船底塗装は自分でもできる
プレジャーボートやヨットなどの船底塗装は、設備や作業場所が確保できれば自分で行うことも可能です。
ただし、船底塗装は単に塗料を塗るだけの作業ではありません。
船を上架したうえで、船底の洗浄、旧塗膜の確認、サンディング、養生、塗装、乾燥、進水までを適切な手順で進める必要があります。
また、使用する船底塗料によって塗装方法や乾燥時間、適合する船体材質などが異なります。
DIYで施工する場合は、必ず使用する塗料の製品仕様書やSDS、安全上の注意事項を確認しましょう。
さらに、マリーナや造船所によっては、DIYによる塗装や研磨作業が禁止されている場合があります。
作業を始める前に、施設側へ船底塗装を自分で行えるか確認しておくことも大切です。
船底塗装を自分で行う際に必要な道具
船底塗装をDIYする場合は、事前に必要な道具をそろえておきましょう。
代表的な道具としては、次のようなものがあります。
- 船底防汚塗料
- 必要に応じたプライマーやバインダーコート
- メーカー指定のシンナー
- ローラー
- ローラーハンドル
- 刷毛
- 塗料トレー
- スクレーパー
- サンドペーパーや耐水ペーパー
- マスキングテープ
- 養生シート
- ウエス
- 洗浄用品
- 保護メガネ
- 防護手袋
- 防護服
- 作業内容に適した呼吸用保護具
特に旧船底塗料を研磨する場合は粉じんが発生します。
また、溶剤を含む塗料では有機溶剤蒸気への対策が必要になる場合があります。
使用する塗料のSDSを確認し、作業内容に適した保護具を使用してください。
船底塗装を自分で行う手順
船を上架する
船底塗装を行うためには、基本的に船を陸上へ上架する必要があります。
海上に浮かべたままでは船底全体を適切に施工できないため、マリーナや造船所などの上架設備を利用します。
上架を依頼するときは、上架料金だけでなく、船台使用料や作業場所使用料、DIY作業の可否についても確認しておきましょう。
施設によっては使用できる工具や塗料、研磨方法などが指定されている場合もあります。
船底に付着した汚れや生物を除去する
上架後は、船底に付着している汚れや海洋生物を除去します。
船底には、次のようなものが付着していることがあります。
- 海藻
- スライム
- 泥
- フジツボ
- 貝類
- 塩分
フジツボなどの硬い付着物は、スクレーパーなどを使って除去します。
その後、清水で船底を十分に洗浄し、塩分や汚れを落とします。
高圧洗浄機を使用できる施設もありますが、船外機やスターンドライブ、センサー類などには高圧洗浄が適さない箇所が存在する場合があります。
船体や機器の取扱説明書、施設のルールを確認したうえで作業してください。
船底を乾燥させる
洗浄後は、塗装面に水分が残らないよう乾燥させます。
濡れた状態で塗装すると、塗料の密着不良や膨れ、剥がれなどにつながる可能性があります。
ただし、必要な乾燥条件は気温や湿度、船体材質、使用する塗料などによって異なります。
「必ず何時間乾燥させる」と一律に判断するのではなく、製品仕様に従いましょう。
旧塗膜の状態を確認する
次に、現在塗られている船底塗料の状態を確認します。
旧塗膜がしっかり密着している場合は、毎回すべてを剥がす必要があるとは限りません。
一方で、次のような状態が見られる場合は注意が必要です。
- 塗膜が浮いている
- 大きく剥がれている
- ひび割れている
- 厚く積層している
- 粉状に劣化している
劣化している部分は、スクレーパーやサンドペーパーなどを使用して除去します。
また、新しく使用する船底塗料と旧塗膜との相性も確認する必要があります。
塗料同士の相性によっては、旧塗膜の全面除去やバインダーコートの施工が必要になる場合があります。
浮いている旧塗膜を除去する
旧塗膜が浮いたり剥がれたりしている部分は、スクレーパーを使って除去します。
ここで重要なのは、船体そのものまで無理に削らないことです。
特にFRP艇では、表面のゲルコートを傷つけると補修が必要になる場合があります。
基本的には、密着していない塗膜を中心に取り除きます。
船底をサンディングする
旧塗膜を整えたら、塗料の密着性を高めるためにサンディングを行います。
通常の塗り替えでは、船底そのものを削ることが目的ではありません。
旧塗膜の表面を均一に荒らし、新しい塗料が密着しやすい状態を作ることが主な目的です。
サンドペーパーの番手は、使用する船底塗料や旧塗膜、船体材質などによって異なります。
一般的なDIY向け施工例では150~200番程度の耐水ペーパーが使われる場合もありますが、必ず使用する製品の仕様を優先してください。
研磨粉や汚れを除去する
サンディング後は、船底表面に付着した研磨粉を十分に除去します。
粉じんが残ったまま塗装すると、塗料が正常に密着しない可能性があります。
清水洗浄や集じん、メーカー指定の方法などによって表面をきれいにします。
油分やワックスなどが付着している場合は、塗料メーカーが指定するクリーナーなどで除去します。
自己判断でラッカーシンナーや強い溶剤を使用するのは避けましょう。
また、旧船底塗料の研磨粉には防汚成分が含まれていることがあります。
粉じんを周囲へ飛散させたり、海や排水路へ流したりしないよう適切に養生・回収してください。
塗装前にマスキングを行う
吃水線をマスキングする
下地処理が終わったら、塗装しない部分をマスキングします。
特に吃水線は船体側面との境界として目立ちやすいため、できるだけまっすぐにマスキングテープを貼ります。
既存の塗装ラインが残っている場合は、それを基準にすると施工しやすくなります。
アノードや金属部を養生する
船底に付いている部品すべてに同じ船底塗料を塗れるわけではありません。
特に注意したいのが、次のような部分です。
- アノード
- プロペラ
- シャフト
- スターンドライブ
- トランスデューサー
- アルミニウム部品
- 軽合金部品
アノードは金属部分を腐食から守るために設置されているため、塗料で覆ってはいけません。
周囲をマスキングして、塗料が付着しないようにします。
また、銅系防汚成分を含む船底塗料の中には、アルミニウムや軽合金に使用できない製品があります。
アルミ船やスターンドライブ、プロペラなどには、材質に適合した製品を使用することが重要です。
必要に応じてプライマーを塗る
プライマーが必要か確認する
船底防汚塗料を塗る前に、プライマーやバインダーコートが必要になる場合があります。
ただし、船底塗装では必ずプライマーを塗るわけではありません。
必要性は、次のような条件によって変わります。
- 船体材質
- 素地の状態
- 旧塗膜の種類
- 新しく使用する塗料
- 補修部分の有無
たとえば、FRPの素地が露出した場合や、旧塗膜と新しい塗料の相性が悪い場合には、メーカー指定の下塗り材が必要になることがあります。
自己判断ではなく、使用する塗料メーカーの塗装仕様を確認してください。
船底塗料を塗る
塗料を十分に攪拌する
船底防汚塗料は、缶の中で顔料や防汚成分が沈殿している場合があります。
使用前には、缶の底から十分にかき混ぜます。
施工中も必要に応じて攪拌し、塗料の状態を均一に保ちましょう。
粘度調整のために希釈が必要な場合も、メーカー指定のシンナーを使用します。
一般的なラッカーシンナーやペイント薄め液を自己判断で混ぜると、塗膜性能に影響する可能性があります。
広い面はローラーで塗る
船底の広い部分は、ローラーを使うと効率よく施工できます。
ここで重要なのは、単に「薄く塗る」ことではありません。
船底防汚塗料は、製品ごとに必要な塗布量や膜厚が決められています。
極端な厚塗りは避けつつ、メーカーが指定する使用量や塗膜厚になるよう均一に塗装します。
細かい部分は刷毛で塗る
ローラーが入りにくい場所は刷毛を使用します。
たとえば、船尾周辺やキール周辺、船底金具の近く、曲面部分などです。
ローラーと刷毛を使い分けることで、塗り残しを減らせます。
指定時間乾燥させて重ね塗りする
塗り重ね時間を守る
1回目の塗装が終わったら、メーカーが指定する塗り重ね時間まで乾燥させます。
表面を触って乾いているように感じても、次の塗装が可能な状態まで乾燥しているとは限りません。
気温や湿度によって乾燥時間も変化します。
必ず使用する塗料の仕様書に記載された時間を確認してください。
メーカー指定の回数まで塗装する
船底塗料は2回塗りで施工されるケースが多くありますが、すべての製品が必ず2回塗りとは限りません。
使用する製品によって推奨塗装回数や必要膜厚が異なります。
塗装回数そのものではなく、メーカーが指定する塗布量や膜厚を確保することが重要です。
摩耗しやすい場所は増し塗りする
船首や吃水線周辺は塗膜が減りやすい
船底の中でも、水流が強く当たる場所や乾湿を繰り返す場所は塗膜が摩耗しやすくなります。
代表的なのは、次のような部分です。
- 船首
- 船尾
- 吃水線周辺
- キール前縁
使用する製品の施工仕様で推奨されている場合は、こうした部分を増し塗りします。
ただし、無制限に厚くするのではなく、メーカー指定の塗膜厚を守ることが重要です。
船台で隠れている部分を塗装する
支持部分は施設側に対応してもらう
上架中の船は、船台や支持具によって支えられています。
そのため、最初の塗装では支持部分が隠れて塗れない場合があります。
必要に応じて支持位置を変更し、未塗装部分を施工します。
ただし、自分で船をジャッキアップしたり、船台を勝手に動かしたりするのは非常に危険です。
支持位置の変更は、必ずマリーナや造船所の担当者などに依頼してください。
マスキングテープを剥がす
塗装作業が終了したら、マスキングテープを慎重に剥がします。
剥がすタイミングについては塗料や施工条件によって異なるため、製品の施工方法を確認します。
塗膜を傷つけないよう、ゆっくりと作業しましょう。
規定時間乾燥させてから進水する
最短進水時間を確認する
船底塗料を塗り終わっても、すぐに海へ戻してよいとは限りません。
製品には、最終塗装から進水できるまでの最短時間が設定されている場合があります。
乾燥時間を守らず進水すると、塗膜性能が十分に発揮されない可能性があります。
最長進水時間も確認する
船底防汚塗料によっては、塗装後から進水までの最長期間が設定されている場合もあります。
そのため、「十分に乾燥させれば何日置いてもよい」とは限りません。
上架予約や進水予定を組む際は、塗り重ね時間だけでなく、進水可能時間も確認しておきましょう。
自分で船底塗装をするときの注意点
旧塗膜と新しい塗料の相性を確認する
DIY施工で特に注意したいのが、新旧塗料の相性です。
船底防汚塗料にはさまざまな種類があり、別の製品をそのまま上塗りできるとは限りません。
相性が悪い場合は、塗膜の剥がれや膨れ、縮みなどが発生する可能性があります。
現在使用されている塗料がわかる場合は、塗料メーカーの適合表などを確認しましょう。
旧塗料が不明な場合は、メーカーや施工業者へ相談するのも一つの方法です。
FRPを削りすぎない
サンディングは塗膜の密着性を高めるための工程です。
FRP船体そのものを深く削ることが目的ではありません。
電動サンダーなどで削りすぎると、ゲルコートを傷つける可能性があります。
旧塗膜を全面剥離する作業は通常の塗り替えより難易度が高いため、状態によっては専門業者への依頼も検討しましょう。
アノードには塗装しない
防食亜鉛などのアノードは、船体や金属部品を腐食から守る役割があります。
塗料で覆ってしまうと正常に機能しなくなる可能性があります。
プライマーや船底塗料を付着させず、必要に応じてマスキングしてください。
アルミ部分には適合する塗料を使う
銅系防汚成分を含む船底塗料の中には、アルミニウムに使用できない製品があります。
アルミ船体やアルミ製スターンドライブなどへ使用すると、腐食につながる可能性があります。
必ず製品の適用材質を確認し、アルミや軽合金に対応した塗料を選びましょう。
プロペラには専用品を使用する
FRP船底用の防汚塗料を、そのままプロペラへ流用できるとは限りません。
プロペラには材質や使用環境に適した専用塗装システムがあります。
メーカーの指定を確認し、適合する製品を使用してください。
研磨粉や廃液を適切に処理する
船底塗料には防汚成分や有機溶剤などが含まれる場合があります。
削りカスや研磨粉、塗料、シンナーなどを海や地面、排水路へ流してはいけません。
作業場所には養生シートを敷き、廃棄物を回収します。
処分方法は、マリーナや自治体の規則に従ってください。
初心者は通常の塗り替えから始めるのがおすすめ
船底塗装には、大きく分けて「通常の塗り替え」と「旧塗膜の全面剥離」があります。
旧塗膜が良好に密着しており、新しく使用する塗料との互換性にも問題がなければ、通常の塗り替えの方がDIYでは取り組みやすいでしょう。
一方、全面剥離では旧塗膜を完全に除去する必要があり、船体表面を傷つけるリスクも高くなります。
その後の下地補修やプライマー施工なども必要になるため、通常の塗り替えより作業量が大幅に増えます。
船底の状態が悪い場合や、塗膜の種類がわからない場合は、無理にDIYせず専門業者へ相談することも検討しましょう。
船底塗装を自分で行う際の基本的な流れ
船底塗装を自分で行う場合は、基本的に次の順序で進めます。
上架
→ 付着生物や汚れの除去
→ 清水洗浄
→ 乾燥
→ 旧塗膜の確認
→ 浮いた塗膜の除去
→ サンディング
→ 研磨粉や汚れの除去
→ マスキング・養生
→ 必要に応じてプライマーやバインダーコートを施工
→ 船底防汚塗料を塗装
→ 指定時間乾燥
→ 必要回数を重ね塗り
→ 必要箇所を増し塗り
→ 船台で隠れていた部分を施工
→ マスキングを除去
→ 指定時間乾燥
→ 進水
船底塗装では、ローラーで塗料を塗る作業そのものよりも、洗浄や旧塗膜の確認、サンディングなどの下地処理が仕上がりを大きく左右します。
また、使用する塗料によって施工条件が大きく異なるため、一般的な作業方法だけで判断しないことが重要です。
船体材質、旧塗膜との相性、サンドペーパーの番手、塗布量、塗り重ね時間、進水時間などについては、必ず使用する製品の施工仕様を確認してから作業を進めましょう。
以上、船底塗装を自分で行う方法についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






