造船所では、船を建造・修繕する各工程に応じて、さまざまな種類のクレーンが使い分けられています。
ただ「大きいクレーン」「小さいクレーン」という違いだけではなく、どこで使うか、何を吊るか、どの程度の重量を扱うかによって役割が分かれています。
特に重要なのは、造船所では巨大な船体ブロックを組み立てるための大型クレーンと、工場内や艤装作業で部材・機器を運ぶための補助クレーンが併用される点です。
造船所向けの機器メーカーも、中心設備として Goliath Gantry Crane、屋内搬送向けの Overhead Traveling Crane、局所作業用の Jib Crane、修繕や特殊用途向けの各種クレーンを案内しています。
ゴライアスクレーン
造船所を象徴するクレーンがゴライアスクレーンです。
これは、巨大な門のような形をした橋形クレーン(gantry crane)の一種で、主にドックや船台をまたぐように設置されます。
OSHAでも、gantry crane は「脚で支持され、レールなどの上を走行する橋桁クレーン」と定義されています。
特徴
- 左右に大きな脚があり、その上に橋桁が渡されている
- クレーン全体が地上レール上を走行する
- 横行トロリーによって作業範囲を広く取れる
- 非常に大きな吊上げ能力を持つ
主な用途
- 船体ブロックの吊り上げ
- 大型セクションの据え付け
- 船体の大組立
- 上部構造物の搭載
ポイント
現代の造船所では、船を一体で作るのではなく、複数の大型ブロックを製作して最後に組み立てるブロック建造方式が一般的です。
そのため、ゴライアスクレーンは造船所の生産能力を左右する中核設備といえます。
造船所向け資料でも、船殻ブロック組立の主設備として位置づけられています。
橋形クレーン
橋形クレーンは、脚で支持された橋桁構造を持ち、地上レール上を走行するクレーンの総称です。
ここで重要なのは、ゴライアスクレーンは橋形クレーンの中でも特に大型で、造船所向けの代表例だという点です。
つまり、「橋形クレーン」と「ゴライアスクレーン」は完全に別物ではなく、後者は前者の一種として理解するのが正確です。
主な用途
- 鋼板や型材の搬送
- 中型ブロックの組立
- 屋外ヤードでの荷役
- 資材置場での部材移送
特徴
- 屋外で広い範囲をカバーしやすい
- 床上設備より重い部材に対応しやすい
- 大型のものは造船所の主力設備、小中型のものは資材ヤードなどで活躍する
天井クレーン
天井クレーン(overhead crane)は、工場建屋の上部に設置されたランウェイレール上を走行するクレーンです。
OSHAでは overhead crane を、固定された高所ランウェイ上を橋桁が走行する形式として整理しています。
造船所では屋外の大型組立よりも、屋内工場での加工・搬送・組立作業で重要な役割を担います。
主な用途
- 鋼板や部材の搬送
- 切断・溶接工程での移動
- 配管や機器の組立
- 機械工場内での部品搬送
特徴
- 建屋内で安定して使える
- 床面をふさがない
- 精密な位置決めがしやすい
造船所向け機器資料でも、鋼板ハンドリングや工場内搬送用設備として overhead traveling crane が挙げられています。
ジブクレーン
ジブクレーンは、支柱や壁から張り出したアーム(ジブ)を持つクレーンです。
旋回動作ができるため、比較的狭い範囲で荷物を細かく扱うのに向いています。
造船所では主に、艤装作業、補助作業、工場内の局所荷役に使われます。
メーカー資料でも、ジブクレーンはワークステーションや局所搬送向け設備として位置づけられています。
主な用途
- 小型部材の吊り上げ
- 機器や艤装品の取り付け
- 工場内の補助搬送
- 特定作業エリアでの荷役
特徴
- 構造が比較的シンプル
- 狙った位置に荷を置きやすい
- 超大型重量物よりも、日常的な補助作業に向く
フローティングクレーン(起重機船)
フローティングクレーンは、海上に浮かぶ台船や船体の上に搭載されたクレーンです。
陸上クレーンでは届かない場所や、海上側から直接作業したい場面で使われます。
Britannicaでも、floating crane は水上で重量物を扱うためのクレーンとして説明されています。
主な用途
- 大型機器の海上搬入
- 修繕船への重量物据付
- 海上からのブロック搭載
- 港湾・海洋構造物作業
特徴
- 海上から直接アプローチできる
- 陸上設備の届かない位置にも対応できる
- 波や風の影響を受けるため、作業計画が重要
新造船だけでなく、修繕や改造工事でも重宝される設備です。
モバイルクレーン
モバイルクレーンは、車両型やクローラー型の移動式クレーンです。
造船所では常設大型クレーンの代わりではなく、補完設備として使われることが多いです。
必要な場所へ移動して、一時的な吊り作業や保守作業に対応できます。
主な用途
- 設備メンテナンス
- 小中型機器の搬送
- 一時的な工事作業
- 常設クレーンの死角補完
特徴
- 機動性が高い
- 現場に応じて柔軟に使える
- 作業半径によって吊上げ能力が大きく変わる
修繕ヤードや特殊用途で使われるクレーン
造船所全体の代表機種というより、特定用途や修繕ヤードで見られるクレーンもあります。
ダブルブーム式造船所クレーン
造船・修繕向けメーカーは、Double Boom Shipyard Crane を専用機種として案内しています。
これは高い位置決め性と作業性が求められる修繕・重量物ハンドリングで用いられます。
タワー型・レール走行型クレーン
一部の修繕ヤードや高所作業では、タワー型やレール走行型のクレーンが採用されることがあります。
ただし、造船所全体を代表する基本分類としては、ゴライアスや天井クレーンほど一般的ではありません。
歴史的・補助的な形式
デリッククレーンのような形式も、海事分野や重量物荷役の歴史の中では重要です。
ただし、現代の一般的な造船所を説明する「代表機種」としてはやや周辺的で、主分類よりは補足的に扱うほうが適切です。
造船所での使い分け
造船所では、1種類のクレーンだけですべての作業を行うわけではありません。
工程ごとに最適な設備が使い分けられます。
材料搬送・加工工程
- 天井クレーン
- 中小型の橋形クレーン
- モバイルクレーン
ブロック組立工程
- 橋形クレーン
- ゴライアスクレーン
船体搭載工程
- ゴライアスクレーン
- フローティングクレーン
艤装・仕上げ工程
- ジブクレーン
- モバイルクレーン
- 一部で特殊形式クレーン
このように、造船所のクレーンは単なる荷役機械ではなく、生産工程そのものを支える設備群として機能しています。
造船所向け機器の紹介でも、工程に応じて複数の機種を組み合わせる考え方が前提になっています。
造船所のクレーンを理解するうえで大事な点
造船所のクレーンを説明するときは、次の2点を押さえると誤解が少なくなります。
ゴライアスクレーンは橋形クレーンの一種
これは特に重要です。
「ゴライアス」と「橋形」を完全に別分類として並べるのではなく、橋形クレーンの中の大型代表例がゴライアスクレーンと理解するのが正確です。
造船所クレーンと港湾荷役クレーンは別
造船所で使われるクレーンは、船を建てる・修繕するための設備です。
一方、コンテナ港で使う Ship-to-Shore crane などは港湾荷役用で、役割が異なります。
両者は見た目が似ることもありますが、用途は明確に違います。
まとめ
造船所のクレーンは、主に次のように整理できます。
- ゴライアスクレーン
造船所の中心設備。大型船体ブロックの組立・搭載に使う巨大な橋形クレーン。 - 橋形クレーン
屋外ヤードや組立場で使う門型のクレーン。ゴライアスはその代表的な大型形式。 - 天井クレーン
屋内工場で部材加工や組立を支えるクレーン。 - ジブクレーン
艤装や補助作業など、局所的な荷役に向くクレーン。 - フローティングクレーン
海上側から重量物を扱うための起重機船。 - モバイルクレーン
保守や一時作業を柔軟にこなす補完設備。 - 特殊・修繕向けクレーン
ダブルブーム式や一部のタワー型など、特定用途に用いられるもの。
要するに、造船所のクレーンは「ひとつの巨大クレーンで全部をこなす」のではなく、屋外の大型組立、屋内の搬送、艤装、海上作業、修繕といった工程ごとに最適な形式が使い分けられています。
これが、造船所のクレーンを理解するうえでの基本です。
以上、造船所のクレーンの種類についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。








