養殖で使用される作業船について

目次

養殖で使用される作業船とは

養殖で使用される作業船とは、海上や沿岸部の養殖施設で、給餌、資材運搬、生簀の点検、網の交換、収穫などを行うための船です。

特にブリ、マダイ、カンパチ、サーモン類などを育てる海面魚類養殖では、生簀が陸から離れた海上に設置されることが多いため、日常的な管理作業に船が欠かせません。

ただし、「養殖作業船」という名称がすべての船に共通する厳密な船種名というわけではありません。

実際には用途に応じて、給餌船、養殖給餌漁船、多目的作業船、活魚運搬船など、さまざまな名称が使われています。

そのため、養殖作業船とは、養殖施設の運営や管理に使用される船を広い意味で表した言葉と考えると分かりやすいでしょう。

養殖作業船の主な役割

養殖魚への給餌

魚類養殖では、養殖魚へ定期的に餌を与える必要があります。

給餌量や頻度は、魚種、魚体サイズ、水温、季節、摂餌状況などによって異なるため、必ずしも毎日同じ量の餌を与えるわけではありません。

比較的小規模な養殖場では、小型の作業船に配合飼料を積み込み、人が生簀の近くから給餌する場合があります。

一方、大規模な養殖場では、大量の飼料を運搬できる専用の給餌船が使用されることがあります。

給餌船には、給餌方式に応じてホッパー、飼料タンク、ブロワー、ポンプ、配管などの設備が搭載され、効率的に餌を供給できるようになっています。

生簀や係留設備の点検

養殖作業船は、生簀や周辺設備の点検にも使用されます。

海上の養殖施設では、網、浮体、ロープ、アンカー、係留設備などが常に波や潮流の影響を受けています。

そのため、

網が破損していないか、
ロープが摩耗していないか、
浮体に異常がないか、
係留設備に緩みがないか

といった点を定期的に確認する必要があります。

生簀の網が破損すると養殖魚が逃げる可能性もあるため、日常的な点検や補修は重要な管理作業です。

網の交換や洗浄

養殖生簀の網には、海藻、貝類、フジツボなどの付着生物が付着することがあります。

付着物が増えると網の目がふさがり、生簀内部と外部の海水交換が低下する可能性があります。

さらに、潮流を受ける面積が増えることで、網や係留設備にかかる負荷が大きくなる場合もあります。

そのため、養殖場では必要に応じて網の交換や洗浄が行われます。

作業船は、交換用の網を運搬したり、使用済みの網を回収したり、洗浄機器を運んだりする役割を担います。

種苗の搬入

養殖を開始する際には、稚魚や幼魚などの種苗を養殖施設へ運び、生簀へ移します。

この作業は「種苗の活け込み」と呼ばれることがあります。

魚を運搬する場合は、生きた状態を保つ必要があるため、魚艙や活魚槽を備えた船が使用されることがあります。

輸送条件によっては、海水交換や酸素供給などを行いながら、水中環境を適切に保つことも重要です。

養殖魚の収穫

出荷サイズまで成長した魚を生簀から取り上げる際にも、作業船が利用されます。

収穫方法は魚種や養殖規模によって異なります。

たとえば、

網を寄せて魚を集める、
タモ網などですくい上げる、
フィッシュポンプを使用する、
活魚槽へ移す

といった方法があります。

すべての養殖場で同じ方法を使用するわけではなく、設備や生産規模に応じて適切な収穫方法が選ばれます。

養殖資材や機材の運搬

養殖施設では、さまざまな資材や機材が必要になります。

代表的なものとしては、

養殖網、
ロープ、
浮子、
アンカー、
配合飼料、
工具、
発電機、
洗浄装置、
コンテナ

などがあります。

こうした物資を港から養殖場まで運ぶことも、作業船の重要な役割です。

そのため、養殖用の作業船では、荷物を積みやすい広い作業甲板を備えた船型が採用されることがあります。

養殖作業船の主な種類

小型作業船

小型作業船は、養殖場の日常的な管理に使用される船です。

主な用途としては、

生簀の巡回、
作業員の移動、
少量の餌の運搬、
網やロープの点検、
簡単な補修、
資材運搬

などがあります。

漁港から養殖場までの距離が短い場合や、小規模な養殖場では、小型の船が多目的に使用されることがあります。

給餌船

給餌船は、養殖魚へ効率的に餌を与えることを目的とした船です。

大量の配合飼料を積載できる設備を備え、機械を使用して養殖生簀へ餌を供給します。

給餌方法によっては、ホッパーや飼料タンク、ブロワー、ポンプ、配管などが搭載されます。

大量の餌を扱えるため、大規模な魚類養殖では作業効率を高める重要な船となっています。

多目的作業船

多目的作業船は、給餌だけでなく、網の交換、資材運搬、生簀の整備、収穫など、複数の作業に対応する船です。

作業内容に応じて、

クレーン、
ウインチ、
キャプスタン、
油圧設備

などが搭載されることがあります。

重量のある養殖資材を扱いやすいため、養殖施設の設置や保守作業にも利用されます。

活魚運搬船

活魚運搬船は、養殖魚や種苗などを生きた状態で運ぶための船です。

船内に魚艙や活魚槽を設け、魚が生存できる環境を維持しながら運搬します。

用途によっては、海水交換や酸素供給などを行う設備が利用されます。

養殖場から加工施設まで魚を運ぶ場合や、種苗を養殖施設へ移送する場合などに使用されます。

養殖する水産物によって作業船の用途は異なる

ブリやマダイなどの魚類養殖

魚類養殖では、人が餌を与える給餌養殖が一般的です。

そのため作業船では、

給餌、
生簀の点検、
網の交換、
種苗の搬入、
魚の選別、
収穫

などの作業が行われます。

特に養殖規模が大きくなるほど、大量の餌を効率よく運べる給餌船の重要性が高くなります。

カキやホタテなどの貝類養殖

カキやホタテなどの貝類養殖では、一般的に魚類養殖のような人工的な給餌は行いません。

貝類は自然界に存在するプランクトンなどを利用して成長します。

そのため作業船では、

養殖ロープの設置、
垂下施設の設置や回収、
養殖資材の交換、
選別、
収穫、
運搬

などが主な作業になります。

貝類や養殖資材は重量が大きくなる場合があるため、クレーンやウインチなどを備えた船が利用されることもあります。

ノリやワカメ、コンブなどの海藻養殖

海藻養殖でも、基本的には魚類のような給餌は行いません。

海藻は海水中の栄養塩などを利用して成長します。

ワカメやコンブの養殖では、はえ縄などの施設を利用する方式が一般的です。

そのため作業船では、

養殖ロープの設置、
種苗の取り付け、
養殖施設の点検、
収穫、
収穫物の運搬

などが行われます。

養殖作業船に搭載される主な設備

クレーン

クレーンは、網、コンテナ、養殖資材などの重量物を吊り上げるために使用されます。

養殖施設の設置や交換、収穫物の積み込みなど、さまざまな作業で活用されます。

ウインチ

ウインチは、ロープや網などを巻き上げるための装置です。

養殖施設の設置や回収、係留設備の取り扱いなどに使用されます。

キャプスタン

キャプスタンは、主にロープ類を引き込むための装置です。

船の係留や養殖施設のロープを扱う際などに利用されます。

給餌設備

給餌船では、飼料を保管し、生簀へ供給するための設備が搭載されます。

給餌方式によっては、ホッパー、飼料タンク、ブロワー、ポンプ、配管などが使用されます。

活魚槽や魚艙

魚を生きた状態で運ぶ場合には、活魚槽や魚艙が使用されます。

必要に応じて海水交換や酸素供給を行い、魚に適した環境を保ちながら輸送します。

海水ポンプ

海水ポンプは、活魚槽への海水供給や洗浄など、さまざまな用途に使用されます。

ただし、すべての養殖作業船に搭載されるわけではなく、用途や船型によって設備構成は異なります。

一般的な漁船と養殖作業船の違い

一般的な漁船は、天然の魚介類を漁獲することを主な目的としています。

一方、養殖作業船は、養殖している魚介類や海藻、養殖施設を管理することが主な目的です。

そのため、養殖作業船では、

広い作業甲板、
資材積載スペース、
クレーン、
ウインチ、
給餌設備、
活魚槽

など、養殖作業に適した設備が重視されます。

ただし、「漁船」と「養殖作業船」が完全に分かれた分類というわけではありません。

日本では、養殖に使用する船も漁船として扱われる場合があり、「養殖給餌漁船」や「給餌漁船」と呼ばれることもあります。

養殖作業船では作業性と安定性が重要

養殖作業船では、単純な最高速度だけでなく、低速での操船性能、積載能力、甲板上の作業性、船体の安定性などが重要になります。

養殖場では、生簀の近くを低速で移動したり、一定の位置を保ちながら作業したりする場面が多いためです。

また、飼料、網、ロープ、養殖資材、収穫物など重量のある物を積載することもあります。

クレーンなどの重量設備を搭載する船では、船体の重心や積載バランスについても十分に考慮する必要があります。

一方、港と養殖場が離れている場合には移動時間も重要になるため、速力が重視されるケースもあります。

そのため、養殖作業船は用途に応じて、速力、安定性、積載性、操船性などのバランスを考えて設計されます。

養殖作業船では省力化や自動化も進んでいる

近年の養殖業では、人手不足への対応や作業効率の向上を目的として、給餌作業などの機械化や自動化が進められています。

特に大規模な魚類養殖では、大量の配合飼料を船で運び、給餌設備を利用することで、人が一袋ずつ餌を投入する場合と比べて作業負担を軽減できます。

また、養殖関連船舶では環境負荷を減らすための技術開発も進められています。

日本では、水産研究・教育機構、黒瀬水産、海洋水産システム協会によって、水素燃料電池を搭載した養殖給餌漁船の開発事業が進められてきました。

水産庁の2024年度水産白書では、2025年度に船の建造・竣工および実証試験を行う計画が示されています。

このように、養殖作業船でも将来的には省エネルギー化や環境負荷低減がさらに重要になると考えられます。

まとめ

養殖で使用される作業船は、養殖施設を維持・管理するために欠かせない船です。

特に海面魚類養殖では、

給餌、
生簀の点検、
網の交換や洗浄、
種苗の搬入、
養殖魚の収穫、
資材運搬

など、幅広い役割を担っています。

また、養殖作業船には、小型作業船、給餌船、多目的作業船、活魚運搬船などがあり、養殖対象や作業内容に応じて使い分けられています。

魚類養殖では給餌作業が重要になる一方、カキやホタテなどの貝類養殖、ワカメやコンブなどの海藻養殖では、養殖施設の設置、管理、収穫、運搬などが中心になります。

養殖作業船は、魚を獲るためだけの船ではなく、海上にある養殖場の生産活動を支える重要な作業基盤といえるでしょう。

以上、養殖で使用される作業船についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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