潜水艦のアクティブソナーとは、水中へ音響信号を送信し、物体に当たって戻ってきた反射音を解析することで、周囲の物体を探知するシステムです。
基本的な仕組みは非常にシンプルで、「音を出す」「反射音を受信する」「戻ってくるまでの時間や方向を解析する」という流れで成り立っています。
コウモリやイルカが音の反射を利用して周囲を把握する反響定位と似た考え方であり、水中では電波よりも音が遠くまで伝わりやすいため、潜水艦ではソナーが重要な探知手段として使われています。
アクティブソナーの基本的な仕組み
アクティブソナーは、自ら音を発して、その反射を利用する点が特徴です。
大まかな流れは、音響信号の生成、送信、水中伝播、反射、受信、信号処理という順番になります。
音響信号を水中へ送信する
まず、ソナー装置が探知に使用する音響信号を生成します。
この電気信号を水中へ放射できる音響エネルギーへ変換する役割を持つのが、トランスデューサーと呼ばれる音響変換器です。
送信時には、電気信号を音響信号へ変換して水中へ発射します。
この送信信号は一般に「ping(ピン、ピング)」と呼ばれることがあります。
ただし、実際の軍用ソナーでは、映画などで聞く単純な「ピーン」という音だけが使用されているわけではありません。
用途に応じて、周波数や時間的な変化を持たせたさまざまな音響信号が利用されます。
音波が海中を伝わる
送信された音波は海水中を伝わっていきます。
ただし、海中の音速は常に一定ではありません。
主に水温、塩分、圧力、深度などによって変化します。
そのため、音波が必ず直線的に進むとは限りません。
海中の音速分布によって音波が屈折し、進行方向が曲がることがあります。
こうした性質があるため、実際のソナーでは海洋環境を考慮した解析が重要になります。
物体に当たった音の一部が反射する
水中を進んだ音波が潜水艦や水上艦、海底、岩礁、魚群、水中構造物などに当たると、音の一部が反射します。
この戻ってくる音をエコーと呼びます。
アクティブソナーは、このエコーを受信して、対象の位置や性質に関する情報を分析します。
アクティブソナーは距離をどのように測るのか
アクティブソナーの大きな特徴の一つが、対象までの距離を比較的直接的に求められる点です。
音の往復時間を利用する
距離は、音響信号を送信してから反射音が戻ってくるまでの時間を利用して求めます。
基本的な計算式は次の通りです。
距離 = 水中の音速 × 往復時間 ÷ 2
2で割るのは、測定している時間が「ソナーから対象まで」と「対象からソナーまで」の往復分だからです。
たとえば、音が一定時間後に戻ってきた場合、その間に音が進んだ総距離を計算し、それを半分にすることで対象までのおおよその距離を求められます。
実際には海中の音速変化も考慮する
単純な説明では水中の音速を一定として計算できますが、実際の海では水温や塩分、深度などによって音速が変化します。
そのため、精度の高い距離推定を行うには、その海域の音速分布を考慮する必要があります。
アクティブソナーは方向をどのように調べるのか
対象までの距離だけでなく、どの方向に存在しているのかを把握することも重要です。
そのために利用されるのが、複数の音響素子を組み合わせたソナーアレイです。
複数の受信素子で反射音を受信する
対象から戻ってきた音は、ソナーアレイを構成する複数の受信素子に到達します。
音がどの方向から到来したかによって、それぞれの素子に届くタイミングや位相にわずかな違いが生じます。
これらの差を解析することで、反射音がどの方向から来たのかを推定できます。
ビームフォーミングで特定方向の信号を強調する
ソナーアレイでは、ビームフォーミングと呼ばれる信号処理技術も利用されます。
ビームフォーミングは、複数の音響素子から得られる信号を組み合わせて、特定方向から来る音を強調する方法です。
これによって、さまざまな方向から届く音の中から、特定方向に存在する目標の反射音を捉えやすくなります。
ドップラー効果から相対的な運動を推定できる
アクティブソナーでは、戻ってきた反射音の周波数変化を解析することで、対象との相対的な運動に関する情報を得られる場合があります。
ドップラー効果を利用する
対象がソナーへ近づいている場合と遠ざかっている場合では、反射して戻ってくる音響信号の周波数が変化します。
これは、救急車が近づくときと遠ざかるときでサイレンの音程が変わるのと同じドップラー効果です。
ただし、ドップラー効果だけで対象の完全な速度や進行方向がすべて分かるわけではありません。
主に、ソナーと対象を結ぶ方向における相対的な速度成分を推定するための材料になります。
反射音の特徴から対象の性質を推定する
アクティブソナーでは、単に「反射音が返ってきたかどうか」だけを見ているわけではありません。
反射音の強さや時間変化、周波数特性なども分析されます。
エコーの強さはさまざまな要因で変わる
対象から返ってくる反射音の強さは、対象の大きさだけで決まるものではありません。
対象の形状、材質、表面状態、向き、使用する周波数などによっても大きく変化します。
そのため、「反射音が強いから大型の潜水艦である」と単純に判断することはできません。
対象の種類を推定する材料になる
反射音の特徴を解析することで、人工物なのか海底なのか、あるいは別の物体なのかを判断するための材料を得られます。
ただし、アクティブソナーだけで必ず対象の艦種や型式まで特定できるとは限りません。
より正確には、反射信号の特徴から対象の性質や種類を推定するための情報を得ると考えるのが適切です。
海底や魚群からの反射も受信してしまう
アクティブソナーの音は、探したい対象だけに当たるわけではありません。
海中にはさまざまな反射源があります。
海面や海底からも音が反射する
送信した音は、海底、海面、岩礁、水中構造物などでも反射します。
さらに、魚群や海中の小さな散乱体などからも音が返ってくることがあります。
そのため、ソナーは多数の反射音の中から、目標の可能性がある信号を抽出する必要があります。
リバーブレーションが探知を難しくする
海面や海底などから大量の反射音が戻ってくる現象を、リバーブレーションと呼びます。
日本語では残響などと表現されます。
目標からの反射音が弱い場合には、こうした残響の中に目標信号が埋もれてしまうことがあります。
そのため、現代のソナーでは高度なデジタル信号処理を利用して、必要な信号を抽出します。
水温躍層はアクティブソナーにどのような影響を与えるのか
潜水艦のソナーを理解するうえで重要な海洋現象の一つが、水温躍層です。
水温躍層とは
水温躍層とは、海中で深度が増すにつれて水温が急激に変化する層のことです。
海水中の音速は水温の影響を受けるため、水温が急激に変化する場所では音速も変化します。
音波の進行方向が屈折する
音速が深度によって変化すると、音波の進行方向が屈折することがあります。
このため、水温躍層の上下で音の伝わり方が変化し、探知しやすい場所と探知しにくい場所が生じる可能性があります。
ただし、水温躍層が物理的な壁のように音を完全に遮断するわけではありません。
より正確には、水温変化によって音速勾配が生じ、その結果として音波の伝播経路が変化すると考えるべきです。
アクティブソナーとパッシブソナーの違い
潜水艦では、アクティブソナーだけでなくパッシブソナーも重要です。
両者の最大の違いは、自分から探知用の音を出すかどうかにあります。
アクティブソナーは自分から音を出す
アクティブソナーでは、自艦から音響信号を送信して、その反射音を利用します。
そのため、対象自身が大きな音を発していなくても、反射音を得られれば探知できる可能性があります。
また、送信時刻が分かっているため、反射音が戻るまでの時間から対象までの距離を求めやすいという特徴があります。
パッシブソナーは周囲の音を聞く
パッシブソナーは、自ら探知用の音響信号を送信せず、周囲から聞こえてくる音を受信する方式です。
船舶や潜水艦の推進器、機械類、船体周辺の流体などが発する音を分析して、対象の存在や方向などを推定します。
簡単に整理すると、
アクティブソナー=音を出して反射を調べる
パッシブソナー=相手が出している音を聞く
という違いがあります。
アクティブソナーを常に使うわけではない理由
アクティブソナーには、対象の距離を直接的に求めやすいなどの利点があります。
一方で、潜水艦にとって無視できない欠点もあります。
音を送信すると発信源を推定される可能性がある
アクティブソナーは自分から強い音響信号を送信します。
その音を周囲の潜水艦や艦艇が受信した場合、発信源の存在や方向、位置を推定する手掛かりを与える可能性があります。
ただし、1回ソナーを使用しただけで相手に自艦の正確な位置が必ず分かるという意味ではありません。
相手が音を受信できる位置にいることや、適切な受信・解析能力を持っていることなど、さまざまな条件が関係します。
潜水艦では隠密性が重要になる
潜水艦は、相手に存在を気付かれにくいことが重要です。
そのため、任務や周囲の状況によっては、自ら探知用の音を出さずにパッシブソナーで周囲を監視することが重視されます。
アクティブソナーとパッシブソナーは、どちらか一方だけを使えばよいというものではなく、それぞれ異なる利点と欠点があります。
アクティブソナーは水中版レーダーのようなもの
初心者向けに単純化すると、アクティブソナーは「音を利用した水中版レーダー」のようなものと考えることができます。
レーダーは電磁波を発射して反射波を受信します。
一方、アクティブソナーは音波を発射して、その反射音を受信します。
ただし、電波と音波では性質が大きく異なり、海中では水温や塩分、深度、海底地形などによって音の伝わり方が大きく変化します。
そのため、実際のソナーは単純な距離計ではなく、海洋学や音響学、高度な信号処理を組み合わせた複雑なシステムです。
潜水艦のアクティブソナーの仕組みをまとめる
潜水艦のアクティブソナーは、自艦から水中へ音響信号を送り、対象から返ってきた反射音を分析することで周囲の状況を把握する仕組みです。
音を送信してから戻ってくるまでの時間を利用すれば対象までの距離を求められ、複数の受信素子を使えば反射音の到来方向を推定できます。
さらに、ドップラー効果やエコーの強度、周波数特性などを解析することで、対象との相対的な運動や物体の性質を推定するための情報も得られます。
一方、海中では水温や塩分、深度によって音速が変化し、海面や海底などからも多数の反射音が戻ってきます。
そのため、現代のアクティブソナーでは、単に「音を出して反射音を聞く」だけではなく、ソナーアレイ、ビームフォーミング、デジタル信号処理、海洋環境の分析などを組み合わせて探知を行います。
また、自ら音を送信することで相手に発信源を推定する手掛かりを与える可能性があるため、潜水艦では状況に応じてアクティブソナーとパッシブソナーを使い分けることが重要です。
以上、潜水艦のアクティブソナーについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















