潜水艦はなぜ現在のような形をしているのか

現在の潜水艦は、丸みを帯びた船首、細長い胴体、後方に向かって滑らかに細くなる船尾という特徴的な形をしています。

一見するとクジラやイルカ、あるいは葉巻のようにも見えます。

この形は単に見た目を整えるためのものではありません。

潜水艦には、水中を効率よく航行すること、深い水圧に耐えること、できるだけ騒音を出さないこと、安定して操縦すること、さらに乗員や機関、兵器、センサーなどを内部に収容することが求められます。

現在の潜水艦の形は、こうした複数の条件を両立させた結果として生まれたものです。

特に大きなポイントは、昔の潜水艦が「水上を航行し、必要なときに潜る船」に近かったのに対し、現代の潜水艦では「水中を航行すること」を中心に設計されていることです。

目次

現代の潜水艦は水中航行に適した流線形になっている

現代の潜水艦は、全体として滑らかな流線形をしています。

一般には「涙滴型」や「ティアドロップ型」に近い形と説明されることがあります。

ただし、すべての現代潜水艦が理想的な涙滴そのものの形をしているわけではありません。

実際の大型潜水艦では、内部に大量の設備や兵器を搭載する必要があるため、かなり細長い船体になります。

そのため、「涙滴型の考え方を取り入れた流線形」と理解するとより正確です。

水の抵抗を小さくするため

潜水艦が水中を進むと、船体は周囲の水を押しのけながら移動します。

その際、船体には大きな流体抵抗が発生します。

水は空気よりも密度が高いため、水中を高速で航行する潜水艦では船体形状が性能に大きな影響を与えます。

船体に急激な段差や角があると、水の流れが船体表面から剥がれやすくなります。

すると後方に乱流や渦が発生し、抵抗や振動、騒音が増加します。

そこで現代の潜水艦では、

「丸みのある船首から中央部へ滑らかにつながり、船尾に向かって徐々に細くなる形」

が採用されています。

こうすることで船体周囲の水をできるだけ滑らかに流し、抵抗を抑えることができます。

抵抗が小さくなれば、一定の速度を維持するために必要な推進出力も小さくできます。

その結果、エネルギー効率や航続性能の向上にもつながります。

潜水艦の船首が尖っていない理由

水上艦を見ると、船首が鋭く尖っているものが多く見られます。

一方、現代の潜水艦では船首が比較的丸くなっています。

一見すると、速く進むのであれば船首を尖らせた方がよいようにも思えます。

しかし、水上艦と潜水艦では航行する環境が異なります。

水上艦と潜水艦では重要な抵抗が違う

水上艦は水と空気の境界である水面を航行します。

そのため、船が進むことで波が発生し、造波抵抗が生じます。

水上艦では、水面を効率よく切り開くために細長い船首形状が採用されることがあります。

一方、十分な深度を潜航している潜水艦は船体全体が水に包まれています。

そのため、水面に波を作ることよりも、船体周囲の水流をできるだけ滑らかにすることが重要になります。

したがって、潜水艦では単純に先端を鋭くするのではなく、船体全体の流れを考えた丸みのある船首が採用されています。

船首にはソナーも関係する

潜水艦の船首形状は流体力学だけで決まるわけではありません。

多くの潜水艦では、船首付近に大型のソナー装置が配置されます。

ソナーは周囲の音を受信したり、自ら音波を発して目標を探知したりする重要な装置です。

そのため船首には、ソナーを収容するための空間や、音響性能を損なわない構造も求められます。

つまり現代潜水艦の船首は、

「水中抵抗を減らすこと」
「ソナーを効率よく搭載すること」
「内部構造を成立させること」

などを総合的に考えて設計されています。

船尾が徐々に細くなっている理由

潜水艦の船尾を見ると、太い胴体が突然終わるのではなく、後方に向かって少しずつ細くなっています。

これも水中での流れを整えるためです。

水流の剥離や渦を抑えるため

太い船体の後ろが急激に細くなったり、突然切れたりすると、水流が船体表面から大きく剥離します。

すると船尾付近に大きな渦が発生し、抵抗や騒音が増加します。

そこで船尾を滑らかに絞ることで、船体に沿って流れてきた水を後方へできるだけ穏やかに導きます。

これは推進効率だけでなく、静粛性にも重要です。

潜水艦では敵から発見されにくくするため、余計な水流音を発生させないことが非常に重要だからです。

潜水艦の内部が円筒形を基本としている理由

潜水艦の外観を決めるもう一つの重要な条件が、水圧です。

潜水艦が深く潜るほど、船体には周囲の海水から大きな圧力が加わります。

乗員や機器を守るためには、この圧力に耐えられる非常に頑丈な構造が必要です。

耐圧殻は円形断面が有利

潜水艦の乗員区画などを水圧から守る主要な構造は「耐圧殻」と呼ばれます。

耐圧殻には、円形断面を基本とした円筒形が広く利用されています。

円形断面は、四角形のように大きな平面や角を持つ構造に比べて、周囲から加わる外圧に対して構造的に有利です。

潜水艦では特に「座屈」と呼ばれる変形に耐えることが重要になります。

外から大きな圧力を受ける円筒は、一定の限界を超えると急激に変形する可能性があります。

そのため耐圧殻には、厚い外板だけでなく、フレームや補強材などが組み合わされています。

球形は圧力に強いが大型潜水艦には向きにくい

外圧に対する構造だけを考えると、球形は非常に有利です。

実際、深海探査艇などでは球形の耐圧殻が利用されることがあります。

しかし大型潜水艦全体を一つの巨大な球にすると、内部に機関や兵器、居住区などを効率よく配置することが難しくなります。

また、水中を前進する際の形としても適しているとは限りません。

そのため大型潜水艦では、

「外圧に耐えやすい円筒形の耐圧殻」

と、

「水中抵抗を抑える流線形の外観」

を組み合わせた設計が合理的になります。

潜水艦の外側と耐圧殻は同じ形とは限らない

潜水艦を見ると、外側の船体全体がそのまま水圧に耐えているように見えるかもしれません。

しかし実際には、外観を形成する部分と、水圧に耐える耐圧殻を分けて考える必要があります。

外側は流体性能、内側は強度を重視する

潜水艦の設計によっては、頑丈な耐圧殻の外側に、流線形を作るための構造やバラストタンクなどが配置されます。

これによって、

「内部では水圧への強さを優先する」

一方で、

「外側では水中抵抗や騒音の低減を優先する」

という設計が可能になります。

ただし、潜水艦には単殻式、複殻式、部分複殻式などさまざまな構造があります。

したがって、すべての潜水艦が完全な二重構造になっているわけではありません。

昔の潜水艦は現在とはかなり違う形をしていた

現在の潜水艦が流線形になった背景を理解するには、昔の潜水艦を見ると分かりやすくなります。

初期から第二次世界大戦頃までの潜水艦には、現在よりも水上艦に近い形をしたものが多くありました。

昔は水上航行が非常に重要だった

従来のディーゼル・エレクトリック潜水艦では、ディーゼルエンジンを動かすために空気が必要でした。

そのため水上航行中にディーゼルエンジンを使い、同時に蓄電池を充電します。

潜航すると、蓄電池の電力を使って電動機を動かします。

当時の蓄電池では水中を長時間高速航行することが難しかったため、多くの潜水艦は水上航行を重要な前提として設計されていました。

そのため、

  • 水上航行に適した船首
  • 平らな上部甲板
  • 比較的大きな艦橋構造
  • 水上で安定しやすい船体

などが採用されました。

つまり昔の潜水艦は、現在の潜水艦と比べると「潜る能力を持った水上艦」に近い性格を持っていたのです。

シュノーケルの登場でも水中行動能力が向上した

第二次世界大戦末期になると、シュノーケルを利用して潜航状態に近いままディーゼルエンジンを運転できる潜水艦も登場しました。

さらに戦後には蓄電池や推進技術も進歩し、潜水艦は徐々に水中航行を重視する方向へ変化していきました。

USS Albacoreが現代潜水艦の形に大きな影響を与えた

現在の潜水艦の船体形状を語るうえで特に重要なのが、アメリカ海軍の実験潜水艦USS Albacoreです。

USS Albacoreは1950年代に建造され、水上航行性能よりも水中での高速性能を重視して設計されました。

水上性能より水中性能を優先した

それ以前の潜水艦は、水上航行と水中航行の両方を考慮する必要がありました。

USS Albacoreでは、その考え方を大きく変え、水中で高速かつ効率よく航行することを優先しました。

そのため、非常に滑らかな流線形の船体が採用されました。

USS Albacore自体は実戦用の攻撃潜水艦というより、船体形状や操縦方式などを研究するための実験艦でした。

そこで得られた知見は、その後の潜水艦設計に大きな影響を与えています。

原子力推進の登場も現代潜水艦の形を後押しした

現代の潜水艦が水中性能を最優先するようになったもう一つの大きな要因が、原子力推進の実用化です。

原子炉はディーゼルエンジンのように燃焼用の空気を必要としません。

そのため原子力潜水艦は、機関を動かすためだけに頻繁に浮上する必要がありません。

長期間水中にとどまれるようになった

原子力推進によって、潜水艦は非常に長時間にわたって潜航し続けられるようになりました。

すると、水上航行性能を優先する必要性は以前より小さくなります。

その結果、

「水上でも水中でも使いやすい船」

ではなく、

「水中で最大限の性能を発揮する船」

という設計思想がより現実的になりました。

ただし、流線形船体そのものが原子力推進によって生まれたわけではありません。

実験潜水艦USS Albacoreはディーゼル・エレクトリック方式でした。

したがって、現代潜水艦の成立は、

「水中高速航行に適した船体形状の研究」

と、

「原子力推進による長時間潜航能力」

という別々の技術が組み合わさった結果と考えるのが正確です。

USS NautilusとUSS Albacoreは役割が異なる

現代潜水艦の発展を理解する際には、USS NautilusとUSS Albacoreの違いを整理すると分かりやすくなります。

USS Nautilusは原子力推進の実用性を示した

USS Nautilusは世界初の実用的な原子力潜水艦として知られています。

原子力推進によって、従来のディーゼル・エレクトリック潜水艦とは比較にならないほど長時間の水中航行が可能になりました。

USS Albacoreは水中向け船体の研究を進めた

一方、USS Albacoreの重要性は、主に船体形状にあります。

水上性能より水中性能を重視した流線形船体を実験し、その成果が後の潜水艦設計に取り入れられました。

つまり、

「Nautilusは推進方式」

「Albacoreは船体形状」

の面で、それぞれ現代潜水艦の発展に大きな役割を果たしたと考えると理解しやすくなります。

潜水艦がクジラやイルカのように見える理由

現代の潜水艦を見ると、クジラやイルカのような海洋生物に似ていると感じることがあります。

これは、水中を効率よく移動するという共通した条件があるためです。

水中を進みやすい形には共通点がある

クジラやイルカも、

  • 丸みのある前部
  • 滑らかな胴体
  • 後方へ細くなる形

をしています。

潜水艦と海洋生物では構造も推進方法もまったく異なります。

魚類や海洋哺乳類は身体や尾を動かして推進しますが、潜水艦は硬い耐圧殻と推進器によって航行します。

それでも「水中の抵抗を抑えて移動する」という共通条件があるため、外形に似た部分が生じます。

ただし、潜水艦がクジラをそのまま模倣して設計されているという意味ではありません。

潜水艦の上にあるセイルにも意味がある

潜水艦の船体上部には、塔のように突き出した構造があります。

これは一般に「セイル」と呼ばれます。

セイルにはマストや各種装置が配置される

セイル周辺には艦型によって、

  • 潜望鏡
  • 光学・電子式マスト
  • 通信アンテナ
  • レーダー
  • 電子戦装置
  • シュノーケル

などが配置されます。

水上航行時には、見張りや航海に関係する役割を持つ場合もあります。

ただし流体力学だけを考えれば、船体表面から突出した構造は少ない方が有利です。

そのため現代潜水艦では、セイルについても抵抗や流体騒音をできるだけ抑えられるよう工夫されています。

なお、セイルを単純に「司令塔」と呼ぶと、歴史的な耐圧司令塔と混同する場合があります。

現代潜水艦では「セイル」と表現する方が正確です。

潜水艦に舵や潜舵が付いている理由

潜水艦は水上艦とは異なり、左右だけでなく上下にも移動します。

そのため三次元的な運動を制御する装置が必要になります。

水中では上下方向の操縦も必要

潜水艦は、

  • 左右に旋回する
  • 潜る
  • 浮上する
  • 一定の深度を維持する
  • 船体の傾きを調整する

といった操作を行います。

そのため、艦尾や船体には方向舵や潜舵などが設けられています。

艦尾の舵には、十字型に近い配置を採用する潜水艦もあれば、X型の配置を採用する潜水艦もあります。

どの方式を採用するかは、操縦性、構造、安全性、推進器との配置関係などによって異なります。

潜水艦は操縦のイメージとしては「水中を飛ぶ航空機」に近い部分がありますが、実際には浮力や重量の調整も重要であり、航空機とまったく同じ原理で動くわけではありません。

推進器が船尾に配置される理由

多くの潜水艦では、プロペラやポンプジェットなどの推進器が船尾に配置されています。

推進器は水に後方への運動量を与え、その反作用によって潜水艦を前進させます。

推進効率だけでなく静粛性も重要

潜水艦の推進器には、高い推進効率だけでなく静粛性も求められます。

特に問題となるのがキャビテーションです。

キャビテーションとは、プロペラ周辺などで局所的に水圧が低下し、水中に蒸気の気泡が発生する現象です。

その気泡が周囲の高い圧力によって潰れると、騒音や振動の原因になります。

軍用潜水艦にとって騒音は探知される原因になるため、推進器の設計ではキャビテーションをできるだけ抑えることが非常に重要です。

静粛性も潜水艦の形を決める重要な要素

軍用潜水艦では「速く進めること」だけではなく、「静かに進めること」も極めて重要です。

潜水艦は敵に発見されにくいこと自体が大きな戦術的価値になるからです。

船体表面を滑らかにする

船体に段差や突起が多いと、水流が乱れやすくなります。

乱れた水流は抵抗を増やすだけでなく、流体騒音を発生させる原因にもなります。

そのため現代の潜水艦では、

  • 船体表面を滑らかにする
  • 不要な突起物を減らす
  • 開口部の形を工夫する
  • セイル形状を最適化する
  • 推進器周辺の流れを整える

といった設計が行われます。

ただし潜水艦の静粛性は船体形状だけで決まるわけではありません。

機関、電動機、ポンプ、配管、補機、船体振動などから生じる騒音を抑えるため、防振構造なども重要になります。

潜水艦がもっと短く丸い形にならない理由

水中抵抗だけを考えれば、潜水艦をもっとコンパクトな流線形にできそうにも思えます。

しかし実際の軍用潜水艦は非常に細長い形をしています。

その最大の理由は、内部に大量の設備を収容しなければならないからです。

潜水艦の内部には大量の設備が必要

潜水艦には艦種によって、

  • 原子炉やディーゼル機関
  • 発電機
  • 電動機
  • 蓄電池
  • ソナー
  • 魚雷
  • ミサイル
  • 乗員区画
  • 指揮区画
  • 食料
  • 空調設備
  • 酸素供給設備
  • 二酸化炭素除去設備
  • バラストタンク
  • 配管
  • 電子機器

などが必要になります。

弾道ミサイル潜水艦では、さらに大型のミサイル区画が必要です。

したがって潜水艦は、流体力学的に最も抵抗の少ない形だけを追求することはできません。

「流体性能」
「耐圧強度」
「内部容積」
「静粛性」
「兵器搭載能力」
「整備性」
「建造しやすさ」

などを総合的に調整した結果として、現在の細長い船体になっています。

現代の潜水艦の形は複数の条件の妥協点

潜水艦の形は、一つの理由だけで決まっているわけではありません。

水中で速く走るだけなら流体抵抗を最優先できます。

水圧への強さだけなら球形に近づけることも考えられます。

しかし実際の潜水艦には、人間が生活し、機関や兵器を搭載し、静かに長距離を移動することが求められます。

そのため現在の潜水艦は、

「流線形の外観」

「円筒形を基本とした耐圧殻」

「後方へ滑らかに細くなる船尾」

「必要最小限のセイルや操舵面」

を組み合わせた形になっています。

まとめ

潜水艦が現在のような形をしている最大の理由は、水中を効率よく、静かに、安全に航行するためです。

丸みを帯びた船首や滑らかな船体は水の抵抗や流体騒音を減らすために役立ちます。

円筒形を基本とした耐圧殻は、深海で外から加わる大きな水圧に耐えるために有利です。

さらに船内には機関、兵器、ソナー、乗員区画などを収容しなければならないため、潜水艦は単純な理想的流線形ではなく、細長い実用的な形になっています。

潜水艦の歴史を見ると、昔は水上航行性能を重視した「潜ることのできる船」に近い設計でした。

その後、USS Albacoreなどによる水中高速船体の研究と、USS Nautilusに代表される原子力推進の実用化が進み、水中性能を中心に考えた現代型潜水艦へと発展しました。

つまり現在の潜水艦の形は、単に「水の抵抗が少ないから」生まれたのではありません。

流体力学、耐圧構造、静粛性、推進技術、ソナー、兵器搭載能力、乗員の生活空間といった数多くの条件を両立させた結果として完成してきた形なのです。

以上、潜水艦はなぜ現在のような形をしているのかについてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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