航海薄明(こうかいはくめい)とは、日の出前や日の入り後に見られる薄明の一種です。
一般には、太陽の中心が地平線下6度から12度にある時間帯を指します。
太陽が地平線の下に沈んだあとも、上空の大気には太陽光が当たっています。
その光が大気中で散乱するため、日の入り後もしばらくは空に明るさが残ります。
日の出前も同様に、太陽がまだ地平線の下にある段階から空が明るくなり始めます。
航海薄明は、天候や大気の状態が良好であれば、海上の水平線と航海に用いる明るい星の両方を確認しやすくなる時間帯です。
そのため、六分儀を使って星の高度を測る天文航法に適した時間の目安として利用されてきました。
ただし、航海薄明の時間帯であれば、必ず水平線や星が見えるわけではありません。
実際の見え方は、雲、霧、大気の透明度、月明かり、人工照明などによって変わります。
航海薄明の時間はいつからいつまで?
航海薄明には、日の出前に現れる朝の航海薄明と、日の入り後に現れる夕方の航海薄明があります。
朝の航海薄明
朝は、太陽が地平線の下から徐々に昇るにつれて、空が少しずつ明るくなります。
朝の明るさの変化は、次の順番です。
夜 → 天文薄明 → 航海薄明 → 常用薄明 → 日の出
朝の航海薄明は、太陽の中心が地平線下12度に達した時刻から始まり、地平線下6度に達した時刻に終わります。
航海薄明が始まる頃には、東の空がわずかに明るくなり始めます。
条件がよければ、明るい星を確認しながら、海上の水平線も見分けやすくなります。
その後、太陽が地平線下6度まで昇ると、航海薄明から、より明るい常用薄明へ移ります。
夕方の航海薄明
夕方は、朝とは反対の順番で空が暗くなります。
日の入り → 常用薄明 → 航海薄明 → 天文薄明 → 夜
夕方の航海薄明は、太陽の中心が地平線下6度に達した時刻から始まり、地平線下12度に達した時刻に終わります。
航海薄明が始まる時点では、地上はかなり暗くなっていますが、空にはまだ太陽光の影響が残っています。
晴天で水平線の見通しがよい場所では、空と海の境界を確認しながら、明るい星を観測できる場合があります。
太陽が地平線下12度まで沈むと、航海薄明は終了し、さらに暗い天文薄明へ移ります。
薄明には3つの種類がある
薄明は、太陽の中心が地平線の下にある角度によって、一般に3種類に分けられます。
| 薄明の種類 | 太陽中心の位置 | 明るさの目安 |
|---|---|---|
| 常用薄明 | 地平線下0度から6度 | 屋外の物体を比較的認識しやすい |
| 航海薄明 | 地平線下6度から12度 | 水平線と明るい星を確認できる場合がある |
| 天文薄明 | 地平線下12度から18度 | 空はかなり暗いが、太陽光の影響が残る |
| 夜 | 地平線下18度より低い | 薄明の影響がほぼなくなる |
常用薄明との違い
常用薄明は、航海薄明よりも明るい時間帯です。英語では「Civil Twilight」と呼ばれます。
夕方の場合、日の入りから太陽の中心が地平線下6度に達するまでが常用薄明です。
周囲の建物や地形を比較的認識しやすく、空には一等星や明るい惑星が見え始めます。
常用薄明が終わると、航海薄明に入ります。
航海薄明では、地上の物体はシルエットに近くなり、人工照明なしで細かい作業を行うのは難しくなります。
天文薄明との違い
天文薄明は、航海薄明よりも暗い時間帯です。
英語では「Astronomical Twilight」と呼ばれます。
夕方の場合、太陽の中心が地平線下12度から18度にある時間帯が天文薄明です。
航海薄明が終わると、水平線はさらに見分けにくくなりますが、空にはまだわずかに太陽光の影響が残っています。
太陽の中心が地平線下18度より低くなると、一般には薄明の影響がほぼなくなり、本格的な夜になります。
ただし、都市部では街明かりの影響が大きいため、天文薄明が終わっても空が十分に暗くならない場合があります。
航海薄明は何分くらい続く?
航海薄明の長さは、毎日同じではありません。観測する場所や季節によって変化します。
日本の中緯度地域では、航海薄明はおおむね30分程度になることが多いものの、これはあくまで目安です。
場所や季節によって、30分より短くなることもあれば、長くなることもあります。
日本における時間の目安
日本の中緯度地域における夕方の薄明は、概算すると次のように進みます。
| 日の入りからの経過時間の目安 | 空の状態 |
|---|---|
| 日の入り直後 | 常用薄明が始まる |
| 約30分後 | 常用薄明が終わり、航海薄明が始まる |
| 約1時間後 | 航海薄明が終わり、天文薄明が始まる |
| 約1時間30分後 | 天文薄明が終わり、本格的な夜になる |
この表は一般的な概算であり、固定された時間ではありません。
正確な時刻は、日付と観測地点ごとに確認する必要があります。
航海薄明の長さが変わる理由
航海薄明の継続時間は、太陽が地平線の下をどのような角度で移動するかによって決まります。
季節によって太陽の動きが変わる
太陽が地平線に対して急な角度で沈むと、地平線下6度から12度まで比較的短い時間で移動します。
そのため、航海薄明も短くなります。
反対に、太陽が地平線に沿うような浅い角度で沈む場合は、地平線下6度から12度まで移動するのに時間がかかり、航海薄明が長くなります。
太陽が沈む角度は季節によって変化するため、同じ場所でも夏と冬では航海薄明の長さが異なります。
緯度によって長さが変わる
一般に、赤道に近い低緯度地域では、太陽が地平線に対して比較的急な角度で沈みます。
そのため、日没後は短時間で暗くなる傾向があります。
一方、高緯度地域では、太陽が地平線に沿うように移動しやすく、薄明が長く続く傾向があります。
日本国内でも、沖縄と北海道では薄明の長さに違いが生じます。
ただし、正確な長さは緯度だけではなく、季節や日付にも左右されます。
高緯度地域では一晩中続くこともある
夏の高緯度地域では、太陽が沈んでも地平線下12度より低くならない場合があります。
この場合、夕方の航海薄明が明確に終了しないまま深夜を迎え、そのまま朝の航海薄明へ移ります。
つまり、一晩中、航海薄明に相当する明るさが残ることがあります。
さらに高緯度の地域では、太陽が地平線下6度より低くならず、一晩中、常用薄明に相当する明るさが続く場合もあります。
日の入りと航海薄明は基準が異なる
日の入りと航海薄明では、時刻を決める際の基準が異なります。
日の入りは太陽の上辺が基準
日の入りは、一般に、地平大気差を考慮したうえで、太陽の上辺が視地平線または水平線と一致する時刻として計算されます。
地平大気差とは、大気による光の屈折によって、実際の位置よりも太陽が高く見える現象です。
航海薄明は太陽の中心が基準
航海薄明では、太陽の上辺ではなく、太陽の中心の位置を基準にします。
夕方の航海薄明は、太陽中心が地平線下6度に達した時点で始まり、地平線下12度に達した時点で終わります。
そのため、日の入りと航海薄明は、単に一定時間ずれているのではなく、それぞれ異なる天文学的な基準によって計算されています。
山や建物がある場所では見え方が異なる
山間部や市街地では、太陽が計算上の日の入り時刻より早く、山や建物の後ろに隠れることがあります。
ただし、これは遮蔽物によって太陽が見えなくなっただけであり、暦上の日の入り時刻そのものが変わったわけではありません。
同様に、周囲が山に囲まれた場所では、計算上は航海薄明であっても、実際には平地や海岸より暗く感じることがあります。
航海薄明という名前の由来
航海薄明は、英語で「Nautical Twilight」と呼ばれます。
GPSなどが普及する以前、船舶では、太陽や星の高度を測って現在位置を求める天文航法が重要な役割を果たしていました。
天文航法では星と水平線が必要
六分儀を使って星の高度を測るためには、観測対象となる星だけでなく、角度の基準となる水平線も確認する必要があります。
昼間は水平線を見やすい一方、星は太陽の明るさに隠れて見えにくくなります。
反対に、夜は星を見やすくなりますが、水平線が暗くなり、判別しにくくなります。
航海薄明は、天候や大気の状態が良好であれば、水平線と明るい星の両方を確認できる可能性が高まる時間帯です。
そのため、航海士が星の高度を観測するのに適した時間の目安として、「航海薄明」と呼ばれるようになりました。
計算上の航海薄明と実際の明るさの違い
航海薄明の開始時刻や終了時刻は、太陽中心の位置によって計算されます。
そのため、曇りや雨の日であっても、計算上の時刻自体は基本的に変わりません。
一方、実際に感じる明るさや水平線の見え方は、周囲の環境によって大きく変化します。
実際の見え方に影響する要素
航海薄明中の明るさや視認性には、主に次の要素が影響します。
- 雲の量や厚さ
- 霧やもや
- 大気中のちりや水蒸気
- 月の明るさや位置
- 街灯や都市の光
- 海面の波や反射
- 周囲の地形や建物
- 観測者の目が暗さに慣れているか
晴天で空気が澄み、水平線が開けた海上では、航海薄明の特徴を認識しやすくなります。
一方、曇天や濃霧では、計算上は航海薄明であっても、水平線や星を確認できないことがあります。
航海薄明とブルーアワーの違い
日没後や日の出前に空が青く見える時間帯は、写真分野で「ブルーアワー」と呼ばれることがあります。
ただし、ブルーアワーには、航海薄明のような統一された天文学上の角度定義はありません。
そのため、ブルーアワーと航海薄明を同じものとして扱うのは正確ではありません。
空の青みが残りやすい時間帯
一般に、日没後の常用薄明から航海薄明の初期にかけては、空に青みが残りやすくなります。
この時間帯は、街明かりや建物の照明と空の明るさのバランスが取りやすく、都市景観や風景写真の撮影に向いている場合があります。
ただし、航海薄明の後半になると空はかなり暗くなるため、一般的にイメージされるブルーアワーとは見え方が異なることがあります。
航海薄明と天体観測
航海薄明中でも、金星や木星などの明るい惑星、一等星、月などは観測できる場合があります。
しかし、空にはまだ太陽光の影響が残っているため、暗い星や淡い天体の観測には適していません。
暗い天体は天文薄明後が適している
暗い星雲、銀河、淡い天の川などを良好な条件で観測・撮影する場合は、一般に天文薄明が終了し、空が十分暗くなってからのほうが適しています。
ただし、必要な暗さは観測対象や機材によって異なります。
明るい惑星や月であれば、航海薄明や天文薄明の時間帯でも十分に観測できます。
また、都市部では光害の影響が強いため、天文薄明が終了したあとでも、暗い天体が見えにくいことがあります。
航海薄明と星空撮影
航海薄明は、風景と明るい星を同時に撮影したい場合に利用できる時間帯です。
風景の輪郭を残しやすい
完全な夜になる前の航海薄明では、空にわずかな明るさが残っています。
そのため、山、海、建物などの輪郭を残しながら、明るい星や惑星を撮影できる場合があります。
ただし、暗い星や天の川をはっきり写したい場合は、航海薄明中では空が明るすぎる可能性があります。
その場合は、天文薄明が終わってから撮影するほうが適しています。
航海薄明と登山・アウトドア
航海薄明は、空に明るさが残っている時間帯ですが、安全に歩ける明るさを保証するものではありません。
自然光だけでの行動は危険
航海薄明になると、地面の凹凸、岩、木の根、段差などを目視しにくくなります。
特に森林内や山間部では、空が明るくても足元は非常に暗い場合があります。
日の出前に登山を始める場合や、日没後まで行動する可能性がある場合は、航海薄明を自然光だけで移動できる時間として扱わないことが重要です。
ヘッドライトや予備の電池を準備し、日の入り時刻よりも余裕を持った行動計画を立てる必要があります。
航海薄明と海上活動
航海薄明は、現在でも海上活動や気象観測、航海計画などで参考にされることがあります。
ただし、航海薄明の時間帯であっても、実際の視界は気象条件によって大きく変わります。
視界の安全を保証する時刻ではない
霧、降雨、波、雲、逆光などがある場合は、計算上の航海薄明と実際の視認性が一致しません。
そのため、航海薄明の時刻だけを基準にして、安全に航行できるかどうかを判断することはできません。
実際の航行では、気象情報、視程、海況、船舶の灯火、航海計器などを総合的に確認する必要があります。
航海薄明の時刻を調べる方法
航海薄明の正確な時刻は、観測する場所と日付によって異なります。
調べる際には、次の情報が必要です。
- 観測する日付
- 観測地点の緯度と経度
- 現地のタイムゾーン
天文アプリや計算サービスを利用する
航海薄明の時刻は、日の出・日の入りや太陽高度を計算できる天文アプリ、気象アプリ、天文計算サービスなどで確認できます。
英語表記では、次の用語が使われます。
- Civil Twilight:常用薄明
- Nautical Twilight:航海薄明
- Astronomical Twilight:天文薄明
- Nautical Dawn:朝の航海薄明が始まる時刻
- Nautical Dusk:夕方の航海薄明が終わる時刻
アプリによっては、「Nautical Twilight Start」「Nautical Twilight End」などと表示される場合もあります。
「夜明」「日暮」とは区別する
日本の暦やサービスで表示される「夜明」や「日暮」は、必ずしも航海薄明と同じ基準ではありません。
航海薄明の時刻を確認したい場合は、「Nautical Twilight」または「太陽高度マイナス12度」に対応しているかを確認することが重要です。
単に日の出・日の入り時刻だけを確認しても、航海薄明の開始時刻や終了時刻までは分かりません。
まとめ
航海薄明とは、一般に、太陽の中心が地平線下6度から12度にある時間帯です。
朝は、太陽中心が地平線下12度に達した時点で航海薄明が始まり、地平線下6度に達すると終了します。
夕方は、太陽中心が地平線下6度に達すると始まり、地平線下12度に達すると終了します。
日本の中緯度地域では、航海薄明はおおむね30分程度になることが多いものの、正確な時間は場所、季節、日付によって変わります。
また、航海薄明は、水平線や明るい星を確認しやすくなる時間の目安ですが、実際の見え方を保証するものではありません。
雲、霧、月明かり、人工照明、大気の透明度などによって、明るさや視認性は大きく変化します。
正確な航海薄明の時刻を知りたい場合は、観測地点と日付を指定し、「Nautical Twilight」または太陽高度マイナス12度に対応した天文アプリや計算サービスで確認しましょう。
以上、航海薄明の時間についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















