ゴムボートに使われる素材は、耐久性や重量、価格、収納性、修理のしやすさなどを大きく左右します。
一般的なレジャー用ゴムボートではPVCやCSMが代表的ですが、メーカーや用途によってEPDM系ゴムやTPUなどが使われることもあります。
また、「ゴムボート」という名称であっても、船体の生地がすべてゴムだけで作られているわけではありません。
多くの製品では、ナイロンやポリエステルなどの基布に、合成樹脂や合成ゴムをコーティング・ラミネートした生地が使われています。
ここでは、ゴムボートに使われる代表的な素材の特徴や違い、選び方について詳しく解説します。
ゴムボートの生地は基布と表面素材を組み合わせて作られる
ゴムボートの素材を理解するうえで重要なのが、生地の構造です。
一般的なインフレータブルボートの生地は、1種類の素材だけでできているわけではありません。
強度を担う基布の表面や裏面に、気密性や耐候性などを持たせるための樹脂やゴムを組み合わせています。
基布にはナイロンやポリエステルが使われる
基布は、ボートの生地そのものの強度を支える重要な部分です。
代表的な素材にはナイロンとポリエステルがあります。
ナイロンは柔軟性が高く、比較的軽量であるため、コンパクトに収納しやすいボートなどに適しています。
一方、ポリエステルはナイロンと比較して伸びが少なく、剛性のある生地を作りやすいのが特徴です。
そのため、高い船体剛性が求められるモデルや、比較的高出力の船外機を使用するボートなどに採用されることがあります。
「PVC製」「CSM製」は主要な被覆素材を表している
市販されているゴムボートでは、「PVC製」や「CSM製」という表記がよく使われます。
これは一般的に、生地の主要な表面材や被覆材によって分類しているものです。
実際には、PVCやCSMだけではなく、基布や気密層など複数の素材を組み合わせて構成されています。
そのため、ゴムボートの品質を比較するときは、素材名だけではなく、生地の厚さや基布、接合方法なども確認することが重要です。
PVCはゴムボートで広く使われる代表的な素材
PVCは「Polyvinyl Chloride」の略称で、日本語ではポリ塩化ビニルと呼ばれます。
PVCそのものはゴムではなく合成樹脂です。
ただし、PVC生地を使用したインフレータブルボートも一般的に「ゴムボート」と呼ばれています。
PVCのメリット
PVCの大きなメリットは、価格と性能のバランスを取りやすいことです。
比較的低価格なボートから本格的なレジャーボートまで、多くの製品に採用されています。
PVC生地は製品によって異なりますが、一般的には次のような特徴があります。
- 比較的価格を抑えやすい
- 剛性のある生地を作りやすい
- 摩耗に配慮した製品を作れる
- 汚れを落としやすい
- 溶着による接合が可能な製品がある
初めてゴムボートを購入する場合や、価格と性能のバランスを重視したい場合には選択肢になりやすい素材です。
PVCのデメリット
PVCは気温の影響を受けやすく、低温になると生地が硬くなりやすい傾向があります。
寒い時期には折りたたみや収納がしにくくなる場合があるため、冬場に使用する人は注意が必要です。
また、紫外線や高温に長期間さらされると劣化が進みやすくなります。
ただし、耐久性はPVCという素材名だけで決まるものではありません。
生地の厚さや基布、表面処理、製造方法、保管状況などによって実際の寿命は大きく変わります。
CSMは耐候性を重視するゴムボートに使われる
CSMは「Chlorosulfonated Polyethylene」の略称で、日本語ではクロロスルホン化ポリエチレンと呼ばれます。
高い耐候性が求められるインフレータブルボートやRIBなどで長く使われてきた素材です。
CSMのメリット
CSMを使用したボート用生地は、耐候性や耐オゾン性、耐油性、温度変化への強さなどに優れた製品が多いのが特徴です。
特に、低温でも比較的柔軟性を保ちやすいため、幅広い環境で扱いやすいというメリットがあります。
また、適切な仕様で作られたCSM生地には、耐摩耗性を考慮した製品もあります。
頻繁にゴムボートを使用する場合や、耐候性を重視したい場合には有力な選択肢となります。
CSMのデメリット
CSMを使用したゴムボートは、一般的なPVC製ボートと比べて価格が高くなりやすい傾向があります。
また、CSM系の生地では接着による接合が一般的です。
製造工程に手間がかかりやすいことも、製品価格が上がる一因になります。
ただし、具体的な接合方法はメーカーや製品によって異なります。
ハイパロンとCSMは同じものなのか
ゴムボートについて調べると、「ハイパロン」という名称を見かけることがあります。
ハイパロンは、かつてCSM系素材に使われていた商標名です。
現在はCSMと表記するほうが正確
ハイパロンは素材の一般名称ではありません。
デュポンによるハイパロンの生産は終了しているため、現在市販されているCSM製ボートをすべて「ハイパロン製」と呼ぶのは厳密ではありません。
現在の製品について素材を正確に表現するのであれば、「CSM製」とするほうが適切です。
中古ボートや古い資料では、現在でも「ハイパロン」という呼び方が残っていることがあります。
EPDM系ゴムが使われるゴムボートもある
EPDMは「Ethylene Propylene Diene Monomer」の略称で、エチレン・プロピレン・ジエンゴムと呼ばれる合成ゴムです。
自動車部品や防水材、ホースなど幅広い分野で使われています。
ゴムボートではPVCやCSMほど一般的ではありませんが、一部のメーカーがボート用素材として採用しています。
アキレスのエコストロンが代表例
EPDM系ゴムを使用したボート素材の代表例として、アキレスの「エコストロン」があります。
エコストロンはEPDM系の独自ゴム素材で、ナイロン基布などと組み合わせることで、柔軟性や軽量性に配慮した生地となっています。
また、気温変化の影響を受けにくいことも特徴です。
ただし、すべてのEPDM系ボートが軽量であるとは限りません。
完成したボートの重量は、生地の厚さや船体サイズ、フロア構造などによって変わります。
TPUが使われるインフレータブルボートもある
TPUは「Thermoplastic Polyurethane」の略称で、日本語では熱可塑性ポリウレタンと呼ばれます。
インフレータブルボートや救命艇、SUP、パックラフトなどの分野で使用されることがあります。
TPUの特徴
TPUを使用した生地には、製品によって次のような特徴があります。
- 柔軟性に優れる
- 耐摩耗性に配慮した製品がある
- 低温環境でも柔軟性を維持しやすい製品がある
- 熱風や高周波などによる溶着が可能な製品がある
ただし、TPUは一般的なレジャー用ゴムボートではPVCやCSMほど広く使われているわけではありません。
また、TPUを使えば必ず軽量になるというわけでもありません。
実際の重量や耐久性は、基布や生地厚、船体設計などによって異なります。
エアーフロアにはドロップステッチ構造が使われる
ゴムボートの床には、エアーフロアが採用されている製品があります。
その代表的な構造がドロップステッチです。
ドロップステッチは素材名ではなく構造の名称
ドロップステッチとは、上下2枚の生地を多数の繊維でつないだ構造です。
内部に高い空気圧をかけても、生地が風船のように丸く膨らみにくいため、板に近い硬さを持たせることができます。
そのため、ゴムボートのエアーフロアだけでなく、インフレータブルSUPなどにも広く利用されています。
なお、「ドロップステッチ素材」という言い方をする場合もありますが、厳密には素材そのものの名称ではなく、生地の構造を表す言葉です。
ゴムボートの船底にはFRPやアルミが使われる場合もある
ゴムボートのすべての部分が柔らかい生地で作られているとは限りません。
特にRIBでは、浮力を確保するチューブ部分にPVCやCSMなどを使用し、船底部分にはFRPやアルミニウムなどの硬質素材を組み合わせています。
一般的なゴムボートにもさまざまな床構造がある
折りたたみ式のゴムボートでも、床にはさまざまな種類があります。
代表的なのは次のようなタイプです。
- エアーフロア
- アルミフロア
- 合板フロア
- FRP船底
フロアの違いによって、重量や剛性、収納性、走行性能などが変わります。
そのため、ゴムボートを選ぶ際にはチューブの素材だけではなく、フロア構造にも注目する必要があります。
PVC・CSM・EPDM系・TPUの違い
ゴムボートに使われる主な素材の特徴を整理すると、次のようになります。
| 素材 | 主な特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| PVC | 比較的価格を抑えやすく、製品数も多い | 低温時の硬化や紫外線・熱による劣化に注意 |
| CSM | 耐候性・耐オゾン性・耐油性・温度変化への強さに優れた製品が多い | 比較的価格が高い |
| EPDM系 | 柔軟性や耐候性に優れた製品がある | 採用しているメーカーや製品が限られる |
| TPU | 耐摩耗性・低温特性・溶着性などに優れた製品がある | 製品仕様による性能差が大きい |
この比較はあくまでも一般的な傾向です。
実際の耐久性や重量は、素材だけでは決まりません。
ゴムボートの耐久性は素材だけでは決まらない
ゴムボートを選ぶ際に、「PVCだから耐久性が低い」「CSMだから長寿命」と単純に判断するのは適切ではありません。
実際の耐久性には、さまざまな要素が影響します。
生地の厚さや基布によって性能が変わる
同じPVCやCSMを使用していても、生地の仕様が異なれば性能も変わります。
主に次のような要素が関係します。
- 生地の厚さ
- 基布の素材
- 基布の繊維密度
- 表面コーティング
- 気密層
- 接合方法
- 製造品質
そのため、素材名だけで製品の優劣を判断しないことが重要です。
保管方法も寿命を大きく左右する
ゴムボートは、使用後や保管中の管理によっても劣化速度が大きく変わります。
海水を付着させたまま保管したり、直射日光が当たる場所に長期間放置したりすると、生地や接着部分の劣化につながります。
使用後は水洗いして十分に乾燥させ、直射日光や高温を避けて保管することが重要です。
CSMの耐久年数は10年と考えてよいのか
メーカーによっては、素材試験上の一般的な耐久年数を公開している場合があります。
たとえばアキレスでは、素材単体の一般的な耐久年数の目安として、CSMを約10年、エコストロンを5〜7年と案内しています。
ボート本体の寿命を保証する数字ではない
これらの数字は、完成したゴムボートそのものの寿命を保証するものではありません。
実際の耐久年数は、使用頻度や紫外線への exposure、保管方法、海水の影響、接着部の状態などによって変化します。
そのため、「CSM製ゴムボートなら必ず10年間使用できる」と考えるのは適切ではありません。
中古艇を購入する場合も、素材だけではなく、接着部分やバルブ、トランサム周辺などの状態を確認する必要があります。
ゴムボートの接合方法もチェックする
ゴムボートの耐久性を考えるうえでは、生地同士をどのように接合しているかも重要です。
PVCやTPUには溶着できる生地がある
PVCやTPU系のボート用生地には、高周波溶着や熱風溶着などによって接合できる製品があります。
溶着では、素材同士を熱などによって一体化させます。
ただし、すべてのPVC製品やTPU製品が同じ方法で製造されるわけではありません。
CSMでは接着による接合が一般的
CSM系生地では、接着剤を使って生地を接合する方法が一般的です。
そのため、長期間使用したゴムボートでは、生地そのものだけではなく接着部分の状態も重要になります。
特に確認したい部分は次のとおりです。
- 生地の継ぎ目
- バルブ周辺
- トランサム周辺
- フロア接合部
- 補強パーツの接着部分
中古のゴムボートを購入する場合は、これらの部分に剥がれや浮きがないか確認するとよいでしょう。
釣り用ゴムボートにはどの素材がおすすめ?
釣り用のゴムボートでは、利用頻度や予算、保管方法によって適した素材が変わります。
価格と性能のバランスを重視するならPVC
できるだけ購入費用を抑えたい場合や、レジャー用途を中心に使用する場合にはPVC製ボートが選択肢になりやすいでしょう。
製品数が多いため、サイズや船外機対応モデルなどを比較しやすいのもメリットです。
適切に洗浄・乾燥・保管すれば、PVC製でも長期間使用できる場合があります。
耐候性や温度変化への強さを重視するならCSM
釣行回数が多い人や、耐候性を重視する場合にはCSM製ボートが有力な候補です。
低温時でも比較的柔軟性を維持しやすく、耐候性にも優れた製品が多いため、本格的に使用したい人に適しています。
ただし、PVC製と比較すると価格が高くなりやすいため、予算とのバランスを考える必要があります。
持ち運びを重視するなら完成重量を確認する
ゴムボートを車から水辺まで持ち運ぶ場合には、素材名だけではなく完成品の重量を確認することが重要です。
同じ全長のボートでも、生地の厚さやフロア構造、トランサムなどによって重量は大きく異なります。
軽量性を重視するのであれば、「PVC・CSM・TPU」といった素材だけで判断せず、メーカーが公表している総重量を比較しましょう。
ゴムボートの素材を選ぶときのポイント
ゴムボートの素材選びでは、1つの性能だけを見るのではなく、用途に合わせて総合的に判断することが重要です。
価格を重視する場合
比較的価格を抑えやすく、製品の選択肢も多いPVCが候補になります。
初めてゴムボートを購入する人にも選びやすい素材です。
耐候性を重視する場合
紫外線や温度変化への強さなどを重視する場合には、CSMを使用した製品が有力です。
頻繁に使用する人や長期的な使用を考えている人は比較してみるとよいでしょう。
軽量性を重視する場合
素材だけでは判断せず、実際のボート重量を確認することが重要です。
基布やフロア構造、船体サイズなども重量に大きく影響します。
修理やメンテナンス性も確認する
長期間使うのであれば、補修材や接着剤、交換用バルブなどの入手性も重要です。
メーカーによっては修理や部品供給の体制が整っているため、購入時にアフターサービスまで確認しておくと安心です。
まとめ
ゴムボートに使われる代表的な素材は、PVCとCSMです。
そのほか、一部の製品ではEPDM系ゴムやTPUなども使用されています。
PVCは比較的価格を抑えやすく、製品の選択肢が多いのが特徴です。
一方、CSMは耐候性や耐オゾン性、温度変化への強さなどに優れた製品が多く、耐久性を重視する用途に向いています。
ただし、ゴムボートの性能は素材名だけで決まるものではありません。
基布、生地厚、接合方法、フロア構造、船体設計、製造品質などによっても大きく変わります。
ゴムボートを選ぶ際には、「PVCかCSMか」という点だけを見るのではなく、価格、重量、使用頻度、保管環境、修理体制などを含めて総合的に比較することが重要です。
以上、ゴムボートに使われる素材についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。















