潜水艦の中はどのような臭いがするのか

潜水艦の中には、一般的な建物や船とは異なる独特の臭いがあります。

ただし、「潜水艦は常に強烈な悪臭がする」というイメージは正確ではありません。

現代の潜水艦には空調設備や空気浄化設備が備えられており、艦内の空気は継続的に循環・管理されています。

そのうえで、機械油や潤滑剤、衣類や人体から生じる生活臭、調理中の食べ物、洗剤や樹脂など、さまざまな臭いが混ざることで、潜水艦特有と感じられる艦内臭が生まれます。

臭いの強さや種類は、潜水艦の年代、推進方式、航海期間、乗員数、艦内の区画などによっても大きく異なります。

目次

潜水艦ではさまざまな臭いが混ざっている

潜水艦の臭いを一種類の臭いで表現することはできません。

潜水艦の内部には多数の機械や電気設備があり、そのすぐ近くで多くの乗員が長期間生活しています。

さらに厨房では食事が作られ、トイレやシャワーなどの衛生設備も存在します。

こうした複数の臭いが、外気との自由な交換ができない艦内で混ざり合います。

イメージとしては、機械設備のある船内に、狭い居住施設や厨房などが一緒に存在している環境を想像すると分かりやすいでしょう。

ただし艦内の空気が止まっているわけではなく、空調設備によって常に循環しています。

機械油や潤滑油の臭い

潜水艦には多数の機械設備がある

潜水艦には、電動機、ポンプ、油圧装置、発電設備、冷却設備など、多数の機械が設置されています。

これらの設備では潤滑油や作動油などが使用されるため、機械区画の周辺では油特有の臭いを感じることがあります。

特に機械設備が密集する区画では、居住区よりも機械油や潤滑剤を連想させる臭いが強くなりやすいと考えられます。

金属や電気設備を連想させる臭いもある

潜水艦の内部には、配管、バルブ、制御盤、電線、電子機器などが非常に密集しています。

そのため、艦内では金属、機械、塗料、樹脂、絶縁材、潤滑剤などが組み合わさった工業的な臭いを感じる場合があります。

ただし、いわゆる「金属臭」を単純に金属そのものが発する臭いと考えるのは正確ではありません。

人間が金属のように感じる臭いには、金属表面と皮脂などが反応して生じる物質も関係します。

また、電気設備から焦げたような臭いが発生している場合は、通常の艦内臭ではなく、設備の過熱や故障などの異常を示している可能性があります。

通常動力型潜水艦では燃料や機関由来の臭いもある

ディーゼル・エレクトリック方式ではディーゼル機関を使用する

多くの通常動力型潜水艦では、ディーゼル・エレクトリック方式が基本となっています。

ディーゼル機関で発電し、蓄電池を充電しながら運用する仕組みです。

そのため、機関区画の周辺ではディーゼル燃料や潤滑油などに由来する臭いを感じる可能性があります。

ただし、通常動力型潜水艦のすべてがまったく同じ方式ではありません。

現代ではAIPと呼ばれる非大気依存推進システムを併用する潜水艦も存在します。

完全潜航中は通常ディーゼル機関を停止する

ディーゼル・エレクトリック潜水艦が完全に潜航して蓄電池で航行している場合、通常はディーゼル機関を停止します。

一方、シュノーケルを海面上に出せる深度では、潜航状態でも外気を取り込みながらディーゼル機関を運転できます。

したがって、「潜水艦の中は常にディーゼル排気の臭いがする」と考えるのは正確ではありません。

原子力潜水艦では臭いの特徴が異なる

原子炉が主要なエネルギー源になる

原子力潜水艦は、ディーゼル機関を通常の主推進用エネルギー源として使用しません。

原子炉で発生させた熱を利用して蒸気を作り、そのエネルギーをタービンなどに利用して推進や発電を行います。

具体的な推進方式は艦級によって異なりますが、通常運転時にディーゼル燃料を燃焼させて主推進を行うわけではありません。

そのため、通常動力型潜水艦とは機関由来の臭いの傾向が異なります。

原子力潜水艦でも機械油の臭いは存在する

原子力潜水艦にも、ポンプ、タービン、油圧装置、電気設備などの多数の機械があります。

したがって、機械油や潤滑剤などの臭いがなくなるわけではありません。

また、原子力潜水艦でも非常用などの目的でディーゼル発電機を搭載している場合があります。

そのため、「原子力潜水艦にはディーゼル機関が一切存在しない」という理解は正しくありません。

乗員の汗や体臭も艦内臭の一部になる

多くの乗員が狭い空間で生活する

潜水艦には数十人から100人を超える乗員が乗り組む場合があります。

その多くが限られた艦内空間で長期間共同生活します。

そのため、汗や皮脂など人体から生じる臭いも艦内臭の一部になります。

現代の潜水艦には空調や換気設備がありますが、大勢の人間が長期間生活すれば、陸上の建物と同様に生活臭が発生します。

衣類や寝具の臭いも混ざる

潜水艦では一人あたりの居住空間が限られています。

衣類、靴、寝具なども狭い区画に置かれるため、汗や湿気を含むと臭いの原因になります。

特に居住区では、機械区画とは異なり、人体や衣類、寝具、洗剤などに由来する生活臭が中心になります。

シャワーや真水の使用状況も艦によって異なる

潜水艦にもシャワーなどの衛生設備があります。

ただし、真水は飲料、調理、洗浄などさまざまな用途で必要になるため、艦種や運用状況によって使用量が管理されることがあります。

一方、現代の大型潜水艦、特に原子力潜水艦では、海水から真水を製造する造水設備を備えています。

そのため、「潜水艦では水不足でほとんど体を洗えない」と一律に説明するのは正確ではありません。

艦の設備や航海状況によって衛生環境は異なると考えるのが適切です。

食事やコーヒーの臭いも艦内に広がる

潜水艦の中でも料理が作られる

潜水艦には厨房があり、航海中も乗員の食事が調理されます。

そのため、時間帯によっては機械油よりも料理の臭いが強く感じられる場合があります。

肉料理や揚げ物、スープなど、さまざまな料理の臭いが艦内へ広がります。

パンやコーヒーの香りがすることもある

大型潜水艦では、艦内でパンや焼き菓子などを作る場合があります。

コーヒーも乗員の日常生活で飲まれるため、厨房や食堂の周辺ではコーヒーの香りを感じることもあります。

そのため潜水艦の臭いは、必ずしも油や汗などの不快な臭いだけではありません。

時間帯や場所によっては、料理やコーヒーなどの香りが強く感じられます。

食料そのものの臭いもある

長期航海を行う潜水艦では、出港時に大量の食料を積み込みます。

航海の序盤には野菜、果物、肉などの生鮮食品が多く使われる場合があります。

航海が長くなるにつれて、保存期間の長い冷凍食品、缶詰、乾燥食品などの割合が増えていくことがあります。

そのため、厨房や食料保管場所の臭いも航海の時期によって変化する可能性があります。

トイレや汚水の臭いはどうなのか

潜水艦にも通常の生活に必要な衛生設備がある

潜水艦にもトイレや洗面設備があります。

ただし、海面下では艦外の水圧が高いため、汚水を扱う仕組みは一般家庭より複雑です。

汚水の貯蔵や排出には、専用のタンク、配管、バルブなどが使用されます。

そのため、トイレから排泄物をそのまま直接海へ流していると考えるのは正確ではありません。

正常な状態なら艦内全体が悪臭に包まれるわけではない

衛生設備が正常に機能している限り、潜水艦全体にトイレの悪臭が充満するわけではありません。

汚水や臭気は専用設備によって管理されています。

ただし、設備の故障や整備作業などによって、一時的に不快な臭いが発生する可能性はあります。

二酸化炭素には臭いがない

潜水艦では多くの乗員が呼吸するため、艦内の二酸化炭素濃度は放置すれば上昇します。

そのため、潜水艦には二酸化炭素を空気中から除去する装置が設けられています。

しかし、二酸化炭素そのものは無色・無臭の気体です。

したがって、「潜水艦の独特な臭いは二酸化炭素の臭いである」という説明は正しくありません。

人が感じる艦内臭は、機械設備、人体、食品、洗剤、樹脂などから生じるさまざまな物質によるものです。

酸素にも臭いはない

潜水艦では、乗員が消費した酸素を補う必要があります。

原子力潜水艦などでは、水を電気分解して酸素を作る装置が使用される場合があります。

また、化学反応によって酸素を発生させる装置が非常用などに利用されることもあります。

ただし、酸素そのものには臭いがありません。

そのため、「潜水艦では人工的に作られた酸素の臭いがする」という説明も正確ではありません。

潜水艦では臭いの原因になる物質も除去している

空気は継続的に循環・浄化されている

潜水艦が長期間潜航できるのは、大量の空気を単純に積み込んでいるからではありません。

艦内の空気を循環させながら、その成分を管理する生命維持設備があるためです。

二酸化炭素を除去し、必要に応じて酸素を補給しながら、人間が生活できる環境を維持しています。

臭気や微量な汚染物質も管理対象になる

艦内では、人間の活動や機械設備からさまざまな揮発性物質が発生します。

そのため、フィルターや空気浄化設備などを利用して、臭気成分や微量な汚染物質を処理します。

潜水艦の大気管理では、単に酸素濃度だけを維持すればよいわけではありません。

二酸化炭素、湿度、温度、臭気、有害物質などを総合的に管理する必要があります。

潜水艦の場所によって臭いは異なる

潜水艦の内部がすべて同じ臭いというわけではありません。

区画によって存在する設備や人の活動が異なるためです。

機械区画

機械区画では、潤滑油、作動油、機械設備などの工業的な臭いを感じやすくなります。

通常動力型潜水艦では、機関の運転状況によって燃料やディーゼル機関に関連する臭いを感じる可能性もあります。

居住区

居住区では、汗、衣類、靴、寝具、洗剤などに由来する生活臭が中心になります。

多くの乗員が長期間共同生活するため、機械室とはまったく異なる臭いになります。

厨房や食堂

厨房では、料理、油、コーヒー、パンなどの臭いが発生します。

食事の時間帯には、こうした香りが周囲の区画にまで広がることがあります。

衛生設備周辺

トイレや洗面設備周辺では、衛生設備特有の臭いを感じる場合があります。

ただし設備が正常に機能している限り、強烈な悪臭が常に発生しているわけではありません。

長期間いると臭いに慣れることがある

人間の嗅覚には、同じ臭いを長時間嗅ぎ続けると、その臭いを感じにくくなる性質があります。

これを嗅覚の順応といいます。

潜水艦の乗員も長期間艦内で生活していると、艦内特有の臭いを次第に意識しにくくなる可能性があります。

その後、新鮮な外気に触れたり陸上へ戻ったりすると、衣類や荷物に艦内の臭いが付着していたことに気づく場合があります。

ただし、これはすべての潜水艦や乗員に必ず起こる現象ではありません。

艦の環境や個人差によって感じ方は異なります。

昔の潜水艦は現代より臭いが強かったと考えられる

第二次世界大戦期の潜水艦は生活環境が厳しかった

第二次世界大戦期などの潜水艦は、現在の潜水艦と比較すると空調や大気管理設備の性能が限られていました。

さらに狭い艦内に多数の乗員が生活し、ディーゼル機関や大量の蓄電池を搭載していました。

そのため、燃料、潤滑油、汗、衣類、食料、湿気など、さまざまな臭いが混ざりやすい環境でした。

現代の潜水艦よりも居住環境が厳しく、臭いについても強烈だったという記録や証言が多く残っています。

蓄電池は単純な「臭いの原因」ではない

歴史的な潜水艦では大量の鉛蓄電池が使用されていました。

ただし、蓄電池を単純に臭いの発生源として説明するのは適切ではありません。

蓄電池では充電中などに水素が発生することがありますが、水素そのものは無臭です。

また、蓄電池が損傷し、電解液と海水が接触すると有害なガスが発生する危険もありました。

これは通常の「潜水艦の臭い」ではなく、安全上の重大な問題として区別する必要があります。

現代の潜水艦は常に悪臭がするわけではない

潜水艦というと、油や汗の臭いが充満した不衛生な空間を想像する人もいるかもしれません。

しかし、現代の潜水艦はそのような単純な環境ではありません。

艦内には空調・換気・空気浄化・二酸化炭素除去・酸素供給などの設備があり、乗員が長期間生活できるよう大気が管理されています。

それでも、多数の人間と大量の機械が限られた空間の中で長期間活動する以上、無臭になるわけではありません。

潜水艦の中では、機械油や潤滑剤、衣類や人体から生じる生活臭、料理やコーヒー、洗剤や樹脂などの臭いが混ざり合います。

つまり潜水艦の臭いとは、特定の一種類の物質によるものではなく、機械と人間の生活が同じ閉鎖環境の中に存在することで生まれる複合的な艦内臭と考えるのが最も正確です。

以上、潜水艦の中はどのような臭いがするのかについてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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