潜水艦と閉所恐怖症の関係について

潜水艦は、閉所恐怖症や閉鎖空間への強い不安がある人にとって、負担になりやすい特殊な環境です。

ただし、「潜水艦に乗ると閉所恐怖症になる」「狭い場所が少し苦手なだけで潜水艦勤務はできない」と考えるのは正確ではありません。

閉所恐怖症とは、閉鎖された空間に対して強い恐怖や不安を感じる状態です。

単に「狭い場所が好きではない」という程度とは異なり、症状が強い場合には、動悸や発汗、息苦しさ、めまい、震えなどの身体症状が現れることもあります。

潜水艦では、長時間にわたって閉鎖された船内で生活し、自分の意思ですぐに外へ出ることができません。

そのため、もともと閉鎖空間への強い不安がある場合には、潜水艦勤務との相性が問題になる可能性があります。

目次

なぜ潜水艦では閉所恐怖症が問題になりやすいのか

潜航中は自由に外へ出ることができない

潜水艦と一般的な建物や乗り物との大きな違いは、潜航中に自分の意思で外へ出られないことです。

例えば、エレベーターであれば短時間で扉が開き、電車であれば次の駅で降りることができます。

しかし、潜航中の潜水艦では、乗員個人が「外へ出たい」と思っても船外へ出ることはできません。

閉所恐怖症は基本的に閉鎖された空間そのものへの恐怖ですが、潜水艦では「すぐ外へ出られない」という状況も加わるため、閉鎖感や不安を強く意識する人がいると考えられます。

長期間にわたって閉鎖空間で生活する

潜水艦では、閉鎖空間に数分や数十分いるだけではなく、任務によっては長期間にわたって船内生活が続きます。

米海軍の潜水艦勤務に関する医学基準でも、潜水艦勤務の特徴として、長期間にわたる閉鎖空間での生活や心理的ストレスなどが挙げられています。

そのため、一時的には狭い場所に耐えられる人でも、長期間にわたる閉鎖環境への適応力が重要になります。

外を見ることができない

現代の軍用潜水艦では、通常の居住区画や勤務区画から、旅客船のように窓越しに外を見ることはできません。

地上や水上の乗り物であれば、窓から外を見ることで開放感を得られる場合があります。

しかし、潜水艦ではそのような方法で気分を変えることが難しくなります。

周囲には隔壁や配管、機器、制御装置などが配置されているため、人によっては閉鎖された環境を強く意識しやすくなります。

船内には狭い場所が多い

潜水艦には、推進装置や電力設備、ソナー、武器システム、空調設備、居住設備、食料、予備品など、多くの設備や物資を限られた船内容積に収める必要があります。

そのため、艦内には幅の限られた通路や機器が密集した区画などがあります。

潜水艦そのものが大型であっても、乗員が日常的に利用するすべての場所が広々としているわけではありません。

閉所恐怖症になるとどのような症状が現れるのか

強い恐怖や不安を感じることがある

閉所恐怖症では、閉鎖空間に入ったときに強い恐怖や不安を感じることがあります。

例えば、「この場所から出たい」「閉じ込められるのではないか」といった考えが強くなり、落ち着いていられなくなる場合があります。

本人が頭では安全だと理解していても、恐怖反応を完全に抑えることが難しいケースもあります。

動悸や息苦しさなどの身体症状が出ることもある

閉所恐怖症による不安が強くなると、心理的な恐怖だけでなく身体的な反応が現れる場合があります。

代表的な症状としては、次のようなものがあります。

動悸、発汗、呼吸が速くなる、息苦しさ、震え、めまい、吐き気、胸部の不快感などです。

症状が強い場合には、パニック発作に近い状態になることもあります。

特定の場所を避けるようになる場合がある

閉所恐怖症では、恐怖を感じる場所そのものを避けるようになることがあります。

一般生活であれば、エレベーターを使わず階段を利用するといった回避行動が可能です。

しかし、潜水艦では勤務する区画や移動経路を自由に避けられるとは限りません。

そのため、特定の区画に入れないほど強い症状がある場合には、任務遂行に影響する可能性があります。

潜水艦勤務ではなぜ心理的な適性が重要なのか

集中力や判断力が求められる

潜水艦乗員には、閉鎖環境の中でも担当する任務を正確に遂行する能力が求められます。

強い不安によって集中力が低下したり、判断が遅れたりすると、本人だけではなく艦全体の安全に影響する可能性があります。

そのため、潜水艦勤務では身体的な健康だけでなく、心理的な安定性も重要視されます。

緊急時にも行動しなければならない

潜水艦では、通常勤務だけでなく緊急事態に対応できることも重要です。

事故や故障などが発生した場合には、決められた区画へ移動したり、狭い通路やハッチを通過したりしなければならないことがあります。

閉所への強い恐怖によって必要な場所へ移動できない場合、緊急対応に支障をきたす可能性があります。

そのため、「普段は狭い場所を我慢できる」というだけでなく、緊張状態でも必要な行動を取れるかどうかが重要になります。

潜水艦乗員は閉所恐怖症について確認されるのか

米海軍では閉鎖空間への不安が確認されている

公開されている米海軍の医学基準では、潜水艦勤務候補者などの医学検査において、精神状態や心理的な要素を確認することが定められています。

さらに、「狭い、または閉鎖された空間」に関連する不安があるかどうかを確認することも明記されています。

つまり、潜水艦に配属されてから問題が起きるかどうかを見るだけではなく、勤務前の段階から閉鎖環境への適応が評価されていることになります。

不安障害は医学的適性の判断材料になる

米海軍の潜水艦勤務基準では、現在または過去の一定の不安障害などが医学的な適性判断の対象になります。

ただし、「閉所恐怖症があれば必ず永久に潜水艦勤務ができない」という単純な制度ではありません。

状態が安定しているか、症状が残っているか、治療状況はどうかといった条件によって、個別に判断される場合があります。

米海軍では一定条件のもとでwaiverと呼ばれる例外的な適格認定が検討される仕組みもあります。

したがって、「閉所恐怖症=一律不適格」と考えるのは正確ではありません。

潜水艦の心理テストで閉所恐怖症を調べるのか

閉所恐怖症専用の検査だけが行われるわけではない

潜水艦乗員の適性評価では、単純に「閉所恐怖症かどうか」だけを調べているわけではありません。

潜水艦という特殊な環境に長期間適応し、安定して任務を遂行できるかどうかを総合的に評価することが重要になります。

例えば、米海軍ではSUBFITと呼ばれる評価も導入されています。

SUBFITは、潜水艦環境での適応や成功に関連すると考えられる性格特性、行動、態度などを評価する非臨床的な仕組みです。

ただし、SUBFITは閉所恐怖症を診断するためだけの医学検査ではありません。

「潜水艦乗員は閉所恐怖症専用の心理テストを受ける」と単純化するのは避けたほうがよいでしょう。

大型の潜水艦なら閉所恐怖症でも問題ないのか

艦が大きくても閉鎖環境であることは変わらない

現代の軍用潜水艦には非常に大型の艦も存在します。

そのため、「潜水艦の中はどこでも身体を縮めなければならないほど狭い」と考えるのは正確ではありません。

一方で、艦が大型になったからといって、閉所恐怖症の人が必ず平気になるとも限りません。

潜水艦の心理的な特徴は、単純な室内の広さだけで決まるものではないからです。

外へ出られないことや長期滞在も重要

潜水艦の閉鎖感には、船内の広さ以外にもさまざまな要素があります。

例えば、外を見ることができないこと、潜航中に自由に船外へ出られないこと、長期間同じ環境で過ごすことなどです。

そのため、「大型潜水艦だから閉所恐怖症でも問題ない」と一概に判断することはできません。

ただし、艦の大きさと閉所恐怖症の発症率との関係が明確に証明されているわけではないため、その点は分けて考える必要があります。

潜水艦に乗ることで閉所恐怖症になるのか

潜水艦が閉所恐怖症を必ず引き起こすわけではない

潜水艦勤務と閉所恐怖症の関係を考える際に注意したいのが、因果関係です。

「潜水艦に乗ると閉所恐怖症になる」と断定できるわけではありません。

潜水艦勤務では閉鎖空間で長期間生活することになりますが、それだけで誰もが閉所恐怖症を発症するとはいえません。

実際には、多くの潜水艦乗員が閉鎖環境に適応しながら任務を行っています。

もともとの不安が表面化する可能性はある

一方で、それまで日常生活では問題にならなかった閉鎖空間への不安が、潜水艦のような特殊環境で強く意識される可能性はあります。

例えば、エレベーターや飛行機では平気でも、「水中にいる」「自分では外へ出られない」「その状態が長く続く」といった条件が重なることで不安が強くなる人も考えられます。

ただし、これを「潜水艦が閉所恐怖症を発症させる」と表現するのは適切ではありません。

「閉鎖環境への強い不安が潜水艦勤務で問題になることがある」と理解するほうが正確です。

潜水艦で閉所恐怖症の症状が出たらどうなるのか

乗員の意思だけで外へ出ることはできない

潜航中の潜水艦では、乗員が不安を感じたからといって、自分の判断だけで船外へ出ることはできません。

医学的な問題が起きた場合の対応は、症状の程度や潜水艦の位置、任務、艦の状態などによって異なります。

そのため、潜水艦勤務では「症状が出たらその場から離れればよい」という一般的な対処が難しい場合があります。

この点も、勤務前に心理的・医学的適性を確認する理由の一つです。

必ずしもすぐに浮上するとは限らない

閉所恐怖症やパニック症状が発生した場合でも、必ず即座に浮上するというわけではありません。

潜水艦の運用判断は艦全体の状況によって決められるためです。

一方で、重い医学的問題が発生すれば、可能な範囲で必要な医療対応が検討されます。

したがって、「閉所恐怖症になったらすぐ浮上する」「どのような症状でも任務を続けなければならない」といった単純な説明はいずれも正確ではありません。

閉所恐怖症は治療できるのか

認知行動療法が用いられる

閉所恐怖症には治療法があります。

代表的な方法の一つが、認知行動療法、いわゆるCBTです。

認知行動療法では、恐怖を強める考え方や行動パターンを整理し、不安に対してより適切に対応できるようにしていきます。

曝露療法が行われることもある

閉所恐怖症では、曝露療法が行われる場合もあります。

曝露療法とは、恐怖を感じる状況に段階的に接することで、不安を軽減していく治療方法です。

具体的な進め方は症状や本人の状態によって異なります。

そのため、「広い部屋から狭い部屋、次にエレベーター」というような決まった順番ですべての人が治療されるわけではありません。

専門家の判断のもとで、その人に適した方法が選択されます。

閉所恐怖症を治療すれば潜水艦乗員になれるのか

治療と職務適性は別の問題

閉所恐怖症の治療によって症状が改善したとしても、それだけで潜水艦勤務が自動的に認められるわけではありません。

軍隊にはそれぞれ独自の医学的・職務上の適性基準があります。

そのため、治療後に潜水艦勤務が可能かどうかは、症状の状態や治療歴、再発の可能性、任務への影響などを含めて判断されます。

国や組織によって基準は異なる

米海軍の医学基準は公開されていますが、すべての国の潜水艦部隊が同一の基準を使用しているわけではありません。

各国の海軍や組織によって選抜方法、医学的基準、心理評価の方法は異なります。

したがって、米海軍の基準をそのまま日本を含むすべての潜水艦部隊に当てはめることはできません。

潜水艦と閉所恐怖症の関係で重要なのは「狭さ」だけではない

閉鎖性や長期性が大きく関係する

潜水艦と閉所恐怖症の関係を考えるうえで最も重要なのは、単純に「船内が狭い」という点だけではありません。

潜水艦には、外界から隔離されていること、自分の意思ですぐ外へ出られないこと、閉鎖された環境が長期間続くことなどの特徴があります。

さらに、その状況でも高い集中力を維持し、担当する任務を確実に遂行しなければなりません。

こうした複数の条件が重なることが、一般的な狭い部屋と潜水艦との大きな違いです。

閉所恐怖症と「狭い場所が苦手」は同じではない

潜水艦勤務について考える場合、「狭いところがあまり好きではない」という感覚と、医学的な閉所恐怖症を混同しないことも重要です。

狭い場所に多少の不快感を覚えても、日常生活や仕事に支障がない人は多くいます。

一方で、閉鎖空間に入ることで強い恐怖や身体症状が現れ、正常な行動が難しくなる場合には、潜水艦勤務への適性が問題になる可能性があります。

まとめ

潜水艦は閉鎖された空間で長期間生活する必要があるため、閉所恐怖症や閉鎖空間への強い不安がある人にとって負担の大きい環境になる可能性があります。

しかし、潜水艦に乗ることで誰もが閉所恐怖症になるわけではなく、「狭い場所が少し苦手」というだけで潜水艦勤務が不可能になるわけでもありません。

重要なのは、閉鎖環境の中でも心理的な安定を保ち、必要な判断や任務を継続できるかどうかです。

実際、米海軍の潜水艦勤務に関する医学基準では、候補者などに対して狭い・閉鎖された空間への不安を確認することが明記されています。

また、不安障害などは医学的な適性判断の対象となりますが、症状や治療状況などによって個別に判断されるため、「閉所恐怖症なら一律に潜水艦勤務ができない」と断定するのは正確ではありません。

潜水艦と閉所恐怖症の関係は、単純な「狭さ」の問題ではなく、閉鎖性、長期滞在、離脱の難しさ、任務上の責任などを含めて考える必要があります。

以上、潜水艦と閉所恐怖症の関係についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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