潜水艦の乗組員にはどのような役割があるのか

潜水艦の乗組員には、艦長をはじめとして、航海、操艦、水雷・ソナー、通信、機関、補給、給養、衛生など、さまざまな役割があります。

潜水艦は単に海中を航行するだけの船ではありません。
周囲の状況を把握するセンサー、通信設備、推進装置、電力設備、生命維持設備、武器システムなどを備えた非常に複雑な艦艇です。

そのため、1人の乗組員がすべてを担当するのではなく、それぞれ専門的な知識や技能を持った乗組員が協力して運用しています。

また、具体的な職種名や組織編成は国や海軍、潜水艦の種類によって異なります。
たとえば海上自衛隊の通常動力型潜水艦と、米海軍の原子力潜水艦では、機関部門をはじめとする乗組員の構成に違いがあります。

ここでは特定の国の職種名だけに限定せず、潜水艦を運用するうえで一般的に必要となる役割を中心に詳しく解説します。

目次

艦長

潜水艦全体を指揮する最高責任者

潜水艦の乗組員の中で、艦全体の指揮を担当するのが艦長です。

艦長は、潜水艦の航海、安全、任務遂行、乗組員の管理などについて大きな責任を負います。

ただし、艦長自身が常に操舵装置やソナー、機関などを直接操作しているわけではありません。

実際には、それぞれの専門部署や当直員から報告を受け、その情報を総合して必要な判断や指示を出します。

艦内の情報を集約して判断する

潜航中の潜水艦では、水上艦のように周囲を直接目視できる機会が限られています。

そのため艦長は、航法情報、ソナーによる水中音響情報、各種センサーから得られる情報、機関の状態などを総合的に確認しながら判断します。

潜水艦では、各担当者から集められた情報を迅速かつ正確に整理し、艦としてどのような行動を取るか決める指揮能力が重要になります。

艦長を補佐する乗組員

艦内の業務や各部門を管理する

潜水艦には、艦長を補佐する士官や各部門の責任者も配置されます。

具体的な役職名や組織構成は国によって異なりますが、艦長1人ですべての乗組員や設備を直接管理するわけではありません。

航海、戦闘システム、機関、補給など、それぞれの部門を担当する責任者が配置され、艦長の指揮のもとで業務を管理します。

潜水艦は限られた人数で非常に多くの設備を動かす必要があるため、明確な指揮系統を保つことが重要です。

航海を担当する乗組員

潜水艦の位置や航路を管理する

航海担当の乗組員は、潜水艦がどこを航行しているのかを把握し、安全な航海を支える役割を担います。

海上自衛隊では、潜水艦を含む自衛艦で操舵装置や航法装置などを扱う航海関係の職域があります。

潜水艦は海中を航行するため、自艦の位置を正確に把握することが極めて重要です。

航法装置や海図などの情報を活用しながら、安全な航路を維持します。

水深や海底地形も重要になる

潜水艦では、水平方向の位置だけでなく、水深や海底地形などにも注意しなければなりません。

特に浅い海域では、水深や海底までの距離を十分に把握する必要があります。

航海担当者だけですべてを判断するわけではありませんが、航法情報を適切に管理することは潜水艦の安全運航を支える重要な仕事です。

操舵や深度管理を担当する乗組員

潜水艦の進行方向を調整する

潜水艦には、艦の進行方向や姿勢を調整するための操艦要員が必要です。

水上艦では主に左右方向の進路を考えますが、潜水艦ではさらに上下方向の動きも重要になります。

そのため、針路だけでなく深度や艦の姿勢なども管理しながら航行します。

潜航や浮上にも関わる

潜水艦が潜航したり浮上したりするときには、操艦を担当する乗組員だけが作業するわけではありません。

航海、機関、指揮関係など複数の部署が連携しながら行動します。

具体的な操作方法や担当の分け方は潜水艦によって異なりますが、安全に深度を変更するためには複数の乗組員による連携が欠かせません。

水雷・ソナーを担当する乗組員

ソナーで周囲の状況を把握する

潜水艦の特徴的な役割の一つが、ソナーを扱う乗組員です。

ソナーは、水中を伝わる音響情報を利用して周囲の状況を把握するための装置です。

潜水艦は潜航中に周囲を直接見ることが難しいため、ソナーから得られる情報は非常に重要になります。

海上自衛隊では、水雷職域の乗組員などがソナーをはじめとする水中捜索機器や魚雷などの水中武器を扱います。

一方、米海軍ではSonar Technicianなど、ソナーを専門に扱う潜水艦職種が設けられています。

このように、同じ役割であっても正式な職種名は海軍によって異なります。

水中の音響情報を分析する

ソナー担当者の仕事は、単に海中の音を耳で聞くだけではありません。

現代の潜水艦では、ソナーによって得られた信号を電子機器やコンピューターで処理し、その情報を専門の乗組員が解析します。

海中には船舶の音だけでなく、海流、波、生物、海底環境などによって生じるさまざまな音があります。

そのため、得られた情報からどのような音なのかを判断するには、専門知識と経験が必要になります。

戦闘システムや射撃管制に関わる乗組員

センサー情報を整理する

潜水艦によっては、ソナーなどから得られた情報を戦闘システム上で整理し、状況判断を支援する専門要員が配置されています。

たとえば米海軍には、潜水艦の射撃管制システムなどを扱うFire Control Technicianという職種があります。

ただし、これは世界中の潜水艦に共通する正式職種名ではありません。

海軍によって担当の分け方や職種名は異なるため、一般的には「戦闘システムや射撃管制に関わる乗組員」と理解するとよいでしょう。

指揮官の判断を支える

潜水艦では、センサーで何かを探知したからといって、ただちに行動が決まるわけではありません。

複数の情報を整理し、対象の位置や動きを確認しながら、艦長など指揮官が最終的な判断を行います。

戦闘システム関係の乗組員は、その判断に必要な情報を整理・提供する重要な役割を担います。

魚雷などの武器を担当する乗組員

水中武器の操作や整備を行う

潜水艦には、魚雷などの武器を扱う乗組員もいます。

海上自衛隊では、水雷職域が魚雷などの水中武器や関連装備を扱います。

米海軍ではTorpedoman’s Mateなどの潜水艦関係職種があります。

武器を使用するとき以外の仕事も多い

武器担当というと、魚雷を発射する場面だけを想像するかもしれません。

しかし実際には、武器や関連装置をいつでも正常に使用できる状態に保つため、点検や整備、管理なども重要な仕事になります。

潜水艦に搭載される装備は必要なときに確実に作動しなければならないため、日常的な保守や訓練が欠かせません。

通信を担当する乗組員

艦外との情報交換を支える

潜水艦には、外部との通信を担当する乗組員もいます。

通信担当者は、任務に必要な情報の受信や送信、通信装置の操作や管理などを行います。

海上自衛隊にも通信職域があり、通信や暗号、関連器材の操作・整備などを担当します。

潜水艦では通信管理が重要になる

潜水艦は隠密性を重視して行動する艦艇です。

そのため通信は、水上艦とまったく同じように自由に行えるとは限りません。

実際の通信方法や運用にはさまざまな制約がありますが、必要な情報を確実に受け取り、適切に管理することが通信担当者の重要な役割です。

電子・情報システムを担当する乗組員

多数の電子機器を維持する

現代の潜水艦には、多くのコンピューターや電子機器が搭載されています。

航法、ソナー、通信、戦闘システムなど、潜水艦の主要な機能の多くが電子装置によって支えられています。

そのため海軍によっては、電子機器や情報システムを専門に扱う乗組員が配置されています。

たとえば米海軍には、潜水艦向けのInformation Systems Technicianなどの職種があります。

ただし、すべての国の潜水艦に「情報システム担当」という同じ名称の独立職種が存在するわけではありません。

機関を担当する乗組員

潜水艦を動かすための設備を管理する

機関担当者は、潜水艦の推進や艦内機械設備を支える重要な役割を担います。

潜水艦は航海中、推進装置だけでなく、多数の機械設備を連続して稼働させなければなりません。

機関関係の乗組員は、それらの設備を監視し、必要な点検や整備を行います。

通常動力型と原子力潜水艦では役割が異なる

機関部門は、潜水艦の動力方式によって大きく異なります。

海上自衛隊の潜水艦は通常動力型で、ディーゼル機関や蓄電池、電動機などを利用して航行します。

一方、米国や英国などが運用する原子力潜水艦では、原子炉や原子力推進設備を扱う専門要員が必要になります。

したがって、「潜水艦の機関員は原子炉を扱う」という説明は正しくありません。

原子炉を扱うのは、原子力潜水艦の機関部門に限られます。

電気設備を扱う乗組員

潜水艦では電力が欠かせない

潜水艦では、さまざまな設備を動かすために電力が必要です。

照明だけでなく、航法装置、通信機器、ソナー、制御装置、空調、各種補助機器など、多数の設備が電気によって作動しています。

そのため電力設備や電気機器の監視、整備などを担当する乗組員も必要になります。

ただし、「電気担当」という独立した正式職種がすべての潜水艦に存在するわけではありません。

具体的な担当区分は国や海軍によって異なります。

補機や艦内設備を担当する乗組員

艦内で生活できる環境を維持する

潜水艦の内部には、推進装置以外にも多くの機械があります。

空調、換気、圧縮空気、油圧、水などに関連する設備は、潜水艦の航行と乗組員の生活を支える重要なシステムです。

こうした補助機械や艦内設備を維持する専門要員も存在します。

潜水艦は外部と隔離された状態で長時間行動することがあるため、艦内環境を正常に保つことは安全性に直結します。

補給を担当する乗組員

必要な物資を管理する

潜水艦で任務を続けるためには、食料だけでなく、日用品、消耗品、交換部品など多くの物資が必要になります。

補給関係の乗組員は、そうした物資の管理や供給を支えます。

限られた艦内スペースに必要な物資を適切に搭載し、長期間の任務に備えることも重要です。

給養・調理を担当する乗組員

乗組員の食事を作る

潜水艦では、乗組員が艦内で生活しながら任務を続けます。

そのため食事を担当する給養・調理担当者も重要な存在です。

限られた調理設備と保管スペースの中で、乗組員に継続して食事を提供します。

食事は健康と士気にも関係する

潜水艦では外出して食事を取ることができません。

長期間の航海では、食事が健康管理だけでなく、乗組員の気分や士気にも大きく影響します。

そのため調理担当者は、潜水艦の生活環境を支える重要な役割を持っています。

衛生・医療に関わる乗組員

乗組員の健康を管理する

潜水艦では、乗組員の健康管理や応急処置に対応できる体制も必要です。

潜航中や遠洋での航海中には、体調不良や負傷が発生しても、すぐに陸上の病院へ行けるとは限りません。

そのため、一定の医療知識や応急処置能力を持った要員が重要になります。

ただし、すべての潜水艦に医師が常時乗っているわけではありません。

具体的な医療体制は、国、艦種、任務などによって異なります。

事務や人員管理に関わる乗組員

潜水艦にも事務仕事がある

潜水艦の中では、機械を操作する仕事だけが行われているわけではありません。

乗組員の勤務管理、文書管理、各種記録など、組織を運営するための事務業務も必要です。

米海軍には潜水艦関係のYeomanなど、行政や事務を担当する職種もあります。

ただし、こうした職種区分は海軍ごとに異なります。

潜水艦の乗組員は専門業務だけを担当するわけではない

自分の専門分野以外の知識も必要

潜水艦の乗組員には、それぞれ専門分野があります。

しかし、自分の担当だけを知っていればよいわけではありません。

潜水艦は限られた人数で運用されるため、当直、訓練、点検、清掃、安全管理など、艦全体に関わる業務にも参加します。

そのため潜水艦乗員には、専門技能に加えて、艦全体の構造や基本的な安全対処について幅広い知識が求められます。

当直によって24時間潜水艦を運用する

乗組員は交代しながら勤務する

潜水艦は航海中、24時間連続して運航されます。

夜になったからといって、航海やソナー監視、機関の管理を止めることはできません。

そのため乗組員は当直を交代しながら勤務します。

ある乗組員が休んでいる間にも、別の乗組員が艦の運航や監視を続けています。

職種と当直は別のもの

潜水艦の乗組員を理解するときには、「職種」と「当直」を分けて考えると分かりやすくなります。

職種は、その乗組員がどの分野を専門としているのかを示します。

一方、当直は、その時間帯にどの役割を担当しているのかを示すものです。

同じ乗組員でも、専門職としての仕事と当直中の役割の両方を持っています。

緊急時には乗組員全体で対応する

火災や浸水への訓練も重要

潜水艦にとって火災や浸水は非常に重大な問題です。

特に潜航中は、外部からすぐに救援を受けられない可能性があります。

そのため乗組員は、自分の専門業務だけでなく、火災や浸水などの緊急事態に対処するための訓練も受けます。

異常が発生した場合には、必要に応じて担当部署の枠を超えて乗組員全体で艦の安全確保にあたります。

潜水艦には何人くらい乗っている?

海上自衛隊では艦型によって人数が異なる

潜水艦の乗員数は、艦の大きさや種類によって異なります。

海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦では、乗員は約65人です。

より新しい「たいげい」型では、乗員は約70人とされています。

一方、海外の大型原子力潜水艦では、100人を超える乗組員が乗る場合もあります。

したがって、「潜水艦の乗員は何人」と一律に決めることはできません。

艦型や任務、搭載設備によって必要な人数が変わります。

潜水艦の乗組員は一つのチームとして艦を動かしている

潜水艦には、艦長、航海、操艦、水雷・ソナー、通信、戦闘システム、機関、補給、給養、衛生など、さまざまな役割を持つ乗組員がいます。

それぞれが専門知識を持っていますが、潜水艦は一人の力で動かせるものではありません。

航海担当者が安全な航路を支え、ソナーを扱う乗組員が周囲の状況を監視し、通信担当者が外部との情報交換を支えます。

さらに機関関係の乗組員が艦を動かし続け、補給や給養、衛生関係の乗組員が艦内生活を支えています。

そして緊急時には、それぞれの専門分野を超えて乗組員全体が協力します。

つまり潜水艦の乗組員は、単に「操縦する人」「ソナーを見る人」「魚雷を扱う人」に分かれているのではありません。

それぞれが専門的な役割を持ちながら、全員が協力して一隻の潜水艦を安全に維持・運用しているのです。

以上、潜水艦の乗組員にはどのような役割があるのかについてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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