潜水艦は海中で、ただ潜ったまま待機しているわけではありません。
任務に応じて、周囲の監視、情報収集、航海、訓練、機器の点検、乗組員の生活維持など、さまざまな活動を続けています。
軍用潜水艦の大きな特徴は、海中に潜ることで外部から発見されにくくなる「隠密性」です。
そのため潜水艦にとっては、目立って行動することよりも、相手に自分の存在や位置を把握されない状態を維持しながら任務を遂行することが重要になります。
ただし、潜水艦の具体的な任務は国や艦種によって異なります。
海上自衛隊の通常動力潜水艦と、米海軍などが運用する原子力潜水艦では、任務や装備、運用方法が同じとは限りません。
ソナーを使って周囲の状況を把握する
潜水艦が海中で行う代表的な活動の一つが、ソナーによる周囲の監視です。
海中では一般的なレーダーの電波が遠くまで届きにくいため、音が重要な情報源になります。
パッシブソナーで周囲の音を聞く
潜水艦では、周囲から伝わってくる音を受信する「パッシブソナー」が重要な役割を果たします。
海中には、水上船舶のスクリュー音や機械音、ほかの潜水艦が発する音、海洋生物の音、波や雨による自然音など、さまざまな音が存在します。
潜水艦ではそれらの音を収集し、分析しながら、周囲にどのような船舶や潜水艦がいる可能性があるのかを判断します。
パッシブソナーは自ら積極的に音を発射しないため、隠密性を保ちやすいという特徴があります。
必要に応じてアクティブソナーも使用する
潜水艦には、自ら音波を発射し、その反射音を利用して対象を探知する「アクティブソナー」もあります。
アクティブソナーは対象の位置を把握するうえで有効ですが、自ら音波を発射するため、自艦の存在を相手に察知される要因にもなり得ます。
そのため軍用潜水艦では、隠密性が重視される状況ではパッシブソナーによる探知が重要となり、必要に応じてアクティブソナーが使われます。
できるだけ静かに航行する
潜水艦にとって、静粛性は非常に重要です。
潜水艦が発する推進音や機械音などが大きければ、敵の艦艇や潜水艦のソナーによって発見される可能性が高くなります。
そのため潜水艦では、設計段階から振動や騒音を減らす工夫が施されています。
航海中も任務に応じて、自艦から発生する音を抑えながら行動することが重要になります。
「どこにいるか分からない」ことが強みになる
潜水艦の強さは、単純な攻撃力だけで決まるものではありません。
相手から見て、
「どこに潜水艦がいるのか分からない」
「近くにいるかもしれない」
という状況を作ること自体に大きな意味があります。
そのため潜水艦では、自分の位置をできるだけ悟られない状態を維持しながら活動することが重視されます。
情報収集や警戒監視に関わることがある
軍用潜水艦には、情報収集や警戒監視に利用される役割があります。
たとえば周囲を航行する艦艇や潜水艦などの状況を把握し、必要な情報を収集することが考えられます。
海上自衛隊の具体的な潜水艦運用は公表範囲が限られる
海上自衛隊は、日本周辺海域において平素から情報収集や警戒監視を行っています。
ただし、潜水艦が具体的にどの海域で、どのような方法によって情報収集や警戒監視を行っているのかといった詳細は、広く公表されているわけではありません。
そのため、海上自衛隊の潜水艦について説明する場合は、
「情報収集や警戒監視に活用されることがある」
程度にとどめ、具体的な行動パターンを断定しない方が正確です。
他の潜水艦を探知する
軍用潜水艦の重要な任務の一つに、対潜水艦戦があります。
対潜水艦戦とは、相手側の潜水艦を発見し、その位置や動きを把握し、必要に応じて対処する活動です。
音から相手の存在を探る
水中では視界が限られ、一般的なレーダーも使いにくいため、潜水艦の捜索では音響情報が重要になります。
潜水艦では、相手が発する音を継続的に分析しながら、どの方向に存在しているのか、どのように移動しているのかなどを判断します。
一方で、自艦は相手から探知されないようにする必要があります。
そのため潜水艦同士の活動では、
「相手を先に見つける」
「自分は見つからない」
という二つの要素が重要になります。
水上艦艇などの動きを把握する
潜水艦は、ほかの潜水艦だけを対象としているわけではありません。
軍用潜水艦には、水上艦艇を探知・追跡し、必要に応じて対処する役割もあります。
対水上艦戦も潜水艦の重要な任務
潜水艦は水中から行動できるため、水上艦艇から見つかりにくいという利点があります。
その隠密性を利用して、水上艦艇の動きを把握したり、有事には攻撃に対応したりすることがあります。
ただし、具体的な任務内容や使用する装備は潜水艦の種類や国によって異なります。
任務に応じて海域を哨戒する
潜水艦は、任務に応じて指定された海域を航行したり、哨戒したりすることがあります。
哨戒とは、担当する海域の状況を確認し、必要な情報を収集する活動です。
常に高速で動き回っているわけではない
映画などでは潜水艦が敵を追跡しながら高速で移動する場面が描かれることがあります。
しかし、実際の潜水艦では隠密性や音響探知が重要であるため、常に高速で移動するとは限りません。
任務によっては、静粛性を重視しながら航行し、周囲の状況を注意深く把握することが重要になります。
具体的な哨戒海域や航行パターンなどは軍事上重要な情報であるため、一般には詳しく公表されません。
海中でさまざまな訓練を行う
潜水艦の航海は、すべてが実際の警戒任務や作戦というわけではありません。
平時には、乗組員の技能を維持・向上させるための訓練も重要です。
航海や戦闘に関する訓練
潜水艦では、任務に必要なさまざまな技能を訓練します。
たとえば、
潜航・浮上に関する訓練、
航海や操艦の訓練、
ソナーによる探知訓練、
他の艦艇などとの連携訓練、
対潜水艦戦などを想定した訓練、
などがあります。
潜水艦は特殊な環境で運用されるため、実際に海上・海中で経験を積むことが重要です。
火災や浸水など緊急時の訓練も行う
潜水艦では、事故や故障に対応するための訓練も重要です。
海中では外部からすぐに救援を受けられるとは限らないため、乗組員自身が艦内で対応できなければなりません。
そのため、
火災、
浸水、
機器故障、
その他の非常事態、
などを想定した訓練が行われます。
潜水中も航海や深度を管理している
潜水艦では、潜航中も常に自艦の位置や針路、深度、姿勢などを管理しています。
水上船のように窓から外を見ながら航行できるわけではないため、さまざまな航法装置やセンサーを利用します。
発令所などから操艦する
潜水艦が完全に潜航しているときは、水上航行時のように艦橋から操艦するわけではありません。
一般的には、艦内の発令所などにある操艦・指揮設備を使い、乗組員が針路や深度などを管理します。
そのため、
「潜航中も艦橋で航海する」
と考えるのは正確ではありません。
バラストタンクだけで深度を調整するわけではない
潜水艦は潜航するとき、メインバラストタンクに海水を取り込むことで浮力を減らします。
浮上するときには、タンク内の海水を排出して浮力を増加させます。
ただし、潜航中の細かな深度や姿勢の維持をメインバラストタンクだけで行うわけではありません。
実際には、浮力調整用の装置や潜舵などを組み合わせながら、艦の深度や姿勢を調整します。
推進装置や電力を管理する
潜水艦が海中で活動を続けるには、推進装置や電力設備の管理が欠かせません。
特に通常動力潜水艦では、蓄電池の電力管理が非常に重要です。
完全潜航中は主に蓄電池を利用する
海上自衛隊が運用している潜水艦は、原子力潜水艦ではなく通常動力型です。
一般的なディーゼル・エレクトリック方式の潜水艦では、完全に潜航してディーゼル機関を使用できない状態では、蓄電池に蓄えられた電力を使って推進モーターや各種艦内設備を動かします。
電力は推進だけではなく、
ソナー、
照明、
空調、
航法装置、
各種コンピューター、
艦内設備、
などにも必要です。
そのため航海中は、電力を適切に管理することが重要です。
シュノーケル航行時にはディーゼル機関を使用できる
通常動力潜水艦は、水面近くまで浮上してシュノーケルなどから空気を取り入れることで、ディーゼル機関を運転することがあります。
ディーゼル機関を利用して発電し、蓄電池を充電することもできます。
したがって、
「潜水艦は水中では常に電池だけで動いている」
と表現するのは正確ではありません。
完全潜航中とシュノーケル航行時では、使用できる動力源が異なります。
艦内の空気や生活環境を管理する
潜水艦は長時間閉鎖された空間で行動するため、乗組員が生活できる環境を維持しなければなりません。
そのため潜水艦では、航海や監視だけではなく、生命維持設備の管理も重要な仕事です。
酸素や二酸化炭素などを管理する
潜水艦の内部では多数の乗組員が呼吸するため、時間が経つにつれて酸素が消費され、二酸化炭素が増えていきます。
そのため艦内では、空気の状態を適切に維持するための設備が使用されています。
さらに、
温度、
湿度、
空気環境、
なども管理する必要があります。
潜水艦は長期間海中にとどまることがあるため、こうした生命維持設備は非常に重要です。
乗組員は食事や睡眠も取っている
潜水艦の乗組員が24時間全員働き続けているわけではありません。
艦は昼夜を問わず運用されるため、乗組員は勤務と休息を交代しながら生活します。
交代しながら艦を運用する
潜水艦では、ある乗組員が勤務している間に、別の乗組員が食事や休憩、睡眠を取ります。
一定時間が経過すると交代し、艦の運用を24時間継続します。
ただし、勤務時間や交代方法については国や艦、時期などによって異なるため、「必ず何時間勤務」と一律に考えることはできません。
調理や食事も艦内で行う
潜水艦には調理設備があり、航海中も乗組員の食事が準備されます。
長期間閉鎖された艦内で生活する乗組員にとって、食事は栄養補給だけではなく、体調や士気を維持するうえでも重要です。
艦内の機器を点検・整備する
潜水艦には、推進装置、配管、電気設備、ソナー、航法装置、空調設備など、多数の機器が搭載されています。
海中で故障が起きても、すぐに港へ戻ったり外部の整備員を呼んだりできるとは限りません。
そのため乗組員は航海中も、
機器に異常がないか確認する、
定期的に点検する、
必要な整備を行う、
故障した場合に可能な範囲で修理する、
といった作業を続けます。
潜水艦の安全な航行を維持するには、日常的な点検や整備が欠かせません。
必要に応じて外部と通信する
潜水艦も外部との通信手段を持っています。
しかし、水中では一般的な電波が遠くまで伝わりにくいため、水上艦や航空機とまったく同じ方法で自由に通信できるわけではありません。
潜水艦向けの通信方法が利用される
潜水艦では、VLFなどを含む潜水艦向けの通信技術が利用されています。
ただし、通信方法にはそれぞれ制約があります。
また、潜水艦にとって自分の位置を秘匿することは重要であるため、通信の方法やタイミングも任務と関係します。
潜水艦通信の基本的な技術については公開されていますが、具体的な周波数、通信手順、運用パターンなどは一般に詳しく公表されません。
潜水艦によって任務は大きく異なる
「潜水艦は何をしているのか」を考える際に注意したいのが、すべての潜水艦が同じ任務を担当するわけではないという点です。
攻撃型潜水艦にはさまざまな任務がある
たとえば米海軍の攻撃型原子力潜水艦では、
対潜水艦戦、
対水上艦戦、
情報・監視・偵察、
特殊作戦支援、
陸上攻撃、
機雷戦、
など、幅広い任務が想定されています。
ただし、これらをそのまま海上自衛隊の潜水艦の任務と考えることはできません。
搭載する兵器や装備、国の防衛政策などによって任務は異なります。
戦略核抑止を担当する潜水艦もある
米国や一部の核保有国では、弾道ミサイル原子力潜水艦が核弾道ミサイルを搭載し、戦略的な核抑止を担っています。
これは攻撃型潜水艦とは異なる種類の潜水艦です。
また、日本の海上自衛隊の潜水艦がこのような戦略核抑止任務を行っているわけではありません。
そのため「潜水艦の任務」として紹介する場合は、艦種ごとに区別する必要があります。
潜水艦の海中での1日はどのようなものか
潜水艦の海中生活をイメージすると、艦内では複数の活動が同時に進んでいます。
発令所などでは航海や操艦を担当する乗組員が針路や深度を管理します。
ソナー担当者は周囲の音を監視し、機関担当者は推進装置や電力設備を管理します。
その一方で、非番の乗組員は食事をしたり、睡眠を取ったりします。
さらに各部署では、艦内設備の点検や整備、訓練なども行われます。
つまり潜水艦の内部では、
航海、
周囲の監視、
情報収集、
設備管理、
訓練、
食事、
睡眠、
といった活動が24時間並行して続いているのです。
潜水艦は海中で静かに任務を続けている
潜水艦が海中で普段していることを簡潔に表現すると、**「自分の存在をできるだけ悟られないようにしながら、周囲の状況を把握し、任務を遂行できる状態を維持すること」**だといえます。
映画では魚雷を発射したり敵の潜水艦を追跡したりする場面が目立ちますが、実際の潜水艦の活動には、
ソナーによる周囲の監視、
静かな航行、
情報収集、
航海や深度の管理、
機関や電力の管理、
設備の点検、
訓練、
乗組員の生活維持、
といった地道な仕事が数多く含まれています。
潜水艦にとって重要なのは、単に海中を移動することではありません。
長時間にわたって安全に潜航し、必要な情報を集めながら、相手に自分の位置を把握されない状態を維持することが、潜水艦ならではの大きな特徴といえるでしょう。
以上、潜水艦は海中で普段何をしているのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















