潜水艦に窓がない理由について

一般的な軍用潜水艦には、乗組員が潜航中に外を見るための窓が基本的に設けられていません。

その最大の理由は、深い海で受ける大きな水圧に耐える必要があり、さらに軍用潜水艦では窓を設けても得られるメリットが小さいためです。

ただし、「潜水艦は水圧が強すぎて窓を作れない」という理解は正確ではありません。

研究用や観光用の有人潜水艇には、深海の水圧に耐えられる専用の観察窓が設けられているものがあります。

つまり、軍用潜水艦に窓がないのは技術的に不可能だからではなく、安全性や構造、運用目的などを考えると、窓を設けない方が合理的だからです。

目次

深く潜るほど非常に大きな水圧がかかる

潜水艦に窓がない理由を理解するうえで、まず知っておきたいのが海中の水圧です。

海水中では、深く潜るほど周囲から受ける圧力が大きくなります。

水深10mごとに約1気圧ずつ水圧が増える

海水中では、おおむね水深10m深くなるごとに約1気圧ずつ圧力が増加します。

海面にはもともと約1気圧の大気圧があるため、水深100mでは外部の絶対圧はおよそ11気圧、水深300mではおよそ31気圧になります。

一方、潜水艦内部は乗組員が生活できるよう、おおむね地上に近い圧力に保たれています。

そのため、艦内を約1気圧とすれば、水深100mでは船殻の内外に約10気圧、水深300mでは約30気圧もの圧力差が生じます。

潜水艦は、この大きな圧力差に耐えながら航行しなければなりません。

潜水艦の耐圧船殻は高い強度が求められる

潜水艦の乗組員が生活する空間は、主に「耐圧船殻」と呼ばれる頑丈な構造によって守られています。

耐圧船殻には、深海から加わる外圧に耐えられる高い強度が必要です。

窓を設けると耐圧構造が複雑になる

耐圧船殻に窓を設ける場合、船殻に開口部を作り、そこへ専用の透明材料を取り付けなければなりません。

窓そのものだけでなく、その周囲を支える構造や密閉部分についても、深海の水圧に耐えられるよう慎重に設計する必要があります。

そのため、窓を設ければ必ず危険になるというわけではありませんが、窓のない連続した船殻と比べると設計や製造、検査が複雑になります。

軍用潜水艦では、外を見るための窓を設置するメリットが小さいため、必要性の低い開口部を増やさない設計が合理的なのです。

窓があっても海中では視界が限られる

潜水艦に窓を設ければ、海の中を見ながら航行できそうに感じるかもしれません。

しかし、実際の海中では肉眼で得られる情報はかなり限られています。

深くなるほど太陽光が届かなくなる

海中に入った太陽光は、水による吸収や散乱によって急速に弱くなります。

海水の透明度などによって差はありますが、一般に水深200mを超えると太陽光は大幅に減少し、水深1,000m以深では海面からの太陽光は届きません。

そのため、深い海では窓があったとしても、そのまま肉眼で周囲を見渡すことは困難です。

海水は必ずしも透明ではない

海中の視界は、プランクトンや砂、泥、さまざまな浮遊物の影響も受けます。

沿岸部や海底付近では水が濁っている場合もあり、窓があっても遠くまで見通せるとは限りません。

軍用潜水艦が必要とするのは、すぐ近くの景色を見ることではなく、遠くにいる船舶や潜水艦などの位置や動きを把握することです。

そのため、肉眼よりもソナーなどのセンサーが重要になります。

潜水艦はソナーで周囲を探知する

軍用潜水艦は、窓から周囲を見る代わりに、主にソナーを利用して水中の状況を把握します。

ソナーは音を利用して、船舶や潜水艦、海底などを探知する装置です。

パッシブソナーとは

パッシブソナーは、自ら音を発信せず、周囲で発生している音を受信する方式です。

例えば、他の船舶や潜水艦が発するスクリュー音や機械音などを分析し、対象物の方向や特徴を把握します。

自ら音を発しないため、自艦の位置を知られにくいという特徴があります。

そのため、隠密性が重要となる軍用潜水艦では非常に重要な装備です。

アクティブソナーとは

アクティブソナーは、自ら音響信号を発信し、対象物から返ってくる反射音を受信する方式です。

反射して戻るまでの時間や音の方向などを分析することで、対象物の位置などを把握できます。

ただし、自ら音を発すると相手に存在を察知される可能性もあるため、軍用潜水艦では状況に応じて使用されます。

海上を見るときは潜望鏡などを使う

潜水艦には通常の窓はありませんが、海上の状況を確認するための装置は備えられています。

代表的なのが潜望鏡です。

潜望鏡で海面上を観察する

潜水艦は、必要に応じて潜望鏡を使用できる比較的浅い深度まで浮上します。

そこから潜望鏡の上部だけを海面上に出し、船舶や海岸などを観察します。

そのため、耐圧船殻に大きな窓を設けなくても、海上の状況を確認できます。

現代ではフォトニクスマストも使われる

現代の一部の潜水艦では、従来の光学式潜望鏡に代わって、またはそれを補完する形でフォトニクスマストが採用されています。

フォトニクスマストには、可視光カメラや赤外線センサーなどが搭載されています。

取得した映像は艦内のディスプレイに表示されるため、乗組員が従来型の潜望鏡を直接のぞき込まなくても周囲を確認できます。

レーダーは海中を見るための装置ではない

潜水艦にはレーダーを搭載するものもありますが、通常のレーダーを使って潜航中の海中を探知するわけではありません。

電波は海水中で大きく減衰するためです。

潜航中は主にソナーを使用する

完全に潜航している状態では、水中の探知には主にソナーが使われます。

一方、海面付近まで浮上してマストを出している場合や浮上航行中には、レーダーや電子光学センサーなどを利用して海上の状況を確認できます。

ソナーとレーダーは、使用する環境や役割が大きく異なる装置です。

窓を設けないことで耐圧船殻をシンプルにしやすい

潜水艦には、ハッチや配管、電線などを通すため、機能上どうしても必要な開口部があります。

そのため、「船体に穴が一つもない」というわけではありません。

必要性の低い開口部を増やさないことが重要

耐圧船殻を貫通する部分には、それぞれ高い耐圧性能と密閉性能が求められます。

開口部が増えるほど設計や製造、保守、検査も複雑になります。

したがって、軍用潜水艦では、任務上必要性の低い観察窓をわざわざ追加しない方が合理的です。

窓を設けないことで、耐圧船殻をよりシンプルな構造にしやすくなります。

深海用の窓は一般的なガラスとは異なる

深海で使用できる窓を作ること自体は可能です。

ただし、自動車や住宅などに使われる一般的な窓ガラスをそのまま使用することはできません。

専用の透明材料と支持構造が必要

深海用の有人潜水艇では、厚いアクリルなどの透明材料を利用した耐圧ビューポートが使われることがあります。

こうした窓は、大きな水圧に耐えられるよう形状や厚さ、取り付け部分まで含めて専用に設計されています。

そのため、技術的には深海でも使用できる窓を作ることは可能です。

しかし軍用潜水艦では、窓を設置するために重量やスペース、設計上の負担を増やしても、それに見合うメリットを得にくいと考えられます。

観光用や研究用の潜水艇には窓がある

「潜水艦には絶対に窓がない」という説明は正確ではありません。

用途によっては、大きな観察窓を持つ潜水艇も存在します。

研究用潜水艇では直接観察することに意味がある

有人潜水調査船では、海底の地形や生物、海底火山などを研究者が直接観察することがあります。

そのため、耐圧性能を確保した専用のビューポートが設けられることがあります。

観光用潜水艇でも、乗客が海中の景色を見ることそのものが目的となるため、観察窓が重要になります。

一方、軍用潜水艦の目的は海中の景色を観察することではありません。

この用途の違いが、窓の有無を決める大きな理由です。

潜水艦の艦橋付近に窓のような部分があることもある

潜水艦の写真を見ると、艦橋やセイル付近に窓のような構造が見える場合があります。

しかし、それらが必ずしも潜航中に海中を見るための窓とは限りません。

耐圧船殻の観察窓とは別物

潜水艦の艦型や時代によって構造は異なり、特に古い潜水艦などでは浮上航行時に使用する艦橋部分に風防や窓状の構造が設けられていることがあります。

ただし、これは耐圧船殻内部の乗組員が深海を観察するための窓とは性格が異なります。

そのため、外観上窓のような部分が見えるからといって、「潜航中にそこから海中を見ている」とは限りません。

潜水艦に窓がない理由をまとめると

一般的な軍用潜水艦に、潜航中に外を見るための窓がないのは、単に「水圧で窓が割れるから」ではありません。

主な理由は、深海の大きな水圧に耐える耐圧船殻では、不要な開口部を増やさない方が構造をシンプルにしやすく、さらに軍用潜水艦では窓から得られる情報の実用性が低いためです。

深い海では太陽光が届きにくく、海水の濁りなどによって視界も限定されます。

一方、潜水艦はソナーを使って水中の状況を把握し、海上を確認するときには潜望鏡やフォトニクスマストなどを利用できます。

つまり、軍用潜水艦に窓がないのは、深海用の窓を作ることが不可能だからではなく、耐圧構造を複雑にしてまで窓を設ける必要性がほとんどないからです。

観察そのものが目的となる研究用・観光用の有人潜水艇には耐圧窓が設けられることもあり、窓の有無は潜水艇の目的や設計思想によって大きく異なります。

以上、潜水艦に窓がない理由についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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