潜水艦で使われる主な専門用語について

潜水艦では、潜航や浮上、船体構造、推進、ソナー、通信、航海、兵装などに関して、さまざまな専門用語が使われます。

水上艦とは異なる構造や運用方法を持つため、潜水艦特有の用語も少なくありません。

ここでは、潜水艦について理解するうえで知っておきたい主な専門用語を、分野ごとに分けてわかりやすく解説します。

目次

潜水艦の種類を表す専門用語

SS

「SS」は、潜水艦を示す艦種記号として使われる表記です。

米海軍などでは、通常動力型の攻撃潜水艦などを示す際に用いられてきました。

ただし、艦種記号の使い方は国や海軍によって異なるため、世界中ですべて同じ意味で使用されるわけではありません。

SSN

「SSN」は、米海軍などで原子力推進の攻撃潜水艦を示す艦種記号です。

原子炉を動力源とするため、通常動力型潜水艦と比較して推進システムそのものによる潜航時間の制約が小さいことが特徴です。

敵潜水艦や水上艦艇の捜索・追跡、情報収集など、さまざまな任務に使用されます。

なお、「SSN」は単純に英単語の頭文字を並べた略語としてではなく、艦種を示す分類記号として理解するのが適切です。

SSBN

「SSBN」は、弾道ミサイルを搭載する原子力潜水艦を示す艦種記号です。

日本語では「弾道ミサイル原子力潜水艦」などと呼ばれます。

長期間にわたって海中に潜伏し、潜水艦発射弾道ミサイルを運用できることから、核抑止力を構成する重要な戦力として位置付けられています。

SSGN

「SSGN」は、誘導ミサイルを主要兵装とする原子力潜水艦を示す艦種記号です。

米海軍では巡航ミサイルを多数搭載する潜水艦などに使用されており、対地攻撃や特殊作戦支援などに用いられます。

潜航・浮上に関する専門用語

バラストタンク

「バラストタンク」は、潜水艦の浮力を調整するために使用されるタンクです。

潜水艦はタンク内へ海水を取り込んだり排出したりすることで、浮力の状態を変化させます。

ただし、潜航中の細かな深度調整をすべてバラストタンクだけで行うわけではありません。

実際には、重量や浮力の調整に加え、潜舵などが生み出す流体力を組み合わせて深度や姿勢を制御します。

メインバラストタンク

「メインバラストタンク」は、英語で「Main Ballast Tank」と呼ばれ、「MBT」と略されることがあります。

主に潜水艦を水上航行状態から潜航状態へ移行させたり、潜航状態から浮上させたりする際に使用されます。

潜航するときにはタンク内部の空気を排出して海水を取り込み、浮上するときには空気を送り込んで海水を排出します。

トリムタンク

「トリムタンク」は、潜水艦の前後方向の重量バランスや姿勢を調整するためのタンクです。

艦首側や艦尾側の水量を調整することで、船体が過度に前後へ傾くのを防ぎます。

潜水艦が安定した姿勢で航行するために重要な装置です。

ベント

「ベント」は、空気や気体を外部へ排出すること、またはそのための弁や開口部を意味する言葉です。

潜水艦では、特にメインバラストタンク上部のベント弁を開き、内部の空気を外へ逃がす操作を指すことがあります。

空気が抜けるとタンク内へ海水が入りやすくなり、潜航につながります。

ブロー

「ブロー」は、圧縮空気などを使用してバラストタンク内の海水を押し出す操作を指します。

海水が排出されると艦全体の浮力が増加し、浮上しやすくなります。

ブローは通常の浮上に関連する操作としても使われるため、「ブロー=必ず緊急浮上」という意味ではありません。

エマージェンシー・ブロー

「エマージェンシー・ブロー」は、緊急時にメインバラストタンクへ高圧空気を送り込み、海水を急速に排出する操作です。

短時間で大きな浮力を確保し、緊急浮上につなげることを目的とします。

通常の浮上操作と区別して理解することが重要です。

ダイブ

「ダイブ」は英語の「dive」に由来し、潜水艦が水上から水中へ潜航することを意味します。

潜航開始を表す言葉として使われる場合があります。

サーフェス

「サーフェス」は英語の「surface」に由来し、潜水艦が水面へ浮上すること、または水上航行状態を指します。

潜望鏡深度

「潜望鏡深度」は英語で「Periscope Depth」と呼ばれます。

潜水艦本体を水中に保ちながら、潜望鏡や一部のマスト類を水面上へ出せる程度の浅い深度です。

潜望鏡による目視確認や一部装備の使用に利用されます。

なお、シュノーケルを使用する際の深度などとは、艦型や運用方法によって厳密に区別される場合があります。

潜水艦の船体や構造に関する専門用語

耐圧殻

「耐圧殻」は、英語で「Pressure Hull」と呼ばれます。

深い海中で発生する高い水圧から、乗員や機器を守るための主要な船体構造です。

潜水深度が大きくなるほど水圧も高くなるため、耐圧殻には高い強度と精密な製造技術が求められます。

外殻

潜水艦の船体構造によっては、耐圧殻の外側に非耐圧の外殻が設けられています。

外殻は船体を流線形に整えたり、機器やタンクなどを配置したりする役割を持つ場合があります。

潜水艦には単殻式、複殻式、その中間的な構造などがあるため、すべての潜水艦が同じ外殻構造を持つわけではありません。

セイル

「セイル」は、潜水艦の船体上部に設けられた突出構造です。

潜望鏡や通信アンテナ、レーダー、各種センサーのマストなどが配置されます。

米国では「sail」という呼称が一般的ですが、英国系では「fin」と呼ばれることがあります。

そのため、「セイル」と「フィン」は地域や海軍による呼称の違いとして理解するとよいでしょう。

潜望鏡

「潜望鏡」は英語で「Periscope」と呼ばれます。

潜水艦の船体を水中に保ったまま、水面上の状況を確認するための装置です。

現代の潜水艦では、従来型の光学式潜望鏡だけでなく、カメラや赤外線センサーなどを備えた「フォトニクス・マスト」を採用する艦もあります。

ハッチ

「ハッチ」は、乗員の出入りや区画間の移動などに使用される開口部と扉を指します。

潜水艦では浸水を防ぐ必要があるため、高い水密性を確保できる構造になっています。

魚雷発射管

「魚雷発射管」は英語で「Torpedo Tube」と呼ばれます。

魚雷を発射するための筒状の装置です。

艦型によっては、魚雷だけでなく巡航ミサイル、対艦ミサイル、機雷などの発射や放出に利用できる場合があります。

操艦や姿勢制御に関する専門用語

潜舵

「潜舵」は、水中で潜水艦の上下方向の姿勢や深度を制御するための舵面です。

英語では「Diving Plane」や「Hydroplane」などと呼ばれます。

水流によって生じる力を利用し、艦首の上下方向の姿勢や深度を調整します。

艦首潜舵・セイルプレーン

潜舵は設置場所によって名称が異なります。

艦首付近に配置されたものは「Bow Plane」、セイル付近に設置されたものは「Sail Plane」などと呼ばれます。

どの方式を採用するかは潜水艦の設計によって異なります。

方向舵・艦尾潜舵

従来型の潜水艦では、艦尾に左右方向の旋回を担当する方向舵と、上下方向の姿勢を調整する艦尾潜舵が配置されています。

垂直方向の舵面がおもに左右の旋回を、水平舵面がおもにピッチや深度制御を担当します。

X舵

「X舵」は、艦尾の舵面をX字型に配置する方式です。

複数の舵面を組み合わせて上下・左右方向を制御するため、従来の十字型舵とは制御方法が異なります。

近年の潜水艦で採用される例があります。

トリム

「トリム」は、潜水艦の前後方向の重量バランスや傾きを意味します。

適切なトリムを保つことは、安定した潜航や深度維持に欠かせません。

ピッチ

「ピッチ」は、船体を横方向の軸を中心として艦首が上下する回転運動です。

艦首が上を向いたり下を向いたりする姿勢変化を表します。

ロール

「ロール」は、船体の前後方向の軸を中心として左右へ傾く回転運動です。

ヨー

「ヨー」は、船体を上から見たときに艦首が左右へ向きを変える回転運動です。

潜水艦の旋回と深く関係します。

潜水艦の推進に関する専門用語

ディーゼル・エレクトリック方式

「ディーゼル・エレクトリック方式」は、ディーゼル機関と電動機を組み合わせた代表的な潜水艦の推進方式です。

ディーゼル機関で発電し、その電力を利用して蓄電池を充電したり、推進用電動機を駆動したりします。

完全潜航中は外気を直接取り込めないため、主として蓄電池に蓄えた電力で電動機を動かします。

シュノーケル

「シュノーケル」は、潜水艦が浅い深度を航行しながらディーゼル機関を運転するために、海面上から空気を取り入れる装置です。

英語では「Snorkel」と表記されます。

艦全体を水上へ浮上させなくても発電や蓄電池の充電を行えることが利点です。

AIP

「AIP」は「Air-Independent Propulsion」の略で、日本語では「非大気依存推進」などと呼ばれます。

外部の大気を直接取り込まずに、水中で一定期間動力を得られる推進システムです。

スターリング機関や燃料電池など複数の方式があります。

なお、AIPは「酸素をまったく使用しない」という意味ではありません。

方式によっては、艦内に搭載した液体酸素などを使用します。

リチウムイオン電池

近年の通常動力型潜水艦では、リチウムイオン電池を採用する例があります。

従来の鉛蓄電池と比べて、高いエネルギー密度や充放電性能などが期待できます。

日本では、海上自衛隊のそうりゅう型後期艦やたいげい型などでリチウムイオン電池が採用されています。

原子力推進

原子力潜水艦では、原子炉で発生させた熱を利用して推進力や艦内電力を得ます。

原子炉は外部から酸素を取り込まずに運転できるため、通常動力潜水艦と比べて推進システムによる潜航時間の制約が小さくなります。

ただし、実際の連続行動期間は食料、乗員、整備、任務上の事情などによって制限されます。

プロペラ

潜水艦の推進器として一般的なのがプロペラです。

潜水艦では敵に探知されにくくするため、推進効率だけでなく静粛性も重要です。

そのため、キャビテーションや水中騒音を抑えることを考慮した設計が行われます。

ポンプジェット

「ポンプジェット」は、ダクト状の構造内部にローターなどを配置した推進方式です。

一部の原子力潜水艦などで採用されています。

キャビテーションや騒音低減、推進効率などを考慮して使用されますが、あらゆる条件で一般的なプロペラより必ず静かであるとは限りません。

ソナーに関する専門用語

ソナー

「ソナー」は「SONAR」と表記され、「Sound Navigation and Ranging」に由来する名称です。

水中では電波を利用した遠距離探知が難しいため、潜水艦では音を利用して周囲の状況を把握します。

潜水艦にとって、ソナーは非常に重要なセンサーです。

パッシブソナー

「パッシブソナー」は、自艦から探知用の音を発信せず、周囲から伝わってくる音を受信する方式です。

敵艦艇の推進器音や機械音などを分析し、方向や艦種などを推定します。

自艦から探知音を発しないため、秘匿性を重視する潜水艦では特に重要です。

アクティブソナー

「アクティブソナー」は、自ら音波を発信し、目標物から戻ってくる反射音を利用して探知する方式です。

目標までの距離や方向などを把握できます。

一方で、自艦が音を発信するため、その存在を相手側に察知される可能性があります。

ピン

アクティブソナーが発する音響パルスは、一般に「ping(ピン)」と表現されることがあります。

映画などで聞かれる「ピーン」という音のイメージでも知られています。

ソナーアレイ

「ソナーアレイ」は、多数の音響センサーを組み合わせた装置です。

設置場所や目的によって、さまざまな種類があります。

艦首ソナー

「艦首ソナー」は、潜水艦の艦首付近に設置される大型ソナーです。

周囲の音響情報を収集する主要センサーの一つです。

フランクアレイ

「Flank Array」は、潜水艦の船体側面に配置される受波器群です。

大きな受信面積を確保し、周囲の音響情報を収集するために使用されます。

曳航ソナー

「Towed Array Sonar」は、長いケーブル状のソナーを潜水艦後方へ曳航して使用する装置です。

自艦から離れた位置で音を受信できるため、艦そのものが発する騒音の影響を抑えやすいという特徴があります。

潜水艦の静粛性や探知に関する専門用語

音響シグネチャ

「音響シグネチャ」とは、艦艇が発する音響上の特徴を指します。

推進器、主機、補機、ポンプ、振動、船体周辺の水流など、さまざまな要因によって特徴的な音が生じます。

こうした音を分析することで、艦種や個体などを推定できる場合があります。

静粛性

「静粛性」とは、潜水艦が発する騒音をどの程度抑えられるかを示す重要な性能です。

潜水艦は相手に発見されないことが重要であるため、機械振動や推進音、流体音などを低減するさまざまな技術が使われています。

キャビテーション

「キャビテーション」は、プロペラなどの周囲で局所的に圧力が低下し、気泡が発生する現象です。

発生した気泡が崩壊すると騒音が生じるため、潜水艦ではキャビテーションをできるだけ抑えることが重要になります。

無響タイル

「無響タイル」または「音響吸収タイル」は、潜水艦の船体表面に取り付けられる特殊な素材です。

アクティブソナーの音波反射を低減したり、艦内で発生した騒音が外部へ伝わるのを抑えたりする目的で使用されます。

材質や構造、効果は潜水艦によって異なります。

航海に関する専門用語

INS

「INS」は「Inertial Navigation System」の略で、日本語では「慣性航法装置」と呼ばれます。

ジャイロや加速度計などを利用し、自艦の移動量や位置を推定します。

GPSなどの衛星測位電波は海水中を実用的な深度まで伝わらないため、潜航中の潜水艦にとって慣性航法は重要です。

デッドレコニング

「Dead Reckoning」は、日本語で「推測航法」などと呼ばれます。

既知の位置を基準として、針路、速度、経過時間などから現在位置を推定する方法です。

深度

潜水艦では、海面からどの程度の深さにいるかを示す「深度」が重要な航海情報になります。

安全な航行には、自艦の深度だけでなく、海底までの距離や周辺海域の水深なども考慮する必要があります。

潜水艦の通信に関する専門用語

VLF

「VLF」は「Very Low Frequency」の略で、日本語では一般に「超長波」と呼ばれます。

通常の高い周波数の電波と比較すると海水中への浸透性が高いため、潜水艦への通信に利用されます。

ただし、海水中を自由に深く伝わるわけではなく、受信できる深度や条件には制約があります。

また、通信速度が低いため、大容量のデータ通信には適していません。

ELF

「ELF」は「Extremely Low Frequency」の略です。

VLFよりもさらに低い周波数帯で、海水への浸透性が高い一方、送信できる情報量が非常に少ないという特徴があります。

また、大規模な送信設備が必要になるなどの制約があり、歴史的に一部の国で潜水艦通信に利用されてきました。

通信ブイ・曳航アンテナ

潜水艦では、艦型や装備によって、通信ブイや曳航式アンテナ、浮上式アンテナなどを使用する場合があります。

潜水艦本体を完全に浮上させずに通信できる可能性があることが特徴です。

ただし、「通信ブイ」と「曳航アンテナ」は異なる装備であり、同一のものではありません。

潜水艦の兵装に関する専門用語

魚雷

「魚雷」は、水中を自走して目標へ向かう兵器です。

潜水艦の代表的な兵装で、敵潜水艦や水上艦艇などに対して使用されます。

ホーミング魚雷

「ホーミング魚雷」は、目標から発生する音や自ら発した音の反射などを利用して、目標を追尾する誘導魚雷です。

パッシブ方式やアクティブ方式、その両方を利用する方式などがあります。

ワイヤー誘導

一部の魚雷では、発射後もケーブルなどを介して潜水艦と通信し、目標情報や誘導指令をやり取りする方式があります。

これを「有線誘導」や「ワイヤー誘導」と呼びます。

システムによっては、金属線だけでなく光ファイバーなどが使われる場合もあります。

SLBM

「SLBM」は「Submarine-Launched Ballistic Missile」の略で、日本語では「潜水艦発射弾道ミサイル」と呼ばれます。

主としてSSBNに搭載され、戦略的な核抑止力を構成する兵器として利用されます。

SLCM

「SLCM」は「Submarine-Launched Cruise Missile」の略で、日本語では「潜水艦発射巡航ミサイル」と呼ばれます。

潜水艦から発射され、対地攻撃や対艦攻撃などに使用される場合があります。

潜水艦の艦内生活に関する専門用語

区画

潜水艦内部はいくつかの区画に分けられています。

発令所、居住区、機械区画、魚雷区画などが設けられますが、具体的な構成は艦型によって異なります。

発令所

「発令所」は、潜水艦の操艦や航海、戦闘指揮などを行う中心的な区画です。

英語圏では「Control Room」などと呼ばれます。

深度や針路、ソナー情報などを確認しながら潜水艦を運用します。

ホットバンキング

「Hot Bunking」や「Hot Racking」は、限られた寝台を複数の乗員が勤務交代に合わせて共用する運用を指します。

艦内スペースが限られている潜水艦で行われることがあります。

ただし、すべての潜水艦で採用されているわけではありません。

潜水艦の専門用語を知ると仕組みを理解しやすい

潜水艦で使用される専門用語は、大きく「潜航・浮上」「船体構造」「操艦」「推進」「ソナー」「静粛性」「航海」「通信」「兵装」などに分けられます。

なかでも、バラストタンク、ベント、ブロー、トリム、潜舵、耐圧殻、ソナー、パッシブソナー、シュノーケル、AIPといった用語は、潜水艦の仕組みを理解するうえで重要です。

これらの意味を知っておくと、潜水艦がどのように潜航・浮上し、水中で姿勢や深度を維持しながら、周囲を探知して航行しているのかを理解しやすくなります。

なお、潜水艦の用語や装備名称、艦種記号は、国、海軍、時代、艦型によって意味や使われ方が異なる場合があります。

特定の潜水艦について詳しく調べる場合は、その国の海軍や防衛当局が公表している正式な名称や資料も確認することが大切です。

以上、潜水艦で使われる主な専門用語についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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