船のボイラーは、船舶のエンジンや機器に必要な蒸気や熱エネルギーを供給する非常に重要な設備です。
特に大型の商船や軍艦では、推進力の一部や、電力・生活用熱・貨物加熱など、幅広い用途で使われています。
以下では、船舶ボイラーの役割、構造、種類、安全装置、運転方法などを詳しく解説します。
目次
船のボイラーの役割
船舶のボイラーは、以下のような用途に蒸気を供給します。
- タービン推進用蒸気(蒸気タービンを使う船のみ)
- 発電機の駆動
- 暖房や生活用の温水供給
- 機関室の加熱・洗浄用スチーム
- 貨物の加熱(原油タンカーでは貨物油を流動化させる)
- 燃料油の加熱(バンカーヒーター)
- ウォータージェットや排水処理装置の駆動補助
船舶用ボイラーの種類
主に使われる2種類
水管ボイラー(Water-tube boiler)
- 構造:水が管の中を通り、その周囲を燃焼ガスが通過して加熱。
- 特長:
- 高圧・高温蒸気を作れる。
- 蒸気の立ち上がりが早い。
- 主に**主ボイラー(Main boiler)**として使用。
火管ボイラー(Fire-tube boiler)
- 構造:燃焼ガスが管の中を通り、その周囲の水を加熱。
- 特長:
- 構造が単純でメンテナンスしやすい。
- 小規模な補助用に使用。
- 主に補助ボイラー(Auxiliary boiler)や港湾停泊中の加熱用。
ボイラーの構造と主な部品
部品名 | 機能 |
---|---|
焚口(Burner) | 燃料を噴霧して燃焼させる装置。自動制御が主流。 |
ドラム(Steam drum) | 蒸気と水を分離。蒸気の取り出し口。 |
エコノマイザー(Economizer) | 排気ガスで給水を予熱し、熱効率を上げる装置。 |
スーパーヒーター(Superheater) | 飽和蒸気をさらに加熱して乾き蒸気にする。 |
ボイラー給水ポンプ | 給水をドラム内へ送る。連続運転に必須。 |
圧力計、安全弁、水面計 | 圧力監視、過圧防止、水位確認など安全管理装置。 |
ボイラーの燃料と燃焼制御
- 燃料:
- 昔:重油(Bunker-C)
- 現在:低硫黄燃料油(LSFO)、LNG、メタノールなども採用。
- 燃焼制御:
- 自動制御が主流(PLC制御)
- 空気比、燃料噴霧量、火炎検出などを総合管理。
船舶ボイラーの安全装置
安全確保のための装置が厳重に取り付けられています。
- 安全弁(Safety valve):規定圧以上になると自動開放。
- 水面計(Water gauge glass):水位を直接確認。
- 低水位警報(Low water level alarm):水不足による焼損防止。
- 火炎監視装置(Flame monitor):燃焼異常時にシャットダウン。
- 過熱防止装置:温度異常検出で停止。
運転方法の概要
運転には一定の手順と監視が必要です。
概要は以下の通りです。
- 点火前点検:水位、燃料残量、圧力計、水面計などをチェック。
- 点火:ブロワー(送風機)作動→バーナー点火。
- 昇圧:徐々に蒸気圧力を高めていく(急昇圧は危険)。
- 定常運転:蒸気圧を保ちながら燃焼を制御。
- シャットダウン:燃焼停止→冷却→排水→整備。
ボイラーのメンテナンスとトラブル
- 定期的な水洗い(ブロー操作):スケールや不純物の除去。
- スートブロー:煤(すす)を吹き飛ばし熱効率維持。
- 給水処理:スケール防止剤や脱酸素剤の添加。
- 主なトラブル例:
- 水位異常による焼損。
- 炎の不着火や途中消火。
- 水管の漏れや破損。
- 圧力計の狂い。
現代の動向:ボイラーレス設計も増加中
- LNG燃料船やディーゼル推進主体の船では、主ボイラーを搭載せず排熱回収装置(Exhaust Gas Economizer)や電気加熱器などで代替するケースもあります。
- これにより燃費向上・環境負荷低減・整備簡略化が可能に。
まとめ
船のボイラーは単なる蒸気発生装置ではなく、推進、電力、生活支援、貨物管理など多岐にわたる機能を担う中核設備です。
ボイラーの選定や運転には高度な技術が求められ、安全対策も厳重です。
近年は省エネ・環境負荷低減を背景に、新しい熱供給システムも注目されています。
以上、船のボイラーについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。