航海に使う道具について

航海に使う道具には、船の現在位置を確認するもの、進行方向や速度を把握するもの、周囲の船や障害物を発見するもの、天候を調べるもの、安全を確保するものなどがあります。

現代の航海では、GNSS受信機、電子海図、レーダー、AISなどの電子機器が広く使われています。

一方で、停電や機器の故障、通信障害などに備え、磁気コンパス、紙海図、双眼鏡といった電源を必要としない道具も重要です。

安全な航海を行うためには、一つの機器だけに頼るのではなく、複数の道具から得た情報を照合する必要があります。

目次

船の位置を確認するための道具

GNSS受信機

GNSS受信機は、人工衛星から送られる電波を利用して、船の現在位置を測定する機器です。

一般には「GPS」と呼ばれることが多いものの、GPSはGNSSを構成する衛星測位システムの一つです。

代表的な衛星測位システムには、次のようなものがあります。

  • アメリカのGPS
  • ヨーロッパのGalileo
  • ロシアのGLONASS
  • 中国のBeiDou
  • 日本の準天頂衛星システム「みちびき」

みちびきは、日本やアジア・オセアニア地域を中心に、衛星測位の安定性や精度を補完する役割を持っています。

GNSS受信機では、主に次の情報を確認できます。

  • 緯度と経度
  • 対地速度
  • 対地針路
  • 目的地までの距離
  • 到着予想時刻
  • 航行した軌跡

ここで注意したいのが、GNSSが示す対地針路と、船首が向いている方向は必ずしも同じではないことです。

船首が北を向いていても、横から潮流や風を受けて北東へ流されている場合、GNSSが示す対地針路は北東になります。

そのため、GNSSの情報だけでなく、コンパス、海図、レーダー、目視などを組み合わせて船位を確認することが重要です。

紙海図

紙海図は、安全に航海するために必要な情報が記載された海上用の地図です。

一般的な地図とは異なり、海図には次のような情報が掲載されています。

  • 海岸線
  • 水深
  • 浅瀬
  • 暗礁
  • 岩礁
  • 灯台
  • 浮標
  • 航路
  • 港湾施設
  • 航行制限区域
  • 投錨禁止区域
  • 海底ケーブル
  • 注意事項

潮流や潮汐に関する情報が海図に記載される場合もありますが、より詳しい情報は潮汐表、潮流表、水路誌などで確認します。

紙海図を使用するときは、鉛筆、ディバイダー、平行定規、プロッターなどを使って、予定航路や現在位置を書き込みます。

海図は、掲載されている情報が最新であることが重要です。

灯浮標の移設、水深の変化、工事区域の設定などが行われることがあるため、水路通報などを利用して訂正情報を反映します。

電子海図

電子海図は、海図情報をデジタルデータとして表示するものです。

現在位置、予定航路、危険区域、灯台、浮標、水深などを画面上で確認できます。

ただし、電子海図を画面上で拡大しても、元の海図データ以上に詳しい情報が追加されるわけではありません。

過度に拡大すると、見た目だけが大きくなり、実際よりも高精度に見えることがあります。

また、表示範囲や縮尺の設定によっては、危険物や重要な情報を見落とす可能性があります。

ECDIS

ECDISは、国際的な性能基準に適合した電子海図情報表示システムです。

正式な電子海図データを使用し、船位、予定航路、危険区域、警報などを画面上に表示します。

一定の条件を満たす船舶では、適切なバックアップ設備と組み合わせることで、紙海図に代わる正式な航海設備として使用されます。

ただし、一般的なGPSプロッターやチャートプロッターは、必ずしもECDISと同等ではありません。

小型船で広く使われているチャートプロッターは便利な航海支援機器ですが、法的・技術的にはECDISと区別されます。

六分儀

六分儀は、太陽、月、恒星などの天体と水平線との角度を測定する道具です。

測定した天体高度と正確な時刻、天測暦などを使って計算することで、船が存在すると考えられる位置の線を求められます。

通常は、一回の観測だけで緯度と経度の両方が直ちに確定するわけではありません。

複数の天体を観測したり、時間をずらして観測した結果を推測航法と組み合わせたりすることで、船位を決定します。

六分儀を使った天測には、主に次のものが必要です。

  • 六分儀
  • 正確な時計
  • 天測暦
  • 計算表
  • 海図
  • 筆記用具
  • 太陽や星などの天体
  • 視認できる水平線

実際の計算では、器差、眼高、大気差、天体の半径差など、さまざまな補正も必要です。

クロノメーター

クロノメーターは、航海中でも正確な時刻を保つために作られた高精度の時計です。

天体観測から求めた現地の時刻と、クロノメーターが示す基準時との時差を利用することで、経度を算出します。

衛星測位が普及する以前は、外洋航海において極めて重要な道具でした。

船の進行方向を確認するための道具

磁気コンパス

磁気コンパスは、地球の磁力を利用して方位を示す道具です。

電源を必要としないため、電子機器が停止した場合にも使用できる重要な航海計器です。

ただし、磁気コンパスが示す北は、地理上の北である真北とは必ずしも一致しません。

また、船体の金属、エンジン、スピーカー、工具、電気設備などの影響を受ける場合があります。

磁気コンパスを使用するときは、主に次の誤差を考慮します。

磁気偏差

磁気偏差は、真北と磁北との差です。

地域や年代によって異なり、海図上にはその海域における磁気偏差と年間変化量が記載されています。

自差

自差は、船体の金属や電気設備など、船そのものの磁気的な影響によって生じる誤差です。

自差の大きさは船首方位によって変化することがあり、船ごとに作成された自差表を使って補正します。

ジャイロコンパス

ジャイロコンパスは、地球の自転、ジャイロの性質、重力を利用した制御機構によって真北を求める装置です。

磁気コンパスとは異なり、船体の磁気や周辺の金属による影響を受けにくい点が特徴です。

大型船では、レーダー、オートパイロット、ECDISなどへ船首方位情報を送るために使われます。

一方で、電源が必要であり、起動後に安定するまで時間がかかることがあります。

また、緯度、船速、旋回、加減速などによって一時的な誤差が生じる場合があります。

方位測定器具

方位測定器具は、灯台、岬、島、他船などが見える方向を測るために使います。

船上で用いられる器具には、次のようなものがあります。

  • 方位鏡
  • 方位環
  • ペロラス
  • コンパスリピーター
  • コンパス付き双眼鏡

海図上で位置が分かっている複数の目標物の方位を測り、方位線を引くことで船位を求められます。

理論上は2本の方位線でも位置を求められますが、3つの目標物を使うと観測誤差を確認しやすくなります。

測定中にも船は移動するため、できるだけ短時間で連続して観測することが重要です。

船の速度や航行距離を測る道具

ログ

ログは、船の速力や航行距離を測る装置です。

ログには、次のような種類があります。

  • 電磁ログ
  • ドップラーログ
  • ピトーログ
  • 機械式ログ

方式によって、海水に対する速度である対水速度を測るものと、海底に対する速度である対地速度を測れるものがあります。

一方、GNSS受信機が表示する速度は、基本的に地球上を実際に移動している対地速度です。

潮流がある海域では、対水速度と対地速度が異なります。

例えば、船が水に対して10ノットで進んでいても、2ノットの向かい潮を受けていれば、対地速度はおよそ8ノットになります。

ハンドログ

ハンドログは、昔の船で速力を測るために使われた道具です。

一定間隔で結び目を付けたロープの先に板を取り付け、船尾から海へ流します。

一定時間内に繰り出されたロープの長さを測ることで、船の速力を求めました。

速力を表す単位の「ノット」は、この測定方法に由来するとされています。

なお、ロープの結び目の間隔と砂時計で測る時間は、速力を海里毎時で読み取れるように調整されていました。

ディバイダー

ディバイダーは、海図上で2地点間の距離を測るための道具です。

両端が針になっており、海図上の距離を取った後、緯度目盛りに当てて海里単位で読み取ります。

1海里は、正確に1,852メートルです。

航海上では、緯度1分をおよそ1海里として扱います。

メルカトル図法の海図では、測定する場所に近い緯度目盛りを使用します。経度目盛りを距離の測定に使うことはできません。

平行定規

平行定規は、海図上で平行な線を引いたり、航路の方位を読み取ったりするために使用します。

2本の定規が平行を保ったまま移動する構造になっており、航路線の角度を海図の方位目盛りまで移して確認できます。

航海用プロッター

航海用プロッターは、海図上で方位や距離を測り、航路を記入するための道具です。

三角形の定規に方位目盛りが付いたものや、回転式の分度器を備えたものなどがあります。

小型船では、平行定規よりも扱いやすい航海用プロッターが使用されることもあります。

水深を確認するための道具

音響測深機

音響測深機は、船底から海底へ音波を送り、反射して戻るまでの時間から水深を測定する装置です。

港への出入り、浅瀬の確認、錨泊地の選定などに役立ちます。

魚群探知機も似た原理を利用していますが、主な用途や表示内容は異なります。

音響測深機の表示値を確認するときは、次の点に注意が必要です。

  • 現在の潮位
  • 海図水深の基準面
  • 送受波器の取付位置
  • 船底やキールまでの距離
  • 機器に設定されたオフセット
  • 海底の傾斜や地質

表示が5メートルであっても、船底の下に5メートルの余裕があるとは限りません。

測鉛

測鉛は、ロープの先に鉛などの重りを付け、海底まで沈めて水深を測る道具です。

英語ではリードラインと呼ばれます。

重りの底に獣脂などを詰めて海底へ下ろすことで、砂、泥、小石など、海底の状態を確認するためにも使われました。

電子式の測深機が普及する以前に広く利用された道具ですが、電源を必要としないという利点があります。

他船や障害物を発見するための道具

レーダー

レーダーは、電波を発射し、船、陸地、島、浮標などから返ってくる反射波を受信して、対象物の方向や距離を表示する装置です。

夜間や霧の中など、目視だけでは周囲を確認しにくい状況で特に役立ちます。

レーダーでは、主に次のものを確認できます。

  • 他船
  • 海岸線
  • 灯浮標
  • 防波堤
  • 降水による反射

ただし、船舶用レーダーは気象レーダーではありません。

強い雨や雪があると画面に反射が表示されますが、同時に他船や陸地が見えにくくなることもあります。

また、次のような対象物は映りにくい場合があります。

  • 小型のFRP船
  • 木造船
  • カヤック
  • 漁網
  • 流木
  • 半分沈んだ漂流物
  • 波間に隠れる小型目標

そのため、レーダーを使用していても、目視による見張りを続ける必要があります。

ARPA

ARPAは、レーダーで捉えた他船を自動的に追跡し、衝突の危険性を計算する装置です。

主に次の情報を表示します。

  • 他船の対地針路
  • 他船の速力
  • 最接近距離
  • 最接近までの時間

最接近距離はCPA、最接近までの時間はTCPAと呼ばれます。

ただし、CPAやTCPAは、自船と相手船が現在の針路と速力を維持すると仮定した予測値です。

相手船が変針や変速を行えば、計算結果も変化します。

また、レーダーの映像や船首方位、速力情報に誤差がある場合、ARPAの計算にも影響します。

AIS

AISは、船舶自動識別装置です。

船同士や船と陸上局の間で、船舶に関する情報を電波で交換します。

AISで確認できる主な情報には、次のようなものがあります。

  • 船名
  • 船舶識別番号
  • 現在位置
  • 対地針路
  • 対地速度
  • 船首方位
  • 船の種類
  • 航行状態
  • 目的地
  • 到着予定時刻

AIS情報には、自動的に更新される情報と、人が入力する情報があります。

位置、対地速度、対地針路などはセンサーから自動的に送信されますが、目的地、到着予定時刻、喫水、航行状態などは手動入力に依存する場合があります。

そのため、目的地や航行状態が古いままになっていることがあります。

また、すべての船がAISを搭載しているわけではありません。

AIS非搭載船、機器を停止している船、故障している船、受信範囲外の船は表示されません。岩礁、漂流物、漁網などもAISには表示されません。

AISは目視やレーダーを補助する装置であり、置き換えるものではありません。

双眼鏡

双眼鏡は、他船、灯台、浮標、港の入口、漂流物などを目視確認するための基本的な道具です。

船上では揺れがあるため、倍率が高すぎる双眼鏡は像が安定しにくくなります。

船舶用では7倍程度の倍率と、大きめの対物レンズを備えた双眼鏡がよく使われます。

ただし、小型船では軽量性、防水性、持ちやすさも重要です。

方位を測定できるコンパス付き双眼鏡もあります。

天候や海の状態を確認する道具

気圧計

気圧計は、大気圧を測定する道具です。

航海では、気圧の数値だけでなく、時間の経過による変化を確認することが重要です。

気圧が急速に低下している場合、低気圧や悪天候が近づいている可能性があります。

ただし、気圧の低下だけで天候を正確に判断することはできません。

天気図、気象予報、雲、風向、風速、波、潮汐などの情報を総合的に確認します。

風向風速計

風向風速計は、風が吹いてくる方向と風速を測定する装置です。

風向は、風が向かう方向ではなく、風が吹いてくる方向で表します。

例えば、北風は北から南へ吹く風です。

帆船では帆の調整に欠かせません。

エンジン船でも、離着岸や狭い港内での操船、強風時の安全確認に役立ちます。

船が移動しているときに計測される風は、船の動きによる影響を含んだ見かけの風です。

実際の風である真風を求めるには、船の速力と進行方向を考慮する必要があります。

温度計と海水温計

温度計は、気温や海水温を測るために使います。

海水温は、海流や漁場の確認、霧が発生しやすい条件を判断する材料になります。

ただし、海水温だけで霧の発生を予測することはできません。

気温、湿度、露点温度、風向なども合わせて確認する必要があります。

湿度計

湿度計は、空気中に含まれる水蒸気の割合を測る道具です。

気温や海水温、露点温度などと合わせて観測することで、霧、雲、降水などの気象変化を判断する材料になります。

気象ファクシミリ

気象ファクシミリは、無線通信を利用して天気図などの気象情報を受信する装置です。

広い海域の気圧配置、前線、低気圧、台風などを船上で確認するために使われてきました。

現在は、衛星通信やインターネットを利用して気象情報を取得する船も増えていますが、航行区域や通信環境によっては無線による受信手段も重要です。

NAVTEX受信機

NAVTEXは、海岸局から送信される海上安全情報を自動的に受信するシステムです。

主に次の情報を受信します。

  • 航行警報
  • 気象警報
  • 捜索救助情報
  • 灯台や航路標識の異常
  • 海難に関する情報

受信範囲は、送信局、電波状況、アンテナの性能などによって異なります。

必要な送信局や情報区分を適切に設定し、重要な情報を見落とさないようにすることが大切です。

船を操縦するための道具

舵輪

舵輪は、舵を操作して船の進行方向を変えるための装置です。

船は自動車のように、舵を切った直後にその場で曲がるわけではありません。

船速、船体の大きさ、風、潮流、積荷、舵の大きさなどによって旋回性能が変化します。

一般に、舵を効かせるためには舵面を通過する水流が必要です。

ただし、プロペラ後流が舵に当たる船では、低速でもエンジン出力によって舵が効く場合があります。

エンジンテレグラフ

エンジンテレグラフは、船橋から機関室へ、エンジンの運転指示を伝える装置です。

伝統的な装置では、次のような指示を伝えます。

  • 全速前進
  • 半速前進
  • 微速前進
  • 停止
  • 微速後進
  • 半速後進
  • 全速後進

現代の船では、船橋からエンジンを直接操作する方式も一般的です。

リモコンレバー

小型船では、前進、中立、後進の切り替えとエンジン回転数を1本で操作するリモコンレバーが広く使われています。

スロットルレバーと呼ばれることもありますが、実際にはクラッチの切り替えと回転数の操作を兼ねているものがあります。

急激な操作は、船体の姿勢を乱したり、エンジンや駆動装置に負担をかけたりする可能性があります。

オートパイロット

オートパイロットは、設定した船首方位や航路を維持するために、自動的に舵を調整する装置です。

長時間の航海で、操船者の負担を軽減できます。

ただし、一般的なオートパイロットは、他船、漂流物、浅瀬などを自動的に安全回避する装置ではありません。

使用中も周囲の見張りを続け、必要に応じて手動操舵へ切り替える必要があります。

バウスラスター

バウスラスターは、船首を左右へ押すための推進装置です。

低速では通常の舵が効きにくいため、離着岸や狭い港内での回頭を補助します。

船尾側に設置される装置はスターンスラスターと呼ばれます。

バウスラスターだけでは、船全体が必ず真横へ平行移動するわけではありません。

船首と船尾のスラスターを組み合わせることで、平行移動に近い操船ができる船もあります。

船を固定するための道具

錨は、海底に食い込ませて船を一定の場所にとどめるための道具です。

アンカーとも呼ばれます。

錨の効き方は、海底の状態によって異なります。

  • 小石
  • 海藻

サンゴ礁では、錨が引っ掛かったり、自然環境を損傷したりする可能性があります。

また、投錨禁止区域、海底ケーブル周辺、養殖施設の近くなどでは、錨を下ろしてはいけません。

錨泊する前には、海図や現地の規則を確認する必要があります。

錨鎖とアンカーロープ

錨鎖は、錨と船をつなぐ鎖です。

小型船では、錨鎖とロープを組み合わせて使用することもあります。

錨を効かせるには、水深だけでなく、船首の錨鎖出口までの高さ、風、波、潮流、海底の状態などを考慮して、十分な長さを繰り出します。

必要な長さは、次の条件によって変わります。

  • 錨鎖かロープか
  • 風速
  • 潮流
  • 海底の性質
  • 周囲の船との距離
  • 錨泊時間

十分な長さを出すことで、錨を海底に沿って横方向へ引く力が働き、食い込みやすくなります。

ウインドラス

ウインドラスは、錨や錨鎖を巻き上げるための装置です。

大型船では強力な油圧式や電動式の装置が使われます。

小型船では、電動アンカーウインチが使用されることもあります。

錨鎖やロープに大きな力がかかるため、作業中は手や衣類を巻き込まれないよう注意が必要です。

係船索

係船索は、船を岸壁や桟橋に固定するためのロープです。

代表的な係船索には、次のようなものがあります。

  • ヘッドライン
  • スターンライン
  • ブレストライン
  • スプリングライン

係船索には非常に大きな張力がかかります。

ロープが切れた際に跳ね返るスナップバックは重大事故の原因になるため、ロープの延長線上や折り返し方向に立たないことが重要です。

防舷材

防舷材は、船体と岸壁、または船同士が直接接触するのを防ぐクッションです。

小型船ではフェンダーと呼ばれることが一般的です。

接岸する側の適切な位置と高さに設置し、船体の損傷を防ぎます。

航路を示す設備や道具

灯台

灯台は、海岸、岬、島、港の入口などに設置され、光によって船の位置確認や安全な航行を助ける施設です。

灯台ごとに、光の色、点滅の間隔、光り方などが異なります。

船員は、海図や灯台表に記載された灯質と照合し、どの灯台であるかを識別します。

浮標と灯浮標

浮標は、海上に設置される航路標識です。

灯火を備えた浮標は、灯浮標と呼ばれます。

色、形、頂標、灯質などによって、航路の端、浅瀬、危険物、特別な区域などを示します。

標識の意味は、国際的な浮標方式に基づいています。

日本はIALA海上浮標式のB地域に属しています。

霧信号

霧信号は、霧、大雨、降雪などで視界が悪いときに、音によって船や施設の存在を知らせるものです。

船舶は、航行中、停泊中、錨泊中などの状態に応じて、定められた汽笛信号を行います。

灯台や航路標識に、音響信号設備が設置されている場合もあります。

国際信号旗

国際信号旗は、旗の色や模様を使って船同士で情報を伝えるための道具です。

それぞれの旗にはアルファベットや数字が割り当てられており、1枚だけで特定の意味を示す場合もあります。

信号旗は、無線が使用できない場合だけでなく、潜水作業、検疫、危険物の取扱いなど、船の状態を視覚的に示すためにも使われます。

通信に使う道具

船舶用VHF無線電話

船舶用VHF無線電話は、船同士、船と港、船と海岸局などが通信するための無線機です。

主な用途は次のとおりです。

  • 他船との連絡
  • 港湾管制との連絡
  • 入出港時の連絡
  • 遭難通信
  • 緊急通信
  • 安全情報の受信

使用するチャンネルや通信手順は定められています。

日本国内で無線局を開設したり、船舶用無線設備を操作したりする場合は、無線局免許や無線従事者資格が必要になることがあります。

DSC

DSCは、デジタル選択呼出しと呼ばれる通信機能です。

遭難ボタンを操作することで、船舶の識別情報や遭難情報をデジタル信号として送信できます。

GNSS受信機と接続されていれば、現在位置を自動的に送信できる場合があります。

正しく使用するためには、次の準備が必要です。

  • MMSIなどの識別情報の設定
  • GNSS受信機との接続
  • アンテナの点検
  • 電源の確認
  • 操作方法の理解

衛星通信装置

衛星通信装置は、通信衛星を利用して、音声通話やデータ通信を行う装置です。

携帯電話の電波が届かない外洋でも通信できるため、気象情報の取得、業務連絡、緊急通信などに使われます。

ただし、通信サービスの利用範囲、料金、アンテナの設置条件などを確認する必要があります。

携帯電話

沿岸部では、携帯電話も連絡手段として利用できます。

ただし、沖合では圏外になる可能性があるため、船舶用無線の代わりにはなりません。

船上で使用する場合は、防水ケースに入れるだけでなく、海へ落とした際に沈まないよう、浮力のあるケースやストラップを使うことが重要です。

安全を確保するための道具

救命胴衣

救命胴衣は、海へ落ちた人の浮力を確保するための装備です。

ライフジャケットとも呼ばれます。

救命胴衣には、主に次の種類があります。

  • 固型式救命胴衣
  • 膨張式救命胴衣

膨張式には、水に触れると自動的に膨らむものと、手動で作動させるものがあります。

救命胴衣は船内に置いておくだけではなく、原則として乗船中に正しく着用することが重要です。

体格に合ったものを選び、バックルやベルトを確実に締めます。

船舶の種類や航行区域によって使用できる型式が異なる場合があります。

救命浮環

救命浮環は、海へ落ちた人に投げ渡す浮力体です。

リング状のものが一般的で、ロープ、自動点灯灯、発煙信号などが取り付けられる場合があります。

投げる際は、落水者本人に直接ぶつけるのではなく、風や潮流を考慮して手が届く位置へ投げます。

救命いかだ

救命いかだは、船を離れなければならない状況で使用する非常用の浮体です。

船舶の種類、航行区域、規格によって、備えられている非常用品は異なります。

使用前に、設置場所、進水方法、乗り移り方を確認しておくことが重要です。

EPIRB

EPIRBは、非常用位置指示無線標識装置です。

遭難時に作動させると、衛星を通じて遭難信号や識別情報を捜索救助機関へ送信します。

位置情報を送信できる機種もあります。

EPIRBには、手動で取り出して作動させるものと、船が沈没した際に自動的に離脱して作動するものがあります。

すべてのEPIRBが自動浮揚式ではありません。

また、正しく救助につなげるためには、機器の登録情報を最新に保つ必要があります。

PLB

PLBは、個人が携帯する小型の遭難信号発信器です。

406MHz帯の信号を衛星へ送り、捜索救助機関へ遭難を知らせる機器があります。

ただし、AIS-MOBやDSC-MOBとは仕組みが異なります。

  • 406MHz PLBは衛星を経由して通報する
  • AIS-MOBは周囲のAIS受信機へ位置を送る
  • DSC-MOBは対応する無線機へ遭難情報を送る

日本国内で使用する場合は、使用できる機器、登録、免許、運用条件などを確認する必要があります。

SART

SARTは、捜索救助時に遭難者の位置を知らせるための装置です。

主に次の種類があります。

レーダーSART

捜索船や航空機のXバンドレーダー電波に反応し、レーダー画面上に遭難位置を示します。

AIS-SART

AIS信号を送信し、周囲のAIS受信機や航海機器に遭難位置を表示します。

発煙信号と火せん

発煙信号や火せんは、遭難時に自船や遭難者の位置を知らせるために使います。

昼間は煙、夜間は強い光を利用して、船舶や航空機から発見されやすくします。

信号紅炎、火せん、自己発煙信号などは、それぞれ用途や使用方法が異なります。

有効期限が定められているため、定期的に点検し、期限前に交換します。

消火器

船内では、燃料、電気設備、調理器具などが火災の原因になることがあります。

船の規模、構造、設備に応じた消火器を備え、設置場所と使用方法を確認しておく必要があります。

燃料火災に水をかけると、燃料が広がる可能性があります。

また、通電中の電気設備に水を使用すると、感電や短絡の危険があります。

火災の種類に適した消火方法を選ぶことが重要です。

ビルジポンプ

ビルジポンプは、船底付近にたまった水を船外へ排出する装置です。

浸水、雨水、配管からの漏水などによって船内に水がたまると、船の安定性が低下します。

電動ポンプに加えて、停電時にも使える手動ポンプを備えると安全性が高まります。

ただし、油分を含むビルジをそのまま海へ排出すると、海洋汚染に関する規制に抵触する可能性があります。

排出前に油の混入がないか確認する必要があります。

作業や修理に使う道具

ボートフック

ボートフックは、長い棒の先にフックが付いた道具です。

主に次の用途で使用します。

  • 係船索を受け取る
  • ブイをつかむ
  • 桟橋から船を離す
  • 水面の物を拾う
  • 落水者へ差し出す

船上から手の届かない場所へ、安全に対応するために役立ちます。

航海用ナイフ

航海用ナイフは、ロープや漁網を切断するために使います。

ロープが人の身体やプロペラ、ウインチなどに絡まった場合、素早く切断しなければならないことがあります。

船上では揺れがあるため、先端が丸いタイプが安全な場合もあります。

マーリンスパイクが付いたナイフは、ロープの撚りを開いたり、固く締まった結び目を緩めたりするために使えます。

工具セット

航海中に簡単な点検や修理を行うため、次のような工具が使われます。

  • ドライバー
  • レンチ
  • ペンチ
  • ニッパー
  • ハンマー
  • 六角レンチ
  • ソケットレンチ
  • 電工工具
  • 絶縁テープ
  • 防水テープ
  • 予備のヒューズ

船上では塩分、湿気、振動によって工具が傷みやすいため、防水性のあるケースに収納します。

懐中電灯とヘッドライト

懐中電灯は、夜間の甲板作業、機関室の点検、停電時の移動などに使います。

防水性があり、予備電池を用意できるものが適しています。

両手を使えるヘッドライトも便利ですが、他の乗員の視界を妨げないよう、光を直接向けないことが重要です。

バケツ

バケツは単純な道具ですが、船上ではさまざまな用途があります。

  • 排水
  • 清掃
  • 消火
  • 海水の採取
  • ロープの収納
  • 緊急時の手動排水

ロープを取り付けておけば、船上から海水をくみ上げる際にも使えます。

帆船で使う道具

帆は、風の力を利用して船を進ませるための装備です。

代表的な帆には、次のようなものがあります。

  • メインセール
  • ジブ
  • ジェノア
  • スピネーカー

風向や風速、航行方向に応じて、使用する帆の種類や面積を変えます。

シート

シートは、帆の角度や張り具合を調整するためのロープです。

シートを引いたり緩めたりすることで、風に対する帆の角度や形を調整します。

ハリヤード

ハリヤードは、帆や旗などを上げ下げするためのロープです。

船上のロープは、使用目的によってシート、ハリヤード、ラインなど名称が変わります。

ウインチ

ウインチは、ロープを巻き付け、少ない力で強く引くための装置です。

帆の調整、係船作業、荷物の引き上げなどに使われます。

作業中は、指や衣類をロープとウインチの間に巻き込まれないよう注意が必要です。

クリート

クリートは、ロープを固定するための金具です。

船体や桟橋に取り付けられ、係船索や帆走用のロープを固定するために使います。

昔の航海で使われた道具

航海用アストロラーベ

航海用アストロラーベは、太陽や星の高度を測定するために使われた道具です。

陸上用の天文観測器を航海向けに簡略化したもので、風の影響を受けにくいよう、比較的重い構造になっていました。

主に緯度を推定するために使われました。

クロススタッフ

クロススタッフは、水平線と太陽や星との角度を測るための道具です。

長い棒に横木を取り付け、横木の位置を動かして天体高度を読み取ります。

観測方法によっては太陽を直接見る必要があり、目を傷める危険がありました。

その後、バックスタッフや六分儀へと発展していきました。

バックスタッフ

バックスタッフは、太陽を背にして、影を利用しながら太陽高度を測る道具です。

太陽を直接見ずに観測できるため、クロススタッフよりも目への負担を抑えられました。

カマル

カマルは、板とひもを使って星の高度を測る簡単な航海用具です。

インド洋周辺の航海者が、一定の緯度に沿って航海するために利用したとされています。

砂時計

砂時計は、一定の時間を測るために使われました。

主な用途は次のとおりです。

  • 当直の交代
  • 航行時間の記録
  • ハンドログによる速力測定
  • 作業時間の管理

機械式時計が普及する以前の航海を支えた重要な道具です。

小型船に用意したい基本的な道具

小型船やプレジャーボートで必要な装備は、船舶の種類、用途、船体長、航行区域、夜間航行の有無などによって異なります。

ここで紹介するものは、一般的な安全装備の例です。

航海用の道具

  • 最新情報を反映した海図
  • GNSS受信機
  • 磁気コンパス
  • 双眼鏡
  • ディバイダー
  • 航海用プロッター
  • 時計
  • 筆記用具
  • 音響測深機

安全用の道具

  • 人数分の救命胴衣
  • 救命浮環
  • 消火器
  • 遭難信号
  • 防水懐中電灯
  • 救急用品
  • ホイッスル
  • ビルジポンプ
  • 予備のロープ
  • あかくみやバケツ

通信用の道具

  • 船舶用無線機
  • 防水した携帯電話
  • 予備電源
  • EPIRBやPLBなどの遭難信号装置

修理用の道具

  • 工具セット
  • 航海用ナイフ
  • 予備のヒューズ
  • 予備電球
  • 防水テープ
  • エンジン用の予備部品
  • 潤滑剤

予備燃料を積む場合は、適切な燃料容器を使用し、高温になる場所や火気の近くを避け、確実に固定します。

航海道具を使用するときの注意点

一つの機器だけに頼らない

GNSS受信機や電子海図は便利ですが、故障、停電、電波障害、入力ミス、設定ミスなどが発生する可能性があります。

現在位置を確認するときは、次の情報を組み合わせます。

  • GNSSの船位
  • 紙海図や電子海図
  • コンパスの方位
  • 灯台や岬
  • 水深
  • レーダー
  • AIS
  • 航行時間と速力

複数の方法で確認することで、機器や操作の誤りに気づきやすくなります。

出航前に点検する

航海道具は、出航前に正常に使用できるか確認します。

主な点検項目は次のとおりです。

  • GNSS受信機が正常に作動するか
  • 電子海図や紙海図が最新か
  • 磁気コンパスに異常がないか
  • レーダーやAISが作動するか
  • 無線機で送受信できるか
  • 救命胴衣が人数分あるか
  • 消火器や遭難信号の期限が切れていないか
  • 懐中電灯と予備電池が使えるか
  • 燃料が十分にあるか
  • ビルジポンプが作動するか
  • エンジンやバッテリーに異常がないか

使用方法を事前に確認する

非常時になってから説明書を読むのでは、適切に対応できない可能性があります。

特に次の装備は、保管場所と使用方法を事前に確認しておく必要があります。

  • 救命胴衣
  • 無線機
  • 消火器
  • 発煙信号
  • 火せん
  • 救命いかだ
  • EPIRB
  • SART

乗船者にも、非常時の行動や装備の場所を説明しておくことが重要です。

法定備品と一般装備を区別する

航海に役立つ道具が、すべて一律に法定備品になるわけではありません。

必要な法定備品は、次の条件によって異なります。

  • 船舶の種類
  • 船体長
  • 総トン数
  • 用途
  • 航行区域
  • 旅客の有無
  • 夜間航行の有無
  • 建造年月日

また、船舶用無線機、EPIRB、PLBなどには、免許、資格、登録、使用条件が定められている場合があります。

実際に船を運航する際は、船舶検査証書や関係機関が公表する最新情報を確認する必要があります。

まとめ

航海に使う道具には、船位の確認、進行方向の把握、速度や水深の測定、他船の発見、気象情報の収集、通信、安全確保、修理など、それぞれ異なる役割があります。

現代の航海では、GNSS受信機、電子海図、レーダー、AIS、オートパイロットなどの電子機器が重要です。

一方で、磁気コンパス、紙海図、双眼鏡、測鉛、手動ポンプなど、電源を必要としない道具も、非常時の備えとして欠かせません。

安全な航海を行うためには、最新の機器を備えるだけでは不十分です。

それぞれの道具の特徴と限界を理解し、複数の情報を照合しながら正しく判断することが重要です。

また、必要な法定備品や無線設備は、船舶の種類、用途、航行区域などによって異なります。

実際の航海では、国土交通省、海上保安庁、総務省、日本小型船舶検査機構などが公表する最新情報を確認してください。

以上、航海に使う道具についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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