潜水艦における「ブロー」とは、主に主バラストタンクへ圧縮空気を送り込み、タンク内の海水を艦外へ押し出す操作のことです。
主バラストタンクは、潜水艦が浮いたり沈んだりするために重要な設備です。
潜航時には主バラストタンクへ海水を取り込み、浮力を小さくします。
反対に浮上する際には、タンク内の海水を排出して潜水艦の重量を減らし、正の浮力を増やします。
この海水を排出する操作の一つがブローです。
特に事故などで急速に浮力を確保する必要がある場合には、「エマージェンシー・ブロー」と呼ばれる緊急操作が行われることがあります。
ブローに関係する主バラストタンクの役割
主バラストタンクは潜水艦の大きな浮力変化を担う
潜水艦には、主バラストタンク(Main Ballast Tank:MBT)と呼ばれる大型のタンクがあります。
主バラストタンクは、潜水艦を水上状態から潜航状態へ移行させたり、逆に水中から水上状態へ戻したりするために使われます。
潜航するときにはタンク内部へ海水を取り込みます。
すると艦全体の重量が増加し、浮力との差が小さくなるため、水中へ潜りやすくなります。
一方、主バラストタンク内の海水を排出すると艦全体の重量が減り、浮力が重量を上回る「正の浮力」が大きくなります。
その結果、潜水艦は水面方向へ上昇しやすくなります。
浮力の細かな調整には別のタンクも使われる
潜水艦には主バラストタンク以外にも、トリムや重量を細かく調整するためのタンクがあります。
潜航中は燃料や物資の消費、海水密度の変化、乗員や機器の配置などによって艦の重量バランスが変化します。
こうした変化に対応するため、調整用のタンクを使って艦首と艦尾のバランスや浮力を細かく整えます。
そのため、主バラストタンクは主として大きな浮沈状態の変更を担当し、その他のタンクは細かな重量や姿勢の調整を担当すると考えると分かりやすいでしょう。
潜水艦がブローする仕組み
圧縮空気を主バラストタンクへ送り込む
潜航中の主バラストタンクには海水が入っています。
ブローを行う際には、タンク上部から圧縮空気を送り込みます。
このとき重要なのは、送り込まれる空気の圧力です。
タンク内部の圧力が周囲の海水圧を上回ると、タンク内の海水を外へ押し出せるようになります。
海水はタンク下部から艦外へ排出される
主バラストタンクは一般に、下部が海とつながる構造になっています。
圧縮空気が送り込まれると、タンク内部の海水が下側の開口部から艦外へ押し出されます。
つまり、ブローの本質は「空気が水より軽いから水が出ていく」というよりも、圧縮空気によってタンク内部と外部の間に圧力差を作り、その圧力差によって海水を排出することにあります。
海水が排出されると潜水艦の重量が減る
主バラストタンクから海水が排出されると、その海水の分だけ潜水艦全体の重量が減少します。
一方、潜水艦の外形によって決まる排水容積は大きく変わりません。
そのため、周囲の海水から受ける浮力に対して艦の重量が小さくなります。
結果として正の浮力が増え、潜水艦は水面方向へ上昇しやすくなります。
ブローの流れを簡単にまとめると、
圧縮空気を主バラストタンクへ送る
↓
タンク内圧が周囲の海水圧より高くなる
↓
主バラストタンク内の海水が艦外へ押し出される
↓
潜水艦の重量が減る
↓
正の浮力が増える
という仕組みです。
ブローとベントの違い
ベントは主バラストタンク内の空気を逃がす操作
潜水艦の浮沈を理解するうえでは、「ブロー」とあわせて「ベント」という言葉も重要です。
ベントとは、主バラストタンク上部にある弁などを開き、タンク内部の空気を外へ逃がす操作を指します。
潜水艦が潜航するときには主バラストタンクのベントを開きます。
すると内部の空気が排出され、タンク下部から海水が流れ込みます。
その結果、艦の重量が増加して潜航しやすくなります。
ブローではベントを閉じて圧縮空気を送る
一方、ブローを行う場合には基本的にベントを閉じ、主バラストタンク内部へ圧縮空気を送り込みます。
空気が逃げない状態でタンク内部の圧力を高めることで、海水を下側から艦外へ排出できます。
そのため、分かりやすく整理すると、
「ベント=空気を逃がして海水を入れる」
「ブロー=圧縮空気を入れて海水を出す」
という関係になります。
ただし、厳密には「ベント」は弁や排気操作を意味し、「ブロー」は圧縮空気によって水を排出する操作を意味するため、完全に反対語というわけではありません。
通常の浮上とブローの関係
潜水艦はブローだけで浮上するわけではない
潜水艦というと、「水中から浮上するときにはバラストタンクをブローして浮かび上がる」というイメージを持たれがちです。
しかし、通常の浮上では必ずしも高圧空気だけを使って水面まで浮上するわけではありません。
潜航中の潜水艦は、通常、ほぼ中性浮力に近い状態になるよう調整されています。
この状態では、推進力と潜舵などの舵面を利用して進行方向を上向きに変えることで、水面方向へ移動できます。
つまり、通常の深度変更では航空機が高度を変えるように、前進しながら舵面を使って上下方向へ移動することができます。
水面状態を確立するときに主バラストタンクを排水する
水中から水面近くまで上昇した後は、水上航行に必要な十分な正の浮力を確保するため、主バラストタンク内の海水を排出します。
このとき潜水艦の設計や状況によっては、高圧空気だけではなく低圧の送風装置などが使われる場合もあります。
そのため、
「浮上=常に高圧空気で主バラストタンクをブローする」
と考えるのは正確ではありません。
通常浮上と緊急ブローは分けて理解する必要があります。
深い場所でのブローに高圧空気が必要な理由
水深が深いほど周囲の海水圧が高くなる
海中では、水深が深くなるほど水圧が高くなります。
そのため、深い場所で主バラストタンクから海水を押し出すには、タンク内部の空気圧を周囲の海水圧よりも高くする必要があります。
十分な圧力がなければ、海水を外へ押し出すことができません。
このため、水中、特に深い場所から主バラストタンクを直接ブローする場合には高圧空気が重要になります。
深い場所では空気の消費条件も厳しくなる
深海では周囲の圧力が高いため、送り込まれた空気も強く圧縮されます。
同じ体積の主バラストタンク内に空気を広げるためには、浅い場所より多くの高圧空気が必要になります。
そのため、深い場所からブローを行うほど、高圧空気の消費量に関する条件は厳しくなります。
上昇するとタンク内の空気が膨張する
ブローによって潜水艦が上昇すると、周囲の水圧は徐々に低下します。
すると主バラストタンク内の空気が膨張します。
空気が膨張するとさらに多くの海水をタンク外へ押し出すことができるため、正の浮力が増加する場合があります。
そのため、緊急ブローでは上昇が進むにつれて浮力がさらに増すことがあります。
エマージェンシー・ブローとは
緊急時に急速に正の浮力を確保する操作
「エマージェンシー・ブロー」とは、潜水艦が通常の方法では十分に浮上できない緊急事態において、主バラストタンクへ高圧空気を送り込み、急速に海水を排出する操作です。
たとえば、重大な浸水や浮力低下などによって艦が沈降している場合には、できるだけ早く正の浮力を増加させる必要があります。
その際に主バラストタンクを急速にブローすることで、艦の重量を減らし、水面方向への浮上を促します。
ブローそのものが潜水艦を上へ押すわけではない
エマージェンシー・ブローについては、「圧縮空気の力で潜水艦を上へ押し上げる」と考えると正確ではありません。
圧縮空気が行うのは、主バラストタンク内の海水を艦外へ排出することです。
その結果として艦の重量が減り、浮力が重量を上回ります。
この正の浮力によって潜水艦が上昇します。
つまり、
高圧空気
↓
主バラストタンクから海水を排出
↓
潜水艦の重量が減少
↓
正の浮力が増加
↓
潜水艦が上昇
という関係です。
エマージェンシー・ブローは通常の浮上方法ではない
大量の高圧空気を消費する
エマージェンシー・ブローでは、短時間で主バラストタンク内の海水を排出するため、大量の高圧空気を使用することがあります。
高圧空気は潜水艦にとって有限の資源であり、さまざまな機器や安全機能にも関係します。
そのため、緊急ブローを日常的な浮上方法として使用するわけではありません。
急激な浮力変化が発生する
緊急ブローによって大量の海水が排出されると、艦の正の浮力が急激に増加する可能性があります。
その結果、潜水艦は通常浮上よりも速く水面方向へ上昇することがあります。
実際の上昇速度や姿勢は、艦の設計、深度、速度、舵面の状態、浸水状況などによって異なります。
したがって、エマージェンシー・ブローはあくまで緊急事態に対応するための安全手段の一つです。
ブローしても必ず浮上できるとは限らない
大量に浸水している場合
潜水艦の内部へ大量の海水が入り込むと、艦全体の重量が大幅に増加します。
その場合、主バラストタンクをブローして海水を排出しても、増加した重量を完全に打ち消せない可能性があります。
十分な正の浮力を確保できなければ、ブローを行っても浮上できない場合があります。
空気系統や配管が故障している場合
主バラストタンクをブローするには、高圧空気をタンクまで正常に送り込む必要があります。
高圧空気ボトル、配管、バルブなどが損傷していれば、必要な空気を供給できない可能性があります。
ベントが正常に閉じない場合
ブローを行う際には、送り込んだ空気がタンク外へ逃げないことも重要です。
ベントなどが正常に閉じていない場合、圧縮空気が漏れてしまい、十分な圧力を確保できないことがあります。
すると主バラストタンク内の海水を十分に排出できません。
このため、潜水艦の安全性はブロー装置だけで成立しているわけではなく、船体、配管、バルブ、空気系統、推進装置、操舵装置など多くの設備によって支えられています。
ブローと緊急浮上は同じ意味ではない
ブローは海水を排出する操作
潜水艦を扱った映画やドラマでは、「ブロー!」という命令とともに艦が急浮上する場面が描かれることがあります。
そのため、「ブロー=緊急浮上」と考えられがちです。
しかし、厳密には両者は同じ意味ではありません。
ブローとは、基本的に圧縮空気によって主バラストタンク内の海水を排出する操作です。
エマージェンシー・ブローは緊急浮上のためのブロー
緊急事態において、主バラストタンクへ高圧空気を急速に送り込み、大きな正の浮力を確保する操作がエマージェンシー・ブローです。
したがって、
ブロー
=主バラストタンクなどから圧縮空気で水を排出する操作
エマージェンシー・ブロー
=緊急浮上を目的として急速に行う主バラストタンクのブロー
と整理すると理解しやすいでしょう。
潜水艦のブローを簡単にまとめると
潜水艦におけるブローとは、主バラストタンクへ圧縮空気を送り込み、タンク内の海水を艦外へ押し出すことで正の浮力を増加させる操作です。
主バラストタンク内の海水が排出されると、その分だけ潜水艦の重量が減少します。
一方で、艦が海水から受ける浮力は大きく変わらないため、浮力が重量を上回り、潜水艦は水面方向へ上昇しやすくなります。
潜航時には主バラストタンク上部のベントを開いて空気を逃がし、海水をタンクへ入れます。
反対にブローではベントを閉じて圧縮空気を送り込み、海水を排出します。
ただし、通常の浮上では推進力や潜舵などを利用して制御しながら上昇するため、毎回高圧空気による緊急ブローを行うわけではありません。
事故などで急速に浮力を確保する必要がある場合には、主バラストタンクへ高圧空気を送り込むエマージェンシー・ブローが使われます。
潜水艦の浮沈の仕組みを理解する際には、「ベントで空気を抜いて海水を入れる」「ブローで圧縮空気を入れて海水を出す」という基本的な関係に加え、通常浮上と緊急ブローを区別して覚えておくことが重要です。
以上、潜水艦におけるブローの意味や仕組みについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















