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規制の枠組み
クルーズ船は「海上の街」と呼ばれるほど多くの人々が生活しており、大量の生活排水が発生します。
そのため国際的には MARPOL条約附属書IV(汚水規制) が適用されます。
- 一般海域での排出条件
- IMOが承認した汚水処理装置を使えば、基準に適合した処理水を排出可能。
- 粉砕・消毒済の汚水は陸岸3海里以上離れていれば排出可。
- 未処理の汚水は12海里以上沖合で、航行中に限り排出可(概ね4ノット以上)。
- 特別海域
現在、汚水の特別海域はバルト海のみ。ここでは旅客船に対し、通常基準に加え「窒素・リンの除去」も求められます。
※地中海やアラスカはよく混同されますが、IMOの「汚水の特別海域」ではありません。地中海は2025年から大気汚染規制(SOx ECA)、アラスカは米国や州独自の排水規制が存在します。
排水の種類
- ブラックウォーター:トイレや医務室などからの排水。
- グレイウォーター:厨房、シャワー、洗濯などから出る排水。国際的には未規制ですが、アラスカなど一部地域では厳格に規制されています。
- ビルジ水:機関室などで発生する油分を含む水。これは油水分離装置で管理されます。
主な処理技術
現代のクルーズ船は、船内に「小型下水処理場」とも言える装置を備えています。
- 生物処理:活性汚泥や膜分離活性汚泥法(MBR)で有機物を分解。
- 膜分離・ろ過:限外ろ過や微細ろ過で固形物を除去。
- 消毒:紫外線、オゾン、塩素などを使って大腸菌を殺菌。
※「逆浸透(RO)」は主に海水を淡水化するための技術であり、汚水処理そのものに使われることは一般的ではありません。
排出水の水質基準
IMOの型式承認基準(MEPC.227(64))により、処理水は以下を満たす必要があります。
- BOD5:25 mg/L以下
- COD:125 mg/L以下
- 懸濁物質(TSS):35 mg/L以下
- 耐熱性大腸菌群:100/100mL以下
- バルト海域の旅客船:窒素・リンの追加削減要件
よく「飲料水レベルに近い」と表現されますが、正しくは「国際基準を満たす再利用可能な水準」であり、飲料水として利用されるわけではありません。
汚泥(スラッジ)の扱い
処理過程で出る汚泥は濃縮・脱水された上で、原則として港の陸上施設で処分されます。
ただし受入施設がない場合、条件付きで12海里以遠での投棄を認める旗国運用もあります(今後のIMO改正で明確化予定)。
最新動向と地域規制
- ゼロ排出ポリシー:一部のクルーズ会社は自主的に、特定海域で処理水すら排出しない「ゼロ排出」を運用。例:米国アラスカ州グレーシャーベイ国立公園では排出禁止。
- 高度処理システム(AWTS):米国規制に対応するため、主要船社が導入。規制当局による水質モニタリングも行われています。
- 再利用:処理水を洗浄や冷却水などに利用するケースもありますが、必ずしも全船で普及しているわけではありません。
まとめ
クルーズ船の汚水処理は以下のように整理できます。
- MARPOL附属書IVに基づき、距岸条件・航行条件・承認済み装置の使用で管理。
- 特別海域はバルト海のみ(N・P除去が必須)。
- ブラックウォーターは規制対象、グレイウォーターは未規制だが地域規制あり。
- 処理方式はMBR+消毒が主流。
- 汚泥は陸上処理が原則、例外的に海上処分も条件付きで可能。
- 最新船はゼロ排出やAWTS導入でさらに厳格化。
以上、クルーズ船の汚水処理についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。