英語で船(ship)を「she(彼女)」と呼ぶ理由には、言語的・文化的・歴史的な背景が複雑に絡んでいます。
これは単なる文法や慣習というだけでなく、海に生きた人々の感情や信仰、詩的な世界観が大きく影響しています。
以下にその理由を詳しく解説します。
目次
古英語・ラテン語の影響
まず根本的な背景に、古英語(Old English)やラテン語などの古い言語体系の影響があります。
- 古英語では、物には文法的性(grammatical gender)がありました。たとえば、「船」はラテン語で navis(女性名詞)であり、多くのロマンス語(イタリア語、フランス語、スペイン語など)でも「船」は女性名詞です。
- 英語ではその後、文法的性別のシステムは廃れましたが、一部の慣習だけが残りました。その代表が「船 = she」という表現です。
詩的・擬人化的な表現
船を「she」と呼ぶことは、詩的・感情的な擬人化(personification)でもあります。
- 船乗りや海軍の人々にとって、船は単なる「物体」ではなく、共に海を渡る仲間、命を預ける存在でした。
- 船は「人間のように世話が必要」「乗員を守ってくれる存在」「気まぐれで、荒れる時もあれば穏やかな時もある」などの擬人化的な特徴を持ち、女性になぞらえられたのです。
- 「母船(mother ship)」という言葉にも表れているように、船は「包み、守る」存在=母性の象徴として捉えられてきました。
船乗りの文化と信仰
特に大航海時代以降の船乗り文化では、女性的な表現で船に敬意を払うことがよく行われていました。
- 船には名前がつけられ、その多くが女性名(たとえば「Victoria」「Mary Rose」など)であったため、「she/her」で呼ばれるようになりました。
- 船を擬人化することで、航海の安全や成功を祈る信仰的な意味合いも込められていたのです。
- また、舳先(へさき)に女性の像(figurehead)を飾るのも同様の文化的背景があります。これは「海の精霊」や「女神」に守ってもらうという願いの象徴でした。
現代における変化と議論
近年では、ジェンダーに対する感覚の変化から、「船を she と呼ぶのは古い」と考える人も増えてきました。
- 英国海軍(Royal Navy)やアメリカ海軍(U.S. Navy)では、近年の公式文書においては「she」ではなく「it(それ)」を使う傾向があります。
- 一方で、依然として詩的・文化的文脈では「she」が使われることも多く、完全には廃れていません。
「船=she」の例文とそのニュアンス
- She is a fine vessel, strong and dependable.
→ 彼女は素晴らしい船で、強くて頼りになる。 - May she sail safely through the storm.
→ 彼女が嵐を無事に乗り越えられますように。
このように、「she」という言葉には、単なる代名詞を超えた愛着・信頼・詩的な想いが込められています。
まとめ
まとめると、船を「she」と呼ぶ理由は以下のような複合的な要因によるものです。
- 古英語・ラテン語の文法的性の名残
- 船を女性的に擬人化する詩的・文化的習慣
- 船乗りの信仰・感情・生活から生まれた擬人化
- 女性名の船が多いことによる言語的な自然さ
現代では使われ方に揺れがあるものの、この習慣は英語の中でも非常に美しい文化的遺産のひとつとして今も残っています。
以上、船が英語でsheという理由についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。