大型船のアンカーが海底で引っかかた場合はどうするのか

大型船のアンカーが海底で引っかかった場合、まず重要なのは無理に巻き上げないことです。

アンカーや錨鎖が岩、沈船、古いワイヤー、漁具、海底構造物、他船の錨鎖などに絡んでいる可能性があるため、力任せに引くと設備の損傷や事故につながるおそれがあります。

大型船のアンカーや錨鎖は非常に重く、揚錨装置であるウインドラスにも能力限界があります。

そのため、アンカーが上がらない場合は、船の位置、錨鎖の向き、周囲の安全、海底の状況を確認しながら、段階的に対応していきます。

目次

アンカーが海底で引っかかる状態とは

アンカー本体が障害物に引っかかる

大型船のアンカーは、海底に爪を食い込ませることで船を保持します。

通常は泥や砂などの海底に食い込んで効きますが、海底に岩、沈船、ワイヤー、漁具、古いアンカー、チェーンなどがあると、アンカー本体が引っかかって上がらなくなることがあります。

このような状態は、一般的に「根掛かり」や「ファウルアンカー」と呼ばれます。

錨鎖が絡んでいる場合もある

アンカー本体ではなく、錨鎖が海底の障害物に絡んでいる場合もあります。

たとえば、錨鎖が岩や古いワイヤー、沈船、漁具などに引っかかることがあります。

また、風向や潮流の変化によって船がアンカーを中心に振れ回ると、錨鎖がアンカー本体や海底の障害物に絡むこともあります。

他船のアンカーや錨鎖と絡むこともある

港内や錨地で船が多い場合、自船のアンカーや錨鎖が他船のアンカー、錨鎖、係留設備などと絡むこともあります。

この場合、自船だけで無理に巻き上げると、相手船の走錨や設備損傷、接触事故につながる可能性があります。

そのため、他船、港湾当局、VTS、タグボートなどと連絡を取りながら対応する必要があります。

アンカーが深く埋まって抜けにくくなる

泥や粘土質の海底では、アンカーが深く食い込むことがあります。

アンカーは本来、海底に食い込むことで把駐力を発揮するため、食い込むこと自体は正常です。

しかし、強風や強い潮流によって長時間大きな力がかかると、アンカーが深く埋まり、通常の揚錨操作では抜けにくくなる場合があります。

アンカーが引っかかったときに最初に確認すること

ウインドラスに過大な負荷がかかっていないか確認する

アンカーを巻き上げる装置をウインドラスといいます。

アンカーが正常に上がっている場合、錨鎖は一定の張力で巻き上がっていきます。

しかし、アンカーが海底で引っかかっている場合は、錨鎖が強く張ったまま動かなくなったり、ウインドラスに大きな負荷がかかったりします。

この状態で無理に巻き続けると、ウインドラスのモーター、油圧装置、ブレーキ、クラッチ、ギアなどを損傷するおそれがあります。

特に大型船では、ウインドラスで船体を引き寄せるような使い方は危険です。

主機やスラスターで船をアンカーの方向へゆっくり移動させ、ウインドラスは主に錨鎖を巻き取るために使います。

錨鎖の向きと張り具合を確認する

アンカーが上がらない場合は、まず錨鎖がどの方向に伸びているかを確認します。

錨鎖が船首から前方に伸びているのか、横方向に伸びているのか、ほぼ真下に立っているのかによって、アンカーにかかっている力の向きが変わります。

アンカーは横方向に引かれると海底に効きやすく、垂直方向に近い角度で引かれると抜けやすくなります。

そのため、錨鎖の方向を確認することは、アンカーを外すうえで非常に重要です。

錨鎖を何節出しているか確認する

大型船では、錨鎖を何節出しているかを管理しています。1節は一般的に27.5mです。

アンカーが引っかかった場合、何節出していたのか、どの程度まで巻き上げたところで止まったのかを確認します。

これにより、アンカー本体が海底で引っかかっているのか、錨鎖の途中が障害物に絡んでいるのかを推測しやすくなります。

船の位置と周囲の安全を確認する

アンカーを外すために船を動かす場合、周囲の安全確認が欠かせません。

大型船は小回りが利かず、停止にも時間がかかります。

周囲に他船、防波堤、浅瀬、ブイ、航路、海底ケーブル、パイプラインなどがある場合、安易に船を動かすと危険です。

特に港内や混雑した錨地では、タグボートや港湾当局の支援が必要になることもあります。

海図や海底情報を確認する

アンカーが上がらない場所に、海底ケーブル、パイプライン、沈船、障害物、錨泊禁止区域などがないか確認します。

海底ケーブルやパイプラインにアンカーや錨鎖が絡んでいる可能性がある場合、絶対に無理に引いてはいけません。

通信ケーブル、電力ケーブル、ガス管、石油パイプラインなどを損傷すると、大きな事故や損害につながるおそれがあります。

アンカーが引っかかったときの基本的な対処法

船をアンカーの真上付近へ移動させる

アンカーが引っかかったときの基本的な対応は、船をアンカーの真上付近へゆっくり移動させることです。

アンカーは横方向に引くと海底に食い込みやすくなります。

一方、船をアンカーの上に近づけ、錨鎖をできるだけ垂直に近い状態にすると、アンカーは海底から抜けやすくなります。

錨鎖がほぼ垂直に立った状態は、英語で「up and down」と表現されることがあります。

この状態になると、横方向に引く力が小さくなり、アンカーを引き抜きやすくなります。

主機やスラスターで船位を調整する

大型船では、ウインドラスだけで船を引き寄せるのではなく、主機やスラスターを使って船をアンカーの方向へゆっくり移動させます。

船橋と船首の作業員が連絡を取り合い、錨鎖の張り具合や向きを確認しながら、少しずつ船位を調整します。

主機やスラスターは、アンカーを力任せに引き抜くためではなく、錨鎖にかかる過大な張力を避け、船を適切な位置へ動かすために使います。

錨鎖を少し緩めて角度を変える

アンカーが抜けない場合は、いったん錨鎖を少し繰り出して張力を緩めることがあります。

強い力で引き続けると、アンカーがさらに海底に食い込むことがあります。

そのため、一度張力を抜き、船の位置や錨鎖の角度を変えてから、再び慎重に巻き上げます。

この操作によって、アンカーの姿勢が変わったり、絡んでいた錨鎖が緩んだりして、外れやすくなる場合があります。

反対方向から力をかける

通常の方向から引いても外れない場合は、船の位置を変えて、アンカーにかかる力の向きを変えることがあります。

アンカーは、爪が海底に食い込むことで船を保持しています。

そのため、食い込んだ方向とは反対側から力をかけると、爪が起き上がるように動き、抜けやすくなる場合があります。

ただし、大型船でこの操作を行うには十分な海面が必要です。

狭い港内、混雑した錨地、強風時、潮流が速い場所では危険を伴うため、タグボートの支援を受けることもあります。

潮流や風向の変化を待つ

周囲の安全が確保でき、時間的な余裕がある場合は、潮流や風向の変化を待つこともあります。

潮流や風向が変わると、アンカーや錨鎖にかかる力の方向が変わります。

その結果、深く食い込んだアンカーや絡んだ錨鎖が緩み、外れやすくなる場合があります。

ただし、気象の悪化、出港予定、錨地の混雑、港湾管制上の制約がある場合は、待つよりも早めにタグボートや専門業者の支援を検討する必要があります。

自力で外せない場合の対応

タグボートの支援を受ける

自船だけでアンカーを外せない場合、タグボートの支援を受けることがあります。

タグボートは、大型船の船首や船尾を押したり引いたりして、船体の向きや位置を細かく調整します。

これにより、錨鎖の角度を変えたり、船をアンカーの真上付近に保ったりしやすくなります。

特に港内や狭い水域では、大型船が自力で細かく動くのは難しいため、タグボートの支援が重要になります。

潜水士や作業船で海底を確認する

港内や比較的浅い水域では、潜水士や作業船が海底の状況を確認することがあります。

アンカー本体が何に引っかかっているのか、錨鎖がどこで絡んでいるのか、海底ケーブルやパイプラインに接触していないかなどを確認します。

ただし、潜水作業は水深、潮流、視界、船体の動揺などの影響を受けます。

大型船の近くで潜水作業を行う場合は、主機、スラスター、ウインドラスなどを厳重に管理しなければなりません。

ROVや水中カメラを使うこともある

水深が深い場合や、潮流が強く潜水士による確認が難しい場合は、ROVや水中カメラを使って海底の状況を確認することもあります。

ROVとは、遠隔操作で水中を確認できる無人機のことです。

潜水士が入れない場所でも、アンカーや錨鎖の状態を確認できる場合があります。

サルベージ業者に依頼する

アンカーが沈船、岩場、海底構造物、他船の錨鎖などに複雑に絡んでいる場合、自船やタグボートだけでは対応できないことがあります。

その場合は、サルベージ業者や専門の作業船に依頼します。

サルベージ業者は、クレーン、ワイヤー、潜水士、ROV、作業船などを使い、アンカーや錨鎖を安全に外したり回収したりします。

海底ケーブルやパイプラインが関係する可能性がある場合も、専門業者や関係機関の判断が必要です。

最終手段としてアンカーを放棄する場合

錨鎖をスリップしてアンカーを残す

どうしてもアンカーが外れず、船や乗組員、周囲の安全を優先する必要がある場合は、最終手段として錨鎖をスリップし、アンカーを一時的に放棄することがあります。

これは、アンカーと錨鎖の一部を海底に残し、船を安全な場所へ移動させる対応です。

ただし、アンカーと錨鎖は高価であり、船にとって重要な安全設備です。

そのため、簡単に放棄するものではなく、船長の判断や会社、関係機関との連絡が重要になります。

回収用のブイを取り付ける

可能であれば、放棄する錨鎖に回収用のブイを取り付けます。

ブイを取り付けておけば、後日サルベージ業者や作業船がアンカーを回収しやすくなります。

ただし、悪天候や緊急時には、ブイを取り付ける余裕がない場合もあります。

その場合でも、アンカーを放棄した位置、錨鎖の長さ、水深、周囲の状況などを記録しておく必要があります。

関係機関へ報告する

アンカーや錨鎖を海底に残した場合、航行上の障害物になる可能性があります。

特に航路、港内、錨地、漁場、海底ケーブルやパイプラインの近くでは、放置すると事故やトラブルにつながるおそれがあります。

そのため、港湾当局、VTS、代理店、会社、必要に応じて海上保安機関などへ報告し、後日の回収や安全対策を検討します。

絶対に避けるべき対応

ウインドラスで無理に巻き続ける

アンカーが海底で引っかかっている状態で、ウインドラスだけで無理に巻き続けるのは危険です。

ウインドラスには能力限界があり、過大な負荷をかけると故障につながります。

また、錨鎖が急に外れたり、ブレーキが滑ったりすると、大きな衝撃が発生する可能性があります。

主機の力で強引に引き抜く

大型船の主機は非常に大きな力を持っています。

その力でアンカーを強引に引き抜こうとすると、錨鎖、アンカー、ウインドラス、船首構造に大きな負担がかかります。

錨鎖が破断した場合、強い反動が発生し、甲板上の乗組員にとって非常に危険です。

主機は、あくまで船位を調整し、錨鎖にかかる力を適切にコントロールするために使うべきです。

横方向に強い力をかける

錨鎖が船首から大きく横方向に張った状態で強い力をかけると、ホースパイプ、フェアリーダー、チェーンストッパー、ウインドラスなどに無理な負荷がかかる可能性があります。

大型船では、船体の向きや錨鎖の角度を確認しながら、できるだけ安全な方向に力がかかるように調整する必要があります。

海底ケーブルやパイプライン付近で無理に引く

海底ケーブルやパイプラインに絡んでいる可能性がある場合、無理に引いてはいけません。

通信ケーブル、電力ケーブル、ガス管、石油パイプラインなどを損傷すると、大規模な通信障害、環境事故、火災、経済的損害につながる可能性があります。

このような場合は、自船だけで判断せず、港湾当局や関係機関、専門業者に連絡して対応します。

アンカーが外れた後に行う点検

アンカー本体を点検する

アンカーが無事に上がった場合でも、アンカー本体に損傷がないか確認します。

根掛かり中に大きな力がかかっている場合、アンカーの爪が曲がったり、シャンクやクラウン部分に変形が起きたりしている可能性があります。

錨鎖やシャックルを点検する

錨鎖、シャックル、連結部などにも異常がないか確認します。

錨鎖が強い力で引かれたり、海底の岩や構造物に擦れたりした場合、摩耗、変形、ねじれ、損傷が発生している可能性があります。

ウインドラスやチェーンストッパーを点検する

アンカーが引っかかった状態で揚錨作業を行うと、ウインドラスやチェーンストッパーにも大きな負荷がかかります。

作業後は、ブレーキ、クラッチ、ギア、油圧装置、チェーンストッパーなどに異常がないか確認します。

必要に応じて、機関部や甲板部で詳細な点検を行います。

アンカーの根掛かりを防ぐための対策

投錨前に海図を確認する

アンカーの根掛かりを完全に防ぐことは難しいですが、事前確認によってリスクを下げることはできます。

投錨前には、海図で底質、沈船、障害物、海底ケーブル、パイプライン、錨泊禁止区域などを確認します。

錨泊禁止区域を避ける

海底ケーブルやパイプラインがある場所は、錨泊禁止区域に指定されている場合があります。

このような場所にアンカーを入れると、重大な事故につながる可能性があるため、必ず避ける必要があります。

船の振れ回り範囲を考慮する

錨泊中の船は、風や潮流の変化によってアンカーを中心に振れ回ります。

投錨時には、現在の船位だけでなく、風向や潮流が変わった場合に船がどの範囲を動くかを考慮します。

その範囲内に他船、浅瀬、障害物、海底ケーブル区域などがないか確認することが重要です。

必要以上に錨鎖を伸ばしすぎない

錨泊では、水深や気象条件に応じて十分な長さの錨鎖を出す必要があります。

しかし、必要以上に長く出しすぎると、錨鎖が海底で広い範囲を動き、障害物に絡むリスクが高くなる場合があります。

安全な把駐力を確保しつつ、錨地の条件に合った錨鎖の長さを選ぶことが大切です。

大型船と小型船で対応が異なる理由

アンカーと錨鎖が非常に重い

大型船のアンカーは数トンから十数トン以上になることがあります。

錨鎖も非常に重く、人力で扱うことはできません。

そのため、小型船のようにロープを手で緩めたり、船を簡単に回して外したりすることはできません。

船の慣性が大きい

大型船は一度動き出すと簡単には止まれません。

アンカーを外すために船を少し動かすだけでも、大きな力が錨鎖やアンカーにかかります。

そのため、船橋、船首、機関室が連携しながら、慎重に操作する必要があります。

周囲への影響が大きい

大型船が錨地や港内で動くと、周囲の船舶や港湾施設に大きな影響を与えます。

特に混雑した港内では、アンカーを外すための操船そのものが危険になる場合があります。

そのため、必要に応じてタグボート、水先人、港湾当局などと連携することが重要です。

まとめ

大型船のアンカーが海底で引っかかった場合は、まず無理に巻き上げないことが最も重要です。

アンカー本体や錨鎖が海底の岩、沈船、ワイヤー、漁具、他船の錨鎖、海底ケーブル、パイプラインなどに絡んでいる可能性があるため、力任せに引くと大きな事故につながるおそれがあります。

基本的な対応は、錨鎖の向きや張力を確認し、主機やスラスターを使って船をアンカーの真上付近へ移動させ、錨鎖をできるだけ垂直に近い状態にして慎重に巻き上げることです。

それでも外れない場合は、錨鎖を緩めて角度を変える、船の位置を変えて反対方向から力をかける、潮流や風向の変化を待つ、タグボートの支援を受ける、潜水士やROVで海底を確認する、サルベージ業者に依頼するなどの方法を検討します。

どうしても外れず、船や乗組員、周囲の安全を優先する必要がある場合は、最終手段として錨鎖をスリップし、アンカーを一時的に放棄することもあります。

その場合は、位置や錨鎖の長さを記録し、関係機関へ報告する必要があります。

大型船のアンカーが引っかかったときは、力で解決するのではなく、船位、錨鎖の角度、周囲の安全、海底の状況を確認しながら、段階的に安全な方法で対応することが基本です。

以上、大型船のアンカーが海底で引っかかた場合はどうするのかについてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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