潜水艦は、水中を安全に航行するために、耐圧構造、浮力調整装置、推進装置、操舵装置、探知装置、通信装置など、さまざまな設備を備えています。
水上艦との大きな違いは、深い水中の圧力に耐えながら、浮力や姿勢を細かく調整し、外部を直接見ることなく周囲の状況を把握しなければならない点です。
そのため潜水艦には、耐圧殻、メインバラストタンク、潜舵、ソナー、セイルなど、潜水艦特有の部位が数多くあります。
ここでは、一般的な軍用潜水艦を中心に、主な部位の名称と役割について詳しく解説します。
なお、実際の構造や名称、配置は、国や時代、艦級、通常動力型か原子力型かによって異なります。
潜水艦の船体を構成する主な部位
耐圧殻
耐圧殻は、潜水艦の内部を高い水圧から守るための主要構造です。
潜水艦は深く潜るほど大きな水圧を受けるため、乗組員や重要機器が収められる区画には非常に高い強度が求められます。
耐圧殻は一般的に円筒形を基本とした形状になっており、端部には半球状や円錐状に近い構造が組み合わされることがあります。
内部には発令所、居住区、機関関係の区画などが配置されます。
潜水艦にとって耐圧殻は、乗組員が水中で生存するための空間を維持する極めて重要な部分です。
外殻・非耐圧構造
潜水艦によっては、耐圧殻の外側に外殻やフェアリングなどの非耐圧構造が設けられています。
これらは主に、船体を水中で抵抗の少ない滑らかな形状に整えたり、各種装置を収納したりする役割を持っています。
ただし、すべての潜水艦が耐圧殻とは別に完全な外殻を持つわけではありません。
潜水艦の船体構造には、単殻式、複殻式、部分複殻式などがあり、設計によって構造は大きく異なります。
艦首
艦首は、潜水艦の前方部分です。
多くの現代潜水艦では、艦首部分に大型のソナーアレイが配置されます。
また、魚雷発射管が艦首付近に配置されることもありますが、大型ソナーとの配置上の都合から、艦首真正面ではなく船体側方へ斜めに向けて設置される場合もあります。
艦尾
艦尾は、潜水艦の後方部分です。
推進器、縦舵、艦尾側の水平舵など、推進や方向制御に関係する装置が集まる部分です。
潜水艦が水中で安定して航行するうえで重要な役割を果たします。
潜水艦を潜航・浮上させる主な部位
メインバラストタンク
メインバラストタンクは、潜水艦の大きな浮力変化を調整するためのタンクです。
水上に浮かんでいるときは、タンク内部の多くが空気で満たされており、潜水艦には大きな予備浮力があります。
潜航するときにはタンク上部のベント弁を開いて内部の空気を外へ逃がします。
すると、タンク下部などに設けられたフラッドポートから海水が入り、タンク内が海水で満たされていきます。
これによって潜水艦の予備浮力が減少し、水中航行に適した状態になります。
潜水艦は単純に「水を入れて重くなり、そのまま沈んでいく」というより、メインバラストタンクで大きな浮力状態を変えたうえで、潜舵やトリム調整、速度などを組み合わせて深度を制御します。
ベント弁
ベント弁は、主にメインバラストタンク上部から空気を排出するための弁です。
潜航時にベント弁を開くと、タンク内の空気が外部へ抜け、その代わりに海水が流入します。
潜水艦で「ベントを開く」と表現する場合、この操作を意味することがあります。
浮上状態を維持するときはベント弁を閉じ、タンク内部に空気を保持します。
フラッドポート
フラッドポートは、代表的なメインバラストタンクなどで海水を出入りさせるための開口部です。
潜航時にベント弁を開くと、空気が抜けるのに伴ってフラッドポートから海水が流入します。
多くの設計では、フラッドポートそのものを潜航のたびに開閉するのではなく、海水側へ開放された構造になっています。
ただし、具体的な構造は潜水艦によって異なります。
トリムタンク
トリムタンクは、潜水艦の前後方向の重量バランスや浮力を細かく調整するためのタンクです。
例えば艦首側が重すぎる場合には、艦内の水を移動させるなどして姿勢を調整します。
メインバラストタンクが浮上・潜航のための大きな浮力変化を担当するのに対し、トリムタンクは水中での細かな重量バランスを整えるために使われます。
高圧空気系統
高圧空気系統は、メインバラストタンクなどから海水を排出する際に使用されます。
タンク内へ圧縮空気を送り込むと、その圧力によって海水がフラッドポートなどから押し出され、潜水艦の浮力が増加します。
特に緊急浮上時などにメインバラストタンクへ高圧空気を送り込む操作は、一般に「ブロー」と呼ばれます。
潜水艦の方向と深度を調整する主な部位
潜舵・水平舵
潜舵は、水中を航行している潜水艦の上下方向の動きや姿勢を制御するための舵です。
英語ではdiving planesやhydroplanesなどと呼ばれます。
潜水艦によって配置は異なり、艦首付近に設けられる艦首潜舵、セイル付近に設けられる潜舵、艦尾側に設けられる水平舵などがあります。
これらは水流を受けて流体力を発生させ、潜水艦を上昇・下降させたり、艦首の角度を調整したりします。
航空機の翼や昇降舵に似た原理を利用していると考えると理解しやすいでしょう。
現代潜水艦では、潜舵だけでなく浮力調整やトリム調整、自動制御装置などを組み合わせて深度を維持します。
縦舵
縦舵は、潜水艦を左右へ旋回させるための舵です。
一般的に艦尾付近に設置され、航行中に水流を受けることで潜水艦の進行方向を左右に変化させます。
基本的な原理は水上艦の舵と同じです。
潜水艦を前進させる主な推進装置
プロペラ
プロペラは、動力源から得た回転力を水中での推進力へ変換する装置です。
潜水艦の場合、単に効率よく前進できるだけではなく、できるだけ騒音を発生させないことも非常に重要です。
プロペラから発生する音は敵側のソナーに探知される可能性があるため、翼の形状や枚数などは静粛性を考慮して設計されます。
軍用潜水艦のプロペラ形状には機密性の高い情報が含まれる場合もあります。
ポンプジェット推進器
一部の潜水艦では、一般的な露出型プロペラの代わりにポンプジェット推進器が採用されています。
ポンプジェットは、ダクト内部に回転翼などを配置した推進装置です。
適切な設計条件では、キャビテーションや推進器騒音を抑えやすいなどの利点があり、静粛性向上を目的として採用される場合があります。
ただし、すべての速度域や条件で一般的なプロペラより優れているわけではありません。
主電動機
多くの現代の通常動力型潜水艦では、電動機によって推進器を回します。
蓄電池などから供給された電力を主電動機に送り、回転力へ変換してプロペラなどを駆動します。
電動機は比較的静粛に運転できるため、敵に発見されにくいことが重要な潜水艦との相性が良い方式です。
ディーゼルエンジン
多くの通常動力型潜水艦では、ディーゼルエンジンが発電や蓄電池の充電に使用されます。
ディーゼルエンジンは燃焼するために外気中の酸素を必要とします。
そのため、基本的には海面上に浮上しているときや、シュノーケルを海面上へ出して外気を取り込める状態で運転します。
なお、通常動力型潜水艦のなかには、AIPと呼ばれる非大気依存推進システムを搭載するものもあります。
蓄電池
蓄電池は、通常動力型潜水艦の水中航行を支える重要な電源です。
ディーゼルエンジンを停止している状態でも、蓄電池に蓄えた電力を利用して主電動機や各種艦内設備を動かせます。
従来は鉛蓄電池が広く使用されてきましたが、近年ではリチウムイオン電池を採用する潜水艦も登場しています。
日本の海上自衛隊でも、「そうりゅう」型の後期艦や「たいげい」型でリチウムイオン電池が採用されています。
潜水艦上部にある主な部位
セイル
セイルは、潜水艦の船体上部から突き出した構造物です。
現代潜水艦では一般にセイルと呼ばれますが、資料によっては艦橋構造物などと表現されることもあります。
セイルやその周辺には、潜望鏡、オプトロニックマスト、通信アンテナ、レーダーマスト、シュノーケルなどが配置される場合があります。
ただし、水上艦の艦橋とは性格が異なり、潜航中の操艦や指揮は基本的に耐圧殻内部の発令所などで行われます。
潜望鏡
潜望鏡は、潜水艦が浅い深度から海面上の状況を確認するための装置です。
従来型の潜望鏡では、レンズやプリズムなどを使った光学系によって海面上を観察します。
潜望鏡深度まで浮上することで、潜水艦本体を水面に出さずに周囲を確認できます。
オプトロニックマスト
現代の一部潜水艦では、従来型の光学式潜望鏡に代わって、あるいは併用する形でオプトロニックマストやフォトニクスマストが採用されています。
カメラ、赤外線センサーなどを搭載し、映像情報を艦内のディスプレイへ送信します。
従来型潜望鏡のように光学筒を発令所まで直接通す必要がないため、艦内配置の自由度を高められる利点があります。
ただし、すべての現代潜水艦がこの方式を採用しているわけではありません。
シュノーケル
シュノーケルは、通常動力型潜水艦が浅い深度を航行しながら外気を取り込むための装置です。
シュノーケルの吸気口を海面上へ出すことで、潜水艦本体を完全に浮上させなくてもディーゼルエンジンを運転できます。
ディーゼルエンジンによって発電し、蓄電池を充電する際などに使用されます。
潜水艦の目や耳となる主な装置
ソナー
ソナーは、水中の音を利用して周囲の船舶や潜水艦、海底地形などを探知する装置です。
光や一般的な電波が遠くまで届きにくい水中では、音波が重要な情報源になります。
ソナーは大きく、音波を自ら発信して反射音を利用するアクティブソナーと、周囲から発生する音を受信するパッシブソナーに分けられます。
軍用潜水艦では、自艦の存在を知られにくくするため、パッシブソナーが特に重要です。
ただし、状況に応じてアクティブソナーが使用されることもあります。
艦首ソナー
艦首ソナーは、潜水艦の前方部分に配置される大型ソナーアレイです。
艦首部分は大型の受音装置を配置しやすく、艦尾の推進器からも離れているため、主要なソナー配置場所として広く利用されています。
ただし、潜水艦自身が発する雑音には推進器だけでなく、機械振動やポンプ、船体周囲の流体騒音などさまざまな原因があります。
そのため、自艦騒音をできるだけ低減する設計も重要です。
フランクアレイソナー
フランクアレイソナーは、船体側面に配置されるソナーアレイです。
艦首ソナーとは異なる位置から水中音を受信することで、周囲の音響情報をより幅広く収集できます。
現代潜水艦では、複数種類のソナーを組み合わせて使用することが一般的です。
曳航ソナー
曳航ソナーは、潜水艦の後方へ長い受音装置を曳航して使用するソナーです。
潜水艦本体から離れた場所で音を受信できるため、自艦が発生する機械音などの影響を抑えやすくなります。
また、長い受音アレイを形成することで、低周波の音などを高感度で探知しやすいという利点もあります。
潜水艦内部の主な区画
発令所
発令所は、潜水艦の航行や戦闘、情報収集などを管理する中枢区画です。
操舵、深度管理、ソナー情報の確認、航法、各種指揮などが行われます。
一般的な水上艦の艦橋に相当する機能の多くが、潜水艦では耐圧殻内部の発令所や操縦区画などに集約されています。
ただし、名称や区画構成は国や艦級によって異なります。
機関関係区画
機関関係区画には、推進や発電に必要な装置が配置されています。
通常動力型潜水艦では、ディーゼルエンジン、発電機、電動機などが主要設備になります。
原子力潜水艦では、原子炉で発生させた熱エネルギーを利用し、蒸気などを介して推進や発電を行う方式が一般的です。
具体的な推進方式は艦級によって異なります。
居住区
居住区は、潜水艦の乗組員が睡眠や休憩を取るための区画です。
潜水艦内部は利用できる空間が限られているため、ベッド、収納設備、机などが効率的に配置されています。
長期間の任務では、限られた空間の中で多くの乗組員が生活することになります。
調理室
調理室は、乗組員の食事を準備するための区画で、英語ではギャレーと呼ばれます。
潜水艦では長期間にわたり閉鎖された環境で勤務するため、食事は栄養補給だけでなく、乗組員の士気を維持するうえでも重要です。
限られたスペースの中に調理器具や食料保管設備が効率的に配置されています。
潜水艦の武器に関係する主な部位
魚雷発射管
魚雷発射管は、魚雷などの兵器を艦外へ発射するための装置です。
多くの潜水艦では艦首付近に設置されています。
ただし、現代潜水艦では大型艦首ソナーとの干渉を避けるため、船体左右から斜め前方へ向けて配置される場合もあります。
潜水艦によっては魚雷だけでなく、巡航ミサイルなどの発射に利用できる発射管もあります。
魚雷室
魚雷室は、魚雷などを保管し、魚雷発射管へ装填するための区画です。
魚雷は重量が大きいため、搭載数や発射による重量変化は潜水艦のトリムや重量バランスにも影響します。
そのため、兵器の使用と同時に艦の重量バランスを適切に管理する必要があります。
垂直発射装置
一部の潜水艦には、船体内部に垂直発射装置が設置されています。
垂直発射装置は、ミサイルなどを上方へ発射するための設備です。
攻撃型潜水艦では巡航ミサイル用の垂直発射装置が搭載されることがあり、弾道ミサイル潜水艦には大型の弾道ミサイル発射筒が設けられています。
ただし、すべての潜水艦に垂直発射装置が搭載されているわけではありません。
潜水艦の通信に関係する主な部位
通信アンテナ
通信アンテナは、潜水艦が外部と情報を送受信するための装置です。
海水は一般的な電波を大きく減衰させるため、潜水艦は深い水中から通常の無線通信を自由に行うことができません。
そのため、必要に応じてアンテナを海面付近まで上げたり、潜水艦向けの低周波通信を利用したりします。
通信方法は潜水艦の深度や任務状況によって使い分けられます。
通信マスト
通信マストは、各種通信アンテナを海面上へ出すための伸縮式設備です。
現代潜水艦のセイル周辺には、通信だけでなく、レーダー、電子情報収集、航法など異なる目的を持つ複数のマストが設置される場合があります。
マストを海面上へ出している間は発見される危険性が高まるため、必要な時間をできるだけ短くすることも重要です。
潜水艦の部位は役割ごとに連携している
潜水艦は、一つの装置だけで潜航や水中航行を行っているわけではありません。
メインバラストタンクによって大きな浮力状態を変え、トリムタンクで重量バランスを調整し、潜舵や推進力を利用して深度や姿勢を制御します。
さらに、ソナーによって周囲の状況を把握し、電動機やプロペラなどによって静かに航行します。
耐圧殻は乗組員と重要機器を水圧から守り、セイルや各種マストは通信や海面上の情報収集を支えています。
このように、潜水艦は「船体」「浮力調整」「操舵」「推進」「探知」「通信」「居住」「兵装」といった多数の設備が連携することで、水中で長時間活動できるように設計されています。
ただし、潜水艦の具体的な構造や部位の名称、配置は艦級や時代によって大きく異なります。
そのため、それぞれの名称を固定的なものとして捉えるのではなく、ここで紹介した内容を現代の一般的な潜水艦に見られる代表的な構成として理解するとよいでしょう。
以上、潜水艦の主な部位の名称と役割についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
















