潜水艦で使われる燃料は、動力方式によって大きく異なります。
代表的なのは、通常動力型潜水艦で使われるディーゼル燃料と、原子力潜水艦で使われるウラン系の核燃料です。
さらに、AIPと呼ばれる非大気依存推進システムを搭載した潜水艦では、水素系燃料や液体酸素などを利用する場合もあります。
ここでは、潜水艦で使われる燃料について、動力方式ごとに詳しく解説します。
潜水艦の燃料は動力方式によって異なる
潜水艦の燃料を理解するには、まず潜水艦の動力方式を知る必要があります。
現代の軍用潜水艦は、大きく「通常動力型潜水艦」と「原子力潜水艦」に分けられます。
通常動力型潜水艦では、主にディーゼルエンジンと蓄電池を組み合わせて使用します。
一方、原子力潜水艦では、原子炉で発生させた熱エネルギーを利用して推進します。
さらに、一部の通常動力型潜水艦には、外気を取り込まずに一定期間発電できるAIPが搭載されています。
通常動力型潜水艦ではディーゼル燃料が中心
通常動力型潜水艦の代表的な燃料は、船舶用のディーゼル燃料などの石油系燃料です。
ディーゼルエンジンを使って発電し、その電気を蓄電池に蓄えます。
潜航中は、蓄電池から供給される電力で電動機を回し、プロペラなどの推進装置を動かすのが基本的な仕組みです。
原子力潜水艦ではウラン系核燃料を使用する
原子力潜水艦では、ディーゼル燃料を主な推進用燃料として使用するのではなく、ウランを基礎とした核燃料を使用します。
原子炉内で核分裂反応を起こして熱を発生させ、その熱を利用して蒸気を作り、タービンなどを動かして推進力や電力を得ます。
原子力潜水艦は少量の核燃料から非常に大きなエネルギーを得られるため、通常動力型潜水艦と比べて燃料補給による制約が非常に小さいことが特徴です。
通常動力型潜水艦ではディーゼル燃料を使う
通常動力型潜水艦の多くは、ディーゼル・エレクトリック方式を採用しています。
名称のとおり、ディーゼルエンジンと電気モーターを組み合わせた推進方式です。
ディーゼルエンジンで発電する
現代の代表的なディーゼル・エレクトリック潜水艦では、ディーゼルエンジンを利用して発電します。
発電した電気は、蓄電池の充電や艦内設備への電力供給などに使われます。
エネルギーの流れを簡単に表すと、次のようになります。
ディーゼル燃料 → ディーゼルエンジン → 発電機 → 蓄電池 → 電動機 → 推進装置
ただし、潜水艦の設計や時代によって動力伝達方式には違いがあるため、すべての潜水艦が完全に同じ構造というわけではありません。
完全潜航中は通常のディーゼルエンジンを使えない
ディーゼルエンジンで燃料を燃焼させるためには酸素が必要です。
そのため、外気を取り込めない完全潜航状態では、通常のディーゼルエンジンを運転することはできません。
潜水艦は浮上中、またはシュノーケルと呼ばれる吸気装置を海面上に出した状態で外気を取り込み、ディーゼルエンジンを運転します。
船体自体が水中にあっても、シュノーケルから外気を取り込める状態であればディーゼルエンジンを使用できます。
潜航中は蓄電池の電気で航行する
通常動力型潜水艦が完全に水中へ潜った状態では、蓄電池に蓄えた電気を使用するのが一般的です。
蓄電池から電動機へ電気を送り、推進装置を動かします。
蓄電池は燃料ではない
潜水艦について「バッテリーで動く」と表現されることがあります。
これは潜航時の仕組みとしては正しいのですが、厳密には蓄電池そのものは燃料ではありません。
蓄電池は、発電した電気エネルギーを一時的に蓄えておく装置です。
したがって、ディーゼル燃料と蓄電池は同じ種類のエネルギー源ではありません。
鉛蓄電池が長く使用されてきた
通常動力型潜水艦では、長年にわたって鉛蓄電池が広く使用されてきました。
鉛蓄電池は技術的に成熟しており、潜水艦向けとして長い運用実績があります。
一方で、重量や体積に対して蓄えられる電力量には限界があります。
一部の潜水艦ではリチウムイオン電池も採用されている
近年では、一部の最新型通常動力潜水艦でリチウムイオン電池が実用化されています。
リチウムイオン電池は、一般的に鉛蓄電池よりも重量や体積当たりに多くの電気エネルギーを蓄えやすいのが特徴です。
そのため、潜航中に利用できる電力量を増やし、水中での航続性能や高速航行性能を向上させることが期待できます。
ただし、リチウムイオン電池も燃料ではありません。
ディーゼル発電などで作った電気を蓄えるための蓄電装置です。
AIP潜水艦では別の燃料や酸化剤も使用する
通常動力型潜水艦には、蓄電池だけで潜航できる時間に限界があります。
その弱点を補う技術として開発されたのがAIPです。
AIPとは
AIPは「Air Independent Propulsion」の略で、日本語では「非大気依存推進」などと呼ばれます。
外部の大気を直接取り込まなくても、一定期間発電や推進を行える仕組みです。
ただし、「大気を使わない」という意味であり、「酸素をまったく使用しない」という意味ではありません。
多くのAIPシステムでは、艦内に液体酸素などを搭載して利用します。
AIPには複数の方式がある
AIPにはさまざまな方式があります。
代表的なものとして、
- スターリングエンジン方式
- 燃料電池方式
- 閉サイクルエンジン方式
などがあります。
使用する燃料や酸化剤は方式によって異なります。
スターリングエンジン方式では燃料と液体酸素を使う
AIPの一つがスターリングエンジン方式です。
スターリングエンジンは、外部から加えられた熱によって内部の作動ガスを膨張・収縮させ、機械的な動力を得る外燃機関です。
ディーゼル燃料などを熱源として利用する
潜水艦用のスターリングAIPでは、ディーゼル燃料などと液体酸素を利用して熱を発生させる方式があります。
通常のディーゼルエンジンとは異なり、大気中の酸素を直接取り込まなくても運転できます。
そのため、シュノーケルを海面上に出す頻度を減らし、より長い時間潜航することが可能になります。
液体酸素は燃料ではない
スターリングAIPで使われる液体酸素は、厳密には燃料ではありません。
燃料と反応して燃焼を成立させるための「酸化剤」です。
そのため、
燃料=ディーゼル燃料など
酸化剤=液体酸素
と区別して考える必要があります。
燃料電池AIPでは水素系燃料を利用する
AIPには、燃料電池を利用する方式もあります。
燃料電池は、水素と酸素などを電気化学的に反応させることで、直接電気を作る装置です。
水素と酸素から電気を作る
代表的な燃料電池では、水素と酸素を反応させて電気を発生させます。
仕組みを簡単に表すと、
水素+酸素 → 電気+水+熱
となります。
燃焼によってエンジンを回す方式とは異なるため、機械的な可動部分を少なくでき、潜水艦にとって重要な静粛性を確保しやすいのが特徴です。
水素をそのまま搭載するとは限らない
燃料電池式潜水艦だからといって、必ずしも大量の水素ガスをそのままタンクに入れているとは限りません。
水素を貯蔵して使用する方式のほか、メタノールなど水素を含む燃料から必要に応じて水素を取り出す方式もあります。
そのため、燃料電池AIPで使われる燃料は、採用するシステムによって異なります。
原子力潜水艦ではウラン系核燃料を使う
原子力潜水艦は、通常動力型潜水艦とはまったく異なるエネルギー源を利用しています。
艦内に搭載された原子炉で核分裂反応を起こし、そのエネルギーを推進や発電に利用します。
核分裂によって大量の熱を発生させる
原子炉の中では、ウランを基礎とする核燃料が核分裂します。
核分裂によって発生した熱を利用して蒸気を作り、タービンなどを動かします。
エネルギーの流れを簡単にすると、
核燃料 → 核分裂による熱 → 蒸気 → タービン → 推進・発電
となります。
実際の原子炉システムはさらに複雑ですが、基本的な考え方はこのとおりです。
ウランの濃縮度は潜水艦によって異なる
原子力潜水艦の核燃料には、一般にウラン系の燃料が使用されます。
ただし、ウランの濃縮度や燃料構造、原子炉の設計は国や艦種によって異なります。
軍用原子炉に関する詳細な仕様は公開されていない部分も多いため、原子力潜水艦では必ず特定の濃縮度のウランが使用されると一律に説明するのは適切ではありません。
原子力潜水艦は燃料補給の制約が小さい
原子力潜水艦の大きなメリットは、核燃料から非常に大きなエネルギーを得られることです。
そのため、通常動力型潜水艦のように頻繁に推進用燃料を補給する必要がありません。
長期間燃料交換を行わない設計もある
原子炉や核燃料の設計によっては、非常に長い期間にわたって燃料交換をせずに運用できる場合があります。
ただし、すべての原子力潜水艦が就役から退役まで一度も核燃料を交換しないわけではありません。
艦や原子炉の設計によって事情は異なります。
航海期間を決めるのは燃料だけではない
原子力潜水艦は、核燃料という点だけを見れば非常に長期間航行できます。
しかし、実際の航海期間には、
- 乗員の食料
- 消耗品
- 艦内設備の整備
- 乗員の勤務負担
- 任務上の条件
なども影響します。
そのため、「原子力潜水艦の航続距離は完全に無制限」と表現するよりも、「燃料補給による航続距離の制約が非常に小さい」と表現するほうが正確です。
潜水艦では推進以外にも大量の電力を使用する
潜水艦で必要になるエネルギーは、推進だけではありません。
艦内には多数の電気設備があり、航行中も大量の電力を必要とします。
艦内のさまざまな設備に電力が使われる
潜水艦では、たとえば次のような設備に電力が使用されます。
- 艦内照明
- 空調設備
- 空気浄化装置
- 酸素供給設備
- 海水淡水化装置
- ソナー
- 通信機器
- コンピューター
- 調理設備
- 各種センサー
通常動力型潜水艦では、発電機や蓄電池からこれらの設備へ電力を供給します。
原子力潜水艦では、原子炉を利用して発電できるため、長期間にわたって艦内設備へ電力を供給できます。
潜水艦では燃料消費による浮力の変化も管理する
潜水艦では、重量と浮力のバランスを細かく管理する必要があります。
そのため、燃料の搭載方法や消費による重量変化も艦の設計に影響します。
燃料タンクも浮力管理を考えて設計される
通常動力型潜水艦では、ディーゼル燃料を燃料タンクに搭載します。
燃料を消費すると艦内の重量配分が変化するため、潜水艦では燃料タンクやバラスト、トリムシステムなどを利用して浮力や姿勢を調整します。
潜水艦によっては、燃料の消費に合わせて海水を利用するなど、重量変化を抑える工夫が行われる場合もあります。
潜水艦で使われる主な燃料を整理
潜水艦で使われる燃料やエネルギー源は、動力方式によって次のように整理できます。
| 動力方式 | 主な燃料・エネルギー源 | 特徴 |
|---|---|---|
| 通常動力型(鉛蓄電池) | ディーゼル燃料+鉛蓄電池 | 潜航中は蓄電池で電動機を駆動 |
| 通常動力型(リチウムイオン電池) | ディーゼル燃料+リチウムイオン電池 | 大容量の電力を利用しやすい |
| スターリングAIP | ディーゼル燃料など+液体酸素 | 外気を取り込まず一定期間運転可能 |
| 燃料電池AIP | 水素系燃料など+酸素 | 高い静粛性を得やすい |
| 原子力潜水艦 | ウラン系核燃料 | 燃料補給による航続距離の制約が小さい |
なお、鉛蓄電池やリチウムイオン電池は厳密には燃料ではなく、電気エネルギーを蓄えるための装置です。
潜水艦の燃料は「燃料・発電・蓄電」を分けて考えると分かりやすい
潜水艦の燃料について理解する際は、「燃料」「発電装置」「蓄電装置」「推進装置」を分けて考えることが重要です。
通常動力型潜水艦では、主にディーゼル燃料を使って発電し、その電気を蓄電池に蓄えます。
完全潜航中は、蓄電池の電力で電動機を動かして航行します。
AIP搭載潜水艦では、スターリングエンジンや燃料電池などを利用することで、外気を取り込まなくても一定期間発電できます。
一方、原子力潜水艦では、ウラン系核燃料の核分裂によって発生した熱を利用して推進力や電力を得ます。
したがって、「潜水艦ではどのような燃料が使われているのか」という質問に簡潔に答えるなら、通常動力型では主にディーゼル燃料、AIPでは方式に応じて水素系燃料やディーゼル燃料など、原子力潜水艦ではウラン系核燃料が使われているということになります。
以上、潜水艦ではどのような燃料が使われているのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















