「錨(いかり)ってどうやって船を止めてるの?」「ただ重いだけじゃないの?」
そんな疑問を持つ方も多いでしょう。
実は錨は、単に“重さ”で船を固定しているのではなく、海底に爪を食い込ませて摩擦力で止めるという、理にかなった仕組みで動いています。
この記事では、
- 錨の基本的な構造と役割
- 錨が海底で船を固定する仕組み
- 鎖や風・潮流との関係
- 走錨(そうびょう/錨が効かない現象)の原因と対策
を初心者にもわかりやすく解説します。
錨の仕組みを知る前に:まずは基本構造を理解しよう
錨の仕組みを理解する第一歩は、「どんなパーツでできているか」を知ることです。
錨の主な部位と役割
| 部位名 | 役割 |
|---|---|
| フルーク | 海底に食い込み、船を固定する部分 |
| シャンク | 錨全体の中心。鎖とつながる |
| クラウン | 爪と軸をつなぐ部分。力を分散させる |
| ストック | 錨が横倒れしないように姿勢を安定させる |
| リング/シャックル | 鎖を接続する輪の部分 |
錨は「掘る」「引っかかる」「寝る」という3つの動きで海底に固定される仕組みです。
錨の仕組み①|海底に食い込んで固定する
錨が船を止める最大のポイントは、海底への“食い込み”です。
これは爪(フルーク)の形状と鎖(アンカーチェーン)の角度によって生まれます。
錨が固定されるまでの流れ
- 錨を海底に下ろす(投錨)
- 船が風や潮で少し後退し、錨が横向きになる
- 錨の爪が海底に沈み込み始める
- 鎖の重みで角度が下がり、さらに深く掘り込む
このようにして、錨は“引っかかって止まる”のではなく、海底に掘り込んで摩擦で固定されるのです。
特に砂地や泥地では、フルークがしっかりと沈み込み、船が引かれれば引かれるほど、錨がより深く効く構造になっています。
錨の仕組み②|重さではなく「摩擦」と「角度」で止めている
多くの人が「錨は重いから止まる」と思いがちですが、実際は違います。
錨の“保持力”は、主に次の3つの要素によって生まれます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 錨の形状 | 爪の面積が大きいほど、海底をつかむ力が強い。 |
| 鎖の重さ | 鎖が海底を這うことで角度を維持し、錨が持ち上がらない。 |
| 海底の性質 | 泥・砂など柔らかい底質では爪が深く食い込む。 |
つまり、錨の重さよりも「海底との接地角度と摩擦力」が重要なのです。
この仕組みを支えるのが、錨鎖(アンカーチェーン)です。
鎖の長さが短すぎると、錨が立ち上がって角度が変わり、効かなくなります(=走錨)。
錨の仕組み③|鎖(アンカーチェーン)が安定を生む
鎖は、錨と船をつなぐだけでなく、錨が安定して効くための重しの役割も果たします。
鎖の役割
- 錨を立たせずに“寝かせる”角度を作る
- 船の動きを吸収してショックを和らげる
- 錨が持ち上がらないように抑えつける
一般的には、水深の5〜7倍の長さの鎖を出すのが理想です。
この長さがあることで、鎖の自重が海底を這い、錨の角度が常に低く保たれて「抜けにくくなる」仕組みになっています。
錨の仕組み④|海底の地質による違い
錨の効き方は、海底の地質(底質)によっても変わります。
| 海底の種類 | 錨の効きやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 砂地 | ◎ | 爪が深く沈み、強い摩擦力が得られる |
| 泥地 | ○ | 食い込みやすいが、吸着して抜けにくくなることも |
| 岩場 | △ | 爪が引っかかる程度で、安定しにくい |
| サンゴ・藻場 | × | 爪が滑って固定されない |
このため、砂地・泥地は理想的なアンカリングポイントとして選ばれます。
一方で、岩場やサンゴ地帯では走錨が起きやすいため注意が必要です。
錨の仕組み⑤|走錨(そうびょう)=仕組みが崩れた状態
「走錨(そうびょう)」とは、錨が効かずに船が流されてしまう現象です。
これは、錨の仕組みがうまく働かなくなった状態といえます。
主な原因
- 鎖が短く、錨の角度が立ちすぎている
- 海底が岩やサンゴで、爪が刺さらない
- 強風・潮流によって錨が引きずられる
- 錨の重さ・種類が船に合っていない
対策としては、
- 鎖を長めに出す
- 錨を「砂地」に下ろす
- 必要に応じて2本の錨(ダブルアンカー)を使う
といった工夫が有効です。
錨の仕組み⑥|「固定」と「解除」のバランスが大事
錨は、しっかり効かせることも大事ですが、引き上げやすさ(解除性)も設計されています。
錨の爪は、一定以上の角度から引かれると浮き上がる構造になっており、起錨(きびょう:引き上げ)の際にスムーズに抜けるよう設計されています。
これにより、
- 投錨時 → 水平方向の力で食い込む
- 起錨時 → 垂直方向の力で抜ける
という、方向の違いを利用した合理的な仕組みが成立しています。
まとめ:錨の仕組みは「摩擦×角度×鎖のバランス」で成り立つ
ポイントをまとめると、
- 錨は“重さ”ではなく海底との摩擦力で船を止めている
- 鎖の重さと角度が、錨の安定性を支える
- 理想の鎖の長さは水深の5〜7倍
- 砂地・泥地では効きやすく、岩場では効きにくい
- 錨が効かない(走錨)ときは、鎖や角度を見直す
錨は見た目以上に、物理学と経験が融合した“海の知恵”の結晶です。
その仕組みを知れば、船がどうやって海の中で安全を保っているかがよくわかるでしょう。
以上、錨の仕組みについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










