潜水艦のソナーマンとは、ソナーを使って周囲の海中音を監視し、艦船や潜水艦などの目標を探知・分類・追跡する要員を指す一般的な呼び方です。
潜航中の潜水艦は、周囲を肉眼で確認できる範囲が限られています。
また、海水中では通常のレーダーに使われる電波が遠くまで届きにくいため、水中を比較的よく伝わる「音」が周辺状況を把握する重要な手掛かりになります。
そのため、ソナーを扱う要員は潜水艦の「耳」ともいえる重要な存在です。
ただし、「ソナーマン」はすべての国の海軍で使われている正式な職種名ではありません。
国や組織によって職種体系は異なります。
例えば、米海軍には潜水艦のソナーを専門的に扱う「Sonar Technician, Submarine(STS)」という職種があります。
一方、海上自衛隊では「水雷」という職域の業務に、ソナーなどの水中捜索機器の操作が含まれています。
潜水艦でソナーが重要な理由
潜航中は周囲を直接確認しにくい
潜水艦が海中を航行しているときは、水上艦のように周囲を直接目視することができません。
潜望鏡や光学マストを使用できるのも、基本的には海面近くまで浮上した場合です。
深い場所を潜航しているときは、別の方法で周囲の状況を把握する必要があります。
そこで重要になるのがソナーです。
水中では音波が比較的長距離まで伝わるため、潜水艦は周囲で発生している音を利用して、艦船や潜水艦などの存在を探ります。
潜水艦の隠密性を維持しやすい
潜水艦は、相手に自分の位置を知られないことが重要です。
そのため、自ら積極的に音を出さず、周囲で発生している音を受信する「パッシブソナー」が重要になります。
パッシブソナーであれば、強い音響信号を発信せずに周囲を監視できるため、潜水艦の隠密性を保ちやすいという特徴があります。
ただし、潜水艦が常にパッシブソナーだけを使うわけではありません。
状況によっては、自ら音波を発射するアクティブソナーも使用されます。
ソナーマンの主な仕事内容
海中の音を監視する
ソナーマンの基本的な仕事は、ソナーシステムを使って海中の音響情報を監視することです。
海の中には、さまざまな音が存在しています。
例えば、船舶のプロペラや機関が発する音だけでなく、波、雨、海洋生物などによる自然音もあります。
さらに、自分が乗っている潜水艦の機械設備から発生する音も含まれます。
ソナーマンは、こうした多数の音の中から任務上重要な信号を見つけ出します。
現代のソナー業務は、単にヘッドホンを装着して音を聞くだけではありません。
コンピューターによって処理された周波数情報や時間変化なども確認しながら、音源を分析します。
新たな目標を探知する
海中の音を監視していると、これまで確認されていなかった音響信号が現れることがあります。
ソナーマンは、その信号が自然現象によるものなのか、船舶や潜水艦など人工物によるものなのかを調べます。
艦船などの可能性がある音を発見した場合は、新たな「コンタクト」として記録し、継続して監視します。
このように、周囲に存在する新たな対象を発見することが「探知」です。
音源を分類・識別する
目標を発見しただけでは、その正体までは分かりません。
そこでソナーマンは、音響情報を分析し、
「商船なのか」
「漁船なのか」
「軍艦なのか」
「潜水艦なのか」
「自然音や海洋生物なのか」
といった分類を行います。
船舶は、プロペラや機関、発電機、ポンプなどからさまざまな音を発生させています。
こうした音にはそれぞれ特徴があり、目標を分類するための手掛かりになります。
ただし、プロペラ音だけで艦種などを簡単に特定できるわけではありません。
実際には複数の周波数特性、時間的な変化、目標の動き、その他のセンサー情報などを総合して判断します。
目標の方位を確認する
ソナーでは、音が「どの方向から来ているのか」という方位情報も重要です。
潜水艦に搭載されたソナーセンサーで音を受信すると、その信号処理によって音源のおおよその方向を求めることができます。
ソナーマンは方位情報を継続的に確認し、目標がどの方向へ移動しているのかを監視します。
目標を継続的に追跡する
一度目標を発見した後も、ソナーマンの仕事は続きます。
同じ目標から発生する音を継続的に追いながら、
方位がどのように変化しているか、
音響特性に変化がないか、
目標が速度や進路を変えた可能性がないか、
などを確認します。
このような継続的な監視によって、対象の動きを把握していきます。
パッシブソナーとは
自分から音を出さずに周囲を監視する
パッシブソナーは、自ら音響信号を発射せず、周囲で発生している音を受信する方式です。
例えば、船のプロペラや機関から発生する音を受信し、その特徴を分析します。
自分から強い音を出さないため、相手に自艦の位置を知られにくいことが大きな特徴です。
そのため、隠密性を重視する潜水艦にとって非常に重要なセンサーとなっています。
距離を直接測る方式ではない
パッシブソナーでは、音の到来方向を求めることが重要です。
一方、アクティブソナーのように「音を発射して戻ってくるまでの時間」を利用して、単純に距離を直接測定する方式ではありません。
そのため、目標までの距離や位置を把握するには、時間の経過による方位の変化、自艦の運動、複数のセンサー情報、信号処理などを組み合わせて推定します。
したがって、「パッシブソナーでは距離がまったく分からない」と考えるのは正確ではありません。
正しくは、アクティブソナーとは異なる方法で目標位置を推定すると考えると分かりやすいでしょう。
アクティブソナーとは
音波を発射して反射音を利用する
アクティブソナーは、自艦から音響信号を発射し、対象物から返ってくる反射音を利用して探知する方式です。
基本的な考え方はレーダーに似ています。
ただし、レーダーが電波を使用するのに対し、ソナーは音波を利用するという違いがあります。
音波を発射してから反射音が戻るまでの時間を調べることで、対象までのおおよその距離を求めることができます。
使用すると存在を知られる可能性がある
アクティブソナーは目標を探知するうえで有効ですが、発射した音響信号を相手側に探知される可能性があります。
そのため、潜水艦では隠密性との兼ね合いを考えながら使用されます。
「潜水艦は絶対にアクティブソナーを使わない」というわけではなく、任務や周囲の状況によって使い分けられます。
ソナーマンはどのような音を分析するのか
船舶のプロペラや推進装置の音
船舶のプロペラや推進装置は、水中にさまざまな音を放射します。
プロペラの回転やキャビテーションなどによって発生する音響的特徴は、目標を分類するための手掛かりの一つになります。
ただし、一つの音だけで船の種類を断定するのではなく、複数の特徴を総合的に分析することが重要です。
機関や補助機械の音
艦船内部では、エンジン、発電機、ポンプなど多くの機械が作動しています。
それらの振動の一部は船体を通じて海水中へ伝わり、水中音となります。
こうした機械音にも特徴的な成分が含まれるため、目標を分類する際の情報になります。
海洋生物の音
海中で聞こえる音がすべて船舶によるものとは限りません。
クジラやイルカをはじめ、多くの海洋生物が音を発生させています。
ソナーマンは、こうした生物由来の音と人工的な音を区別する必要があります。
波や雨などの自然音
波や雨などの自然現象も水中雑音を生み出します。
海況が悪い場合には水中雑音が増えるため、目標の音を捉えにくくなることもあります。
したがってソナーによる探知能力は、装置の性能だけでなく、海洋環境にも大きく左右されます。
海の環境によってソナーの聞こえ方は変わる
水温や水深によって音の伝わり方が変化する
海中の音は常に一直線に進むわけではありません。
音速は、水温、塩分、水圧などによって変化します。
そのため、水深によって音の進む方向が曲がることがあります。
こうした海洋環境の違いによって、遠くの音が聞こえやすくなったり、反対に近くても探知しにくくなったりします。
ソナー要員には、単に音を分析するだけでなく、水中で音がどのように伝わるのかを理解する知識も求められます。
海底や海面の影響も受ける
音波は海面や海底で反射することがあります。
また、海底地形や海底の性質によって音の反射や吸収の仕方が変わります。
そのため、同じソナーを使用していても、海域や水深によって探知状況は大きく異なります。
ソナーマンが提供した情報はどう使われるのか
潜水艦全体の状況判断に利用される
ソナーマンが得た情報は、その担当者だけが利用するものではありません。
探知した目標の方位や分類、追跡状況などは艦内で共有され、戦術的な状況判断に利用されます。
例えば、
「新たな音源を探知した」
「水上艦艇の可能性がある」
「同じ目標を継続追跡している」
「音響特性や方位に変化が見られる」
といった情報が重要になります。
ソナーマンが単独で艦の行動を決めるわけではない
ソナーマンは重要な情報を提供しますが、艦の進路や行動を一人で決定するわけではありません。
ソナー情報は、航海情報やその他のセンサー情報などと合わせて評価され、艦内の指揮系統を通じて意思決定に利用されます。
そのため、「ソナーマンが直接すべてを艦長に報告して判断を仰ぐ」と単純化するよりも、潜水艦の指揮・戦術判断に必要な情報を提供する役割と考える方が正確です。
ソナーマンに求められる能力
高い集中力
海中では多くの音が同時に存在しています。
その中から重要な信号を見逃さないためには、高い集中力が必要です。
長時間の監視中でもわずかな変化を捉えられる注意力が求められます。
音響情報を分析する能力
現代のソナーマンは、単に音の違いを耳で聞き分けるだけではありません。
コンピューター画面に表示される音響データや周波数情報なども分析します。
そのため、音響学、電子機器、信号処理、海洋環境などに関する幅広い知識が必要になります。
艦船に関する知識
目標を分類するためには、さまざまな艦船や潜水艦の特徴を理解しておくことも重要です。
どのような推進装置を搭載しているのか、どのような音響的特徴が考えられるのかといった知識が、分析の手掛かりになります。
チームワーク
潜水艦では、一人のソナー要員だけで周囲の状況を判断するわけではありません。
複数の当直員や戦術担当者などが協力し、得られた情報を共有しながら状況を判断します。
そのため、正確に情報を伝える能力やチームワークも重要です。
海上自衛隊ではソナーマンを何と呼ぶのか
「ソナーマン」は必ずしも正式名称ではない
日本では「ソナーマン」という言葉が一般向けの記事や作品などで使われることがあります。
しかし、海上自衛隊の正式な職域名称として「ソナーマン」という独立した名称が設定されているわけではありません。
海上自衛隊では「水雷」という職域があり、その業務には魚雷などの水中武器だけでなく、ソナーなどの水中捜索機器の操作も含まれています。
したがって、日本の潜水艦について説明する場合は、
「ソナーを操作・分析する要員を一般的にソナーマンと呼ぶことがある」
と説明すると正確です。
海上自衛隊の水雷と米海軍のSTSは完全に同じではない
米海軍には「Sonar Technician, Submarine(STS)」という潜水艦ソナー専門の職種があります。
一方、海上自衛隊の「水雷」は、ソナーだけでなく水中武器なども扱う職域です。
そのため、
「海上自衛隊の水雷=米海軍のSTS」
と完全に同じ職種として扱うのは適切ではありません。
国によって組織や職務分担が異なる点に注意が必要です。
ソナーマンは潜水艦の安全と任務を支える重要な存在
潜水艦のソナーマンは、ソナーを利用して海中の音響情報を監視し、艦船や潜水艦などの目標を探知・分類・追跡する重要な要員です。
潜航中の潜水艦は周囲を直接見ることが難しいため、水中を伝わる音は周辺状況を把握する大きな手掛かりになります。
ソナーマンは、船舶のプロペラや機関から発生する音だけでなく、海洋生物や波、雨などの自然音も含め、多数の音響情報を分析します。
さらに、得られた情報は艦内で共有され、航海の安全確保や周囲の状況把握、戦術判断などに活用されます。
つまりソナーマンは、単に「海中の音を聞く人」ではありません。
目に見えない海中の状況を音響情報から読み取り、潜水艦の安全と任務遂行を支える専門的な情報分析要員と考えると分かりやすいでしょう。
以上、潜水艦のソナーマンの役割や仕事内容についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















