潜水艦には、艦内を照らす通常照明だけでなく、非常時に使用する照明、計器や操作盤の表示灯、浮上航行時に使う航海灯など、用途の異なるさまざまなライトが備えられています。
潜水艦は、長時間にわたって自然光の届かない海中で活動する特殊な艦艇です。
そのため照明には、単に周囲を明るくするだけではなく、乗員の作業性や安全性、暗い環境での視認性、非常時の行動、生活リズムの維持など、さまざまな役割があります。
ただし、具体的な照明設備や運用方法は、国や艦級、建造年代によって異なります。
また、軍用潜水艦の装備には非公開の部分も多いため、以下では公開情報から確認できる一般的な内容を中心に解説します。
潜水艦のライトにはさまざまな種類がある
潜水艦の照明は、分かりやすく整理すると、通常照明、低照度照明、非常照明、計器類の照明、航海灯などに分けられます。
これは正式な装備分類ではありませんが、潜水艦の照明がどのような目的で使われているのかを理解するうえでは便利な分け方です。
艦内を照らす通常照明
潜水艦の内部には、日常生活や各種作業を行うための通常照明があります。
居住区や通路、機械区画、調理区画などでは、乗員が安全に行動できるだけの照度が必要です。
潜水艦だからといって、艦内が常に暗かったり、赤色の照明だけで照らされていたりするわけではありません。
通常の勤務や生活では、物の形や色を確認しやすい白色系の照明が使われることがあります。
作業場所には局部照明が使われることもある
機器の点検や整備など、細かな作業を行う場所では、区画全体を照らす照明とは別に、作業部分を照らす局部照明が使われる場合があります。
潜水艦内部は機器や配管、操作盤などが密集しているため、作業する場所を十分に確認できる照明は安全面でも重要です。
赤色系のライトが使われる理由
潜水艦の照明について特に知られているのが、赤色系のライトです。
映画やドラマでも、潜水艦の艦内が赤い光に包まれる場面が描かれることがあります。
赤色光は暗順応を維持する目的で使われてきた
人間の目は、明るい場所から暗い場所へ移動しても、すぐに暗闇に適応できるわけではありません。
暗い環境で物を見やすい状態になるまでには時間が必要です。
この状態を暗順応と呼びます。
強い白色光を見ると暗順応が失われやすいため、夜間の見張りや暗い場所で行動する可能性がある場合には、明るさを抑えた赤色系の光が利用されてきました。
海軍でも、夜間の視力を維持する目的で赤色光を利用してきた歴史があります。
潜水艦の中が常に赤いわけではない
ただし、「潜水艦の中は常に赤色照明になっている」という理解は正確ではありません。
赤色系の照明は、必要に応じて使用される照明の一つです。
実際の照明環境は、区画や時間帯、任務、艦級などによって異なります。
そのため、潜水艦全体が常時赤色に照らされていると考えるのではなく、暗い環境への適応が必要な場面で低照度の有色照明が利用されることがある、と理解するとよいでしょう。
青色光が利用されることもある
潜水艦と青色光には、乗員の生活リズムという別の関係があります。
青色光は体内時計に影響する
人間の睡眠や覚醒には、概日リズムと呼ばれる約24時間周期の生体リズムが関係しています。
このリズムを整える大きな要因の一つが光です。
潜水艦では長期間にわたり太陽光を浴びにくいため、乗員の睡眠や覚醒リズムを維持することが課題になります。
そのため、米海軍では潜水艦乗員を対象として、青色光を利用して覚醒を促したり、睡眠前には青色光を遮断したりする研究が行われています。
青色光が潜水艦の標準照明という意味ではない
注意したいのは、青色光を利用した研究があるからといって、「現代の潜水艦は艦内を青色照明で照らしている」という意味ではないことです。
青色光は、概日リズムや睡眠管理の研究に利用されているものです。
通常の艦内照明とは分けて考える必要があります。
非常照明も重要な設備
潜水艦では、通常の照明が使えなくなった場合に備えて、非常照明も重要になります。
通常照明とは別に非常照明が用意される
潜水艦では、停電や機器故障、事故などが発生しても、乗員が安全に行動できなければなりません。
そのため、通常の照明とは別に非常時の照明系統が設けられます。
米海軍の潜水艦関連資料でも、通常照明回路と非常照明回路が区別されています。
これは、非常照明が単なる予備のライトではなく、艦の安全性を確保する設備の一つであることを示しています。
携帯型ライトも非常時に役立つ
固定式の非常照明だけでなく、携帯型ライトも非常時には重要です。
過去の潜水艦関連資料では、通常照明と非常照明の両方が使用できなくなった場合に備えて、携帯型の照明を準備する考え方も確認できます。
現代の潜水艦でも、停電時の点検や救助、消火活動、機器操作などでは携帯型ライトが役立つと考えられます。
ただし、具体的な数量や配置は艦級や海軍によって異なります。
計器や操作盤にも照明が使われている
潜水艦では、室内そのものを照らすライトだけでなく、艦を操作するための機器にも照明が組み込まれています。
計器やディスプレイを見やすくする照明
潜水艦では、深度や針路、速度、艦の姿勢、機関の状態、電力状態など、さまざまな情報を確認しながら運航します。
以前の潜水艦ではアナログ計器やランプが多く使われていましたが、現代ではデジタルディスプレイを利用する装備も増えています。
そのため、操作盤のバックライトやディスプレイそのものの発光も、艦内の照明環境を構成する重要な要素です。
異常を知らせる表示灯もある
操作盤や監視システムには、機器の状態や異常を示す表示灯や警報表示が設けられています。
潜水艦では、機器故障や浸水、火災などの異常を素早く把握することが重要です。
ただし、現代の潜水艦では警告灯だけで異常を知らせるわけではありません。
ディスプレイ表示、警報音、監視システムなどを組み合わせて乗員へ情報を伝えます。
潜水艦にも航海灯が搭載されている
潜水艦は海中だけで活動するわけではありません。
港への出入りや訓練、移動などでは、海面に浮上して航行することがあります。
浮上航行中は周囲の船舶から確認できる必要がある
海面上を航行しているときには、潜水艦も他の船舶との衝突を避けなければなりません。
そのため、浮上航行時には航海灯が必要になります。
一般的な動力船では、マスト灯、左舷側の赤色灯、右舷側の緑色灯、船尾灯などが航海規則によって定められています。
潜水艦もこうした航海規則に従う必要があります。
潜水艦では船体構造に合わせて配置される
潜水艦は一般的な商船とは船体形状が大きく異なります。
そのため、航海灯も商船とまったく同じ位置に設置されるとは限りません。
重要なのは、必要な方向から適切に認識できるよう、潜水艦の構造に合わせて配置されることです。
艦外作業では照明が使われることもある
潜水艦が港に停泊しているときには、甲板上でさまざまな作業を行います。
係留や整備では照明が必要になる
夜間の係留作業や整備、点検、乗員の乗り降りなどでは、作業場所を照らす照明が必要になります。
こうした場面では、艦に設置された照明だけでなく、可搬式ライトや岸壁側の照明が使用される場合もあります。
したがって、「すべての潜水艦に大型の艦外作業灯が固定装備されている」と考えるのは適切ではありません。
用途や状況に応じた照明が使用されると考えるのが正確です。
潜航中はヘッドライトで前方を照らしているのか
潜水艦についてよくある疑問の一つが、「深い海の中を進むなら、自動車のようなヘッドライトが必要なのではないか」というものです。
結論からいうと、通常の潜航航海では、自動車のような強力な前照灯を常時点灯して進むわけではありません。
水中では光が遠くまで届きにくい
海水中では光が吸収されたり散乱したりするため、空気中と同じように遠くまで見通すことはできません。
特に深い海では太陽光もほとんど届きません。
そのため、強力なライトを照射したとしても、自動車のヘッドライトのように遠距離を確認する用途には適していません。
潜水艦は目視ではなく各種センサーを利用する
潜水艦の航海では、海図や慣性航法装置、深度情報、各種センサーなどが利用されます。
海中の状況を把握するうえではソナーも重要です。
そのため、前方を目で見ながら操縦するというより、航法装置やセンサーから得られる情報を基に航行します。
ただし、特殊な作業や救難、潜水作業支援などで水中照明が使われる可能性はあります。
したがって、「潜水艦には水中ライトがまったく存在しない」とまで言い切るのは正確ではありません。
ソナーはライトの代わりではない
潜水艦ではソナーが重要な装備ですが、ソナーを「水中のライト」と考えるのは正確ではありません。
ソナーは光ではなく音を利用する
ソナーは、音波を利用して海中の情報を得る装置です。
アクティブソナーは音を発射し、その反射を利用して対象物を探知します。
一方、パッシブソナーは自ら音を出さず、周囲の船舶や機械などが発する音を受信します。
つまり、ライトが光を利用するのに対し、ソナーは音を利用しています。
軍用潜水艦ではパッシブソナーが重要になる場合もある
軍用潜水艦では、自ら音を発すると相手に存在を察知される可能性があります。
そのため、状況によっては自ら音を出さないパッシブソナーが重要になります。
これは、潜水艦が目視や照明だけに頼らず、音響情報を利用して周囲を把握していることを示しています。
潜水艦の照明は乗員の生活リズムにも関係する
潜水艦の照明には、作業や航海だけでなく、乗員の健康管理という側面もあります。
潜水中は太陽光を受けにくい
潜水艦の乗員は、長期間にわたって太陽光をほとんど浴びないことがあります。
そのため、時間帯を身体で認識しにくくなり、睡眠や覚醒のリズムが乱れる可能性があります。
こうした問題から、潜水艦では勤務時間や睡眠時間と合わせて光環境についても研究されています。
照明は単なる明かりではない
潜水艦における照明は、「暗い場所を明るくするための設備」だけではありません。
視認性や安全性を確保するとともに、暗順応を維持したり、乗員の睡眠や覚醒リズムを整えたりすることにも関係しています。
潜水艦という特殊な環境では、光そのものが勤務環境を構成する重要な要素の一つになっているのです。
潜水艦のライトについてのまとめ
潜水艦には、艦内を照らす通常照明をはじめ、非常照明、計器や操作盤の照明、状態表示灯、航海灯、携帯型ライトなど、目的の異なるさまざまな照明設備があります。
また、暗順応を維持する必要がある場面では、赤色系をはじめとした低照度照明が利用されることがあります。
一方、潜水艦の中が常に赤く照らされているわけではありません。
青色光についても、潜水艦乗員の概日リズムを調整する研究に利用されていますが、潜水艦の標準的な艦内照明が青色だという意味ではありません。
さらに、潜水艦は通常の潜航中に自動車のようなヘッドライトで海中を照らして進むわけではなく、航法装置や各種センサー、ソナーなどを利用して航行します。
潜水艦に搭載されるライトは、単なる照明ではなく、乗員が安全かつ効率的に艦を運用するための重要な設備といえるでしょう。
以上、潜水艦にはどのようなライトが搭載されているのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















