船舶でWi-Fiを利用するための仕組みは、陸上とは大きく異なります。
海上は地上の携帯基地局の電波が届かないため、特殊な通信インフラが必要です。
以下では、船でWi-Fiが利用できる主な仕組みと技術を、わかりやすく段階的に解説します。
目次
船上Wi-Fiの全体像
船で利用できるWi-Fiとは、船内ネットワークの無線部分(Wi-Fi)と、外部インターネットとの通信回線(衛星・基地局など)の組み合わせで成り立っています。
- Wi-Fi(無線LAN):乗客や乗員がスマートフォンやパソコンで接続
- バックホール回線:インターネットと接続するための大元の通信経路(衛星通信、地上通信など)
Wi-Fiそのものは地上と同じですが、バックホール回線が特殊です。
主な外部接続手段(バックホール)
衛星通信(VSAT:Very Small Aperture Terminal)
特徴
- 最も一般的で安定した手段
- 地球の静止軌道(約36,000km)にある通信衛星と直接通信
- 世界中どこでもカバーできる(大洋の真ん中でも通信可)
仕組み
- 船の上部にパラボラアンテナ(ドームで覆われたもの)があり、常に衛星を追尾して信号を送受信
- 通信速度は数Mbps〜数十Mbps程度(プランや設備次第)
- 天候や波の影響を受けやすく、通信遅延が大きい(500ms以上)
利用例
- クルーズ船、貨物船、研究船など
- 商用:Inmarsat、Iridium、Starlink Maritimeなど
地上の4G/5G基地局との通信(沿岸エリア限定)
特徴
- 沿岸部(おおよそ30km以内)にいる場合は、地上の携帯基地局と通信できる
- 陸上と同じLTE/5Gが使えるので低遅延・高速通信が可能
利用時の注意
- 航路によっては数時間しか電波が届かない場合もある
- 電波の強さは波の状態や船の構造で変化
Starlink(低軌道衛星インターネット)
特徴
- イーロン・マスクのSpaceXが提供する高速・低遅延の衛星インターネット
- 静止衛星よりも遥かに低い軌道(約550km)を多数周回する衛星ネットワーク
- 通信遅延は30〜70msと地上並みのレスポンス
船舶向けプラン(Starlink Maritime)
- 航行中でも使用可(アンテナを2基搭載する設計が一般的)
- 高速(200Mbps超も可)かつ比較的低コスト
船内Wi-Fiの構成
インターネットに接続できる手段が確保されたら、船内にWi-Fi環境を構築します。
構成要素
- Wi-Fiアクセスポイント(AP):複数のエリアに配置
- ルーター・ファイアウォール:船内ネットワークを管理
- トラフィック管理ソフト:帯域制限やユーザー認証を実施
- 中継器やPoEスイッチ:大規模船では必須
特別な配慮点
- 金属構造の多い船内はWi-Fiが届きにくいため、多数のアクセスポイントを適切に配置
- 停電対策や防水設計も必要
商業用途の工夫
クルーズ船やフェリーでは、以下のような工夫がされています。
- 有料プランの設定:1日○○円、動画視聴不可プランなど
- ユーザーごとの帯域制御:混雑防止
- エンタメ専用ネットワーク:映画やニュースを船内サーバーに保存し、ネット無しで視聴可に
課題と今後の展望
課題
- 衛星通信のコストが高い(VSATは月額数十万円〜)
- 混雑時は速度低下、電波の干渉もある
- 動画ストリーミングなどのヘビーユースには不向きな場面も
展望
- Starlinkなどの普及により低コスト・高品質な通信が一般化
- 衛星通信と地上通信のハイブリッド化で、よりシームレスなネット環境へ
まとめ
通信手段 | カバー範囲 | 通信速度 | 遅延 | コスト | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
衛星通信(VSAT) | 世界中 | 中速 | 高 | 高 | 安定性重視 |
地上通信(4G/5G) | 沿岸部 | 高速 | 低 | 低 | 電波圏内のみ |
Starlink Maritime | ほぼ世界中 | 高速 | 低 | 中 | 航行中もOK |
Wi-Fiを「どこでも当然のように使える」時代に見えますが、船の上では高度な技術の組み合わせと設計思想が支えています。
以上、船でwi-fiが利用できる仕組みについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。