものですが、完全に切り離されているわけではありません。
たとえばSOLASでは、一定の船舶について、構造、機関、電気設備が、旗国政府に認められた船級協会の規則、またはそれと同等の安全水準を持つ国内基準に適合することが求められます。
そのため、実際の船舶設計では、国際条約、旗国法令、船級規則をそれぞれ確認する必要があります。
主な船級協会
世界には多くの船級協会があります。
代表的な船級協会は以下の通りです。
ClassNK
ClassNKは、日本海事協会の通称です。
日本の造船、海運業界では非常に身近な船級協会であり、多くの日本関係船舶がClassNKの船級を取得しています。
DNV
DNVはノルウェーを起源とする世界的な船級協会です。
船舶だけでなく、海洋構造物、エネルギー、デジタル認証など幅広い分野で活動しています。
ABS
ABSはAmerican Bureau of Shippingの略称です。
アメリカを代表する船級協会として、商船、海洋構造物、オフショア関連などで広く利用されています。
Lloyd’s Register
Lloyd’s Registerは、一般にLRと略されます。
イギリスを起源とする歴史の長い船級協会です。
Bureau Veritas
Bureau Veritasは、一般にBVと略されます。
フランスを起源とする国際的な認証・船級機関です。
このほかにも、RINA、KR、CCSなど多くの船級協会があります。
IACSとは
IACSとは「International Association of Classification Societies」の略称です。
日本語では国際船級協会連合と呼ばれます。
ClassNK、DNV、ABS、LRなど、主要な船級協会が加盟しています。
IACSはそれ自体が個別の船舶に船級を付与する船級協会ではありません。
加盟船級協会の間で技術要件や解釈を調整し、共通の技術水準を整備する組織です。
参考サイト
IACS Unified Requirementsとは
IACSでは「Unified Requirements」、略してURと呼ばれる統一要件を定めています。
Unified Requirementsは、IACS加盟船級協会が船級規則に取り込むことを前提とした最低技術要件です。
ただし、各船級協会はIACS URより厳しい独自要件を設定することもできます。
そのため、IACS加盟船級協会だからといって、すべての規則内容が完全に同じというわけではありません。
IACS URの主な分野
IACS URには、さまざまな技術分野があります。
代表的なものは以下の通りです。
Aは係留、投錨設備に関する分野です。
Eは電気・電子設備に関する分野です。
Fは防火に関する分野です。
Gはガス運搬船に関する分野です。
Hは新燃料や新しいエネルギー源に関する分野です。
Kはプロペラに関する分野です。
Mは機関設備に関する分野です。
Pは配管や圧力容器に関する分野です。
Sは船体強度に関する分野です。
Wは材料や溶接に関する分野です。
Zは検査や証明に関する分野です。
このように、IACS URは船舶のほぼすべての主要技術分野に関係しています。
Common Structural Rulesとは
Common Structural Rulesは、一般にCSRと略されます。
CSRは、IACS加盟船級協会によって共同で整備された船体構造に関する共通規則です。
主にバルクキャリアやオイルタンカーの船体構造設計に関係します。
ただし、すべてのバルクキャリアやタンカーへ一律に適用されるわけではありません。
船種、船長、建造契約日などによって適用条件が決まります。
そのため、実務では対象船がCSR適用船に該当するかを確認する必要があります。
船級規則では何を確認するのか
船級規則が対象とする技術分野は非常に広範囲です。
船体構造だけでなく、機関、配管、電気、防火、復原性、コンピュータシステムなども含まれます。
船体構造に関する規則
船体構造は、船級規則の中でも特に重要な分野です。
外板や甲板
船体の外板や甲板について、必要な板厚や強度が定められます。
船舶に作用する波浪荷重、貨物荷重、タンク圧力などを考慮して設計します。
フレームや防撓材
フレーム、ロンジ、ガーダーなどの補強部材についても、必要な寸法や配置が規定されています。
船体縦強度
大型船では、船体全体の縦方向の強度が重要になります。
基本的な考え方では、船体全体を一本の大きな梁のように捉えます。
波や貨物の影響によってHoggingやSaggingと呼ばれる曲げ状態が生じるため、船体が十分な強度を持つよう設計します。
座屈強度
鋼板や防撓材が圧縮荷重を受けると、材料が破断する前に座屈する可能性があります。
そのため、板厚、部材間隔、細長比、作用応力などを考慮して座屈強度を確認します。
疲労強度
船舶は長期間にわたって波浪による繰り返し荷重を受けます。
そのため、溶接継手や応力集中部では疲労亀裂が発生する可能性があります。
船級規則では、必要に応じて疲労強度についても評価します。
材料に関する船級規則
船舶に使用される材料も船級規則の対象です。
船体用鋼材
船体用鋼板については、降伏強度、引張強度、伸び、衝撃靭性、化学成分などが規定されます。
鋳鋼品や鍛鋼品
プロペラ軸や機関部品などに使用される鋳鋼品、鍛鋼品についても、材料特性や検査方法が定められています。
材料メーカーの承認
製品によっては、製鋼所や材料メーカー自体について船級協会の承認が必要になる場合があります。
溶接に関する船級規則
造船では大量の溶接が行われるため、溶接は極めて重要な管理項目です。
溶接施工方法
使用する溶接方法、溶接材料、施工条件などについて承認が必要になる場合があります。
溶接士
重要な構造部を溶接する作業者について、資格や技量試験が求められる場合があります。
非破壊検査
溶接部の品質を確認するため、超音波探傷試験、放射線透過試験、磁粉探傷試験などが使用されることがあります。
機関に関する船級規則
船級規則は、主機や補機などの機関設備にも適用されます。
対象には、ディーゼルエンジン、軸系、プロペラ、ボイラー、ポンプ、コンプレッサーなどがあります。
設計強度、材料、製造方法、試験方法などが規定されます。
配管・圧力容器に関する船級規則
船内にはさまざまな配管があります。
燃料油、潤滑油、清水、海水、蒸気、圧縮空気、消火設備などです。
配管については、設計圧力、設計温度、材質、肉厚、弁、継手、溶接、耐圧試験などが規定されます。
ボイラーや空気槽などの圧力容器についても、強度計算や検査が必要です。
電気設備に関する船級規則
船舶の電気設備も船級規則の重要な対象です。
発電機、配電盤、変圧器、モーター、ケーブル、蓄電池、非常電源などが含まれます。
短絡や過負荷に対する保護、非常時の電源確保、設備の冗長性などについて要求があります。
コンピュータシステムとサイバーセキュリティ
近年は船舶のデジタル化が進み、コンピュータシステムも船級規則の重要な対象となっています。
ClassNKでは、コンピュータベースシステムに関する規則が設けられています。
また、船舶のネットワークやソフトウェアを狙ったサイバー攻撃への対策も重要性を増しています。
そのため、システム冗長性、ネットワーク分離、アクセス制御、障害時の安全性などが注目されています。
防火・消火設備に関する船級規則
船舶では火災が重大事故につながるため、防火設備や消火設備にも厳しい要求があります。
対象には、防火区画、火災探知設備、スプリンクラー、消火ポンプ、固定式消火設備などがあります。
ただし、防火関係はSOLASなどの法定要件とも深く関係しているため、船級規則だけを確認すればよいわけではありません。
復原性に関する船級規則
船が傾いた際に元の状態へ戻ろうとする性質を復原性といいます。
英語ではStabilityと呼ばれます。
Intact Stability
損傷していない通常状態での復原性です。
貨物、燃料、バラストなどの積載状態によって復原性が変化するため、必要な安全性を満たしているか確認します。
Damage Stability
船体の一部が損傷して浸水した場合の復原性です。
旅客船、タンカー、ガス運搬船などでは特に重要な評価項目です。
船級は建造時だけではない
船級は、船舶を建造するときだけ必要になる制度ではありません。
船舶の設計から就航後まで継続的に関係します。
図面承認
新造船では、造船所や設計会社が船級協会へ設計図書を提出します。
対象となる図面には、船体構造図、中央横断面図、機関室配置図、配管系統図、電気系統図などがあります。
船級協会は提出された図面が船級規則に適合しているか確認します。
建造中検査
図面が承認されただけでは船級取得は完了しません。
実際の造船所で、船級協会のSurveyorが検査を行います。
材料確認、溶接検査、寸法確認、非破壊検査、タンク試験、機器据付確認などが行われます。
海上試運転
船舶の完成段階ではSea Trialが行われます。
主機、操舵装置、速力、後進性能、発電設備、非常装置などを実際に確認します。
就航後の検査
船級を維持するためには、就航後も継続的な検査を受ける必要があります。
代表的なものとして、Annual Survey、Intermediate Survey、Special Surveyなどがあります。
このほか、Docking Survey、Bottom Survey、Tailshaft Surveyなどが必要になる場合もあります。
Class Notationとは
Class Notationとは、船級船の船種や設備、追加要件への適合状況などを示す船級符号や付記です。
船舶の用途や設備によってさまざまなNotationがあります。
たとえば、Oil Tanker、Bulk Carrier、LNG Carrier、Ice Class、Battery関連、Cyber Security関連などです。
Notationを見ることで、その船がどのような追加規則に適合しているかを確認できます。
Type Approvalとは
舶用機器では「Type Approval」、日本語では型式承認と呼ばれる制度も重要です。
これは、特定の製品や製品シリーズについて、設計や性能などが船級協会の要求事項に適合していることを確認する制度です。
対象には、電気機器、制御機器、センサー、ケーブル、バルブなどがあります。
ただし、Type Approvalを取得しているからといって、その機器をすべての船舶に無条件で搭載できるわけではありません。
個船ごとの承認、搭載条件、製品証明、船上検査、旗国要求などを別途確認する必要があります。
MEDと船級承認の違い
船級のType Approvalと、MEDなどの法定認証は同じものではありません。
MEDはMarine Equipment Directiveの略称で、EUの舶用機器に関する制度です。
MEDの適用対象となる機器では、所定の適合性評価やWheel Markなどが必要になります。
そのため、船級協会のType Approvalを取得していても、MEDの要求が自動的に免除されるわけではありません。
船級協会は旗国政府の業務を行うこともある
船級協会は、船級業務だけを行っているわけではありません。
旗国政府から権限を委任され、法定検査や証書業務を行う場合があります。
このような組織はRecognized Organization、略してROと呼ばれます。
ROとして認められた船級協会は、SOLAS、MARPOL、Load Line条約などに基づく法定検査を旗国政府に代わって行う場合があります。
ただし、すべての船級協会がすべての旗国から同じ権限を与えられているわけではありません。
どの業務を委任されているかは、旗国ごとに異なります。
船級を取得しなければ航行できないのか
「船級を取得していない船は航行できない」と一律に考えるのは正確ではありません。
船級取得そのものが、あらゆる船舶について必ず法的義務となっているわけではないためです。
ただし、SOLASが適用される船舶では、構造、機関、電気設備について、旗国政府が認めた船級協会の規則、または同等の安全水準を持つ国内基準への適合が要求される場合があります。
また、国際航海を行う大型商船では、保険、融資、用船契約、旗国制度、荷主の要求などとの関係から、船級取得が実務上非常に重要です。
そのため、大型商船では船級が事実上不可欠となっているケースが一般的です。
船級規則は世界共通ではない
IACSによって多くの技術要件が共通化されていますが、船級規則が完全に世界共通というわけではありません。
ClassNK、DNV、ABS、LRなどでは、それぞれ独自の規則体系や追加要件があります。
そのため、同じ舶用機器でも、NK船級向け、DNV船級向け、ABS船級向けで必要な図書や試験内容が異なる場合があります。
船級規則の最近の動向
船級規則は、技術の進歩に合わせて継続的に改正されています。
特に近年注目されているのが、脱炭素化、電動化、デジタル化に関する分野です。
アンモニア・水素・メタノール
船舶用燃料として、アンモニア、水素、メタノールなどの新燃料が注目されています。
従来の重油や軽油とは異なる危険性があるため、新たな安全要件が整備されています。
LNG
LNG燃料船についても、燃料タンク、燃料供給システム、ガス検知、防爆などに関する規則があります。
バッテリー船
大型蓄電池を搭載する船舶では、熱暴走、火災、換気、電気的安全性などが重要になります。
サイバーセキュリティ
船舶の自動化やネットワーク化が進むにつれて、サイバー攻撃への対策も船級規則の重要なテーマになっています。
自律運航船
自動操船や遠隔監視などの技術発展に伴い、自律運航船に関するルール整備も進んでいます。
ClassNKの規則体系
日本で船級規則を理解する場合、ClassNKの鋼船規則を見ると全体像をつかみやすくなります。
ClassNKでは、内容ごとに規則がPartで分けられています。
Part A
General Rulesです。
規則全体に関する基本事項が定められています。
Part B
Class Surveysです。
船級登録や船級維持のための検査について定められています。
Part C
Hull Construction and Equipmentです。
船体構造や船体設備に関する要求事項が定められています。
Part R
Fire Protection, Detection and Extinctionです。
防火、火災探知、消火設備に関する規則です。
Part U
Intact Stabilityです。
非損傷時の復原性に関する規則です。
Part V
Load Linesです。
満載喫水線に関する規則です。
Part X
Computer-Based Systemsです。
コンピュータベースシステムに関する規則です。
参考サイト
船級規則を確認するときの注意点
船級規則は、単に最新版を確認すればよいとは限りません。
対象船にどの版の規則が適用されるかを確認する必要があります。
建造契約日
船級規則では、建造契約日によって適用する規則が変わる場合があります。
起工日
対象規則によっては、起工日が重要になる場合があります。
引渡日
船舶の引渡日によって適用条件が変わるケースもあります。
船種
バルクキャリア、タンカー、コンテナ船、旅客船など、船種によって適用する規則が異なります。
Class Notation
取得するClass Notationによって追加要求が適用される場合があります。
そのため、実務では「最新版だからこの規則を使う」と単純に判断するのではなく、対象船の契約日や船種、Class Notationなどを確認することが重要です。
IMO・IACS・船級協会・旗国の関係
船級制度全体は、次のように整理すると理解しやすくなります。
IMO
IMOは国際条約や国際的な安全基準を整備します。
SOLASやMARPOLなどが代表例です。
旗国政府
船舶が登録されている国の政府です。
国際条約を国内法として実施し、自国籍船を監督します。
IACS
主要な船級協会による国際的な連合組織です。
Unified Requirementsなどを通じて技術要件の共通化を進めています。
IACSは船級協会の上位監督機関ではありません。
船級協会
ClassNK、DNV、ABS、LRなどが該当します。
独自の船級規則を制定し、船舶の図面承認、検査、船級登録、船級維持などを行います。
また、旗国政府からROとして認められ、法定検査を行う場合もあります。
造船所・船主・舶用機器メーカー
実際に船舶を設計、建造、運航したり、舶用機器を製造したりする事業者です。
適用される国際条約、旗国規則、船級規則に従って設計や製造を行います。
まとめ
船級規格とは、より正確には船級規則と呼ばれ、船舶や海洋構造物の安全性や信頼性を技術的に確認するためのルール体系です。
対象は船体構造だけではありません。
材料、溶接、主機、軸系、プロペラ、配管、圧力容器、電気設備、防火設備、復原性、コンピュータシステムなど、船舶全体に及びます。
また、船級は建造時だけの制度ではありません。
設計段階の図面承認から建造中検査、海上試運転、就航後の定期検査まで継続して関係します。
さらに重要なのは、船級規則とIMO条約、旗国法令が別々の制度でありながら、実務上は密接に結び付いている点です。
SOLASでは、対象船舶の構造、機関、電気設備について、旗国政府が認めた船級協会の規則、または同等の国内基準への適合が求められる場合があります。
そのため、実際の船舶設計や舶用機器の採用では、船級規則だけでなく、SOLASやMARPOLなどの国際条約、旗国要求、Class Notation、建造契約日、適用Rule Editionなどを総合的に確認することが重要です。
以上、船級規格についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。









