船底塗装をグラインダーで剥がす方法
船底塗装を長年繰り返していると、古い塗膜が何層にも重なり、ひび割れや剥がれが発生することがあります。
このような場合、古い船底塗装を除去してから下地を整え、新しく塗装し直す方法があります。
旧塗膜を除去する工具としてグラインダーが使われることもありますが、特にFRP艇では注意が必要です。
グラインダーは研削力が強いため、船底塗料だけでなくプライマーやゲルコート、場合によってはFRP本体まで削ってしまう可能性があります。
さらに、防汚塗料は一般的な塗料とは異なり、防汚成分を含んでいます。
メーカーによっては、防汚塗料を乾式で研磨せず、湿式サンディングを行うよう明確に指定しています。
International Yacht Paintでは、防汚塗料へのばく露を抑えるため、防汚塗料は湿式で研磨するよう案内しています。
したがって、船底塗装を剥がす場合は「とりあえずグラインダーで削ればよい」と考えるのではなく、船体の材質や旧塗膜の種類、新しく使用する塗料の施工要領を確認して方法を選ぶことが重要です。
船底塗装を剥がしたほうがよいケース
古い塗膜が何層も重なっている
船底塗装は定期的に塗り替えるため、古い塗膜を残したまま新しい塗料を重ねていくと、徐々に塗膜が厚くなっていきます。
塗膜が厚くなりすぎると内部に応力が生じ、ひび割れや浮き、剥離などが発生しやすくなります。
その場合は、単純に新しい船底塗料を重ねるのではなく、古い塗膜を除去して塗装系を作り直すことが検討されます。
船底塗料が浮いたり剥がれたりしている
旧塗膜がすでに船体から浮いている場合、その上から新しい塗料を塗っても、古い塗膜ごと剥がれてしまう可能性があります。
塗膜がパリパリと剥がれる、部分的に大きく浮いている、ひび割れているといった状態なら、密着していない塗膜を取り除いてから塗り直す必要があります。
ただし、健全に密着している塗膜まで必ずすべて除去しなければならないわけではありません。
状態のよい塗膜は残し、浮いている部分だけを除去して補修できるケースもあります。
過去に使用した船底塗料が分からない
現在の船底に何が塗られているのか分からない場合にも注意が必要です。
船底塗料にはさまざまな種類があり、新旧の塗料に相性の問題がある場合があります。
互換性のない塗料をそのまま重ねると、密着不良を起こす可能性があります。
旧塗膜の種類が分からない場合は、新しく使用する船底塗料メーカーの施工要領を確認し、必要に応じて旧塗膜の除去やバリアコートなどを行います。
船底塗装をグラインダーで剥がす際の注意点
防汚塗料の乾式研磨は避ける
最も注意したいのが、防汚塗料をグラインダーなどで乾式研磨することです。
防汚塗料には海藻や貝類などの付着を防ぐ成分が含まれています。
乾いた状態で削ると細かな粉じんが大量に発生し、作業者が吸い込んだり、周囲へ飛散したりする可能性があります。
International Yacht Paintは、防汚塗料について「乾式サンディングを行わず、湿式サンディングを行う」ことを案内しています。
そのため、防汚塗料の除去方法については、使用している塗料メーカーの施工要領書やSDSを確認することが重要です。
FRP艇では削り過ぎに注意する
FRP艇では、船体表面にゲルコートが施工され、その上にプライマーや船底塗料が塗られていることがあります。
一般的な構成を単純化すると、
船底防汚塗料
↓
プライマー・バリアコート
↓
ゲルコート
↓
FRP積層材
という状態です。
グラインダーは研削力が非常に強いため、船底塗料だけを削っているつもりでも、短時間でプライマーやゲルコートまで削り込んでしまう可能性があります。
Internationalも、GRP・FRP艇を粗い研磨材で研磨すると表面を傷つける可能性があるとして注意を促しています。
ガラス繊維が見えるまで削らない
通常の船底塗装の除去では、FRPのガラス繊維を露出させる必要はありません。
研磨中にガラス繊維が見えてきた場合、通常の塗膜除去としては削り過ぎている可能性があります。
Internationalでも、FRPを過度に研磨するとゲルコート内部の多孔質な部分を露出させ、補修が難しくなる可能性があると説明しています。
オズモシス修理やFRP積層補修などを目的として意図的に削る場合は別ですが、単純な船底塗料の塗り替えでは、健全なゲルコートやFRPを必要以上に削らないことが重要です。
船底塗装を剥がす基本的な手順
船を安全に上架する
船底塗装を剥がすには、まず船を陸上へ上架します。
船台やスタンドなどで船体を確実に支持し、作業中に船体が動かない状態にします。
特に船底の下へ入って作業する場合は、船体の支持が不十分だと重大な事故につながるため、マリーナや造船所の指示に従って作業してください。
船底を高圧洗浄する
上架した船底には、海藻、スライム、貝類などの付着物や塩分が残っています。
まず高圧清水洗浄などで船底を洗い、付着物や汚れを除去します。
Internationalの船底塗装除去手順でも、旧防汚塗料を除去する前に高圧清水洗浄を行い、浮いた防汚塗料などを除去する工程が示されています。
浮いている塗膜をスクレーパーで除去する
いきなりグラインダーで全面を削るのではなく、まずスクレーパーなどで浮いている塗膜を取り除く方法が適しています。
密着していない塗膜であれば、機械研磨をしなくても比較的簡単に除去できる場合があります。
Internationalでも、状態の悪い塗膜については、最初にスクレーパーで浮いた塗料を取り除く方法を案内しています。
グラインダーなどの強力な工具を使用する範囲を減らすことで、船体を傷つけるリスクも抑えられます。
グラインダーを使用する場合のポイント
グラインダーを第一選択にしない
FRP艇の船底防汚塗料を除去する場合、ディスクグラインダーを最初から全面に使用する方法はおすすめできません。
グラインダーは、金属船体の錆落としや裸の金属面の研削などには有効です。
一方、FRPでは表面を削り過ぎるリスクが高くなります。
特に「短時間で全部削り落とそう」とすると、ゲルコートまで削ってしまう可能性があります。
使用する研磨材の指定を確認する
グラインダーには、研削砥石、フラップディスク、サンディングディスクなどさまざまな研磨材があります。
適切な使用角度や回転速度も製品によって異なるため、一律に「何度で当てればよい」とは言えません。
使用する工具と研磨材それぞれの取扱説明書を確認し、指定された条件で使用する必要があります。
同じ部分を長時間削らない
回転工具を同じ場所へ当て続けると、一部分だけ深く削れてしまいます。
特にFRP船体では、船底の曲面、チャイン、キール周辺などで工具が局所的に強く当たりやすくなります。
船体形状が複雑な場所については、スクレーパーや手作業による研磨などへ切り替えることも検討してください。
サンドペーパーは何番を使用する?
通常の塗り替えと完全剥離では番手が異なる
船底塗装に使用するサンドペーパーの番手は、作業の目的によって異なります。
日本ペイントマリンのヨット・ボート向け塗装ガイドでは、塗り替え時に用意する耐水ペーパーとして「#150~#200」が例示されています。
ただし、#150~#200が「古い船底塗装を完全に剥がすための指定番手」という意味ではありません。
通常の塗り替え前に表面を整えるための研磨と、厚く積層した旧塗膜を除去する作業では目的が異なります。
完全剥離では粗い番手が使われる場合もある
Internationalでは、旧防汚塗料を除去する方法の一つとして、80番程度の粗い研磨材を使用した湿式サンディングを案内しています。
ただし、粗い研磨材はFRP表面を傷つける可能性があります。
そのため、
「船底塗装なら必ず80番」
「必ず150番」
などと番手だけで判断するのではなく、塗膜の状態、船体材質、使用する塗装システムに応じて選ぶ必要があります。
最終的には、新しく施工する塗料メーカーの仕様を優先してください。
グラインダー以外の船底塗装の剥がし方
スクレーパーで剥がす
旧塗膜が浮いている場合は、スクレーパーによる除去が有効です。
浮いた塗膜を先にスクレーパーで取り除けば、その後に研磨する範囲を減らせます。
FRPを電動工具で削り過ぎるリスクも抑えやすいため、まず検討したい方法です。
湿式サンディングで剥がす
防汚塗料については、メーカーによって湿式サンディングが指定されています。
Internationalでは、防汚剤へのばく露を最小限に抑えるため、防汚塗料は湿式で研磨するよう案内しています。
水を使って研磨することで粉じんの飛散を抑えられますが、研磨によって発生した汚水をそのまま地面や海へ流してよいわけではありません。
塗料剥離剤を使用する
旧船底塗料に対応した化学剥離剤を使う方法もあります。
ただし、FRP艇では注意が必要です。
剥離剤の種類によっては、FRPやゲルコート、既存のプライマーに悪影響を与える可能性があります。
Internationalも、化学剥離剤をGRP・FRPへ使用する場合、その製品がFRP表面に適合していることを確認するよう案内しています。
一般的な建築用や自動車用の塗料剥離剤を、確認せず船体へ使用することは避けましょう。
古い船底塗装は毎回すべて剥がす必要がある?
密着している塗膜は残せる場合がある
船底塗料を塗り替えるたびに、毎回すべての塗膜を剥がす必要があるわけではありません。
旧防汚塗料がしっかり密着しており、新しく塗る防汚塗料との互換性にも問題がなければ、洗浄や必要な表面処理を行ったうえで塗り重ねられる場合があります。
Internationalも、旧防汚塗料と新しい防汚塗料に互換性があり、既存塗膜の状態が良好であれば、その上から施工できる場合があるとしています。
浮いた塗膜はしっかり除去する
一方、密着していない塗膜を残したまま新しく塗装すると、その部分から再び剥がれる可能性があります。
浮いている部分についてはスクレーパーなどで除去し、健全な塗膜との境界部分を滑らかに整えてから再塗装します。
塗膜全体の密着状態が悪く、健全な境界が得られない場合には、全面剥離が必要になることもあります。
船底塗装を剥がしたあとの処理
塗膜の段差を整える
古い塗膜を部分的に除去すると、残った塗膜との境界に段差ができます。
そのまま塗装すると新しい塗膜にも凹凸が出るため、境界を滑らかに研磨して仕上げます。
下地に異常がないか確認する
船底塗装を取り除いたら、下地の状態を確認します。
ゲルコートのひび割れ、膨れ、ピンホール、過去の補修跡、FRPの損傷などが見つかることがあります。
特に膨れが多数発生している場合は、単なる塗装の問題ではなくオズモシスなどが関係している可能性もあるため、専門業者へ相談することも検討してください。
必要に応じてプライマーを施工する
旧塗膜を完全に剥がした場合や、部分的に下地が露出した場合は、船体材質と使用する船底塗料に適したプライマーが必要になることがあります。
どのプライマーを使用するかは、新しく塗る船底塗料の施工仕様に従います。
自己判断で異なるメーカーや種類の塗料を組み合わせると、密着不良などの原因になる可能性があります。
船底塗装を剥がすときの安全対策
防護具を着用する
船底塗装の除去作業では、使用する塗料や作業方法に応じた保護具が必要です。
一般的には、
・適切な呼吸用保護具
・保護メガネまたはゴーグル
・手袋
・長袖・長ズボンまたは作業用防護服
・安全靴など
を使用します。
必要な保護具は塗料によって異なるため、製品ラベルやSDSを確認してください。
削りカスや汚水を回収する
船底塗料を剥がす際は、周囲への飛散や環境への流出にも注意が必要です。
Internationalでは、防汚塗料を除去する前に作業場所を養生し、除去時に発生する残留物や洗浄水を回収して、地域の法令に従って処理するよう案内しています。
湿式サンディングだからといって、削りカスを含む水を地面や海へそのまま流さないようにしましょう。
マリーナや造船所では独自の作業ルールが定められている場合もあるため、作業前に確認が必要です。
船底塗装をグラインダーで剥がす場合は慎重に作業する
船底塗装をグラインダーで剥がすこと自体が、すべてのケースで間違いというわけではありません。
金属船体の腐食部分の研削など、グラインダーが適している作業もあります。
しかし、FRP艇の船底防汚塗料を除去する場合、グラインダーで強く乾式研削する方法を安易に選ぶべきではありません。
FRP艇であれば、まず高圧洗浄を行い、浮いている塗膜をスクレーパーで除去します。
そのうえで必要に応じて、
スクレーパー
↓
メーカー指定の湿式サンディング
↓
FRPに適合した剥離剤
↓
必要な場合のみ専門的な機械研磨
といった方法を検討するとよいでしょう。
特に重要なのは、古い船底塗料を剥がすことと、FRPやゲルコートまで削ることは別であるという点です。
船底塗装をきれいに剥がそうとしてゲルコートやFRPまで傷つけてしまうと、塗装だけでなく船体補修が必要になる可能性があります。
作業前には、旧塗膜の状態と船体材質を確認し、新しく使用する船底塗料の施工要領書やSDS、マリーナの作業規則に従って適切な方法を選択することが大切です。
以上、船底塗装をグラインダーで剥がす方法についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






