潜水艦に使われるリチウムイオン電池について

潜水艦に使われるリチウムイオン電池は、主に通常動力型潜水艦が水中を航行するための電力を蓄える重要な装置です。

通常動力型潜水艦は、ディーゼル機関や発電機、蓄電池、推進用電動機などを組み合わせて航行します。

完全に潜航している間は、ディーゼル機関を動かすために必要な外気を通常の方法では取り込めません。
そのため、蓄電池に蓄えておいた電気を使って推進用電動機を動かします。

蓄電池の性能は、潜水艦がどの程度長く水中で行動できるか、どの程度大きな電力を使用できるかといった潜航性能にも関係します。

従来の通常動力潜水艦では鉛蓄電池が広く使われてきましたが、日本ではリチウムイオン電池を採用した潜水艦が実用化されています。

目次

なぜ潜水艦にリチウムイオン電池が使われるのか

従来は鉛蓄電池が主流だった

潜水艦の蓄電池には、長年にわたって鉛蓄電池が使用されてきました。

鉛蓄電池は技術的に成熟しており、長期間にわたる使用実績があることが特徴です。

一方で、重量や体積に対して蓄えられる電力量には限界があります。

潜水艦は艦内スペースや搭載重量に厳しい制約があるため、より高いエネルギー密度を持つ蓄電池を導入できれば、潜航性能の向上につながります。

そこで注目されたのがリチウムイオン電池です。

リチウムイオン電池はエネルギー密度が高い

リチウムイオン電池は一般的に、鉛蓄電池よりも重量や体積当たりに多くの電気エネルギーを蓄えやすいという特徴があります。

限られた艦内スペースを有効活用しながら、より多くの電力を確保できる可能性があるため、潜水艦との相性がよい技術といえます。

ただし、実際に搭載される電池容量や具体的な航続性能などは軍事上の情報でもあり、詳細が公表されていない部分があります。

潜水艦にリチウムイオン電池を搭載するメリット

水中で利用できる電力量を増やしやすい

リチウムイオン電池の代表的なメリットは、高いエネルギー密度です。

より多くの電力を蓄えられるようになれば、潜水艦が水中で利用できるエネルギーを増やすことにつながります。

通常動力潜水艦では、水中で蓄電池の電力を使用するため、蓄電池の性能向上は潜航性能にとって重要です。

ただし、潜航できる時間は電池容量だけで決まるわけではありません。

航行速度や艦内設備の消費電力、運用方法などによって電力消費量は大きく変化します。

そのため、「リチウムイオン電池を搭載すれば必ず何日間潜航できる」と一律に考えることはできません。

高い出力を得やすい

リチウムイオン電池は一般的に、高い出力性能を実現しやすいことも特徴です。

潜水艦が高速で航行する場合には、推進用電動機が大きな電力を必要とします。

大きな電力を取り出しやすい蓄電池を搭載することで、潜航中の機動力向上につながると考えられます。

実際に海上自衛隊は、リチウムイオン電池を搭載した潜水艦「おうりゅう」について、機動力が向上したことを紹介しています。

充電運用を効率化できる可能性がある

リチウムイオン電池は一般的に、鉛蓄電池と比較して高い充電受入性能を持たせやすい特徴があります。

通常動力潜水艦では、蓄電池の残量が少なくなると、スノーケルなどを利用して外気を取り込み、ディーゼル機関と発電機を動かして充電する場合があります。

充電性能が高ければ、このような充電運用を効率化できる可能性があります。

ただし、日本の潜水艦における具体的な充電時間や短縮率などは公開されていないため、「スノーケル時間が必ず短縮される」と断定するのは適切ではありません。

スノーケル航行とリチウムイオン電池の関係

通常動力潜水艦では、蓄電池を充電するためにスノーケルを使用することがあります。

スノーケルとは、潜航した状態で海面付近まで吸気管などを伸ばし、外気を取り込むための装置です。

外気を取り込むことでディーゼル機関を動かし、発電機によって蓄電池を充電できます。

しかし、完全に水中へ潜っている状態と比べると、スノーケルを使用する際は潜水艦の存在を探知される可能性が高まります。

そのため、水中で利用できる電力量を増やすことは、通常動力潜水艦の隠密性や作戦運用上も重要な意味を持ちます。

日本でリチウムイオン電池を搭載した潜水艦

「おうりゅう」が通常動力潜水艦として世界初

日本で大きな転換点となったのが、海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦11番艦「おうりゅう」です。

「おうりゅう」は、通常動力潜水艦として世界で初めてリチウムイオン蓄電池を搭載した潜水艦として知られています。

2020年3月に海上自衛隊へ引き渡され、就役しました。

それ以前の「そうりゅう」型では、主として鉛蓄電池とスターリング機関を利用したAIPシステムが採用されていました。

一方、「おうりゅう」ではリチウムイオン電池を採用する新しい構成へ変更されています。

「とうりゅう」にもリチウムイオン電池を採用

「そうりゅう」型12番艦である「とうりゅう」にも、リチウムイオン電池が採用されています。

これにより、「そうりゅう」型の最後の2隻は、それ以前の艦とは異なる電池システムを持つ潜水艦となりました。

「たいげい」型でも継続して採用

「そうりゅう」型の後継となる「たいげい」型潜水艦でも、リチウムイオン電池が採用されています。

メーカーの公式発表でも、リチウムイオン電池の採用によって高い潜航性能を備えていることが説明されています。

そのため、リチウムイオン電池は現在の日本の通常動力潜水艦を特徴付ける主要技術の一つとなっています。

AIPとリチウムイオン電池の違い

AIPは水中でエネルギーを生み出すシステム

AIPとは「Air Independent Propulsion」の略で、日本語では一般に「非大気依存推進」などと呼ばれます。

外部の大気に依存せず、水中で推進用などのエネルギーを供給できる仕組みです。

「そうりゅう」型の初期艦では、スターリング機関を利用したAIPが採用されていました。

リチウムイオン電池は電気を蓄えておく装置

一方、リチウムイオン電池は発電装置ではありません。

あらかじめ発電した電気を蓄えておき、必要なときに取り出して利用する装置です。

したがって、AIPとリチウムイオン電池は同じ役割を持つ技術ではありません。

「AIPをリチウムイオン電池に交換した」と表現すると、両者が同じ種類の装置であるように誤解される可能性があります。

より正確には、「スターリングAIPを搭載する構成から、大容量のリチウムイオン電池を活用する構成へ変更された」と説明するのが適切です。

潜水艦用リチウムイオン電池には高い安全性が求められる

熱暴走への対策が重要

リチウムイオン電池には多くのメリットがある一方、安全管理も重要です。

代表的なリスクの一つに「熱暴走」があります。

熱暴走とは、電池内部の異常などによって温度上昇が進み、それによってさらに発熱反応が進行する現象です。

内部短絡や過充電、損傷、異常な温度上昇などが原因となる場合があります。

潜水艦は密閉された空間であり、航行中に乗員が簡単に艦外へ避難することはできません。

そのため、潜水艦にリチウムイオン電池を搭載する場合には、極めて高い安全性が求められます。

電池の状態を監視することが重要

一般的な大型リチウムイオン電池システムでは、電圧や電流、温度、充電状態などを監視する電池管理システムが重要になります。

異常を早期に検出し、過充電や過放電などを防ぐことが安全性の確保につながります。

ただし、日本の潜水艦に搭載されている具体的な監視システムの構造や制御方式については、詳細が公開されていない部分があります。

温度管理や異常拡大の防止も必要

多数の電池セルを組み合わせた大型蓄電池では、一部のセルで発生した異常が周囲へ広がらないようにすることも重要です。

そのため、一般的には温度管理や冷却、セルやモジュール単位での保護など、複数の安全対策が考えられます。

実際の潜水艦でどのような安全設備が使用されているかについては非公開情報も多いため、具体的な構造を推測して断定するべきではありません。

潜水艦用とスマートフォン用のリチウムイオン電池は同じなのか

潜水艦用とスマートフォン用は、どちらも「リチウムイオン電池」というカテゴリーに含まれます。

基本的には、リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで充放電します。

ただし、用途や要求される性能は大きく異なります。

潜水艦では推進用電動機などに電力を供給する必要があるため、非常に大規模な電池システムが構成されます。

また、長期間にわたる信頼性、耐久性、安全性、電池管理などにも高い水準が求められます。

リチウムイオン電池には複数の材料やセル構造が存在するため、「潜水艦用電池はスマートフォン用電池を単純に大型化したもの」と考えるのは正確ではありません。

リチウムイオン電池を搭載すると潜水艦は静かになるのか

リチウムイオン電池を搭載しただけで、潜水艦そのものが静かになるわけではありません。

潜水艦の騒音は、推進用電動機や推進器、ポンプ、機械類の振動、船体構造などさまざまな要素によって発生します。

一方、通常動力潜水艦は蓄電池から電力を供給して電動機で航行している間、ディーゼル機関を通常の方法で動かす必要がありません。

もともと蓄電池による水中航行は、通常動力潜水艦が高い静粛性を確保するうえで重要な運用方法です。

リチウムイオン電池によって水中で利用できる電力量や出力性能が向上すれば、静粛性を重視した水中行動を行いやすくなる可能性があります。

ただし、「リチウムイオン電池を搭載すれば従来の潜水艦より必ず静かになる」と断定することはできません。

原子力潜水艦とリチウムイオン電池の関係

リチウムイオン電池のメリットが特に大きいのは、ディーゼル機関などを利用する通常動力型潜水艦です。

原子力潜水艦では、原子炉から長期間にわたってエネルギーを得ることができます。

そのため、通常動力潜水艦のように「蓄電池に蓄えたエネルギーを主要な水中航行用エネルギーとして消費する」という運用とは大きく異なります。

原子力潜水艦にも電気設備や非常用電源などは必要ですが、潜航能力における蓄電池の役割は通常動力潜水艦とは異なります。

潜水艦用リチウムイオン電池は潜航性能を左右する重要技術

リチウムイオン電池は、通常動力潜水艦の性能を向上させる重要な技術です。

従来の鉛蓄電池と比較して、高いエネルギー密度や出力性能を実現しやすいため、水中で利用できる電力量や機動力の向上につながります。

一方で、リチウムイオン電池には熱暴走など特有のリスクもあるため、実用化には高度な安全設計や管理技術が欠かせません。

日本では「そうりゅう」型11番艦「おうりゅう」からリチウムイオン電池の本格的な搭載が始まり、その後の「とうりゅう」や「たいげい」型でも採用されています。

通常動力潜水艦にとって蓄電池は単なる補助装置ではなく、水中での航続性能や機動力、運用方法を左右する中核的な装備です。

そのため、リチウムイオン電池は現代の通常動力潜水艦の能力を大きく左右する技術の一つといえるでしょう。

以上、潜水艦に使われるリチウムイオン電池についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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