「艫(とも)」は、船の後ろ側(船尾)を指す言葉で、船の構造・操船・航海・漁業などさまざまな分野で重要な役割を果たしています。
この言葉は古くから使われており、伝統的な日本の船や漁船、現代の大型船舶においても基本的な用語です。
以下では、艫について構造、機能、関連用語、文化的な側面など多角的に詳しく解説します。
目次
艫(とも)の基本的な意味
- 艫(とも)とは:
船体の一番後ろの部分を指します。英語では「stern(スターン)」と呼ばれ、前方(舳・へさき)とは対照的な位置です。 - 方角的な意味:
船首(へさき)を北に向けたとき、艫は南側になります。航行中は進行方向の「後ろ」ですが、風や波の影響を考慮して舵や推進力を考える上で極めて重要な部分です。
艫の構造と役割
構造的な特徴
- 船尾甲板(ともかんぱん):
船の一番後ろに位置する甲板部分。操縦室(ブリッジ)やエンジンルームの上に配置されることが多いです。 - 艫柱(ともばしら):
伝統的な和船に見られる柱で、帆を操作したり漁具を固定するために使われます。 - スクリューやラダー(舵):
多くの船では艫の下にプロペラ(スクリュー)と舵があり、進行と方向制御を担います。
機能的役割
- 操船の中枢: 舵や推進装置が集中しており、進行方向の変更や速度調節の要。
- 安全性の確保: 後方監視や非常時の避難経路(例:艫の脱出口など)もこの部分に関係します。
- 荷役や揚降設備: 小型漁船や渡船では、艫に荷物を載せたり下ろしたりする装置がある場合も。
艫に関する日本語表現・言い回し
日本語には艫に関連する多くの表現があります。
これは船が日本文化に深く根ざしてきたことの現れです。
- 「艫を並べる」: 仲良く並んで歩くこと、または対等な立場であることの比喩。
- 「舳艫(せんろ)」: 船首から船尾まで、全体を指す熟語。
- 「艫走り」: 波に背を向けて(波に追われる形で)進む航行方法。追い波に乗る形で速力は出るが、制御が難しい場合もある。
艫の種類・船種別の特徴
艫の形状や用途は船の種類によって異なります。
以下に例を挙げます。
船の種類 | 艫の形状・特徴 |
---|---|
漁船 | 開放式の艫(開艫)で、漁網や獲物の揚げ下ろしに使いやすい構造 |
和船(伝統的) | 艫柱が立ち、装飾が施されることもある |
プレジャーボート | 艫にスイムデッキやラダー(梯子)を備える |
客船・大型船 | 多層構造の艫で、救命艇や緊急出口が配置される |
文化・歴史的な視点から見た艫
- 伝統漁業との関係: 艫は漁具の出し入れ口として重要であり、網や籠を出す「作業の場」としての性格があります。
- 神事・儀礼: 和船では艫にしめ縄や御幣を飾ることもあり、海の神を祀る対象として重要視されることもあります。
- 艫にまつわる信仰: 出航前に艫から「逆に降りると縁起が悪い」など、艫の扱いに慎重な風習が残る地域もあります。
船尾(艫)に関する現代の技術
- 艫スラスター(stern thruster):
側方推進機として艫に設置され、港内での着岸や離岸時に横方向の微調整を可能にします。 - ポッド推進装置:
現代のクルーズ船などでは、艫に360度回転可能な電動ポッドがあり、高い操縦性と静音性を実現します。 - ステルンギア(stern gear):
推進軸・舵・スクリュー全体を含めた艫の推進・操縦機構のこと。
まとめ
「艫(とも)」は単に船の「後ろ側」ではなく、操縦、推進、安全、そして文化・信仰に至るまで多様な役割を持つ非常に重要な部分です。
特に日本の伝統的な船においては、艫は神聖な場所でもあり、海との関わりを象徴する存在でもあります。
船に関わる際、艫を理解することは船全体の理解にもつながります。
古来より「船を知るには艫を見よ」と言われるほど、艫は奥深い存在です。
以上、船の艫についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。