日本の船の名前に「丸(まる)」が付く理由は、非常に長い歴史と複数の文化的・宗教的背景に基づいています。
以下に、「なぜ船の名前に『丸』が付くのか」という問いに対して、できるだけ詳しく、そして丁寧に説明していきます。
「丸」の語源と意味
まずは「丸」という言葉の意味と使い方から紐解いてみましょう。
安全・無事の象徴
「丸」という漢字は、「円満」や「完全な形」を連想させることから、「無事に一周(航海)を終える」や「災いなく戻ってくる」といった意味合いが込められるようになりました。
日本の古来の考え方では「丸いもの=縁起が良い」「物事がうまく収まる」とされ、これは茶碗や鏡などの形にも共通します。
船も航海という危険な旅に出るため、「丸」と名づけることで、旅の無事と安全を願ったのです。
船を人格化した表現
日本では古くから船を単なる道具ではなく、「生き物」や「家族」として扱う文化があります。
船に対して「~丸」と名付けることは、人間の名前に「~さん」や「~ちゃん」と敬称をつけるのに似た行為で、「大切な存在」「守るべき存在」としての思いがこめられているとも考えられます。
歴史的背景
中世〜江戸時代の使用
「丸」が本格的に船名に使われ出したのは、鎌倉時代末期〜南北朝時代と言われています。
ただし、普及するのは江戸時代以降です。
この頃になると、商船や漁船などにも広く名前がつけられるようになり、その多くに「丸」が使われるようになりました。
有名な例としては、「日本丸」「宝船丸」「咸臨丸(かんりんまる)」などがあります。
徳川家康の影響説
一説には、徳川家康が所有していた軍船に「安宅丸(あたけまる)」という名前がつけられていたことから、以降「丸」を付ける習慣が武士や商人階級に広がったとも言われています。
この「安宅丸」は、軍船でありながらも縁起を担いで「丸」が使われていたことから、他の船にも波及した可能性が高いです。
宗教・信仰との関係
神道的な発想
神道の考え方では、自然界のあらゆるものに「魂」が宿るとされます。
船も例外ではなく、「船霊(ふなだま)」と呼ばれる守り神が宿ると信じられていました。
「丸」という名前には、その船霊を敬い、無事を祈る意味も含まれていたのです。
仏教的な「円満」思想
仏教にも「円満成就」という考え方があります。
これは物事が滞りなく完成することを意味し、「丸」という字が象徴する完全な形=仏教的な理想形とも重なるため、縁起の良い言葉として取り入れられたと考えられます。
例外的な使い方や現代の傾向
軍艦には「丸」が付かない
戦前の日本海軍の軍艦には「丸」がつけられていません。
これは、軍艦は国家の象徴であり、神聖な存在とされたため、商船のような「民間の縁起担ぎ」は不要とされたからです。
現代では使わないケースも増加
最近では、「~丸」と名付ける風習は一部の漁船や観光船などに残る程度で、新しい船、特にプレジャーボートや外洋の貨物船などでは英語名や数字を使うことも一般的になっています。
しかし、船名に「丸」をつけることには根強い人気があり、日本独自の文化として存続しています。
船以外でも使われる「~丸」の表現
実は「~丸」という表現は、船以外でも用いられてきました。
たとえば
- 刀の名前(例:鬼切丸)
- 城の名称(例:本丸、二の丸、三の丸)
- 歌舞伎役者の名跡
- 相撲の力士名(例:若乃花丸)
これらもすべて「完全なもの」「力強いもの」「守られた場所」といった意味をこめて「丸」が使われています。
船名における「丸」も同様に、敬意と縁起を担いだ表現なのです。
まとめ
日本の船に「丸」という名前が付く理由を総合的にまとめると、以下のようになります。
- 航海の安全を祈願する「縁起担ぎ」
- 「完全・円満」の象徴としての「丸」
- 船を人格的に扱う文化的背景
- 中世・江戸期からの慣習と歴史的な流れ
- 宗教的・精神的な意味合い(神道・仏教)
このように、「丸」という文字は、単なる言葉以上に、日本人の精神性や生活文化、そして自然との向き合い方を象徴する表現であることがわかります。
以上、船に丸という名前が付く理由についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。