潜水艦と潜水艇の違いについて

潜水艦と潜水艇は、どちらも水中を航行できる乗り物ですが、一般的には大きさや航続能力、自立性、用途、母船への依存度などに違いがあります。

ただし、「この大きさ以上なら潜水艦、この大きさ以下なら潜水艇」という世界共通の明確な基準があるわけではありません。

名称や分類は国や組織、用途などによって異なるため、サイズだけで両者を区別するのは適切ではありません。

一般的には、潜水艦は長距離・長期間にわたって独立して航海できる艦艇を指すことが多く、潜水艇は母船などの支援を受けながら、特定の海域で調査や作業を行う比較的小型の水中ビークルを指すことが多いと考えると分かりやすいでしょう。

目次

潜水艦と潜水艇の主な違い

潜水艦と潜水艇の違いを整理すると、次のようになります。

比較項目潜水艦潜水艇
規模比較的大型のものが多い比較的小型のものが多い
自立航行能力高いものが一般的限定的なものが多い
航続能力長距離・長期間の航海が可能比較的限定されるものが多い
1回の潜航長期間に及ぶ場合がある数時間程度のものも多い
乗員数十人から100人以上の場合もある数人程度のものが多い
居住設備長期生活用の設備を備える最小限の場合が多い
主な用途主に軍事調査・観光・救難・作業・軍事など
母船への依存基本的に単独運用が可能母船を必要とするものが多い
主な動力原子力、ディーゼル・エレクトリックなどバッテリーなどさまざま

特に大きな違いとなるのが、長距離を自力で航海できるかどうかです。

潜水艦は一つの艦艇として長期間活動できるように設計されています。

一方、潜水艇は特定の海域まで母船によって運ばれ、そこで一定時間の潜航や作業を行った後に回収されるタイプが多くあります。

潜水艦とは

潜水艦とは、水中を航行する能力を持ち、比較的長期間にわたって独立して任務を遂行できる艦艇を指すのが一般的です。

現代では、主として海軍が運用する軍用艦艇として利用されています。

水中航行を主目的とした艦艇

潜水艦は水中での航行を主目的として設計されていますが、水上を航行することもできます。

港への出入りや状況に応じた航行では、水上を航行する場合があります。

一方、任務海域では水中に潜航しながら活動することが基本です。

特に現代の原子力潜水艦などは、長期間にわたって水中で活動する能力を重視して設計されています。

長期間生活できる設備を備えている

潜水艦では数十人以上の乗員が長期間生活するため、艦内にはさまざまな設備があります。

代表的なものとして、以下が挙げられます。

  • 寝台
  • 厨房
  • 食事スペース
  • トイレ
  • シャワー
  • 食料庫
  • 空調設備
  • 酸素供給設備
  • 二酸化炭素除去設備
  • 真水を確保するための設備

こうした設備によって、乗員は長期間にわたって艦内で生活しながら任務を続けることができます。

主に軍事目的で使用される

現代の潜水艦は、主として軍事目的で運用されています。

用途によって複数の種類があり、代表的なものとして攻撃型潜水艦や弾道ミサイル潜水艦などがあります。

敵の艦艇を監視したり、情報を収集したりする任務に使用されることもあります。

ただし、「潜水艦」という言葉を絶対的に軍用だけに限定できるわけではありません。

一般的には、現代の大型で自立航行能力の高い軍用水中艦艇を潜水艦と呼ぶケースが中心です。

潜水艇とは

潜水艇とは、水中で調査や観測、作業などを行うために使用される比較的小型の水中ビークルを指すことが多い言葉です。

英語では「submersible」と表現される場合があり、「submarine」と区別されることがあります。

ただし、日本語でも英語でも分類が完全に統一されているわけではありません。

比較的小型のものが多い

潜水艇は、潜水艦と比較すると小型のものが多く、乗員も数人程度であるケースが一般的です。

特に深海調査用の有人潜水艇では、操縦者と研究者など少人数が搭乗します。

深海では非常に大きな水圧がかかるため、人が乗り込む耐圧殻はコンパクトに設計される傾向があります。

そのため、大型潜水艦のような広い居住区を持たず、人が自由に歩き回れないほど内部空間が限られているものもあります。

母船と組み合わせて運用されるものが多い

潜水艇の大きな特徴の一つが、母船への依存度です。

多くの潜水艇は、自力で長距離を航行して調査地点まで移動するのではなく、支援母船によって目的海域まで運ばれます。

現地に到着すると、母船から潜水艇を海へ降ろし、潜航して調査や作業を行います。

活動終了後は海面へ浮上し、再び母船へ回収されます。

したがって、潜水艇そのものだけではなく、母船や整備設備などを含めたシステムとして運用されることが多いのが特徴です。

深海調査など幅広い用途がある

潜水艇は軍事以外にも幅広く利用されています。

主な用途としては、以下が挙げられます。

  • 深海調査
  • 海底地形の観測
  • 深海生物の研究
  • 沈没船の調査
  • 海底設備の確認
  • 観光
  • 救難活動
  • 軍事用途

このように、潜水艇は特定の水中作業を行うために設計されるケースが多くあります。

潜水艦と潜水艇は大きさだけでは区別できない

潜水艦と潜水艇を比較すると、潜水艦のほうが大型、潜水艇のほうが小型という傾向があります。

しかし、大きさだけを基準に分類することはできません。

自立航行能力が重要なポイント

両者を理解するうえで重要なのが、自力でどこまで活動できるかという点です。

潜水艦は通常、港から自力で出航し、長距離を航海して任務を行った後、自力で帰港できます。

燃料や食料などを搭載し、乗員が長期間生活するための設備も備えています。

一方、多くの潜水艇は母船などの支援を前提としており、活動できる海域や時間も比較的限られています。

そのため、単純なサイズよりも、

  • 航続距離
  • 潜航時間
  • 自立性
  • 母船への依存度
  • 用途

などを総合的に見ることが重要です。

潜水艦は長距離航海、潜水艇は特定作業を重視する傾向がある

潜水艦と潜水艇の違いをイメージする際には、それぞれが重視している能力を見ると理解しやすくなります。

潜水艦は航海能力を重視する

潜水艦では、広い海域を移動しながら長期間任務を継続できる能力が重要です。

そのため、航続力や推進能力、乗員の生活環境などが重視されています。

一つの艦艇として独立して活動できることが大きな特徴です。

潜水艇は目的地での活動能力を重視する

一方、潜水艇では、深海調査や海底観察、救難作業など、特定の場所で目的を達成する能力が重視される傾向があります。

例えば深海調査用であれば、長距離航海よりも深い海へ安全に潜る能力や観察性能が重要です。

そのため、航続距離よりも耐圧性能や観測機器などを重視した設計になることがあります。

有人潜水調査船「しんかい6500」は潜水艇の代表例

日本の代表的な有人深海探査用の機体として知られているのが、JAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」です。

最大6,500メートルまで潜航できる

「しんかい6500」は、その名称のとおり最大6,500メートルまで潜航できる有人潜水調査船です。

深海の地形や地質、生物などを調査するために利用されています。

搭乗者は少人数で、耐圧殻の内部から観察窓や各種観測機器などを使って調査します。

支援母船と組み合わせて運用される

「しんかい6500」は単独で遠洋を航海して調査地点まで移動するのではなく、支援母船「よこすか」と組み合わせて運用されます。

目的海域まで母船で移動した後、潜水調査船を海へ降ろして潜航させます。

こうした運用方法は、一般的な大型潜水艦との違いを理解するうえで分かりやすい例です。

潜水艦と潜水艇では潜航時間にも違いがある

潜水艦と潜水艇では、1回の潜航で活動できる時間にも大きな差があります。

潜水艦は長期間の潜航が可能

大型潜水艦は、長期間にわたって任務を行えるように設計されています。

特に原子力潜水艦は、原子炉から長期間エネルギーを得られるため、燃料という面では非常に大きな航続能力を持っています。

酸素供給や二酸化炭素除去、真水の確保など、乗員が長期間生活するための設備も備えています。

ただし、実際の行動期間が無制限になるわけではありません。

食料や乗員、整備、作戦上の事情などによって、実際の任務期間には限界があります。

潜水艇は数時間程度の潜航を行うものも多い

有人潜水艇では、1回の潜航時間が数時間程度に設定されているケースが多くあります。

例えば「しんかい6500」の通常の潜航時間は約8時間です。

潜水艇の潜航時間は機種や用途によって大きく異なるため、「潜水艇は必ず数時間しか潜れない」と断定することはできません。

あくまで、潜水艦より活動時間が限定的なものが多いと考えるとよいでしょう。

原子力潜水艦と通常動力型潜水艦の違い

潜水艦そのものにも、動力方式によって大きな違いがあります。

原子力潜水艦

原子力潜水艦は、原子炉から得られるエネルギーを推進などに利用します。

燃料補給という点で非常に大きな航続能力を持っているため、長期間の潜航任務に適しています。

ただし、実際に海上で活動できる期間は、食料や乗員、整備、作戦上の都合などによって決まります。

通常動力型潜水艦

通常動力型潜水艦では、ディーゼル・エレクトリック方式などが広く利用されてきました。

水中では主に蓄電池に蓄えた電力を利用して航行します。

また、現代ではAIPと呼ばれる非大気依存推進システムや、大容量のリチウムイオン電池を採用する潜水艦も存在します。

そのため、通常動力型潜水艦についても、単純に「頻繁に浮上しなければならない」と説明するのは正確ではありません。

潜水艦と潜水艇では内部構造も異なる

潜水艦と潜水艇では、内部の設備や空間にも大きな違いがあります。

潜水艦には生活用の区画がある

大型潜水艦には、航海や任務に必要なさまざまな区画があります。

例えば、

  • 指揮や操艦を行う区画
  • ソナー関連の区画
  • 機関区画
  • 乗員の寝台
  • 厨房
  • 食事スペース
  • トイレ
  • 食料保管スペース

などです。

軍用潜水艦では、搭載する兵器や任務に応じた専用区画も設けられています。

潜水艇は耐圧殻を中心とした構造が多い

小型の有人潜水艇では、人が入る耐圧殻と、推進装置や観測装置などを組み合わせた構造が一般的です。

特に深海用潜水艇では、非常に大きな水圧に耐える必要があるため、人が搭乗する空間はコンパクトに設計されます。

そのため、潜水艦のような本格的な居住設備を備えていないものが多くあります。

潜水艇にはさまざまな種類がある

潜水艇は用途によって複数のタイプに分けられます。

有人潜水調査船

研究者や操縦者が搭乗し、深海を直接観察するためのものです。

海底地形や地質、深海生物などの研究に利用されます。

「しんかい6500」が代表的な例です。

観光用潜水艇

観光客を乗せて海中を観察するための潜水艇もあります。

サンゴ礁や魚などを観察できる観光地で運航されることがあります。

研究用の深海潜水艇とは異なり、比較的浅い海域を航行するものが中心です。

救難用潜水艇

事故を起こして海底に着底した潜水艦などから乗員を救出するための潜水艇もあります。

深海救難艇などと呼ばれ、潜水艦の脱出ハッチなどに接続して乗員を収容することを想定しています。

軍事用の小型潜水艇

潜水艇は民間や研究用途だけに使用されるわけではありません。

特殊部隊の輸送などを目的とした軍事用の小型潜水艇も存在します。

そのため、「潜水艦は軍事用、潜水艇は民間用」と完全に区別することはできません。

潜水艇とROV・AUVの違い

水中で活動する機器には、人が乗らない無人機もあります。

代表的なのがROVとAUVです。

ROVとは

ROVは「Remotely Operated Vehicle」の略で、遠隔操作型無人潜水機を意味します。

一般的には母船などとケーブルで接続し、海上にいるオペレーターが遠隔操作します。

海底設備の点検や深海調査、海底作業など幅広い用途があります。

AUVとは

AUVは「Autonomous Underwater Vehicle」の略で、自律型無人潜水機を意味します。

人が直接操縦するのではなく、あらかじめ設定されたプログラムや各種センサーなどを利用して自律的に航行します。

海洋観測や海底地形の測量などに利用されています。

ROVやAUVは水中で活動する点では潜水艇と似ていますが、人が搭乗しないため、有人潜水艇とは区別して扱うのが一般的です。

潜水艦と潜水艇の違いを簡単に覚える方法

潜水艦と潜水艇の違いは、単純にサイズだけで判断するのではなく、どのように運用されるかを見ると理解しやすくなります。

潜水艦は、長距離・長期間にわたって独立して航海し、任務を遂行できる艦艇が中心です。

一方の潜水艇は、母船などの支援を受けながら、特定の海域で調査・観光・救難・作業などを行う比較的小型の水中ビークルが中心です。

ただし、潜水艦と潜水艇の間には世界共通の明確なサイズ基準があるわけではありません。

名称や分類は国や組織、設計目的などによって異なる場合があります。

そのため両者を正確に区別するには、大きさだけではなく、自立航行能力、航続距離、潜航時間、母船への依存度、用途などを総合的に見ることが重要です。

以上、潜水艦と潜水艇の違いについてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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