潜水艦で働く料理人は、単に食事を作るだけの存在ではありません。
長期間にわたって外界から隔離される潜水艦では、食事は乗員の健康を維持するだけでなく、士気や生活リズムを支える重要な役割を果たします。
そのため、潜水艦の料理担当者には、調理技術だけでなく、食材管理や衛生管理、限られた設備を使いこなす能力など、幅広い技能が求められます。
日本の海上自衛隊では、主として調理や糧食管理を担当する隊員を「給養員」などと呼びます。
海外の海軍でも同様の専門職が存在しており、例えば米海軍の潜水艦には「Culinary Specialist Submarines」と呼ばれる料理担当者が配置されています。
ここでは、潜水艦で働く料理人の仕事内容や食事事情、勤務環境、求められる能力などについて詳しく解説します。
潜水艦で働く料理人とは
潜水艦の料理人は、艦内で生活する乗員に食事を提供する給養担当者です。
軍用潜水艦は任務によって長期間にわたり海上や水中で活動するため、その間に必要となる食事を艦内で継続的に準備しなければなりません。
ただし、仕事は料理だけではありません。
食材の在庫管理や保管、厨房の衛生管理、調理器具の管理なども重要な業務です。
また、潜水艦の料理担当者も艦の乗員の一人であるため、非常時には潜水艦乗員として必要な行動を取ることが求められます。
海上自衛隊では給養員が食事を支える
海上自衛隊では、隊員の食事調理や糧食管理などを担う職域があります。
潜水艦でも同様に、乗員が必要な栄養を摂取できるよう食事を準備します。
給養の目的は単に空腹を満たすことではなく、乗員の体力を維持し、任務を遂行するための基盤を作ることにあります。
そのため、潜水艦の料理担当者は艦の運用を間接的に支える重要な存在といえます。
潜水艦で料理人が重要な理由
潜水艦では、食事が一般的な職場以上に重要な意味を持ちます。
その理由の一つが、潜水艦特有の閉鎖された生活環境です。
食事が乗員の士気を支える
潜水艦では、任務期間中に自由に外出することはできません。
外の景色を見る機会も限られており、同じ乗員が長期間にわたって限られた空間で共同生活を続けます。
このような環境では、食事が日々の大きな楽しみの一つになります。
おいしい料理やデザート、特別な日のメニューなどは、乗員の気分転換につながります。
そのため、海軍では食事が士気に関係する重要な要素として考えられています。
乗員の健康と体力維持につながる
潜水艦の乗員は、航海や機関、ソナー、通信などさまざまな担当に分かれ、24時間体制で艦を運用します。
安定して任務を続けるためには、必要なエネルギーや栄養を食事から摂取しなければなりません。
料理担当者は、海軍や組織が定めた栄養基準や献立計画などに基づき、乗員へ食事を提供します。
つまり、潜水艦の料理人は乗員の健康を食事面から支えているのです。
潜水艦の料理人の主な仕事内容
潜水艦の料理人には、調理以外にもさまざまな仕事があります。
乗員の食事を調理する
最も基本的な仕事は、乗員に提供する食事を作ることです。
朝食、昼食、夕食などを中心に、その艦の勤務体系や運用状況に合わせて料理を準備します。
潜水艦は24時間活動するため、乗員は交代しながら勤務します。
そのため、通常の食事時間だけでなく、勤務サイクルを考慮した食事や軽食などが準備される場合もあります。
ただし、具体的な食事回数や提供方法は国、海軍、艦艇、任務によって異なります。
パンやデザートを作ることもある
潜水艦の料理担当者には、通常の料理だけでなく製パンや製菓の技能が求められる場合があります。
実際に海外の潜水艦料理担当者には、調理とともにベーキング技術が教育されるケースがあります。
長期航海では、艦内でパンやケーキ、焼き菓子などを作ることもあります。
特にデザートは、閉鎖環境で生活する乗員にとって楽しみの一つになります。
食材の在庫を管理する
潜水艦では、航海途中に自由に食材を買い足すことはできません。
そのため、出港前に必要な量の食料を搭載し、任務期間中に計画的に使用する必要があります。
料理担当者は、どの食材がどれだけ残っているかを確認しながら献立や使用量を調整します。
航海前半で特定の食材を使いすぎれば、後半の献立に影響する可能性があります。
料理の腕だけでなく、在庫管理能力も潜水艦料理人には重要です。
潜水艦にはどのような食材が積まれるのか
潜水艦には、保存期間の異なるさまざまな食材が搭載されます。
艦や海軍によって内容は異なりますが、一般的には次のような食品が使用されます。
- 米
- パスタ
- 小麦粉
- 肉類
- 魚類
- 野菜
- 果物
- 冷凍食品
- 缶詰
- 乾燥食品
- 調味料
- 菓子類
航海の初期には比較的傷みやすい生鮮食品を使用し、任務が長期化するにつれて冷凍食品や乾燥食品、缶詰など保存性の高い食品の比重が高くなることがあります。
ただし、実際の食料構成や使用順序は、冷蔵・冷凍設備や航海期間、補給計画によって異なります。
限られたスペースに食料を積み込む
潜水艦では艦内スペースが非常に限られています。
機関、電子機器、兵装、乗員の居住スペースなどを配置したうえで、長期間分の食料も積まなければなりません。
そのため、食料は利用できる収納スペースを最大限活用して計画的に搭載されます。
どの食材をどれだけ積むかだけでなく、どこに保管するかまで含めて補給計画の一部となります。
潜水艦の厨房はどのようになっているのか
艦艇の厨房は英語で「galley(ギャレー)」と呼ばれます。
潜水艦にも厨房が設けられていますが、艦内の容積には限りがあるため、効率的に調理できるよう設備がコンパクトにまとめられています。
狭いスペースで効率的に調理する
潜水艦の厨房には、調理設備、シンク、冷蔵・冷凍設備、収納設備などが設置されています。
料理担当者は限られたスペースの中で複数の料理を同時に準備する必要があります。
そのため、調理技術だけでなく、作業の順序を考える段取りの良さも重要になります。
艦の動きを考えて調理する必要がある
潜航中の潜水艦は比較的安定して航行する場合もありますが、海況や艦の運動によって揺れたり傾いたりすることがあります。
そのため、調理器具や食器が落下しないよう安全面にも配慮しなければなりません。
陸上の厨房とは異なる環境で調理するため、潜水艦ならではの経験や慣れも必要です。
潜水艦では火災対策が非常に重要
潜水艦にとって火災は重大な危険の一つです。
艦内は閉鎖された環境であるため、火災が発生すると炎そのものだけでなく、煙や有害ガスも大きな問題になります。
厨房では加熱調理を行うため、特に火災予防が重要です。
厨房にも安全設備が備えられている
現代の軍艦では、厨房にも火災に備えた各種安全設備や消火設備が設けられています。
料理担当者も安全規則に従って作業し、火災が発生した場合に適切に対応できるよう訓練を受けます。
潜水艦では火災への初期対応が艦全体の安全に直結するため、厨房の安全管理も重要な仕事の一つです。
料理人も潜水艦乗員として訓練を受ける
潜水艦の料理人は、料理だけを行う民間の調理スタッフではありません。
軍用潜水艦の場合、基本的には海軍や海上自衛隊に所属する乗員の一人です。
そのため、潜水艦内で必要となる基本的な知識や非常時対応についても教育を受けます。
非常時には艦の安全確保に参加する
国や海軍、艦艇によって具体的な担当は異なりますが、潜水艦乗員には一般的に次のような安全知識や技能が求められます。
- 艦内構造の理解
- 火災への対応
- 浸水時の対応
- 非常時の行動手順
- 救命設備の使用
- 艦内安全規則の理解
事故や火災などが発生した場合、料理担当者も自分に割り当てられた非常配置に従って行動します。
つまり、平常時の専門職が料理であっても、非常時には潜水艦乗員として艦の安全確保に関わります。
潜水艦では衛生管理も重要
多数の乗員が閉鎖された空間で共同生活する潜水艦では、食品衛生が非常に重要です。
食中毒などによって多くの乗員が同時に体調を崩せば、艦の任務遂行能力にも影響を及ぼす可能性があります。
食材や厨房を適切に管理する
料理担当者は、食材を安全に提供するためにさまざまな点を管理します。
例えば、食材の温度管理、十分な加熱、調理器具の洗浄、手洗い、厨房の清掃などです。
限られた艦内で毎日大量の食事を準備するからこそ、衛生管理を継続することが重要になります。
潜水艦の料理担当者は、料理人であると同時に食品衛生を支える存在でもあります。
潜水艦ではゴミの管理も必要
料理をすると、生ごみや包装材、缶、容器などの廃棄物が発生します。
潜水艦では廃棄物を自由に処分できるわけではないため、艦の規則や運用方針に従って管理します。
具体的な処理方法は、国、艦艇、任務、廃棄物の種類などによって異なります。
そのため料理担当者にも、無駄を減らしながら効率的に食材を利用する意識が求められます。
潜水艦の食事にはさまざまなメニューがある
潜水艦だからといって、保存食だけを食べ続けているわけではありません。
限られた食材や設備の中でも、可能な限り変化のある献立が提供されます。
同じ食材でも調理方法を変える
長期間同じような料理が続けば、乗員が飽きてしまいます。
そこで料理担当者は、同じ食材でも調理方法や味付けを変えるなどの工夫を行います。
例えば肉料理でも、焼く、煮る、炒める、ソースを変えるなどによって違った料理として提供できます。
米やパン、パスタなどの主食を組み合わせることでも、献立に変化をつけられます。
海上自衛隊では和洋中さまざまな料理が提供される
日本の潜水艦では、米飯を含む和食だけでなく、洋食や中華料理など幅広い献立が提供されます。
海上自衛隊では艦艇や部隊ごとの特色を生かした料理もあり、公式にさまざまな「艦めし」が紹介されています。
カレーも海上自衛隊を代表する料理として知られていますが、それだけを食べているわけではありません。
乗員が飽きずに食事を楽しめるよう、多彩な献立が考えられています。
食事は潜水艦内の生活リズムにも関係する
潜水艦では太陽の光を見る機会が少なく、陸上のように昼夜を自然に感じることが難しい環境です。
一方で、艦は24時間休むことなく運用されるため、乗員は交代制で勤務します。
このような生活では、勤務交代や食事の時間が一日の重要な区切りになります。
「次の食事まで勤務する」「食事後に休息する」といった形で、食事が艦内生活のリズムを作る要素の一つになるのです。
原子力潜水艦でも食料には限りがある
原子力潜水艦は原子炉を動力源としているため、燃料の補給を頻繁に行わずに長期間活動できます。
しかし、原子力潜水艦だからといって無制限に潜航できるわけではありません。
長期航海では食料が重要な制約になる
原子力潜水艦では、水や空気を艦内で処理・生成する設備を備えているものがあります。
一方で、乗員が食べる食料そのものを艦内で大量に生産することはできません。
そのため、長期航海では搭載できる食料の量が重要な制約の一つになります。
どれだけ長期間活動できる潜水艦であっても、乗員が生活する以上は食料が必要です。
ここでも、料理担当者による計画的な食材管理が重要になります。
潜水艦の料理人に求められる能力
潜水艦の料理担当者には、一般的な調理技術以外にもさまざまな能力が必要です。
調理技術
乗員に毎日食事を提供するため、安定した調理技術が求められます。
大量調理や限られた材料を利用した献立にも対応しなければなりません。
食材管理能力
長期航海では、食料を計画的に消費する必要があります。
残量を把握しながら適切に使用する在庫管理能力が重要です。
段取りの良さ
厨房のスペースが限られているため、効率的に作業する必要があります。
複数の料理を同時に準備するには、事前の計画と段取りが欠かせません。
柔軟な対応力
潜水艦では任務の状況によって食事時間や予定が変わる可能性があります。
使用予定だった食材を別の料理に変更したり、状況に合わせて献立を調整したりする柔軟性も求められます。
閉鎖環境への適応力
料理担当者も他の乗員と同じ潜水艦内で生活します。
限られたプライバシーや狭い居住空間、長期間外へ出られない生活に適応する必要があります。
料理の技術だけでなく、潜水艦乗員として生活できる精神的・身体的な適性も重要です。
潜水艦の料理人は乗員の士気と健康を支える存在
潜水艦には、艦長、航海担当者、機関員、ソナー員、通信担当者など、多くの専門職が乗り組んでいます。
料理担当者は直接潜水艦を操縦したり、ソナーを操作したりする職種ではありません。
しかし、乗員が健康な状態で任務を続けるためには、毎日の食事が欠かせません。
さらに、外界から隔離された潜水艦では、おいしい食事そのものが乗員にとって大きな楽しみになります。
そのため潜水艦の料理人は、単なる「食事を作る人」ではなく、栄養、衛生、食材管理、生活リズム、そして乗員の士気を食事によって支える重要な専門職といえるでしょう。
以上、潜水艦で働く料理人についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















