潜水艦にもフジツボが付着する可能性があります。
フジツボを含む海洋生物が船体などの水中表面に付着する現象は、「バイオファウリング(biofouling)」と呼ばれます。
潜水艦も海水に長時間さらされるため、一般の船舶と同じように生物付着の対象になります。
そのため、「潜水艦は深く潜るのでフジツボが付かない」という考え方は正確ではありません。
実際に、潜水艦の船体にフジツボ型の生物付着が生じた場合を想定し、船体抵抗や推進性能への影響を調べた研究も存在します。
フジツボが潜水艦に付着する仕組み
フジツボは幼生の段階で船体に定着する
フジツボは、成体の状態で船体まで移動してくるわけではありません。
海中を漂う幼生の段階を経て、付着に適した場所を探します。
特にキプリス幼生と呼ばれる段階になると、水中の岩や人工構造物などの表面を探索し、適した場所を見つけると定着します。
その後、接着タンパク質などを含むセメント状の物質を利用し、表面に強固に付着します。
潜水艦の船体も海中に存在する硬い表面であるため、条件が整えばフジツボの付着対象になります。
停泊時間が長いほど付着しやすくなることがある
フジツボの付着量は、単純に海水中にいる時間だけで決まるわけではありません。
海域や季節、水温、塩分、生物の分布、防汚塗装の状態、航行速度など、さまざまな条件によって変化します。
なかでも長期間の停泊や低速状態は、生物が船体表面へ定着する機会を増やす要因の一つです。
そのため、潜水艦では「潜水しているからフジツボが付きやすい」というよりも、港湾や沿岸部などで長期間海水にさらされることが付着に関係すると考えるほうが適切です。
深く潜ればフジツボは付かないのか
深海に潜るだけで付着を防げるわけではない
フジツボには多くの種類があり、生息する水深も種類によって異なります。
したがって、「深い海にはフジツボが存在しない」と一括りにすることはできません。
一方で、船体汚損として問題になるフジツボなどの生物付着は、港湾や沿岸部など、生物の幼生が多く存在する環境で発生しやすいと考えられます。
つまり、潜水艦が深海を航行すること自体が、フジツボ付着の主な原因になるわけではありません。
一度付着したフジツボが深海で自然に取れるとは限らない
フジツボは、定着後に船体へ強固に接着します。
そのため、一度成長したフジツボが、潜水艦が深く潜っただけですべて剥がれ落ちるとは限りません。
水圧や水温などの環境条件によって生物の状態が変化する可能性はありますが、「深海に潜れば自動的にフジツボが除去される」と考えるのは適切ではありません。
潜水艦が航行すればフジツボは自然に取れるのか
航行中の水流だけですべて除去できるわけではない
潜水艦が航行すると、船体表面には強い水流が生じます。
この水流によって、まだ定着していない幼生や付着力の弱い生物が定着しにくくなる可能性はあります。
しかし、すでに強固に付着したフジツボについては、通常の航行だけですべて取り除けるとは限りません。
一般の船舶でも、フジツボなどの硬質な生物付着は船体清掃の対象になります。
航行速度と生物付着の関係は単純ではない
高速航行すればフジツボが必ず付かないというわけでもありません。
実際の付着状況は、航行速度だけでなく、停泊期間や海域、水温、塗装状態などにも大きく左右されます。
そのため、生物付着の程度は船ごとの運用環境によって異なります。
潜水艦にフジツボが付くと何が問題になるのか
船体表面が粗くなり水の抵抗が増える
潜水艦の船体は、水中を効率よく進むために滑らかな形状になっています。
ところが、フジツボなどの生物が付着すると船体表面に凹凸が生じ、表面が粗くなります。
表面粗さが増えると、水との摩擦抵抗が増加し、同じ速度を維持するためにより大きな推進力が必要になる可能性があります。
これは一般船舶だけでなく、潜水艦を対象とした研究でも検討されています。
推進性能が悪化する可能性がある
2021年に発表された潜水艦を対象とするCFD研究では、フジツボ型の生物付着による表面粗さが推進性能に与える影響が分析されています。
その研究では、20ノットで航行する潜水艦モデルについて複数の付着条件を比較した結果、条件によっては伝達動力が最大67.7%増加するケースが示されました。
ただし、この数字は特定の潜水艦モデルや付着条件を設定したシミュレーション結果です。
「潜水艦にフジツボが付けば必ず動力が67.7%増える」という意味ではありません。
重要なのは、フジツボなどによって船体表面が粗くなると、潜水艦の流体抵抗や推進効率に大きな影響を与える可能性があるという点です。
フジツボは潜水艦の騒音にも影響するのか
表面の凹凸が水の流れを乱す可能性がある
船体表面にフジツボなどの凹凸ができると、周囲を流れる水が乱れやすくなります。
国際海事機関の関連資料では、フジツボなどの硬質な生物付着が大量に生じた場合、乱流やキャビテーション、騒音につながる可能性があるとされています。
潜水艦にとって水中で発生する騒音は重要な要素であるため、船体表面を滑らかな状態に維持することには大きな意味があります。
キャビテーションの原因をフジツボだけに限定するのは適切ではない
キャビテーションとは、水中で局所的に圧力が低下し、気泡が発生・消滅する現象です。
その発生には速度、圧力、推進器の形状など複数の要素が関係します。
そのため、「フジツボが付着すると必ずキャビテーションが起こる」と説明するのは正確ではありません。
より正確には、生物付着による表面粗さや流れの乱れが、条件によってキャビテーションや騒音の増加に関係する可能性があると考えるべきです。
フジツボはソナーなどにも影響する可能性がある
船体装備センサーの性能に影響する場合がある
船舶には、ソナーや速度計測装置など、船体表面や水中環境と関係するさまざまな装置があります。
国際海事機関の関連資料では、フジツボなどの硬質な生物付着によって乱流や騒音が発生し、ソナーや速度計などの船体装備センサーの性能へ影響する場合があるとされています。
そのため、潜水艦でも船体表面の状態を良好に維持することは重要だと考えられます。
ただし、フジツボが具体的にどの程度潜水艦のソナー性能へ影響するのかについては、艦種や装備、付着状態などによって異なります。
潜水艦ではフジツボ対策が重要になる
防汚コーティングで生物の付着を抑える
船舶では、フジツボや藻類などの付着を抑えるために、防汚塗料や防汚コーティングが使用されています。
これらは、生物が船体へ定着しにくくしたり、付着した生物が剥がれやすくなるよう表面の性質を調整したりするものです。
潜水艦を含む艦艇でも、船体表面を良好な状態に維持するため、生物付着対策は重要です。
ただし、軍用潜水艦で実際に使用される防汚塗料やコーティングの種類は、艦級や運用主体によって異なり、詳細が公開されていない場合もあります。
定期的な船体管理も必要になる
防汚コーティングを使用していても、生物付着を完全に防げるとは限りません。
そのため、一般の船舶では船体の点検や清掃、ドックでの整備などが行われています。
ダイバーや水中ロボットを使用した船体清掃が行われる場合もありますが、軍用潜水艦について具体的にどの方法が採用されているかは、国や艦級、運用方法によって異なります。
したがって、「すべての潜水艦がダイバーやROVで清掃される」と断定するのは適切ではありません。
船体清掃では環境への配慮も必要
除去した生物を海中へ拡散させる問題がある
船体に付着したフジツボなどを水中で除去すると、取り除いた生物が周囲の海へ放出される可能性があります。
このため、外来生物を別の海域へ拡散させるリスクが問題になります。
国際海事機関では、biofoulingの管理を海洋生態系保護の観点からも重要視しています。
防汚塗装を傷つける可能性もある
水中で強く船体を清掃すると、防汚コーティングが摩耗したり損傷したりする可能性があります。
塗装が傷むと、その後さらに生物が付着しやすくなる可能性もあります。
そのため現在では、単にフジツボを削り落とせばよいという考え方ではなく、生物の回収や塗膜への影響を含めた適切な船体管理が求められています。
潜水艦のどこにフジツボが付きやすいのか
船体全体に均一に付着するとは限らない
フジツボなどの生物付着は、船体全体へ均一に発生するとは限りません。
船体表面の水流、構造、材質、塗装の状態などによって付着量は変化します。
一般船舶では、複雑な構造や水流が弱い部分などが「ニッチエリア」と呼ばれ、生物付着管理で注意すべき場所とされています。
潜水艦でも、船体表面の形状や流れによって付着状態に差が生じる可能性があります。
ただし、「潜水艦では特定の場所に必ずフジツボが付きやすい」と断定できるだけの公開情報は限られています。
付着する位置によって性能への影響が変わる可能性がある
潜水艦を対象としたCFD研究では、船体のどの位置に表面粗さが存在するかによって、抵抗や必要動力への影響が変わることが示されています。
特に船体前方に粗さを設定した条件では、影響が比較的大きくなる結果が報告されています。
ただし、これは「船首にフジツボが付きやすい」という意味ではありません。
あくまで、同じような生物付着が起きても、付着する場所によって流体力学的な影響が異なる可能性があるということです。
フジツボは潜水艦の電池消費にも影響するのか
抵抗が増えれば必要な推進エネルギーも増える
通常動力型潜水艦では、水中航行時に蓄電池から供給される電力を利用して推進する場合があります。
船体に生物が付着して抵抗が増えれば、同じ速度を維持するために必要な推進エネルギーも増えると考えられます。
そのため、結果として電池から消費するエネルギー量にも影響する可能性があります。
ただし、フジツボの付着によって実際の潜水艦の電池消費量がどの程度増えるのかは、速度や船体状態、推進方式などによって異なります。
「フジツボが付けば電池消費が必ず何%増える」と具体的に断定することはできません。
潜水艦だからフジツボだらけになるわけではない
潜水艦だから特別に付きやすいとは限らない
潜水艦は水中で活動するため、「普通の船よりフジツボだらけになるのではないか」と考える人もいるかもしれません。
しかし、生物付着の程度は単に潜水している時間だけで決まるものではありません。
水温、海域、停泊期間、航行速度、防汚コーティング、整備状態など、多くの条件が関係します。
そのため、潜水艦だから必ず一般船舶よりフジツボが付きやすいとはいえません。
潜水艦だからまったく付かないわけでもない
逆に、「潜水艦は深いところを航行するからフジツボが付かない」という考え方も正しくありません。
潜水艦も港への停泊や沿岸海域での活動などを行い、船体は長期間海水に接しています。
条件が整えば、一般の船舶と同じようにフジツボを含む海洋生物が付着する可能性があります。
したがって、
「潜水艦だから大量にフジツボが付く」
とも、
「潜水艦だからまったく付かない」
とも一概にはいえないのが正確な理解です。
潜水艦のフジツボについてのまとめ
潜水艦にもフジツボが付着する可能性があります。
フジツボなどの海洋生物が船体へ付着する現象はバイオファウリングと呼ばれ、船舶の性能や維持管理に影響する重要な問題です。
潜水艦の船体にフジツボなどが付着すると、表面が粗くなることで水中抵抗が増加し、推進効率が低下する可能性があります。
潜水艦を対象とした研究でも、生物付着による表面粗さが必要動力を増加させる可能性が示されています。
また、硬質な生物付着は水流を乱し、条件によって騒音やキャビテーション、船体装備センサーの性能へ影響する可能性があります。
ただし、付着量は海域、水温、季節、停泊時間、航行状態、防汚コーティングなどによって大きく異なります。
そのため、潜水艦が常に大量のフジツボに覆われているわけではありません。
潜水艦においても、船体表面を滑らかな状態に保ち、生物付着を適切に管理することは、推進効率や各種装備の性能を維持するうえで重要だといえます。
以上、潜水艦にフジツボが付着するのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















