船が「右側通行」(= 進行方向に対して右側を通る)である理由は、歴史的・構造的・国際法的な背景が複合的に関係しています。
以下にその理由を詳しく解説します。
操船上の理由(舵取りと視界)
歴史的に「右舷操船」が主流だった
中世ヨーロッパの帆船では、舵は船の右側(右舷=starboard)に取り付けられていたのが一般的でした。
これは右利きの人が多かったため、右手で舵を操作する方が自然だったからです。
- 舵(rudder)が今のように中央に付く以前、船の「右後方」にオールのような舵を取り付けて操作していました。
- このため、操船時には右側の視界を確保しやすくする必要があったため、船同士がすれ違う際は「右側通行」の方が安全だったのです。
「船長が右側から見ている」ことの意味
現代の船舶も、ブリッジ(操舵室)の操作パネルは右舷寄りに設置されていることが多く、右側の安全確認がしやすいようになっているのが一般的です。
国際ルール(海上衝突予防法)による規定
国際ルールでも右側通行が基本
現在、船の航行に関する国際ルールは「国際海上衝突予防規則(COLREGs)」という取り決めに基づいています。
この中に明確に「右側通行(右舷通行)」が規定されています。
具体的な条文(抜粋)
第9条「狭い水路等」:
狭い水路または航路を航行している船舶は、できる限りその右舷側に寄って航行しなければならない。
また、対向船との接近時(相互進行)は次のように規定されています。
第14条「正面衝突のおそれがある場合」:
船舶は互いに右に転針(右に避ける)してすれ違わなければならない。
つまり、世界共通で船は「右側通行・右に避ける」ことが基本になっており、これが慣習化・法制化されています。
陸上交通との対比と違い
「右側通行」と聞くと、自動車の道路交通のイメージと重なりますが、船と陸の交通は原理が異なります。
項目 | 船舶 | 自動車 |
---|---|---|
通行原則 | 右側通行(右に避ける) | 国により左右が異なる(日本は左側通行) |
理由 | 操船の構造、国際ルール | 軍事的・歴史的背景(例:馬車、刀文化) |
交差点 | 基本的にない(海上は広い) | 多い(信号、標識が必要) |
船舶は海という「信号のない交差点の連続」に近いため、世界共通の「右側通行」ルールを定めないと危険なのです。
「starboard(右舷)」と「port(左舷)」の語源との関係
- 「starboard(スターンボード)」は、古英語で「操舵側の板(steer board)」という意味から来ています。先述のように舵が右側にあったためです。
- 「port(ポート)」は、左側から船を港につけていた(=舵がある右側を岸につけない)ことから由来しています。
つまり、「右舷=操舵側」「左舷=接岸側」という構造的な事情が、通行ルールの基礎を形作ったと言えます。
まとめ
船が右側通行であるのは、以下のような複合的な理由があるためです。
- 歴史的に右舷で操船されていたため、右側の視界を重視する文化が形成された
- 現在の国際海上法(COLREGs)で右側通行が規定されている
- 右側通行の方がすれ違いや接触リスクを避けやすく、視認性に優れている
- 右舷=操舵、左舷=接岸という伝統的な船の構造が背景にある
以上、船が右側通行なのはなぜなのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。