フェリーの燃料にはさまざまな種類があり、それぞれの燃料がフェリーの用途や環境規制、運航コストなどに応じて選ばれています。
ここでは、フェリーで一般的に使用される燃料の種類、特徴、利点・欠点、環境規制との関係について詳しく解説します。
目次
フェリーで使用される主な燃料の種類
重油(Heavy Fuel Oil, HFO)
特徴
- 重油は原油を精製する際に得られる粘度の高い燃料で、コストが比較的安い。
- 国際的な船舶燃料の主流だったが、環境への影響が大きいため規制が厳しくなっている。
利点
- 燃料費が安く、大型フェリーに適している。
- エネルギー密度が高く、長距離航行に向いている。
欠点
- 硫黄分(SOx)が多く、大気汚染の原因となる。
- 燃焼時に黒煙やPM(粒子状物質)が発生しやすい。
- 低温では固まりやすく、適切な加熱管理が必要。
環境規制
- 2020年1月からIMO(国際海事機関)の規制により、国際航路では硫黄分を0.5%以下に制限(従来は3.5%)。
- 環境負荷を減らすため、スクラバー(排ガス処理装置)の搭載や、低硫黄燃料(LSFO)の使用が進められている。
低硫黄燃料油(Low Sulfur Fuel Oil, LSFO)
特徴
- HFOと比較して硫黄分が少なく、IMOの規制に適合。
- 価格はHFOより高めだが、スクラバー不要で使えるため利便性が高い。
利点
- 環境規制をクリアできるため、追加設備(スクラバー)が不要。
- HFOより排気ガスがクリーン。
欠点
- HFOに比べると燃料価格が高い。
- 燃焼特性の違いからエンジンの調整が必要な場合がある。
LNG(液化天然ガス, Liquefied Natural Gas)
特徴
- 天然ガスをマイナス162℃で液化した燃料。
- 環境負荷が低く、NOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)をほとんど排出しない。
- IMO規制の強化により、新造フェリーの燃料として採用が増加。
利点
- 硫黄分を含まず、排ガスがクリーン。
- CO₂排出量がHFOより約20~25%少ない。
- 燃焼時に黒煙を発生しない。
欠点
- 燃料タンクが大型化するため、船の設計に影響を与える。
- LNG供給インフラが限られており、補給できる港が限られる。
- 初期投資(エンジンやタンク設備)が高額。
導入事例
- 近年、日本国内でもLNG燃料フェリーが登場(例:「さんふらわあ くれない」「さんふらわあ むらさき」)。
- 欧州では環境規制が厳しいため、LNGフェリーの採用が進んでいる。
メタノール(Methanol)
特徴
- 低炭素燃料として注目されている液体燃料。
- 現在のディーゼルエンジンを改造することで使用可能。
- SOxの排出がほぼゼロで、CO₂排出量もHFOに比べ低い。
利点
- 燃料供給インフラが比較的整っている。
- LNGと比べて燃料タンクが小さくて済む。
- 硫黄分を含まないため、排ガス処理装置が不要。
欠点
- エネルギー密度がHFOやLNGより低いため、多くの燃料を積む必要がある。
- 価格が変動しやすい。
- まだ導入が進んでおらず、技術的な課題が残る。
水素(Hydrogen)
特徴
- CO₂を一切排出しない究極のクリーンエネルギー。
- 現在は主に燃料電池と組み合わせて使用される。
利点
- 排出物は水だけで環境負荷がゼロ。
- 再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」が活用できれば、持続可能な燃料となる。
欠点
- 取り扱いが難しく、高圧・低温での保存が必要。
- 現在の燃料補給インフラが整備されていない。
- 燃料コストが非常に高い。
導入事例
- ノルウェーでは水素フェリー「MF Hydra」が運航を開始。
- 日本でも水素エネルギーの研究が進められている。
燃料選択のポイントと今後の動向
フェリーにとって燃料の選択は、運航コスト、環境規制、航路の特性などを考慮して決定されます。
特に、以下のポイントが重要です。
- 環境規制対応
- IMOや各国の排ガス規制に適合する燃料が求められる。
- CO₂排出削減のために、LNGやメタノール、水素などの代替燃料が注目される。
- 経済性
- HFOは安価だが、スクラバー設置が必要。
- LSFOはスクラバー不要だが、燃料コストが高い。
- LNGは初期投資が必要だが、長期的に見て経済的メリットがある。
- 燃料供給インフラ
- LNGやメタノール、水素は供給可能な港が限られているため、燃料補給計画が重要。
- 船の設計
- LNGや水素を使用する場合、燃料タンクのスペース確保が課題。
- 既存船の改造で対応できる燃料(LSFOやメタノール)が有利なケースも。
まとめ
- HFOは依然として使われているが、環境規制の影響で代替燃料への移行が進んでいる。
- LSFOはHFOの代替として一般的だが、価格が高め。
- LNGは最も現実的な次世代燃料として採用が進んでいる。
- メタノールや水素などのクリーンエネルギーも今後の選択肢として期待されている。
- 燃料の選択は、環境規制・コスト・供給インフラを総合的に判断する必要がある。
これからのフェリー業界では、環境負荷を減らしつつ、運航コストを抑えるための技術革新が続くでしょう。
特に、水素やアンモニアなどの新しい燃料の実用化に向けた動きが活発化しています。
以上、フェリーの燃料についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。